新株予約権の会計処理【仕訳例】発行・権利行使・失効と自己新株予約権
目次
資金調達のために新株予約権を発行した会社では、発行時の払込金額を純資産の部の「新株予約権」に計上し、権利が行使されたら資本金又は資本金及び資本準備金へ振り替え、行使されずに失効したら利益(原則として特別利益)に戻し入れます(企業会計基準適用指針第17号 第4項〜第6項)。
この記事では、現金を対価に発行する新株予約権について、発行者側の仕訳を「発行・権利行使・失効」の順に自社作例で示します。あわせて、どの基準で処理するかの判定表と、自己新株予約権を取得・消却・処分したときの処理を一覧表にまとめました。従業員向けに付与する新株予約権と取り違えやすい点も整理しています。
新株予約権の会計処理に使う基準【判定表】
同じ「新株予約権」でも、誰に・何の対価として付与したかで使う基準が変わります。企業会計基準適用指針第17号(払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理)が扱うのは、現金のみを対価として受け取り、付与される新株予約権に限られます(企業会計基準適用指針第17号 第2項)。
従業員等に付与する新株予約権はストック・オプションとして別の基準で処理します。また、従業員等が一定の金銭を払い込む権利確定条件付き有償新株予約権も、ストック・オプションに該当するものとされ、第17号の適用範囲には含まれません(実務対応報告第36号 第4項、企業会計基準適用指針第17号 第34項)。最初にどの行に当たるかを確認してから仕訳に進むのが安全です。
| 現金のみを対価に発行する 新株予約権(資金調達など) |
企業会計基準適用指針第17号の発行者側の処理による(本記事の対象) |
|---|---|
| 従業員等に付与する ストック・オプション |
企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準による |
| 権利確定条件付き 有償新株予約権 |
ストック・オプションに該当するものとして実務対応報告第36号による |
| 敵対的買収防止策として 付与する新株予約権 |
対価性がないため費用を認識せず第17号も適用しない。ただし消却時などに生じる自己新株予約権の処理は第17号による |
| 新株予約権付社債 | 第17号の新株予約権付社債の定め(一括法・区分法)による |
敵対的買収防止策の取扱いと、そこで生じる自己新株予約権に第17号を使う点は、結論の背景で示されています(企業会計基準適用指針第17号 第34項)。従業員向けの有償新株予約権を「資金調達の新株予約権」と同じ処理にしてしまうと費用計上が漏れるため、上場準備の監査で指摘を受けやすい論点です。
関連コラム有償ストックオプションの会計処理|権利確定条件付き有償新株予約権と実務対応報告第36号▸
第17号は2007年に公表され、同年の公表日以後に終了する事業年度から適用されています。その後、2018年に実務対応報告第36号の公表に伴う改正が行われ、これが現在までの最終改正です(企業会計基準適用指針第17号 第29項、第29-2項、第33-2項)。
発行時の仕訳【仕訳例】
新株予約権を発行したときは、発行に伴う払込金額を純資産の部に「新株予約権」として計上します(企業会計基準適用指針第17号 第4項)。純資産の部では株主資本に含めず、株主資本以外の項目として区分します(企業会計基準第5号 第7項)。かつては仮勘定として負債の部に計上していましたが、返済義務のある負債ではないことから純資産の部に移った経緯があります(企業会計基準適用指針第17号 第36項、企業会計基準第5号 第22項)。
前提条件(単位:千円):X1年4月1日に、第三者割当で新株予約権1,000個を発行し、1個当たり3千円(合計3,000千円)の払込みを受けた。1個の行使で100株を交付し、行使価額は1株当たり0.5千円(1個当たり50千円)とする。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 3,000 | 新株予約権 | 3,000 |
発行時には損益は生じません。2021年の改正で個別貸借対照表の株主資本以外の区分に「株式引受権」が加わっていますが、新株予約権はそれとは別の区分として表示します(企業会計基準第5号 第7項、第10-4項)。
権利行使時の仕訳【仕訳例】
権利行使時の処理は、新株を発行するか自己株式を処分するかで分かれます。どちらの場合も、振替や処分対価の計算に新株予約権の帳簿価額と行使時の払込金額の両方を含める点が共通しています(企業会計基準適用指針第17号 第5項)。
