会計上の見積りの開示の記載例|注記項目の選び方と文例
目次
- 注記に必要な3要素
- 注記項目の選定チェックリスト
- 識別の出発点となる資産・負債
- 除外する変動と項目数の目安
- 3要素の穴埋めテンプレート
- 注記文例4パターン
- 繰延税金資産の回収可能性
- 固定資産の減損
- 貸倒引当金
- 棚卸資産の評価
- 記載量を決める考え方
- 他の注記の参照と個別財務諸表の簡素化
- 適用時期と改正の有無
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 識別した項目が複数ある場合、注記は項目ごとに分けて記載しますか。
- 保有する上場株式の時価変動は、注記の対象になりますか。
- 当年度に減損損失を計上していない固定資産も、注記の対象になりますか。
- 算出方法・主要な仮定・翌年度への影響の3つは、必ず記載が必要ですか。
- 他の注記で既に記載している内容を、重ねて書く必要はありますか。
会計上の見積りの開示(重要な会計上の見積りに関する注記)は、どの項目を選び、どこまで書くかを企業自身が判断する注記です。基準は記載すべき事項の骨格だけを定めており、ひな形は示されていません。そのため実務では、項目の選定と文章の組み立てに毎期悩むことになります。
本記事では、注記項目を選ぶためのチェックリスト、3要素の穴埋めテンプレート、そして繰延税金資産・固定資産の減損・貸倒引当金・棚卸資産の4パターンの注記文例を、そのまま持ち帰れる形で示します。基準の全体像から確認したい場合は、次の解説記事も併せてご覧ください。
注記に必要な3要素
会計上の見積りの開示は、独立の注記項目として記載します。識別した項目が複数ある場合でも、それらの項目名は単一の注記としてまとめて記載します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第6項)。
記載すべき内容は、項目名に加えて2つの事項です。当年度の財務諸表に計上した金額と、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第7項)。したがって注記は、次の3要素で構成されます。
| ①項目名 | 本基準に基づいて識別した会計上の見積りの内容を表す項目名。識別した項目が複数あるときは単一の注記にまとめて記載する |
|---|---|
| ②当年度の 財務諸表に計上した金額 |
識別した項目ごとの計上額。連結財務諸表と個別財務諸表の双方で記載する |
| ③理解に資する その他の情報 |
算出方法、算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響など |
③については、算出方法、算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響が例示されています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第8項)。これらは例示であり、注記する事項は開示目的に照らして判断する旨が明記されています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第31項)。3つすべてを機械的に埋めるチェックリストとして扱わないよう留意してください。
定量的情報で書くか、定性的情報で書くか、あるいはその組み合わせにするかも、開示目的に照らした判断事項です(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第7項)。
注記項目の選定チェックリスト
開示する項目は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目です。影響の金額的大きさと発生可能性を総合的に勘案して判断します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第5項)。ここでいうリスクには、有利となる場合と不利となる場合の双方が含まれます(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第4項)。
選定作業は、次の順序で進めると漏れと過剰の両方を防げます。
- 当年度の貸借対照表に計上した資産・負債のうち、見積りを伴うものを洗い出す
- 各項目について、翌年度に生じ得る変動幅(金額的大きさ)を概算する
- その変動が生じる発生可能性を、当年度末に入手可能な情報に基づいて評価する
- 金額的大きさと発生可能性を総合的に勘案し、重要な影響を及ぼすリスクの有無を判定する
- 直近の市場価格により時価評価する資産・負債の市場価格の変動は、判定から除外する
- 残った項目の数が、企業の規模と事業の複雑性に照らして妥当か検証する
識別の出発点となる資産・負債
識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債です(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第5項)。一方で、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用や、見積りの結果として当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することも妨げられません(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第23項)。
同項では、固定資産について減損損失の認識を行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性があるとされています。当年度に計上額が動かなかった項目を最初から除外しない点が、実務上の落とし穴です。
関連コラム減損の兆候とは|4分類の判定チェックリストと仕訳▸
除外する変動と項目数の目安
直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、項目を識別する際に考慮しません(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第5項)。市場価格の変動は会計上の見積りに起因するものではないためです(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第24項)。上場株式の時価変動をこの注記の対象に含めないのは、この定めによります。
識別する項目の数は、企業の規模及び事業の複雑性等により異なるものの、重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別するという枠組みから、比較的少数の項目を識別することになると考えられています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第25項)。見積りを伴う項目を網羅的に列挙する注記は、この考え方と整合しません。
| 識別しやすい項目 | 繰延税金資産の回収可能性、固定資産又はのれんの減損、貸倒引当金、棚卸資産の評価、工事損失引当金、退職給付債務、資産除去債務など |
|---|---|
| 識別の対象から 外れる変動 |
直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動 |
| 識別を妨げない項目 | 当年度の収益及び費用、見積りの結果として当年度に計上しないこととした負債、減損損失を認識しなかった固定資産 |
