リース・インセンティブとフリーレントの借手処理|使用権資産からの控除
目次
- リース・インセンティブとフリーレントの整理
- 基準に定義規定が置かれていない点
- フリーレントとレントホリデーの違い
- 借手の処理を分ける2つの経路
- 経路1:借手のリース料に織り込む型
- 経路2:使用権資産から控除する型
- 類型別の整理
- フリーレントを含む契約の測定と仕訳
- 移転費用の補填を受けた場合の会計処理
- 実務での判断ポイントと落とし穴
- 貸手が第三者へ直接支払う場合
- 内装工事負担金と借手資産の区分
- 適用初年度の経過措置での調整
- 適用時期
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- フリーレント期間は使用権資産を計上しなくてよいのですか。
- 移転費用の補填金を受け取ったとき、収益に計上してよいですか。
- フリーレントがあるとリース負債も小さくなりますか。
- レントホリデーはフリーレントと処理が変わりますか。
- すでにフリーレント付きの契約がある場合、移行時に何を確認すべきですか。
オフィスや店舗の賃貸借契約では、当初の数か月の賃料を無償とするフリーレントや、移転費用を貸手が補填する条項が広く使われています。新リース会計基準(企業会計基準第34号)では借手がすべてのリースをオンバランスするため、これらの優遇条件をどこで拾うかによって、リース負債と使用権資産の金額が変わります。
結論から申し上げると、借手の処理は「賃料そのものが減る型」か「貸手から金銭を受け取る型」かで分岐します。前者は借手のリース料に織り込んでリース負債の測定に反映し、後者は受け取ったリース・インセンティブとして使用権資産の計上額から控除します(リースに関する会計基準 第33項)。本記事では、インセンティブの類型整理から測定への反映、仕訳例、移行時の落とし穴までを一本の手順として整理します。
リース・インセンティブとフリーレントの整理
リース・インセンティブは、貸手が借手にリース契約の締結を促すために与える経済的な優遇の総称です。実務では、賃料の減免と金銭の支払という性質の異なるものが同じ「サービス条件」として交渉されるため、契約書上の呼び名だけで処理を決めると誤りやすい領域です。
基準に定義規定が置かれていない点
企業会計基準第34号は、使用権資産の計上額を算定する際に「受け取ったリース・インセンティブ」を控除すると定めています(リースに関する会計基準 第33項、リースに関する会計基準の適用指針 第18項)。一方で、用語の定義(同会計基準 第5項から第24項、同適用指針 第4項)にはリース・インセンティブそのものの定義が置かれていません。
したがって実務では、契約条件の経済的な実質から、借手のリース料の減額なのか、貸手から借手への支払なのかを自分で切り分ける必要があります。この切り分けが、本記事で扱う判断の中心になります。
フリーレントとレントホリデーの違い
フリーレントは、契約開始当初の数か月間の賃料が無償となる条項を指します。これに対しレントホリデーは、たとえば数年間契約を継続した場合に一定期間の賃料が無償となるように、契約期間の途中に無償期間が置かれる条項を指します。いずれも貸手側では無償賃貸期間として整理され、貸手のオペレーティング・リースによるリース料は貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上されます(リースに関する会計基準の適用指針 第82項)。
借手側から見ると、両者はどちらも「特定の期間の固定リース料がゼロになる」という同じ形をしています。無償期間が期首にあるか途中にあるかは、後述する測定のプロセスでは区別されません。
関連コラム貸手のオペレーティング・リース会計処理:フリーレントの特例を解説▸
借手の処理を分ける2つの経路
借手の会計処理は、優遇条件が借手のリース料の中で完結するか、リース料の外で金銭が動くかで経路が分かれます。両者は最終的な使用権資産への影響が似て見えますが、リース負債の金額が変わるため、注記や財務指標への影響は同じではありません。
経路1:借手のリース料に織り込む型
借手のリース料は、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払をいい、借手の固定リース料、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料、残価保証に係る借手による支払見込額、行使が合理的に確実である購入オプションの行使価額、解約に対する違約金の支払額で構成されます(リースに関する会計基準 第19項、第35項)。
フリーレントやレントホリデーは、無償期間の借手の固定リース料がゼロになるという形で、この借手のリース料に直接あらわれます(同会計基準 第20項)。借手は、借手のリース期間中の未払の借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除した現在価値によりリース負債を計上するため(同会計基準 第34項、同適用指針 第19項)、無償期間の分だけリース負債と使用権資産がともに小さく測定されます。特別な減額処理を別途行うわけではない点が重要です。
経路2:使用権資産から控除する型
これに対し、移転費用の補填金のように貸手から借手へ金銭が支払われる条項は、借手のリース料の構成要素には含まれません。借手は、リース負債の計上額にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項、同適用指針 第18項)。
