セグメント情報の注記記載例|有報の様式と差異調整表の作り方
目次
- セグメント情報等の注記に必要な記載事項
- 記載例① 報告セグメントの概要
- 記載例② 利益・資産等の額と測定方法
- 記載例③ 報告セグメントごとの売上高・利益・資産等の表
- 記載例④ 差異調整表の作り方
- 記載例⑤ 関連情報(製品・サービス別/地域別/主要な顧客)
- 製品及びサービスに関する情報
- 地域に関する情報
- 主要な顧客に関する情報
- 記載例⑥ 減損損失・のれんに関する報告セグメント別情報
- 注記漏れチェックリスト
- 上場準備で押さえておく実務ポイント
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 個別財務諸表にもセグメント情報の注記は必要ですか。
- 報告セグメントが1つしかない場合、注記は不要ですか。
- セグメント利益は必ず営業利益に調整しなければなりませんか。
- 報告セグメントの区分を変更したときは、前年度の情報も作り直すのですか。
- 「その他」の区分には何を書けばよいですか。
有価証券報告書の「セグメント情報等」の注記は、様式が細かく決まっているわけではありません。しかし、記載しなければならない項目は企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」で明確に定められており、実務上はほぼ決まった形に落ち着きます。初回開示で手が止まるのは、多くの場合「何を書くか」ではなく「どの表に何列必要か」という様式の問題です。
この記事では、有価証券報告書の連結財務諸表注記に載せるセグメント情報等を、報告セグメントの概要の文例/利益・資産等の表/差異調整表/関連情報/減損損失・のれんの報告セグメント別情報の順に、そのまま下敷きにできる記載例で示します。数値はすべて当事務所で作成した架空の設例で、縦横の合計が整合するよう組んでいます。最後に注記漏れチェックリストを付けました。
セグメント情報等の注記に必要な記載事項
まず全体像です。セグメント情報等として開示が求められるのは、次の4つのブロックです(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第1項)。
| セグメント情報 | 報告セグメントの概要、報告セグメントの利益(又は損失)・資産・負債等の額とその測定方法、開示項目の合計額と財務諸表計上額との差異調整(第6項から第28項) |
|---|---|
| セグメント情報の 関連情報 |
製品及びサービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報(第29項から第32項) |
| 固定資産の減損損失に 関する報告セグメント別情報 |
損益計算書に固定資産の減損損失を計上している場合の報告セグメント別の内訳(第33項) |
| のれんに関する 報告セグメント別情報 |
のれんの償却額及び未償却残高の報告セグメント別内訳、重要な負ののれんを認識した事象の概要(第34項、第34-2項) |
このうちセグメント情報として開示すべき事項は、報告セグメントの概要、利益(又は損失)・資産・負債及びその他の重要な項目の額と測定方法、そして差異調整に関する事項の3つです(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第17項)。実務では、この3つに関連情報と減損損失・のれんの情報を足した構成で注記を組み立てます。
なお、連結財務諸表でセグメント情報等の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は要しません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第3項)。連結で作成する会社は、連結注記だけを用意すれば足ります。
報告セグメントをどう識別し、どこまで集約できるかという判断は、注記の様式とは別の論点です。事業セグメントの識別、集約基準、量的基準の考え方は次のコラムで整理しています。
関連コラムセグメント情報等の開示に関する会計基準|マネジメント・アプローチの実務▸
記載例① 報告セグメントの概要
最初のブロックは文章です。ここでは報告セグメントの決定方法と各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類の2点を書きます(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第18項)。決定方法には、事業セグメントを識別するために用いた方法(製品・サービス別、地域別、規制環境別、又はこれらの組合せ等)を記載し、複数の事業セグメントを集約した場合にはその旨も記載します。
以下は、システム開発を主業とする架空の会社を前提とした文例です。
1.報告セグメントの概要
当社グループの報告セグメントは、当社グループの構成単位のうち分離された財務情報が入手可能であり、取締役会が、経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となっているものです。
当社グループは、本社に製品・サービス別の事業本部を置き、各事業本部が取り扱う製品・サービスについて包括的な戦略を立案し、事業活動を展開しています。したがって、当社グループは事業本部を基礎とした製品・サービス別のセグメントから構成されており、「システム開発事業」、「保守サービス事業」及び「機器販売事業」の3つを報告セグメントとしています。