3要素の穴埋めテンプレート
注記の骨格は、項目ごとに次の型へ当てはめると安定します。開示目的に照らして不要と判断した要素は削り、必要な要素は文章を足して調整してください。
(重要な会計上の見積り)
【 項目名 】
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
【 科目名 】 【 金額 】百万円(うち【 内訳の名称 】 【 金額 】百万円)
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
① 算出方法
【 何を対象に、どの単位で、どの手法により金額を算出したか 】
② 主要な仮定
【 算出の前提とした数値と、その数値を置いた背景・判断 】
③ 翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
【 主要な仮定が変化した場合に生じ得る影響と、その程度 】
①から③は第8項の例示に対応します。②の主要な仮定は、算出方法へのインプットとして想定される数値という定量的情報のほか、その定量的情報の前提となった状況や判断の背景という定性的情報、あるいはその双方となる場合があると整理されています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第29項)。数値だけを並べるのではなく、その数値を置いた理由まで書くことで開示目的に近づきます。
③の影響については、定量的に示す場合、単一の金額のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すこともできるとされています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第30項)。感応度の形で書くか、幅で書くかは、見積りの性質に合わせて選びます。
なお、会計基準等における取扱いを算出方法としてそのまま書き写すだけでは、財務諸表利用者にとって有用な情報にはなりにくいとされています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第29項、第30項)。自社が置かれている状況が読み取れる記載にすることが要点です。
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注記文例4パターン
以下は、上記テンプレートに沿って作成した文例です。金額・仮定はいずれも説明のための作例であり、実際の記載は自社の見積りプロセスと数値に置き換えてください。
繰延税金資産の回収可能性
(重要な会計上の見積り)
繰延税金資産の回収可能性
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
繰延税金資産 1,480百万円(評価性引当額控除後の純額)
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金について、納税主体ごとに将来の課税所得の見積額とタックス・プランニングを考慮して回収可能性を判断し、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上しています。
将来の課税所得の見積額は、取締役会で承認された翌連結会計年度の事業計画を基礎としており、主要な仮定は、主力製品の販売数量の見通し及び原材料価格の前提です。これらの仮定は、当連結会計年度末時点で入手可能な受注状況及び市況に基づいて設定しています。
販売数量又は原材料価格が想定と異なって推移し、将来の課税所得の見積額が減少した場合には、翌連結会計年度において繰延税金資産の一部を取り崩し、税金費用が増加する可能性があります。
繰延税金資産は計上額そのものが見積りの結果であり、翌年度に取崩しが生じると税金費用へ直接影響します。課税所得の見積りの基礎となる事業計画と、その主要な仮定を具体的に書けるかどうかが、記載の質を分けます。
関連コラム繰延税金資産の回収可能性と企業分類の実務ポイント▸
固定資産の減損
(重要な会計上の見積り)
固定資産の減損
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
有形固定資産 9,260百万円(うち当連結会計年度に減損損失を認識した資産グループの帳簿価額 0百万円)
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、原則として管理会計上の区分を基礎として資産のグルーピングを行い、営業活動から生ずる損益の継続的な赤字等の兆候が認められる資産グループについて、減損損失の認識の要否を判定しています。
減損損失の認識の判定及び測定に用いる将来キャッシュ・フローは、事業計画を基礎として見積っており、主要な仮定は、当該資産グループが属する店舗の売上高成長率及び営業利益率です。当連結会計年度末においては、いずれの資産グループについても減損損失の認識は不要と判断しています。
市場環境の変化等により売上高成長率又は営業利益率が事業計画を下回った場合には、翌連結会計年度において減損損失を認識する可能性があります。
この文例のように、当年度に減損損失を認識しなかった資産についても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで項目として識別する可能性があります(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第23項)。計上額の欄には、対象資産グループの帳簿価額を記載する方法が実務上多く用いられます。
貸倒引当金
(重要な会計上の見積り)
貸倒引当金
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
受取手形及び売掛金 7,340百万円、貸倒引当金 210百万円
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、債権を一般債権、貸倒懸念債権及び破産更生債権等に区分し、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権及び破産更生債権等については個別に回収可能性を検討して貸倒見積高を算定しています。
主要な仮定は、特定の取引先に対する債権の回収可能見込額であり、当該取引先の財政状態及び経営成績、担保として受け入れている不動産の処分見込額並びに再建計画の進捗状況に基づいて設定しています。
当該取引先の再建計画が予定どおり進捗しない場合には、翌連結会計年度において貸倒引当金の追加計上が必要となる可能性があります。
貸倒引当金は算定方法自体が定型的であるため、方法の記述だけでは自社の状況が伝わりません。どの債権の回収可能見込額が見積りの核心なのかを特定して書くと、開示目的に沿った記載になります。
棚卸資産の評価
(重要な会計上の見積り)
棚卸資産の評価
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
商品及び製品 3,920百万円(収益性の低下に基づく簿価切下げ後の金額)
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、正味売却価額が取得原価を下回っている棚卸資産について、収益性の低下に基づき簿価を切り下げています。正味売却価額は、過去の販売実績及び当連結会計年度末時点の販売計画に基づいて見積っています。
