普通株式以外の株式に係る1株当たり当期純利益の算定と開示実務
目次
- 普通株式以外の株式に係るEPS算定の基本原則
- 非転換型の参加型株式の取扱い
- 異なる配当請求権を有する株式の取扱い
- ツークラス法(2種方式)の概要
- EPS算定と開示の省略が認められる例外規定
- 非上場株式における省略要件
- 重要性が乏しい場合の判断基準
- 転換型の参加型株式における特有の会計処理
- 転換仮定方式の適用
- 転換仮定方式が選ばれた背景
- 実務ケーススタディ:ツークラス法による配分シミュレーション
- 優先株式への基本配当額の控除
- 参加可能額の算定と配分
- 実務ケーススタディ:EPSの具体的な計算手順
- 各株式に帰属する当期純利益の確定
- 1株当たり当期純利益の算出と開示
- まとめ
- 普通株式以外の株式に係るEPS算定のよくある質問まとめ
企業が普通株式とは異なる権利内容を持つ株式を発行している場合、財務諸表において1株当たり当期純利益(EPS)をどのように算定し開示するかが重要な実務課題となります。本記事では、「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」に基づき、非転換型の参加型株式やトラッキング・ストックなどの優先的ではないが異なる配当請求権を有する株式に係るEPSの算定方法について、具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。
普通株式以外の株式に係るEPS算定の基本原則
企業が普通株式とは異なる権利内容を持つ普通株式以外の株式を発行している場合、一定の要件を満たす株式については、普通株式の1株当たり当期純利益とは別に、当該株式独自の1株当たり当期純利益を算定し開示する義務があります。
非転換型の参加型株式の取扱い
優先配当を受けた上で、さらに普通株主への配当にも参加できる権利を持つ参加型株式のうち、普通株式への転換請求権を持たない非転換型の株式が発行されている場合、特別な算定が求められます。具体的には、その参加可能額があらかじめ定められた方法で算定できる場合、当期純利益から当該参加可能額を控除して普通株式の1株当たり当期純利益を計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第12項)。
| 株式の要件 | 会計処理の概要 |
|---|---|
| 非転換型の参加型株式 | 参加可能額を控除し、普通株式と当該株式それぞれのEPSを算定・開示 |
| 参加可能額の算定 | あらかじめ定められた配当ルールに基づき客観的に計算可能であること |
異なる配当請求権を有する株式の取扱い
非参加型の子会社連動株式(トラッキング・ストック)や後配株式など、配当請求権が優先的ではないものの、普通株式とは異なる配当ルールが設定されている株式が存在するケースもあります。このような場合にも、当該株式に係る当期純利益を当該株式の期中平均株式数で除して算定した金額を、普通株式の1株当たり当期純利益とともに開示することが求められます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第10項)。
ツークラス法(2種方式)の概要
上記の算定アプローチは、国際的な会計基準においてツークラス法(2種方式)と呼ばれています。企業の当期純利益が普通株主と普通株主以外の株主の双方に帰属しているという考え方に基づき、それぞれの株式について独立して1株当たり当期純利益を算定・開示することで、企業の成果全体を投資家へ正確に示すことが可能となります(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第47項)。
EPS算定と開示の省略が認められる例外規定
原則として普通株式以外の株式についても1株当たり当期純利益の算定と開示が必要ですが、実務上の負担軽減や情報提供の意義を考慮し、特定の条件を満たす場合には開示の省略が認められる例外規定が存在します。
非上場株式における省略要件
当該株式が証券取引所に上場されていない、またはそれに準ずる取引が行われていない非上場株式である場合、例外適用の第一条件を満たします。上場株式と比較して、広く一般の投資家に対する情報開示の必要性が相対的に低いと判断されるためです。
重要性が乏しい場合の判断基準
非上場株式であることに加え、投資家への情報提供の観点から重要性が乏しいときには、当該株式に係る1株当たり当期純利益の算定および開示を省略することが容認されています(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第9項ただし書き、第10項ただし書き)。
| 省略が認められる要件 | 内容 |
|---|---|
| 非上場であること | 証券取引所へ上場(これに準じるものを含む)されていない株式であること |
| 重要性が乏しいこと | 投資家の意思決定に与える影響が軽微であると合理的に判断されること |
転換型の参加型株式における特有の会計処理
参加型株式であっても、将来普通株式に転換される権利が付与されている転換型の参加型株式の場合、非転換型とは全く異なるアプローチで1株当たり当期純利益を算定します。
転換仮定方式の適用
転換型の参加型株式については、独立した1株当たり当期純利益を算定するツークラス法は適用しません。その代わり、期首等において当該株式がすべて普通株式に転換されたとみなす転換仮定方式を適用します。これにより算定された株式数を、基本となる普通株式の分母(期中平均株式数)に加算して1株当たり当期純利益を計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第12項なお書き)。
転換仮定方式が選ばれた背景
基準設定時において、転換型の参加型株式をどのように扱うべきか複数の手法が検討されました。ツークラス法を採用した場合、参加型としての性質は反映されますが、将来普通株式に転換されることによる希薄化効果(潜在株式としての側面)が無視されてしまいます。そのため、将来の普通株式となる性格を最も重視し、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点からも転換仮定方式が妥当であると結論付けられました(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第48項)。
