自己株式の仕訳一覧|取得・処分・消却と純資産への影響
目次
- 自己株式の仕訳一覧と3区分の全体像
- 自己株式処分差額の用語の整理
- 自己株式の取得時の仕訳
- 取得原価による株主資本からの控除
- 取得の認識時点と無償取得の取扱い
- 自己株式の処分時の仕訳
- 自己株式処分差益が生じる場合の仕訳
- 自己株式処分差損が生じる場合の仕訳
- 自己株式の消却時の仕訳
- 会計処理を行う時点と決議後未完了の注記
- その他資本剰余金が負の残高となった場合の期末処理
- 純資産への影響と計算例
- 実務上の判断ポイントと確認事項
- 基準の改正経緯と現在の適用状況
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 自己株式の取得手数料は取得原価に含めますか
- 自己株式処分差損は損益計算書に計上しますか
- 自己株式を無償で取得した場合はどのような仕訳になりますか
- 自己株式の消却はいつ会計処理しますか
自己株式の会計処理は、取得・処分・消却の3つの場面で動く勘定科目がそれぞれ異なります。損益計算書を経由せず純資産の部の中で完結する取引が中心となるため、通常の有価証券の売買と同じ感覚で仕訳を切ると誤りが生じます。本記事では、取得・処分・消却の仕訳を一覧で整理したうえで、自社作例の数値を使って純資産への影響までを追える形で解説します。
結論として、自己株式は取得原価をもって株主資本から控除し、処分差額はその他資本剰余金で調整し、消却は帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。損益に影響するのは付随費用だけです。
自己株式の仕訳一覧と3区分の全体像
自己株式に関する会計処理は、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」と、その実務指針である企業会計基準適用指針第2号に定められています。本会計基準は、すべての会社における自己株式の取得、保有、処分及び消却並びに資本金及び準備金の額の減少の会計処理に適用されます(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第3項)。
まず、3つの区分で何が動くのかを整理します。いずれの区分でも、自己株式そのものの増減は損益計算書を通りません。
| 取得 | 取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します。資産計上はしません。 |
|---|---|
| 処分(差益) | 自己株式を貸方で減らし、処分の対価が帳簿価額を上回る部分をその他資本剰余金に計上します。 |
| 処分(差損) | 自己株式を貸方で減らし、対価が帳簿価額を下回る部分をその他資本剰余金から減額します。 |
| 消却 | 消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。 |
取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第7項)。また、期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します(同基準 第8項)。表示の全体像は次の記事で確認できます。
関連コラム純資産の部の表示|貸借対照表の区分と株主資本の実務▸
自己株式処分差額の用語の整理
処分の場面では3つの用語が使い分けられます。自己株式処分差額とは、自己株式の処分の対価から自己株式の帳簿価額を控除した額をいいます(同基準 第4項)。この差額が正の値の場合が自己株式処分差益、負の値の場合が自己株式処分差損です(同基準 第5項、第6項)。
処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します(同基準 第13項)。移動平均法・総平均法などの計算方法は基準上限定されていないため、社内規程でいずれを採用するかをあらかじめ定めておく必要があります。取得目的ごとに区分して計算する実務は現在の基準では想定されていません。
自己株式の取得時の仕訳
自己株式の取得は、株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有すると位置付けられています。したがって、取得した自己株式を資産として計上することはなく、取得原価をもって株主資本の控除項目として処理します(同基準 第7項)。会社法上は、株主総会の決議によって取得する株式の数などを定め、分配可能額の範囲内で株主との合意による取得ができるとされています(同基準 第29項)。
取得原価による株主資本からの控除
次の仕訳例は、3月決算のA社が自社株式2,000株を1株あたり1,500円で取得し、併せて証券会社への取得手数料60千円を支払った場面を想定した自社作例です(単位:千円)。自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します(同基準 第14項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 自己株式 | 3,000 | 現金預金 | 3,060 |
| 支払手数料 | 60 |
ここで誤りやすいのが、手数料60千円を自己株式の取得原価に含めてしまう処理です。国際的な会計基準では付随費用を資本取引と一体とみる考え方も採られていますが、日本基準では新株発行費用を株主資本から減額していない処理との整合性から、付随費用は損益計算書で認識し営業外費用に計上することとされています(同基準 第53項)。自己株式の取得原価は、あくまで株式の対価そのものだけで構成されます。
取得の認識時点と無償取得の取扱い
自己株式の取得は、対価が金銭の場合は対価を支払うべき日に認識し、対価が金銭以外の場合は対価が引き渡された日に認識します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針 第5項)。株主総会や取締役会の決議日ではない点に注意が必要です。
また、自己株式を無償で取得した場合は、自己株式の数のみの増加として処理します(同適用指針 第14項)。取得原価が存在しないため仕訳は生じませんが、無償で取得した自己株式の数に重要性があり、かつ、株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合には、その旨及び株式数を当該事項に併せて注記します(同適用指針 第15項)。株数管理だけが動く取引であり、仕訳が無いために失念しやすい論点です。