新株を発行する場合
新株を発行するときは、新株予約権の発行に伴う払込金額と、行使に伴う払込金額の合計を、資本金又は資本金及び資本準備金に振り替えます(企業会計基準適用指針第17号 第5項(1))。会社法上、払込み等の額の2分の1を超えない額は資本金とせず、資本準備金として計上できます(会社法 第445条第2項・第3項)。
前提条件(単位:千円):X3年4月1日に、上記1,000個のうち600個が行使され、新株を発行した。行使に伴う払込みは600個×50千円=30,000千円。増加額の2分の1を資本準備金とする。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 30,000 | 資本金 | 15,900 |
| 新株予約権 | 1,800 | 資本準備金 | 15,900 |
実務で多い誤りは、行使時の払込額だけを資本金等にして、借方の新株予約権1,800千円を残したままにしてしまうことです。行使された個数に対応する新株予約権の帳簿価額を必ず取り崩します。
自己株式を処分する場合
行使に対して自己株式を交付するときは、募集株式の発行等の手続で自己株式を処分する場合に準じて処理します。このとき処分の対価は、新株予約権の発行に伴う払込金額と行使に伴う払込金額の合計額とします(企業会計基準適用指針第17号 第5項(2))。処分差益はその他資本剰余金に計上し、処分差損はその他資本剰余金から減額します(企業会計基準第1号 第9項、第10項)。
上の例で、新株の代わりに帳簿価額33,000千円の自己株式を交付したとすると、処分差額は次のとおりです(単位:千円)。
この1,200千円はその他資本剰余金から減額します。減額の結果、期末にその他資本剰余金が負の値になったときは、その他資本剰余金を零とし、負の値を繰越利益剰余金から減額します(企業会計基準第1号 第12項)。
関連コラム自己株式の仕訳一覧|取得・処分・消却と純資産への影響▸
1株未満の端数を金銭で交付する場合
行使時に交付する株式に1株未満の端数があり、その端数に相当する金銭を交付するときは、端数部分も含めて上の処理を行ったうえで、交付する金銭の額をその他資本剰余金から減額します(企業会計基準適用指針第17号 第5項なお書き)。端数の金銭を費用処理しない点に注意が必要です。
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失効時の仕訳【仕訳例】
新株予約権が行使されないまま権利行使期間が満了して失効したときは、失効に対応する額を、失効が確定した会計期間の利益(原則として特別利益)として処理します(企業会計基準適用指針第17号 第6項)。実務では「新株予約権戻入益」などの科目名が使われます。
前提条件(単位:千円):残る400個が行使されずにX6年3月31日に権利行使期間が満了し、失効した。失効に対応する額は400個×3千円=1,200千円。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 新株予約権 | 1,200 | 新株予約権戻入益 | 1,200 |
新株予約権は払込資本となる可能性と失効する可能性の両方を持つため、権利行使の有無が確定するまで性格が定まりません(企業会計基準第5号 第22項)。失効で払込資本にならないことが確定した時点で利益に振り替える、という流れで押さえると整理しやすくなります。
自己新株予約権の取得・消却・処分【一覧表】
発行した新株予約権を会社自身が買い戻すと「自己新株予約権」になります。自己株式の取得は資本取引ですが、自己新株予約権の取得は新株予約権者との損益取引と位置付けられています。ただし取得時点では消却するか処分するかが決まっていないため、取得時には損益を計上しません(企業会計基準適用指針第17号 第38項)。場面ごとの処理は次のとおりです。
| 取得時 | 取得した自己新株予約権の時価に付随費用を加算して取得価額とする。支払対価の時価のほうが信頼性高く測定できるときは支払対価の時価による(第11項) |
|---|---|
| 保有時の表示 | 純資産の部の新株予約権から原則として直接控除する。間接控除するときは新株予約権の直後に自己新株予約権の科目で表示する(第13項) |
| 時価が著しく 下落したとき |
帳簿価額が対応する新株予約権の帳簿価額を超え、回復の見込みがない場合などに、所定の差額を当期の損失とする(第14項) |