主要な仮定は、滞留期間が一定期間を超えた在庫の今後の販売見込数量及び想定販売単価です。これらは、製品ライフサイクル及び後継製品の投入時期を考慮して設定しています。
想定した販売見込数量又は販売単価が実現しない場合には、翌連結会計年度において追加の簿価切下げが必要となる可能性があります。
関連コラム棚卸資産の評価に関する会計基準と収益性低下による簿価切下げ▸
記載量を決める考え方
開示の詳細さ(開示の分量)について、基準は指針や目安を定めていません。注記の内容は企業によって異なるため、開示の詳細さは各企業が開示目的に照らして判断すべきものと整理されています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第31項)。他社の記載量に合わせるのではなく、自社の見積りの不確実性の程度に応じて判断します。
第7項(1)の計上額についても、財務諸表に表示された金額そのものではなく、会計上の見積りの開示の対象項目となった部分に係る計上額が開示される場合もあり得るとされています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第27項)。減損の文例で資産グループの帳簿価額を示したのは、この考え方に沿った記載です。
他の注記の参照と個別財務諸表の簡素化
注記すべき事項を、会計上の見積りの開示以外の注記に含めて財務諸表に記載している場合には、当該他の注記事項を参照することにより記載に代えることができます(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第7項)。注記の重複を避ける趣旨です(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第28項)。
また、連結財務諸表を作成している場合に個別財務諸表で本基準に基づく開示を行うときは、第7項(2)の注記事項について連結財務諸表における記載を参照できます。さらに、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって第7項(2)の注記事項に代えることもできます(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第9項)。個別財務諸表の注記作成では、この簡素化の取扱いを前提に作業量を見積もると効率的です。
| 他の注記への参照 | 会計上の見積りの開示以外の注記に記載済みの事項は、当該注記を参照して記載に代えられる |
|---|---|
| 個別財務諸表での 参照 |
第7項(2)の事項について連結財務諸表における記載を参照できる |
| 個別財務諸表での 簡素化 |
項目ごとに個別財務諸表の計上額の算出方法を記載することで第7項(2)に代えられる |
適用時期と改正の有無
本会計基準は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用されています(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第10項)。2020年3月31日の公表以降、本会計基準の改正は行われていません。
適用初年度における本会計基準の適用は、表示方法の変更として取り扱われました。ただし、第6項及び第7項に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される比較情報に記載しないことができるとされていました(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第11項)。適用から相当の期間が経過した現在では、比較情報を含めて通常どおり注記を作成することになります。
まとめ
会計上の見積りの開示は、項目名・当年度の計上額・理解に資するその他の情報という3要素で構成されます(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第6項、第7項)。項目の選定では、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクの有無を、金額的大きさと発生可能性から総合的に判断します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第5項)。
記載内容では、算出方法・主要な仮定・翌年度への影響が例示されていますが、これらは例示であり、開示目的に照らして判断します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第8項、第31項)。基準の文言を引き写すのではなく、自社が置かれている状況が読み取れる記載にすることが、監査対応の面でも効果的です。
項目の選定や記載水準は、企業ごとの事業環境と見積りの不確実性によって結論が変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズでは、開示注記のレビューと文案の作成をご支援しています。
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よくある質問
識別した項目が複数ある場合、注記は項目ごとに分けて記載しますか。
会計上の見積りの開示は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第6項)。注記の見出しは1つにまとめ、その中で項目ごとに計上額とその他の情報を記載する構成になります。
保有する上場株式の時価変動は、注記の対象になりますか。
直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、項目を識別する際に考慮しません(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第5項)。市場価格の変動は会計上の見積りに起因するものではないためです(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第24項)。
当年度に減損損失を計上していない固定資産も、注記の対象になりますか。
減損損失の認識を行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性があります(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第23項)。当年度の計上額の有無だけで対象から外さないよう留意してください。
算出方法・主要な仮定・翌年度への影響の3つは、必ず記載が必要ですか。
これらは注記する事項の例示であり、注記する事項は開示目的に照らして判断します(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第8項、第31項)。3項目をチェックリストとして機械的に埋めることは基準の想定ではありません。一方で、いずれも記載しない場合は、開示目的を満たしているかどうかの検討が必要です。
他の注記で既に記載している内容を、重ねて書く必要はありますか。
会計上の見積りの開示以外の注記に含めて財務諸表に記載している場合には、当該他の注記事項を参照することにより記載に代えることができます(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第7項)。注記の重複を避ける趣旨によるものです(会計上の見積りの開示に関する会計基準 第28項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