「システム開発事業」は、法人顧客向けの業務システムの受託開発を行っています。「保守サービス事業」は、当社グループが開発したシステムの運用保守及び運用支援サービスを提供しています。「機器販売事業」は、システムの導入に伴うサーバー・ネットワーク機器の仕入販売を行っています。
実務でつまずきやすいのは、報告セグメントの決定方法の書き出しです。「最高経営意思決定機関が誰か」を特定して書く必要があり、取締役会とする会社もあれば、代表取締役社長や経営会議とする会社もあります。最高経営意思決定機関とは、事業セグメントに資源を配分し、その業績を評価する機能を有する主体をいい、特定の役職名を指すものではありません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第8項)。社内の意思決定の実態に合わせて記載します。
記載例② 利益・資産等の額と測定方法
2つ目のブロックは、金額の意味を説明する文章です。開示する項目の測定方法について開示し、少なくとも報告セグメント間の取引がある場合の会計処理の基礎となる事項などを記載します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第24項)。セグメント間の取引価格や振替価格の決定方法を明らかにする必要があるため、この一文は落とせません。
2.報告セグメントの利益(又は損失)、資産その他の項目の金額の算定方法
報告されている事業セグメントの会計処理の方法は、「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」における記載と概ね同一です。報告セグメントの利益は、営業利益(のれん償却前)ベースの数値です。セグメント間の内部収益及び振替高は、市場実勢価格に基づいています。
報告セグメントの利益(又は損失)の額の算定に、外部顧客への売上高、セグメント間の内部売上高又は振替高、減価償却費、のれんの償却額、受取利息及び支払利息、持分法投資損益、特別利益及び特別損失、税金費用、重要な非資金損益項目が含まれている場合には、それぞれの金額を報告セグメントごとに開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第21項)。算定に含まれていない場合でも、事業セグメント別の情報が最高経営意思決定機関に定期的に提供され使用されているときは、同様に開示が必要です。
負債についても同様で、負債に関する情報が最高経営意思決定機関に対して定期的に提供され使用されている場合に開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第20項)。社内管理でセグメント別の負債を見ていない会社は、負債の行を設けません。上場準備の初回開示では、この「社内で見ているかどうか」の確認を管理会計の資料に遡って行う必要があります。
資産についても、算定に持分法適用会社への投資額(当年度末残高)や有形固定資産及び無形固定資産の増加額(当年度の投資額)が含まれている場合には、それぞれの金額を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第22項)。
記載例③ 報告セグメントごとの売上高・利益・資産等の表
ここが注記の中心です。以下は、報告セグメントを3つ、それ以外を「その他」の区分に一括して開示する場合の表です(単位:百万円)。「その他」は、報告セグメントに含まれない事業セグメント及びその他の収益を稼得する事業活動に関する情報を、差異調整の中で他の調整項目とは区分して一括表示するものです(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第15項)。
| システム開発事業 | 保守サービス事業 | 機器販売事業 | 計 | その他 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 外部顧客への売上高 | 6,200 | 3,400 | 2,100 | 11,700 | 500 | 12,200 |
| セグメント間の内部 売上高又は振替高 |
300 | 150 | 250 | 700 | 100 | 800 |
| 計 | 6,500 | 3,550 | 2,350 | 12,400 | 600 | 13,000 |
| セグメント利益 | 780 | 640 | 180 | 1,600 | 40 | 1,640 |
| セグメント資産 | 5,400 | 2,300 | 1,800 | 9,500 | 400 | 9,900 |
| その他の項目 | ||||||
| 減価償却費 | 210 | 90 | 60 | 360 | 20 | 380 |
| のれんの償却額 | 40 | – | 25 | 65 | – | 65 |
| 有形固定資産及び 無形固定資産の増加額 |
300 | 120 | 80 | 500 | 30 | 530 |
表を作るときの実務上のポイントは3つあります。第一に、「計」の列と「合計」の列を分けることです。報告セグメントの合計額は差異調整表の出発点になるため、報告セグメント計と、その他を加えた合計を分けておくと後の調整が追いやすくなります。