| 検討された算定方法 | 採用の可否と理由 |
|---|---|
| ツークラス法 | 不採用(転換による希薄化効果が反映されないため) |
| 転換仮定方式 | 採用(将来の普通株式となる潜在的側面を重視するため) |
実務ケーススタディ:ツークラス法による配分シミュレーション
ここでは、上場企業が普通株式(期中平均1,000万株)と非転換型の参加型株式(優先株式:期中平均600万株)を発行しており、当期純利益が2億円であった場合の具体的な配分シミュレーションを解説します。
優先株式への基本配当額の控除
優先株式の配当条件が「普通株式に先立って1株当たり11円の優先配当を受ける」と設定されている場合、まず当期純利益からこの優先配当額を控除します。優先株式600万株に対して1株当たり11円を乗じ、基本配当額である6,600万円を算出します。当期純利益2億円から6,600万円を差し引いた残額1億3,400万円が、次のステップで配分される対象となります。
参加可能額の算定と配分
残額1億3,400万円について、「普通株式と優先株式で1:4の比率(優先株1株当たり普通株1株の4分の1の額)で追加配当を受ける」というルールに基づき配分します。方程式を用いて計算すると、優先株式への参加可能額の総額は1,200万円(1株当たり2円)、普通株式への配当可能額の総額は1億2,200万円(1株当たり12.2円)と客観的に算定されます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第47項、設例8)。
実務ケーススタディ:EPSの具体的な計算手順
配分シミュレーションの結果をもとに、普通株式と優先株式それぞれの1株当たり当期純利益を計算し、開示するための最終的な手順を確認します。
各株式に帰属する当期純利益の確定
先ほどの計算により、各株式に帰属する当期純利益の金額が確定します。普通株式に係る当期純利益は1億2,200万円となります。一方、優先株式に係る当期純利益は、優先配当額の6,600万円に参加可能額の1,200万円を加算し、合計7,800万円となります。
| 株式の種類 | 帰属する当期純利益の金額 |
|---|---|
| 普通株式 | 1億2,200万円 |
| 優先株式(非転換型の参加型株式) | 7,800万円(基本配当6,600万円+参加可能額1,200万円) |
1株当たり当期純利益の算出と開示
最後に、確定した当期純利益をそれぞれの期中平均株式数で除して1株当たり当期純利益を求めます。普通株式は1億2,200万円を1,000万株で除して12.20円、優先株式は7,800万円を600万株で除して13.00円と算定されます。企業は財務諸表の注記等において、普通株式の1株当たり当期純利益とともに、この優先株式の1株当たり当期純利益を併記して開示する義務を果たします(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第9項、第12項)。
まとめ
普通株式以外の株式を発行している企業において、1株当たり当期純利益の算定は株式の権利内容によって大きく異なります。非転換型の参加型株式にはツークラス法を適用して独立した数値を算定・開示し、転換型の参加型株式には転換仮定方式を適用して普通株式の分母に加算する処理が求められます。複雑な資本構成を持つ企業は、これらの会計基準の適用指針を正確に理解し、投資家に対して企業の成果を適切に報告する実務体制を構築することが不可欠です。
普通株式以外の株式に係るEPS算定のよくある質問まとめ
Q.非転換型の参加型株式の1株当たり当期純利益はどのように算定しますか?
A.当期純利益から参加可能額を控除して普通株式の1株当たり当期純利益を計算し、当該参加可能額を含む金額を優先株式の期中平均株式数で除して個別に算定します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第12項)。
Q.普通株式以外の株式のEPS開示を省略できる条件は何ですか?
A.当該株式が証券取引所に上場されていない非上場株式であり、かつ投資家への情報提供の観点から重要性が乏しいと判断される場合に省略が認められます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第9項ただし書き)。
Q.転換型の参加型株式にはどのような算定方法を適用しますか?
A.独立したEPSを算定するツークラス法ではなく、期首等にすべて普通株式に転換されたとみなす転換仮定方式を適用し、普通株式の株式数に加算して算定します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第12項なお書き)。
Q.なぜ転換型の参加型株式に転換仮定方式が採用されたのですか?
A.ツークラス法では将来普通株式に転換されることによる希薄化効果が反映されないため、潜在株式としての側面を最も重視する転換仮定方式が採用されました(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第48項)。
Q.ツークラス法(2種方式)とはどのような会計処理ですか?
A.企業の当期純利益が普通株主と普通株主以外の株主の双方に帰属するという考え方に基づき、それぞれの株式について独立して1株当たり当期純利益を算定・開示する方法です(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第47項)。
Q.トラッキング・ストックなどの異なる配当請求権を持つ株式の扱いはどうなりますか?
A.配当請求権が優先的ではないものの普通株式と異なる配当ルールがある場合、当該株式に係る当期純利益を期中平均株式数で除して算定した金額を普通株式のEPSとともに開示します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第10項)。
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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