この場合、リース負債は補填金の影響を受けません。使用権資産だけが小さくなり、その結果として各期の減価償却費が減る一方、支払利息は減らないという非対称な影響が生じます。
類型別の整理
代表的なインセンティブ条項を、上記2つの経路に当てはめると次のとおりです。
| インセンティブの類型 | 借手の会計処理 |
|---|---|
| 契約開始当初の賃料が無償となるフリーレント | 無償期間の借手の固定リース料をゼロとして借手のリース料に反映し、リース負債と使用権資産の測定に織り込む |
| 契約期間の途中に無償期間が置かれるレントホリデー | フリーレントと同様に、無償期間を含む借手のリース期間全体の借手のリース料で測定する |
| 一定期間の賃料を減額する条項 | 減額後の金額を借手の固定リース料として借手のリース料に反映する |
| 貸手から借手へ支払われる移転費用の補填金 | 受け取ったリース・インセンティブとして使用権資産の計上額から控除する |
| 貸手が負担する内装工事費の負担金 | 借手が所有する資産の取得の対価と認められる場合を除き、受け取ったリース・インセンティブとして使用権資産から控除する |
フリーレントを含む契約の測定と仕訳
ここからは自社作例で数値を追います。オフィスの賃貸借契約について、借手のリース期間を5年(60か月)、月額の固定賃料を1,000千円とし、契約開始当初の6か月をフリーレント期間とします。借手のリース料の総額は1,000千円×54か月=54,000千円となり、この未払額を借手の追加借入利子率で割り引いた現在価値を、説明を簡潔にするため50,000千円と仮定します(単位:千円)。
リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用がなく、受け取ったリース・インセンティブもない場合、使用権資産はリース負債と同額になります(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 50,000 | リース負債 | 50,000 |
ここで押さえておきたいのは、フリーレント期間中も費用がゼロにはならないという点です。借手は使用権資産の減価償却費と、リース負債に係る利息相当額を計上します。利息相当額は借手のリース期間にわたり原則として利息法により配分し(同会計基準 第36項)、所有権が移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産は、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして償却します(同会計基準 第38項)。
関連コラム新リース会計基準の借手処理:リース開始日の計上額と仕訳を解説▸
移転費用の補填を受けた場合の会計処理
同じ契約について、仲介手数料500千円を付随費用としてリース開始日に現金で支払い、あわせて貸手から移転費用の補填金2,500千円を受け取ったとします(単位:千円)。付随費用は使用権資産に加算し、受け取ったリース・インセンティブは使用権資産から控除します(リースに関する会計基準 第33項、同適用指針 第18項)。
リース開始日に、リース負債の計上と付随費用の支払を認識します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 50,500 | リース負債 | 50,000 |
| 現金預金 | 500 |
続いて、移転費用の補填金を受け取った際に使用権資産から控除します。この処理により使用権資産は50,500千円-2,500千円=48,000千円となり、リース負債50,000千円との差額が生じます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 2,500 | 使用権資産 | 2,500 |
フリーレント期間中の各月は、現金の支出がないまま費用だけが計上されます。使用権資産48,000千円を借手のリース期間60か月にわたり定額で償却すると月額800千円、リース負債50,000千円に年3パーセントの利率を乗じた初月の利息相当額は125千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 800 | 使用権資産 | 800 |
| 支払利息 | 125 | リース負債 | 125 |
旧基準のオペレーティング・リース取引では、フリーレント期間の賃料をどう配分するかで実務に幅がありました。新基準では、無償期間があっても使用権資産の償却と利息の計上が毎月発生するため、フリーレント期間の損益が旧基準より重くなる可能性があります。予算策定の際に見落としやすい点です。
新リース会計基準の対応、影響額の簡易試算から
公認会計士が対応方針までご案内|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料試算・ご相談はこちら
実務での判断ポイントと落とし穴
貸手が第三者へ直接支払う場合
移転費用や内装工事費を、貸手が借手に渡すのではなく工事業者へ直接支払う契約形態があります。この場合も、借手が本来負担すべき支出を貸手が肩代わりしているのであれば、経済的には借手が補填を受けたのと変わりません。実務では、請求書の名義だけで判断せず、契約上その費用を誰が負担する建付けになっているかを確認したうえで、リース・インセンティブに該当するかを整理することになります。
