中間・四半期財務諸表における1株当たり純利益(EPS)の算定実務
目次
- 中間・四半期財務諸表における「一会計期間」の原則
- 中間会計期間における算定ルール
- 四半期会計期間および四半期累計期間における取扱い
- 普通株主に帰属しない金額(優先配当額)の控除ルール
- 累積型配当優先株式の取扱い
- 非累積型配当優先株式の取扱い
- 潜在株式調整後1株当たり純利益の「年度末の再計算」ルール
- 中間期と通期における算定方法の違い
- 四半期特有の算定結果の不一致と開示項目の見直し
- 四半期累計と各四半期の合計が一致しない理由
- 四半期1株当たり純資産額の開示廃止
- 算定ルールの背景と結論の根拠
- 優先配当の取扱いを区分した根拠
- 年度末に再計算を行う根拠と四半期合計の不一致の許容
- まとめ
- 中間・四半期EPS算定のよくある質問まとめ
上場企業等の四半期決算や中間決算において、1株当たり当期純利益(EPS)の算定は投資家の意思決定に直結する重要なプロセスです。本記事では、「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」に基づき、中間財務諸表および四半期財務諸表における1株当たり指標の取扱いについて、基本的な原則から優先配当の控除ルール、潜在株式の再計算、実務上のケーススタディまでを網羅的に解説いたします。
中間・四半期財務諸表における「一会計期間」の原則
中間会計期間における算定ルール
中間財務諸表において1株当たり指標を算定する際、最も根幹となるルールは、対象となる期間を独立した「一会計期間」として取り扱うことです。具体的には、中間純利益および潜在株式調整後1株当たり中間純利益の算定においては、例えば4月1日から9月30日までの6ヶ月間を一つの一会計期間とみなし、事業年度全体(通期)の算定方法に準じて計算を行います。また、中間期末日時点の1株当たり純資産額についても、期末の算定ルールに準じて算定を実施します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第37項)。
| 算定対象指標 | 算定の基本的な考え方 |
|---|---|
| 1株当たり中間純利益等 | 中間会計期間(6ヶ月間等)を独立した一会計期間とみなして通期に準じて算定 |
| 1株当たり中間純資産額 | 中間期末日を基準とし、期末の算定ルールに準じて算定 |
四半期会計期間および四半期累計期間における取扱い
四半期財務諸表においても中間財務諸表と同様の考え方が適用されます。四半期純利益および潜在株式調整後1株当たり四半期純利益の算定にあたっては、各3ヶ月間の「四半期会計期間」と、第2四半期末までの6ヶ月間や第3四半期末までの9ヶ月間といった「四半期累計期間」を、それぞれ独立した一会計期間とみなします。この原則に従い、各期間の実績に基づいて通期の算定方法に準じた計算を行うことが求められます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第37-2項)。
普通株主に帰属しない金額(優先配当額)の控除ルール
累積型配当優先株式の取扱い
中間期や四半期を独立した一会計期間とみなすことに伴い、分子となる利益から控除すべき「普通株主に帰属しない金額(優先配当額)」の算定方法が明確化されています。累積型の優先配当は、期間の経過に伴って支払義務が生じるという経済的性質を有しています。したがって、中間会計期間末日などの特定の日を基準日とする配当を実際に行うか否かにかかわらず、対象期間(3ヶ月間や6ヶ月間)に係る要支払額(年間の優先配当額を期間按分した金額など)を算定し、利益から控除する必要があります(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第62項)。
非累積型配当優先株式の取扱い
一方、非累積型の優先配当は、期間の経過ではなく株主総会等での配当決議によって初めて権利が確定する性質を持っています。そのため、中間期末などにおいて配当決議が行われ、配当予定額が存在する場合には当該金額を控除します。しかし、資金繰りの都合等により中間配当が見送られる場合、当該期間における控除額は「ゼロ」として取り扱われます。発生していない配当を仮定して控除することは行いません(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第62項)。
| 優先株式の種類 | 中間・四半期における控除ルール |
|---|---|
| 累積型配当優先株式 | 配当実施の有無にかかわらず、期間に応じた要支払額を控除 |
| 非累積型配当優先株式 | 配当決議があれば予定額を控除、配当が見送られた場合はゼロ |
潜在株式調整後1株当たり純利益の「年度末の再計算」ルール
中間期と通期における算定方法の違い
中間財務諸表等において潜在株式調整後1株当たり中間純利益を算定した際、ストック・オプション(ワラント)や転換証券の権利行使を仮定して算出した「普通株式増加数」は、年度末の通期財務諸表における算定にそのまま加重平均して引き継がれることはありません。事業年度全体を対象とする財務諸表を作成する際には、中間期を含む1年間を対象として改めて会計処理が行われます。したがって、通期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、中間期の計算結果に依存せず、年度全体の期中平均株価などの最新情報に基づいて、一から再計算を行う必要があります(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63項)。
四半期特有の算定結果の不一致と開示項目の見直し
四半期累計と各四半期の合計が一致しない理由
四半期財務諸表における特有の事象として、四半期累計期間の1株当たり四半期純損益の金額が、各四半期会計期間の数値を単純に合計した金額と必ずしも一致しないことが挙げられます。これは、四半期会計期間と四半期累計期間をそれぞれ独立した別々の一会計期間とみなし、それぞれの期間の期中平均株式数を用いて計算を行うためです。期中に自己株式の取得や新株発行が行われた場合、期間ごとの分母が変動するため、結果として数値が合致しないことが正当な会計処理として許容されています(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63-2項)。
四半期1株当たり純資産額の開示廃止
