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のれんの償却期間の決め方|20年以内の年数設定と仕訳

2026-08-28
目次

M&Aが完了し、取得原価の配分(PPA)を終えてのれんの金額が固まると、次に決めなければならないのが償却期間です。日本基準ではのれんを規則的に償却するため、何年で償却するかが取得後の営業損益に毎期そのまま影響します。年数の設定は会計方針そのものであり、監査法人からも必ず根拠の説明を求められる論点です。

この記事では、のれんの償却期間の上限と決め方、年数を裏づける材料の集め方、毎期の償却仕訳と表示、減損や税務との関係までを、公認会計士の実務の視点で整理します。取得時にのれんをいくらで算定するかという論点は別のコラムで扱っていますので、ここでは取得後の償却に絞って解説します。

のれんの償却期間の基本ルール

のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第32項)。適用指針でも、取得原価と取得原価の配分額との差額であるのれんについて、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、合理的な方法により規則的に償却するとされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第30項)。

20年以内・効果の及ぶ期間という上限

ここで押さえたいのは、20年が「原則の年数」ではなく「上限」だという点です。基準が求めているのはあくまで効果の及ぶ期間にわたる償却であり、20年はその期間の外枠にすぎません。効果の及ぶ期間を7年と見積ったのであれば、償却期間は7年になります。

この20年という上限は、規則的な償却を採用した経緯のなかで、連結調整勘定の償却に係る従来の考え方を踏襲して置かれたものです(企業結合に関する会計基準 第107項)。のれんの効果の及ぶ期間やその減価のパターンを厳密に予測することは難しいものの、価値が減価した部分の金額を継続して把握することも困難であるため、一定の期間にわたり規則的に償却する方法に合理性があると整理されています(企業結合に関する会計基準 第105項)。

なお、のれんの償却期間の見積りが困難であることを理由に、企業結合日にのれんを全額費用処理することは、他の会計処理との整合性が図れないとされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第381項)。「見積れないから初年度で落とす」という処理は選択肢になりません。

関連コラム企業結合に関する会計基準|取得法とのれん・取得原価の配分の実務

償却方法と償却開始時期

償却方法は定額法その他の合理的な方法とされており、実務では定額法が広く用いられます(企業結合に関する会計基準 第32項)。年間の償却額は次のように計算します。

年間の償却額 = のれんの計上額 ÷ 償却期間(年数)

償却の開始時期は企業結合日です。みなし取得日による場合には、当該みなし取得日が四半期首であるときは償却開始も四半期首からであり、四半期末であるときは翌四半期からとなります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(1))。また、のれんを企業結合日に全額費用処理することはできません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(2))。

関連会社が子会社になるなど、関連会社と企業結合したことにより発生したのれんについては、持分法による投資評価額に含まれていたのれんの未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたって償却します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(5))。持分法適用時の残存年数を引き継ぐわけではない点に注意が必要です。

償却期間の決め方と根拠付け

基準は上限だけを定めており、何年にするかの答えは書かれていません。年数は取得企業が自ら見積り、その見積りを説明できる状態にしておく必要があります。

企業結合ごとの決定

のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(6))。これは、企業結合ごとにのれんの発生原因が異なるためです(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第380項)。

したがって、「当社はのれんを一律10年で償却する」という社内ルールを作り、案件を問わず機械的に当てはめる運用は基準の考え方に沿いません。買収の目的が販売チャネルの獲得なのか、技術者チームの獲得なのか、許認可を伴う事業基盤の獲得なのかによって、超過収益力が持続する期間は変わります。案件ごとに見積り、その結論として結果的に同じ年数になることはあっても、出発点は案件単位の検討です。

年数の根拠に使う指標

実務上、のれんの償却期間の決定にあたっては、企業結合の対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能とされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第382項)。適用指針が明示的に挙げている参考指標はこの投資回収期間であり、根拠付けの出発点として最も説明しやすい材料です。

そのうえで、案件の性格に応じて次のような材料を組み合わせ、効果の及ぶ期間を見積ることになります。いずれも取得の意思決定過程で作成済みの資料から拾えるものが中心です。

投資の合理的な回収期間 対価の算定の基礎とした回収年数。適用指針が参考にできると明示している指標です。
事業計画の対象期間 取得の意思決定で用いた事業計画の年数。超過収益力が見込まれる期間の目安になります。
主要な契約・許認可の
残存期間
取得した事業の収益が特定の契約や許認可に依存する場合の年数の上限の手がかりです。
無形資産の償却年数 のれん以外の無形資産に配分した年数。のれんの年数と極端に離れていないかを確認します。
事業環境の変化の速さ 技術や顧客の入替りが速い領域では、短い年数が選ばれやすくなります。