第二に、「その他」に含まれる事業の主要な名称を注記することです。報告セグメントに含まれない事業セグメントは「その他」に一括して開示しますが、その場合には「その他」に含まれる主要な事業の名称等をあわせて開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第15項)。上記の表であれば、表の下に「(注)『その他』の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、教育研修事業及び機器レンタル事業を含んでいます。」といった注書きを付けます。
第三に、行の並びを固定することです。売上高(外部顧客・セグメント間・計)、利益、資産、負債、その他の項目、という順番は各社ほぼ共通で、この順に並べておくと前期比較や監査対応がスムーズになります。
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記載例④ 差異調整表の作り方
報告セグメントの合計額と、財務諸表計上額との差異を調整する表です。売上高、利益(又は損失)、資産、負債、その他の開示される各項目について、それぞれ差異調整に関する事項を開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第25項)。重要な調整事項がある場合には、その事項を個別に記載します。
差異調整の内容が多岐にわたる場合は、記載例③の表に「調整額」列を設けて1つの表にまとめるのではなく、項目ごとに別表を設けたほうが読みやすくなります。以下は別表方式の例です(単位:百万円)。
| 売上高 | 金額 |
|---|---|
| 報告セグメント計 | 12,400 |
| その他の売上高 | 600 |
| セグメント間取引消去 | △800 |
| 連結財務諸表の売上高 | 12,200 |
| 利益 | 金額 |
|---|---|
| 報告セグメント計 | 1,600 |
| その他の利益 | 40 |
| セグメント間取引消去 | △30 |
| 全社費用 | △520 |
| 棚卸資産の調整額 | △10 |
| 連結財務諸表の営業利益 | 1,080 |
| 資産 | 金額 |
|---|---|
| 報告セグメント計 | 9,500 |
| その他の資産 | 400 |
| 配分していない全社資産 | 1,600 |
| 債権の相殺消去 | △300 |
| 連結財務諸表の資産合計 | 11,200 |
利益の調整表には、必ず調整先の科目名を書きます。差異調整の対象となる損益計算書の利益(又は損失)は、営業利益(又は損失)、経常利益(又は損失)、税金等調整前当期純利益(又は損失)、当期純利益(又は損失)、親会社株主に帰属する当期純利益のうち、いずれか適当と判断される科目とし、企業は当該科目を開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第26項)。上の例では営業利益に調整しているため、最終行を「連結財務諸表の営業利益」としています。
また、全社費用や全社資産のように事業セグメントに配分しないこととした収益・費用・資産・負債がある場合は、差異調整に関する事項としてその金額を開示します。上の例では、全社費用△520百万円について、表の下に「(注)全社費用は、主に報告セグメントに帰属しない一般管理費及び研究開発費です。」と注記します。全社資産についても同様に「(注)全社資産は、主に報告セグメントに帰属しない本社建物及び余資運用資金です。」といった内容を記載します。
作表後は、必ず縦横の検算をしてください。上の例では、売上高が12,400+600−800=12,200、資産が9,500+400+1,600−300=11,200と、記載例③の表の「計」および連結財務諸表の計上額と一致しています。初回開示でよくある差異は、セグメント間取引消去の金額を売上高側と利益側で別々に作ってしまい、整合が取れなくなるケースです。
記載例⑤ 関連情報(製品・サービス別/地域別/主要な顧客)
関連情報は、製品及びサービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報の3つです。セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第29項)。また、報告すべきセグメントが1つしかなくセグメント情報を開示しない企業であっても、関連情報は開示が必要です。
製品及びサービスに関する情報
主要な個々の製品又はサービスあるいはこれらの種類や性質、製造方法、販売市場等の類似性に基づく同種・同系列のグループ(製品・サービス区分)ごとに、外部顧客への売上高を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第30項)。開示するのは、外部顧客への売上高が損益計算書の売上高の10%以上である製品・サービス区分です(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第15項)。
設例の会社は報告セグメントを製品・サービス別に区分しているため、記載例③の表で同じ情報が開示済みです。この場合、製品及びサービスに関する情報の記載は不要になります。逆に、報告セグメントを地域別や子会社別に区分している会社は、この情報を別途作る必要があります。