平成23年の会計基準改正に伴う制度変更により、四半期財務諸表においては「四半期1株当たり純資産額」の開示が求められないこととなりました。これに対応して、適用指針においても四半期における1株当たり純資産額の開示要求等に関する規定が削除され、実務上の負担軽減と開示の適正化が図られています(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第45-2項)。
算定ルールの背景と結論の根拠
優先配当の取扱いを区分した根拠
中間・四半期において優先配当の取扱いを累積型と非累積型で明確に区分した背景には、各株式の法的・経済的な権利の性質の違いが存在します。累積型は配当が見送られても後日支払われる権利が残存するため、発生主義の観点から期間に応じた要支払額を控除することが、普通株主の真の成果を適切に表示することに繋がります。対照的に、非累積型はその期に配当されなければ権利が消滅するため、実際に中間配当等が行われないのであれば、普通株主の利益を減少させる要因とはならないと結論付けられました(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第62項)。
年度末に再計算を行う根拠と四半期合計の不一致の許容
潜在株式の増加数を算定する自己株式方式では、期中平均株価が重要な要素となります。中間期までの平均株価と年度全体の平均株価は通常異なるため、中間期の増加数を年度末にそのまま加重平均してしまうと、年度を通じた正確な希薄化効果が反映されません。そのため、年度末には中間期の数値をリセットし、事業年度全体の情報に基づいて再算定するルールが設定されました(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63項)。また、四半期ごとのEPS合計が累計期間と一致しないことを許容した背景も同様に、自己株式の取得等による期中平均株式数の変動を正確に反映させるためであり、無理に数値を合致させることで生じる計算の歪みを排除するためです(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63-2項)。
まとめ
本記事で解説した規定が実際のビジネスや会計実務においてどのように適用されるか、優先株式とストック・オプションを発行する3月決算企業の実務例を通じて整理します。
中間財務諸表(4月〜9月)作成時の実務:
取締役会が非累積型配当優先株式に対する中間配当を見送る決議をした場合、分子から控除する優先配当額は「ゼロ」として処理します。また、潜在株式調整後1株当たり中間純利益は「4月〜9月の6ヶ月間の期中平均株価」を用いて自己株式方式により算定します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第37項、第62項)。
通期財務諸表(4月〜翌3月)作成時の実務:
期末に優先株式への配当実施が決議された場合、通期の算定では年間の優先配当予定額を確実に控除します。さらに、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定においては、中間期の計算結果は一切使用せず、「4月〜翌3月の1年間の期中平均株価」を用いてストック・オプションによる普通株式増加数を一から再計算します。これにより、株価変動の実態を正確に反映した希薄化効果が投資家に開示されます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63項)。
中間・四半期EPS算定のよくある質問まとめ
Q.中間財務諸表において1株当たり純利益を算定する際の基本原則は何ですか?
A.対象となる中間会計期間(例えば4月1日から9月30日までの6ヶ月間)を独立した「一会計期間」とみなして、通期の算定方法に準じて計算を行うことが基本原則です。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第37項)
Q.非累積型配当優先株式を発行している場合、中間期に配当を見送った際の優先配当額の控除はどうなりますか?
A.非累積型配当優先株式の場合、中間配当等が行われない(見送られる)のであれば、当該期間における利益からの控除額は「ゼロ」として取り扱います。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第62項)
Q.中間期に算定した潜在株式の普通株式増加数は、年度末の算定にそのまま引き継がれますか?
A.引き継がれません。年度末の通期財務諸表作成時には、事業年度全体(1年間)の期中平均株価等の最新情報に基づいて、潜在株式による普通株式増加数を一から再計算します。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63項)
Q.第1四半期と第2四半期の1株当たり四半期純利益の合計が、第2四半期累計期間の数値と一致しないのはなぜですか?
A.各四半期会計期間と四半期累計期間をそれぞれ独立した別々の一会計期間とみなして、それぞれの期間ごとの期中平均株式数を用いて算定するため、自己株式の取得等があった場合には数値が一致しないことが許容されています。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第63-2項)
Q.四半期財務諸表において、1株当たり純資産額の開示は必要ですか?
A.平成23年の会計基準改正に伴い、四半期財務諸表における「四半期1株当たり純資産額」の開示は求められないこととなりました。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第45-2項)
Q.累積型配当優先株式の場合、配当決議がなくても優先配当額を控除するのはなぜですか?
A.累積型の優先配当は期間の経過に伴って支払義務が生じる性格を持つため、発生主義の観点から、配当決議の有無にかかわらず当該期間に係る要支払額を控除することが、普通株主の真の成果を示すためです。(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第62項)
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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