監査法人への説明の組み立て

監査の場で問われるのは「20年以内かどうか」ではなく、「なぜその年数なのか」です。説明が通りやすいのは、社外の資料ではなく、自社が取得の意思決定で実際に使った資料に年数が結び付いているケースです。取締役会資料の事業計画年数、デューデリジェンス報告書で前提とした回収年数、バリュエーションで用いた予測期間などが、そのまま裏づけになります。

逆に説明が難しくなるのは、事業計画が5年分しかないのに償却期間だけを20年としている場合や、複数の案件で年数の違いを説明できない場合です。年数を決めた根拠と検討過程を、企業結合日を基準日とするメモとして残しておくと、その後の期の監査対応も含めて負担が軽くなります。

のれんの償却仕訳と表示

のれんは無形固定資産の区分に表示し、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します(企業結合に関する会計基準 第47項)。減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(3))。

毎期の償却仕訳

取得により計上したのれんが600,000千円、効果の及ぶ期間を10年と見積り、定額法により償却する場合を考えます(単位:千円)。年間の償却額は次のとおりです。

60,000千円 = 600,000千円 ÷ 10年

毎期末の仕訳は次のようになります。借方ののれん償却額は販売費及び一般管理費に計上します(企業結合に関する会計基準 第47項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(3))。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
のれん償却額 60,000 のれん 60,000

企業結合日が期首でない場合は、企業結合日から期末までの月数に応じて按分した額を初年度の償却額とします。連結財務諸表上ののれんも同様に、連結手続のなかで毎期の償却額を計上します。

重要性が乏しい場合の費用処理

のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第32項)。この場合の費用の表示区分も販売費及び一般管理費です(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(4))。

小規模な事業譲受により生じたのれんが3,000千円で、金額に重要性が乏しいと判断した場合の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
のれん償却額 3,000 のれん 3,000

重要性の判断は金額の絶対額だけで決まるものではなく、自社の損益規模や無形固定資産の残高との関係で行います。重要性が乏しいとまでは言えない案件で安易にこの取扱いを使うと、償却期間の見積りを回避したと受け取られかねません。なお、効果の及ぶ期間を合理的に見積った結果として、稀ではあるものの償却額が企業結合年度に全額計上され得る場合もありますが、その場合でも償却額は特別損失ではなく営業費用に計上されます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第382項)。

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償却期間と減損の関係

のれんの未償却残高は、固定資産の減損に係る会計基準の対象資産となります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第77項)。規則的な償却を行っていても、減損の検討は別途必要です。償却期間を長く置くほど未償却残高が長く残り、減損リスクを抱える期間も長くなります。

のれんの減損の判定単位

のれんが認識された取引において取得された事業の単位が複数である場合には、のれんの帳簿価額を合理的な基準に基づき分割します(固定資産の減損に係る会計基準 二 8.)。分割して帰属させる事業の単位は、取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も内部管理上独立した業績報告が行われる単位とされています(固定資産の減損に係る会計基準 注解 注9)。

のれんはそれ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないため、分割されたそれぞれののれんに減損の兆候がある場合、減損損失を認識するかどうかの判定は、のれんが帰属する事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で行います(固定資産の減損に係る会計基準 二 8.)。

関連コラム共用資産とのれんの減損処理を徹底解説!実務ケースと算定手順

減損損失計上後の償却

先ほどの例で、償却開始から5年が経過してのれんの未償却残高が300,000千円となった時点で、のれんを含むより大きな単位について減損損失を認識すべきと判定され、その全額がのれんに配分されたとします(単位:千円)。減損損失は原則として特別損失とします(固定資産の減損に係る会計基準 四 2.)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減損損失 300,000 のれん 300,000

減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づき償却を行います(固定資産の減損に係る会計基準 三 1.)。上の例のように未償却残高の全額が減損された場合、その後ののれん償却額は生じません。なお、減損損失の戻入れは行いません(固定資産の減損に係る会計基準 三 2.)。

企業結合年度の減損の兆候

取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合や、被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされています(企業結合に関する会計基準 第109項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第77項)。

競争的なプロセスを経て高値で取得した案件では、初年度から減損の検討が必要になり得ます。この点も踏まえると、償却期間は事業計画の達成可能性と切り離して長めに設定するより、計画と整合する年数を置くほうが、その後の減損リスクの管理としても現実的です。