| 消却時 | 自己新株予約権の帳簿価額と対応する新株予約権の帳簿価額との差額を、自己新株予約権消却損(益)等として当期の損益とする(第16項) |
| 処分時 | 自己新株予約権の帳簿価額と受取対価との差額を、自己新株予約権処分損(益)等として当期の損益とする(第17項) |
| 連結財務諸表 | 発行会社自身が保有する場合は自己新株予約権として処理し、他の連結会社が保有する場合は債権と債務の相殺消去に準じて処理する(第15項) |
上表の項番はいずれも企業会計基準適用指針第17号のものです。たとえば、上の例とは別に、帳簿価額1個3千円の新株予約権100個を1個2千円で買い戻して消却した場合、取得価額200千円と対応する新株予約権300千円の差額100千円が自己新株予約権消却益になります(企業会計基準適用指針第17号 第16項)。
取得条項に基づいて自己新株予約権を取得し、対価がすべて自社の株式で、取得と同時に消却することが募集事項等に示されているなど一定の要件をすべて満たす場合は、時価による取得ではなく、権利行使時の処理に準じます(企業会計基準適用指針第17号 第12項)。取得条項付きの新株予約権では、まず要件に当てはまるかを確認します。
決算・上場準備で確認したいポイント
新株予約権の処理自体は短い仕訳で済みますが、決算や監査で論点になるのは次の点です。
- 付与先と対価の確認:役員・従業員が引き受けた有償新株予約権は、第17号ではなく実務対応報告第36号の対象になり得ます。発行決議の内容(引受先・権利確定条件)から判定します。
- 行使時の振替漏れ:行使された個数分の新株予約権の帳簿価額を、払込額と合わせて資本金等へ振り替えているかを個数単位で照合します。
- 失効の計上時期と区分:失効が確定した会計期間に、原則として特別利益で計上します(企業会計基準適用指針第17号 第6項)。
- 純資産の部の表示:新株予約権は株主資本ではなく、株主資本以外の項目として表示します(企業会計基準第5号 第7項)。株主資本等変動計算書でも株主資本と区別して増減を示します。
新株予約権付社債(転換社債型の一括法・区分法など)の処理は、同じ第17号の別の項で定められています。社債と組み合わせて発行する場合は、次のコラムもあわせてご確認ください。
まとめ
- 現金のみを対価に発行する新株予約権は、企業会計基準適用指針第17号で処理します。従業員向けのストック・オプションや権利確定条件付き有償新株予約権は別の基準の対象です。
- 発行時は払込金額を純資産の部の「新株予約権」に計上し、損益は生じません。
- 権利行使時は、新株予約権の帳簿価額と行使時の払込額の合計を資本金等に振り替えます。自己株式を交付するときは、その合計額を処分の対価として処分差額を計算します。
- 失効時は、失効に対応する額を原則として特別利益に計上します。
- 自己新株予約権は取得時に損益を計上せず、消却時・処分時に差額を損益とします。
発行条件や付与先によって適用する基準や仕訳が変わるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第17号 払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い
- e-Gov法令検索 会社法
よくある質問
新株予約権は負債と純資産のどちらに計上しますか。
発行に伴う払込金額は、純資産の部に「新株予約権」として計上します(企業会計基準適用指針第17号 第4項)。株主資本には含めず、株主資本以外の項目として区分します(企業会計基準第5号 第7項)。
新株予約権が失効したときの利益は営業外収益ですか。
失効に対応する額は、失効が確定した会計期間の利益として処理し、原則として特別利益に計上します(企業会計基準適用指針第17号 第6項)。
権利行使時に資本金に組み入れる額はいくらですか。
新株予約権の帳簿価額と行使時の払込金額の合計を資本金又は資本金及び資本準備金に振り替えます(企業会計基準適用指針第17号 第5項(1))。そのうち2分の1を超えない額は資本金とせず資本準備金にできます(会社法 第445条第2項・第3項)。
従業員が払込みをして引き受けた新株予約権にも同じ仕訳を使いますか。
権利確定条件が付された有償の新株予約権であれば、ストック・オプションに該当するものとして実務対応報告第36号で処理し、企業会計基準適用指針第17号の適用範囲には含まれません(実務対応報告第36号 第4項、企業会計基準適用指針第17号 第34項)。
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