内装工事負担金と借手資産の区分
内装工事負担金は、金額が大きく判断も割れやすい論点です。完成した内装設備が借手の資産として計上され、借手が減価償却を行うのであれば、負担金は使用権資産ではなく当該設備の取得に紐づく性質を持ちます。一方、内装が貸手の所有に帰属し、借手が使用するだけであれば、リース契約の締結を促すための優遇として使用権資産から控除する整理になじみます。資産の帰属と維持管理の負担がどちらにあるかを、契約書と工事区分表の両方で確認することが出発点です。
適用初年度の経過措置での調整
すでにフリーレント付きの賃貸借契約を締結している企業では、移行時の取扱いが実務上の山場になります。旧基準でオペレーティング・リース取引に分類していたリースについて簡便的な方法を選ぶ場合、借手は適用初年度の期首時点における残りの借手のリース料を期首時点の追加借入利子率で割り引いてリース負債を計上し、使用権資産はリース開始日から会計基準が適用されていたかのような帳簿価額とするか、リース負債と同額としたうえで前連結会計年度および前事業年度の期末日に計上されている前払又は未払リース料の金額の分だけ修正する方法のいずれかを選択します(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)。
旧基準でフリーレントを含む賃料を期間にわたり平準化して計上していた場合、この未払リース料の残高が移行時の調整項目になります。また、この方法を選ぶ借手は、付随費用を適用初年度の期首における使用権資産の計上額から除外することもできます(同適用指針 第124項)。どの簡便法を使うかで移行後の使用権資産が変わるため、契約の棚卸しの段階で選択方針を決めておくと後戻りが減ります。
関連コラム新リース会計基準と不動産賃貸借|オフィス・店舗の計上額と敷金▸
適用時期
企業会計基準第34号は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。適用指針の適用時期も会計基準と同様です(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。適用初年度に向けて、フリーレント条項や補填条項を含む契約を洗い出し、どちらの経路で処理するかを契約単位で決めておくことが求められます。
まとめ
借手のリース・インセンティブは、賃料そのものが減るフリーレント・レントホリデー型と、貸手から金銭を受け取る補填型に分けて考えると整理が進みます。前者は借手の固定リース料がゼロまたは減額される形で借手のリース料に反映され、リース負債と使用権資産の両方が小さくなります。後者は借手のリース料には影響せず、受け取ったリース・インセンティブとして使用権資産の計上額からのみ控除されます。
フリーレント期間中も使用権資産の償却と利息相当額の計上は続くため、現金の支出がない期間に費用が発生するという逆転が起きます。予算や業績管理の枠組みを先に見直しておくと、適用初年度の混乱を避けられます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
よくある質問
フリーレント期間は使用権資産を計上しなくてよいのですか。
いいえ。使用権資産とリース負債はリース開始日に計上します(リースに関する会計基準 第33項)。フリーレント期間は借手の固定リース料がゼロになるため測定額は小さくなりますが、計上そのものを見送ることはできません。無償期間中も減価償却費と利息相当額が発生します。
移転費用の補填金を受け取ったとき、収益に計上してよいですか。
受け取ったリース・インセンティブは、使用権資産の計上額から控除します(リースに関する会計基準 第33項、リースに関する会計基準の適用指針 第18項)。一括して収益に計上する処理は基準の定めに合いません。控除により使用権資産が小さくなり、その効果は減価償却費の減少という形で借手のリース期間にわたり損益に反映されます。
フリーレントがあるとリース負債も小さくなりますか。
小さくなります。リース負債はリース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除した現在価値により算定するため(リースに関する会計基準 第34項)、無償期間の固定リース料がゼロであれば、その分だけリース負債の計上額が減ります。一方、貸手からの補填金はリース負債には影響しません。
レントホリデーはフリーレントと処理が変わりますか。
借手の処理は変わりません。いずれも無償期間の借手の固定リース料がゼロとなるものとして、借手のリース期間全体の借手のリース料に反映します(リースに関する会計基準 第19項、第20項)。無償期間が契約開始時にあるか途中にあるかは、測定のプロセスでは区別されません。
すでにフリーレント付きの契約がある場合、移行時に何を確認すべきですか。
旧基準で計上していた前払又は未払リース料の残高を確認してください。簡便的な方法により使用権資産をリース負債と同額とする場合、前連結会計年度および前事業年度の期末日の前払又は未払リース料の金額の分だけ修正します(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)。契約の棚卸しの段階で、この残高の有無を契約単位で把握しておくと移行作業が円滑になります。
新リース会計基準対応の無料相談はこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。