なお、単一の製品・サービス区分の外部顧客への売上高が損益計算書の売上高の90%超である場合は、その旨を開示して記載を省略できます(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第15項)。省略する場合でも「その旨」の一文は必要です。
地域に関する情報
地域に関する情報として、国内の外部顧客への売上高に分類した額と海外の外部顧客への売上高に分類した額、および国内に所在している有形固定資産の額と海外に所在している有形固定資産の額を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第31項)。海外分のうち主要な国がある場合は区分して開示し、売上高については各区分に売上高を分類した基準もあわせて記載します。
売上高(単位:百万円)
| 日本 | 9,800 |
|---|---|
| 米国 | 1,400 |
| その他 | 1,000 |
| 合計 | 12,200 |
表の下には「(注)売上高は顧客の所在地を基礎とし、国又は地域に分類しています。」と分類基準を明記します。
有形固定資産(単位:百万円)
| 日本 | 3,100 |
|---|---|
| 米国 | 400 |
| 合計 | 3,500 |
「主要な国」として区分するかどうかの判断基準は数値で決まっています。海外の外部顧客への売上高に分類した額のうち、単一の国の外部顧客への売上高に分類した額が損益計算書の売上高の10%以上である場合に、これを主要な国として区分します。有形固定資産についても、海外に所在している額のうち単一の国に所在する額が貸借対照表の有形固定資産の額の10%以上である場合に区分します(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第16項)。設例では米国の売上高1,400百万円が売上高12,200百万円の約11%、米国の有形固定資産400百万円が3,500百万円の約11%であるため、いずれも区分して表示しています。
国内の外部顧客への売上高に分類した額が損益計算書の売上高の90%超である場合、および国内に所在している有形固定資産の額が貸借対照表の有形固定資産の額の90%超である場合は、その旨を開示して記載を省略できます(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第17項)。国内売上高がほぼ全額という会社は、この省略規定を使えるかどうかを毎期判定してください。設例では日本の有形固定資産が3,100百万円で全体の約89%にとどまるため、省略できません。
主要な顧客に関する情報
主要な顧客がある場合には、その旨、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客への売上高及び当該顧客との取引に関連する主な報告セグメントの名称を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第32項)。ここでいう主要な顧客とは、単一の外部顧客への売上高(同一の企業集団に属する顧客への売上高を集約している場合には、その売上高)が損益計算書の売上高の10%以上である顧客をいいます(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第18項)。
単位:百万円
| 相手先 | 売上高 | 関連するセグメント名 |
|---|---|---|
| ○○システムズ株式会社 | 1,300 | システム開発事業 |
該当する顧客がいない場合は、この表そのものを作りません。実務では、企業集団単位で集計すると10%を超えるのに、法人単位で見ていたために漏れる例があります。売上高上位の得意先について、親子会社関係の有無を確認したうえで判定してください。
記載例⑥ 減損損失・のれんに関する報告セグメント別情報
損益計算書に固定資産の減損損失を計上している場合には、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理に基づく数値によって、その報告セグメント別の内訳を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第33項)。報告セグメントに配分されていない減損損失がある場合には、その額及びその内容も記載します。ただし、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合は、この開示を要しません。
固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報(単位:百万円)
| システム開発事業 | 保守サービス事業 | 機器販売事業 | その他 | 全社・消去 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 減損損失 | – | – | 120 | 30 | – | 150 |
のれんについても同様に、損益計算書にのれんの償却額又は負ののれんの償却額を計上している場合には、その償却額及び未償却残高に関する報告セグメント別の内訳を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第34項)。報告セグメントに配分されていないのれん又は負ののれんがある場合には、その償却額及び未償却残高並びにその内容を記載します。
のれんに関する報告セグメント別情報(単位:百万円)