自己株式の処分時の仕訳
自己株式を募集株式の発行等の手続により処分する場合、その処分は株主との間の資本取引と考えられるため、処分に伴う差額は損益計算書には計上せず、純資産の部の株主資本の項目を直接増減させます(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第36項)。処分の認識時点は、募集株式の発行等の手続による場合、対価の払込期日です(同適用指針 第5項)。
自己株式処分差益が生じる場合の仕訳
自己株式処分差益は、その他資本剰余金に計上します(同基準 第9項)。処分が新株の発行と同様の経済的実態を有する点を考慮すると、その処分差額も株主からの払込資本と同様の経済的実態を有すると考えられるためです(同基準 第37項)。
先ほどのA社が、保有する自己株式のうち800株を1株あたり2,000円で処分した場面を想定します(単位:千円)。処分した自己株式の帳簿価額は800株×1,500円=1,200千円、処分の対価は1,600千円であり、差益は400千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,600 | 自己株式 | 1,200 |
| その他資本剰余金 | 400 |
差益を資本準備金ではなくその他資本剰余金に計上する点が実務上のポイントです。会社法において、資本準備金は分配可能額からの控除項目とされているのに対し、自己株式処分差益についてはその他資本剰余金と同様に控除項目とされていないことから、その他資本剰余金への計上が適切とされています(同基準 第38項)。
自己株式処分差損が生じる場合の仕訳
自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額します(同基準 第10項)。損益計算書の特別損失などに計上する処理ではありません。資本剰余金の額を減少させる科目としては、資本準備金からの減額が会社法上の制約を受けるため、その他資本剰余金からの減額が適切とされています(同基準 第40項)。
A社が、続けて保有する自己株式のうち600株を1株あたり1,100円で処分した場面を想定します(単位:千円)。帳簿価額は600株×1,500円=900千円、処分の対価は660千円であり、差損は240千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 660 | 自己株式 | 900 |
| その他資本剰余金 | 240 |
なお、払込期日前日までに受領した自己株式の処分の対価相当額については、処分の認識を行うまでは、純資産の部において株主資本の控除項目とされている自己株式の直後に、自己株式申込証拠金の科目をもって表示します(同適用指針 第6項)。期末日が払込期日をまたぐ場合に、負債計上してしまわないよう注意が必要です。
自己株式の消却時の仕訳
自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第11項)。従来は資本剰余金と利益剰余金のいずれから減額するかを会社の意思決定に委ねていましたが、会社計算規則において優先的にその他資本剰余金から減額することが規定されたため、これに合わせることとされています(同基準 第45項)。
A社が、残る自己株式600株(帳簿価額900千円)を消却した場面の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| その他資本剰余金 | 900 | 自己株式 | 900 |
会計処理を行う時点と決議後未完了の注記
消却の会計処理を行うのは、取締役会等による会社の意思決定の段階ではなく、消却手続が完了したときです。自己株式の消却を取締役会等で意思決定しただけでは、法的に発行済株式数が減少するわけではないためです(同基準 第46項)。
そのうえで、意思決定によって自己株式を消却する場合に、決議後消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にあり、当該自己株式の帳簿価額又は株式数に重要性があるときは、株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合に、決議後消却手続を完了していない自己株式の帳簿価額、種類及び株式数を当該事項に併せて注記します(同基準 第22項)。期末直前に消却決議を行ったケースでは、この注記の要否を必ず確認します。
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その他資本剰余金が負の残高となった場合の期末処理
処分差損の減額や消却による減額の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(同基準 第12項)。期中に都度補てんするのではなく、会計期間末にまとめて処理する点が特徴です。
A社のその他資本剰余金の期首残高が500千円であったとすると、期中の増減は処分差益400千円の増加、処分差損240千円の減額、消却による900千円の減額であり、期末の残高は次のとおり負の値となります(単位:千円)。
この場合、期末に借方「その他利益剰余金(繰越利益剰余金)240」、貸方「その他資本剰余金240」の振替を行い、その他資本剰余金の残高を零とします。払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金に負の残高を認めることは適当ではないため、利益剰余金で補てんするほかないと考えられており、これは資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと判断されています(同基準 第41項)。なお、翌期以後に処分差益が生じても、いったん充当した留保利益を元に戻す処理は行いません(同基準 第43項)。
純資産への影響と計算例
ここまでのA社の取引を通して、純資産の部がどのように動くかを整理します(単位:千円)。自己株式は株主資本の控除項目であるため、自己株式勘定が増えると純資産は減り、減ると純資産は増えるという向きになります。
| 取得時 | 自己株式3,000の控除項目が発生し、純資産は3,000減少します。付随費用60は営業外費用として当期純利益を通じて純資産を減らします。 |
|---|---|