関連コラムPPA(取得原価の配分)とは|無形資産の識別とのれんの算定

会計と税務の償却期間の違い

会計上ののれんと、税務上の資産調整勘定は別物です。非適格合併等により資産又は負債の移転を受けた内国法人が、交付した対価の額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超える場合、その超える部分のうち政令で定める部分の金額が資産調整勘定の金額となります(法人税法 第62条の8第1項)。

資産調整勘定は、当初計上額を60で除して計算した金額に当該事業年度の月数を乗じた金額を各事業年度において減額しなければならず、その減額した金額が損金の額に算入されます(法人税法 第62条の8第4項、第5項)。年数の見積りは介在せず、月数按分による定額の取崩しです。

当期の減額すべき金額 = 当初計上額 ÷ 60 × 当該事業年度の月数
会計上ののれん 20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却します。年数は企業結合ごとに取得企業が見積ります。
税務上の資産調整勘定 非適格合併等により生じた金額を、当初計上額の60分の1に事業年度の月数を乗じた額により減額し、損金に算入します。

そもそも税務上の資産調整勘定が生じるのは非適格合併等の場合であり、株式取得による子会社化のように連結上だけのれんが生じる取引では、税務上の取崩しは生じません。会計上の償却期間を税務に合わせて5年に固定する必然性はなく、効果の及ぶ期間の見積りに基づいて決めるのが基準の求めるところです。差異が生じる場合の税効果の取扱いは、案件の類型ごとに確認が必要です。

償却期間に関する注記

企業結合年度において、取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、取得原価の配分に関する事項として、発生したのれんの金額、発生原因、償却方法及び償却期間を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(4)④)。決めた年数は開示され、外部からも確認できる情報になります。

また、取得原価の大部分がのれん以外の無形資産に配分された場合には、のれん以外の無形資産に配分された金額及びその主要な種類別の内訳並びに全体及び主要な種類別の加重平均償却期間も注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(4)②)。のれんの償却期間と無形資産の償却年数が並べて開示されるため、両者が整合していないと説明を求められやすくなります。

なお、企業結合に関する会計基準は2019年に改正され、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用されています(企業結合に関する会計基準 第58-3項)。この改正は条件付取得対価に係る取扱いの明確化を内容とするもので、のれんの償却の定めそのものは変更されていません。適用指針についても、リースに関する会計基準の公表に伴い、リースに係る使用権資産及びリース負債への取得原価の配分の定めが追加されています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第61-2項)。

まとめ

のれんの償却期間は、20年以内でその効果の及ぶ期間にわたって設定します。20年は上限であって既定値ではなく、年数は企業結合ごとに取得企業が見積ります。根拠付けの中心になるのは、対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間や、取得の意思決定で用いた事業計画の年数です。

毎期の処理は、のれん償却額を販売費及び一般管理費に計上する定型的な仕訳ですが、その前提となる年数の決定は会計方針の判断であり、注記を通じて外部にも開示されます。償却期間が長いほど未償却残高が長く残り、減損の検討を要する期間も長くなる点も踏まえて年数を決めることが、取得後の財務報告を安定させます。

償却期間の設定や監査法人への説明の組み立ては案件ごとの事情に左右されますので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

のれんの償却期間は何年に設定するのが正しいですか

基準が定めているのは20年以内という上限だけで、一律の正解となる年数はありません。効果の及ぶ期間を企業結合ごとに見積り、その年数で償却します(企業結合に関する会計基準 第32項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(6))。実務では、対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能とされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第382項)。

のれんを取得した年度に全額費用処理できますか

のれんを企業結合日に全額費用処理することはできません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(2))。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第32項)。この場合の表示区分は販売費及び一般管理費です(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(4))。

のれん償却額はどの区分に表示しますか

のれんは無形固定資産の区分に表示し、当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します(企業結合に関する会計基準 第47項)。減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(3))。

会計上の償却期間を税務の5年に合わせる必要はありますか

合わせる必要はありません。税務上の資産調整勘定は、非適格合併等により生じた金額について、当初計上額を60で除した金額に事業年度の月数を乗じた額を減額し損金に算入する仕組みです(法人税法 第62条の8第1項、第4項、第5項)。会計上ののれんは効果の及ぶ期間の見積りに基づいて償却期間を決めるため、両者は一致しないことがあります。

関連会社が子会社になった場合、持分法上ののれんの残りはどうなりますか

関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、持分法による投資評価額に含まれていたのれんの未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたって償却します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項(5))。持分法適用時の残存年数をそのまま引き継ぐわけではありません。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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