| システム開発事業 | 保守サービス事業 | 機器販売事業 | その他 | 全社・消去 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 当期償却額 | 40 | – | 25 | – | – | 65 |
| 当期末残高 | 280 | – | 150 | – | – | 430 |
ここで注意したいのが、記載例③の表とのつながりです。設例では「のれんの償却額」を記載例③の表に含めているため、償却額はセグメント情報の中で同様の情報が開示されていることになります。一方、未償却残高は記載例③の表に含まれていないため、この表で開示する必要があります。実務では償却額と未償却残高を1つの表にまとめて掲げるのが通例ですが、記載例③の表との金額の一致(設例では償却額の合計65百万円)は必ず確認してください。
また、重要な負ののれんを損益計算書に認識した場合には、当該負ののれんを認識した事象について、その報告セグメント別の概要を開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第34-2項)。金額だけでなく、どのような事象で生じたのかを文章で書く点が他の項目と異なります。
のれんの償却額そのものの決め方は、注記の様式とは別の論点です。償却期間の設定については次のコラムで整理しています。
関連コラムのれんの償却期間の決め方|20年以内の年数設定と仕訳▸
注記漏れチェックリスト
初回開示のレビューで実際に指摘が出やすい項目を、条項番号とセットで並べました。ドラフトが完成したら、上から順に潰してください。
- 報告セグメントの決定方法と、各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類を両方書いたか(第18項)。決定方法だけで製品・サービスの種類が抜けている例が多く見られます。
- 複数の事業セグメントを集約した場合、その旨を概要に記載したか(第18項)。
- 報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が、損益計算書の売上高の75%以上になっているか(第14項)。75%未満の場合は、その水準に達するまで報告セグメントとする事業セグメントを追加します。
- 報告セグメント間の取引価格・振替価格の決定方法を測定方法の注記に書いたか(第24項(1))。
- 負債の額について、最高経営意思決定機関に定期的に提供され使用されているかを確認したか(第20項)。
- 利益の算定に含まれる項目(外部顧客への売上高、セグメント間の内部売上高又は振替高、減価償却費、のれんの償却額及び負ののれんの償却額、受取利息及び支払利息、持分法投資損益、特別利益及び特別損失、税金費用、重要な非資金損益項目)を漏れなく開示したか(第21項)。特別利益及び特別損失については主な内訳もあわせて開示します。
- 資産の算定に含まれる項目(持分法適用会社への投資額、有形固定資産及び無形固定資産の増加額)を開示したか(第22項)。
- 差異調整を売上高・利益・資産・負債・その他の各項目について作成し、重要な調整事項を個別に記載したか(第25項)。
- 差異調整先の損益計算書の科目名を明示したか(第26項)。
- 事業セグメントに資産を配分していない場合、その旨を開示したか(第24項(3))。
- 区分方法を変更した場合、その旨と、前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示したか(第27項)。作り直しが実務上困難な場合は、その旨及び理由を記載します(第28項)。
- 関連情報3種について、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き記載したか(第29項)。報告セグメントが1つしかない会社でも関連情報は必要です。
- 省略規定を使う場合の「その旨」を書いたか(適用指針 第15項、第17項)。90%超基準で省略できるのは記載であって、その旨の開示ではありません。
- 減損損失の報告セグメント別情報を記載したか(第33項)。配分されていない減損損失があればその額と内容も記載します。
- のれんの償却額及び未償却残高の報告セグメント別内訳を記載したか(第34項)。重要な負ののれんを認識した場合は、その事象の報告セグメント別概要も必要です(第34-2項)。
上場準備で押さえておく実務ポイント
セグメント情報等の開示に関する会計基準は、2010年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用されています(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第35項)。基準自体は2008年3月21日に公表され、2009年に企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」における負ののれんの会計処理の見直しを踏まえた改正、2010年に企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を踏まえた改正が行われています(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第44-2項、第44-3項)。新規適用ではなく、既に確立した開示実務として運用されている領域です。