| 処分時(差益) | 自己株式が1,200減り、その他資本剰余金が400増えるため、純資産は対価と同額の1,600増加します。 |
| 処分時(差損) | 自己株式が900減り、その他資本剰余金が240減るため、純資産は対価と同額の660増加します。 |
| 消却時 | 自己株式が900減り、その他資本剰余金が900減るため、純資産の合計額は増減しません。 |
| 期末の振替 | その他資本剰余金の負の残高240を繰越利益剰余金へ振り替えます。株主資本の内訳が動くだけで、純資産の合計額は増減しません。 |
消却が純資産の合計額を動かさないという点は、実務で説明を求められやすい論点です。消却は株主資本の内訳項目の振替に過ぎず、会社から資金が流出するのは取得の時点であるためです。自己株式の取得から消却までの一連の取引で純資産が減るのは、取得の対価3,000千円と付随費用60千円の部分であり、処分によってその一部が回収されたと整理すると理解しやすくなります。
なお、1株当たり当期純利益の算定では、期中平均株式数から自己株式が控除されるほか、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定にあたって自己株式方式が用いられる場面があります。指標への影響は次の記事で整理しています。
関連コラム潜在株式調整後EPSの算定:ワラントと自己株式方式の完全実務ガイド▸
実務上の判断ポイントと確認事項
当事務所が決算支援や監査の現場で自己株式の処理を確認する際、誤りが集中するのは次の5点です。仕訳を切る前のチェックリストとして活用いただけます。
| 付随費用の処理 | 取得・処分・消却のいずれの手数料も取得原価や差額に含めず、営業外費用に計上しているか(同基準 第14項)。 |
|---|---|
| 認識時点 | 取得は対価を支払うべき日、募集株式の発行等の手続による処分は払込期日で認識しているか(同適用指針 第5項)。 |
| 帳簿価額の算定 | 会社の定めた計算方法が社内規程で明確になっており、株式の種類ごとに算定しているか(同基準 第13項)。 |
| 差損の減額先 | 処分差損を損益計算書ではなくその他資本剰余金から減額しているか(同基準 第10項)。 |
| 期末の負の残高 | その他資本剰余金の期末残高が負でないか、負であれば繰越利益剰余金へ振り替えているか(同基準 第12項)。 |
加えて、株主資本等変動計算書の注記における自己株式の種類及び株式数の記載と、貸借対照表の自己株式の金額が整合しているかも必ず確認します。無償取得や決議後未完了の消却は仕訳が発生しないか金額が動かないため、株数の注記だけが漏れる事故が起こりやすい領域です。注記の記載例は次の記事で確認できます。
関連コラム株主資本等変動計算書の注記記載例|増減表と配当注記のひな形▸
基準の改正経緯と現在の適用状況
企業会計基準第1号は2002年2月21日に公表され、その後2005年、2006年、2015年に改正されています。2006年改正の会計基準は、公表日以後、会社法の定めが適用される処理に関して適用されています(同基準 第23項)。2015年改正の会計基準は、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています(同基準 第23-2項)。いずれもすでに適用済みであり、現在の実務は本記事で解説した処理によります。
実務指針である企業会計基準適用指針第2号は、2002年の公表後、2005年、2006年、2015年に改正され、直近では2024年に改正されています。2024年改正は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当し子会社株式に該当しなくなった場合の会計処理を追加したもので、公表日以後適用されています(同適用指針 第23-3項)。取得・処分・消却という基本的な仕訳への影響はありません。
まとめ
自己株式の会計処理は、取得原価をもって株主資本から控除し、処分差額と消却額をその他資本剰余金で調整するという一本の軸で理解できます。損益計算書に影響するのは付随費用のみであり、処分差損を特別損失に計上する誤りや、手数料を取得原価に含める誤りは、この軸を押さえておけば避けられます。
実務で最も見落とされやすいのは、期末時点でその他資本剰余金が負の残高となった場合の繰越利益剰余金への振替と、無償取得や決議後未完了の消却に関する株数の注記です。自己株式の取引は資本政策や事業承継と結び付いて発生することが多く、会社法上の分配可能額の確認や税務上の取扱いとも連動します。具体的なケースについては、公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
自己株式の取得手数料は取得原価に含めますか
含めません。自己株式の取得、処分及び消却に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第14項)。新株発行費用を株主資本から減額していない処理との整合性から、日本基準ではこの取扱いが採られています(同基準 第53項)。
自己株式処分差損は損益計算書に計上しますか
計上しません。自己株式処分差損は、その他資本剰余金から減額します(同基準 第10項)。自己株式の処分は株主との間の資本取引であり、処分差額は損益計算書に計上せず純資産の部の株主資本の項目を直接増減させるためです(同基準 第36項)。
自己株式を無償で取得した場合はどのような仕訳になりますか
仕訳は生じません。自己株式を無償で取得した場合は、自己株式の数のみの増加として処理します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針 第14項)。ただし株式数に重要性があり、株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合には、その旨及び株式数を併せて注記します(同適用指針 第15項)。
自己株式の消却はいつ会計処理しますか
消却手続が完了したときに会計処理を行い、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第11項)。取締役会等で意思決定しただけでは発行済株式数が法的に減少しないためです(同基準 第46項)。決議後消却手続を完了していない自己株式が貸借対照表日にあり重要性があるときは、注記が必要です(同基準 第22項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