そのうえで、上場準備の会社が初回開示で気をつけたい点が2つあります。
1つ目は、報告セグメントの区分を毎期ころころ変えないことです。量的基準を適用して報告セグメントを決定するにあたっては、相当期間にわたりその継続性が維持されるよう配慮するものとされています。前年度において報告セグメントとされた事業セグメントが当年度において量的基準を下回るとしても、引き続き重要であると判断される場合には、当該セグメントに関する情報を区分して継続的に開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針 第9項)。申請期の直前に組織を大きく組み替えると、比較可能性の説明に手間がかかります。
2つ目は、組織変更があった場合の作り直しです。企業の組織構造の変更等により報告セグメントの区分方法を変更する場合には、その旨及び前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第27項)。作り直しには前年度の管理会計データが必要になるため、組織変更を決めた時点で経理部門に情報が届く体制になっているかを確認しておくと安全です。
実務では、セグメント情報の注記そのものよりも、その基礎となる管理会計の数値と連結財務諸表の数値をつなぐ工程に時間がかかります。セグメント別の損益計算書が財務会計と一致しない、全社費用の配分基準が部門ごとにばらばら、といった状態のまま初回開示に入ると、監査対応で往復が発生します。開示体制の構築段階で、セグメント別数値の作成プロセスを文書化しておくことをおすすめします。
個別のセグメント区分の妥当性や、注記の記載内容の判断は会社の実情によって異なります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちらまとめ
有価証券報告書のセグメント情報等の注記は、報告セグメントの概要、測定方法、報告セグメントごとの数値の表、差異調整表、関連情報、減損損失・のれんの報告セグメント別情報という順に組み立てます。様式そのものは法定されていませんが、開示項目は企業会計基準第17号に列挙されており、そこから外れることはありません。
初回開示で確認すべきポイントは、報告セグメント計と連結財務諸表計上額の縦横の整合、差異調整先の科目名の明示、そして関連情報の省略規定を使う際の「その旨」の記載です。本記事のチェックリストで条項番号と突き合わせながらドラフトを点検すれば、レビューでの指摘は大きく減らせます。
参考文献
よくある質問
個別財務諸表にもセグメント情報の注記は必要ですか。
連結財務諸表でセグメント情報等の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は要しません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第3項)。連結財務諸表を作成する会社は、連結注記のみを用意すれば足ります。
報告セグメントが1つしかない場合、注記は不要ですか。
セグメント情報の開示は不要でも、関連情報の開示は必要です。報告すべきセグメントが1つしかなくセグメント情報を開示しない企業であっても、製品及びサービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報は開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第29項)。
セグメント利益は必ず営業利益に調整しなければなりませんか。
営業利益に限りません。差異調整の対象となる損益計算書の利益(又は損失)は、営業利益(又は損失)、経常利益(又は損失)、税金等調整前当期純利益(又は損失)、当期純利益(又は損失)又は親会社株主に帰属する当期純利益のうち、いずれか適当と判断される科目とし、企業はその科目を開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第26項)。社内で業績評価に用いている利益の段階に合わせて選びます。
報告セグメントの区分を変更したときは、前年度の情報も作り直すのですか。
組織構造の変更等により報告セグメントの区分方法を変更する場合には、その旨及び前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第27項)。作り直しが実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度の区分方法により作成した情報を開示することができ、それも困難な場合には、その旨及びその理由を記載します(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第27項、第28項)。
「その他」の区分には何を書けばよいですか。
報告セグメントに含まれない事業セグメント及びその他の収益を稼得する事業活動に関する情報を、差異調整の中で他の調整項目とは区分して「その他」の区分に一括して開示します。この場合、「その他」に含まれる主要な事業の名称等をあわせて開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第15項)。金額だけでなく、どの事業が含まれているかの注記を忘れないでください。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



