新リース会計基準における建設協力金と敷金の会計処理(借手)
目次
店舗出店やオフィス移転の際に借手が差し入れる建設協力金や敷金について、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」に基づく会計処理を詳細に解説いたします。本記事では、実務において重要となる現在価値の算定や使用権資産への算入方法について、具体的なケーススタディを交えて説明いたします。
建設協力金等の差入預託保証金の取扱い
借手が不動産を賃借する際、建築資金の一部負担等を目的として貸手に差し入れる建設協力金等の預託保証金(敷金を除く)については、以下の規定に従って会計処理を行います。
当初認識時の時価と使用権資産への算入
将来返還される建設協力金等の当初認識時の時価は、返済期日までのキャッシュ・フローを適切な割引率で割り引いた現在価値として算定します。そして、実際の支払額とこの現在価値との差額を、使用権資産の取得価額に含めて計上する必要があります(企業会計基準適用指針第33号 第29項)。
| 項目 | 会計処理の概要 |
|---|---|
| 時価の算定 | 将来の返済キャッシュ・フローを割り引いた現在価値(企業会計基準適用指針第33号 第29項) |
| 差額の処理 | 実際の支払額と現在価値の差額を使用権資産の取得価額に含める(企業会計基準適用指針第33号 第29項) |
受取利息の計上と割引率の特例
当初の現在価値と将来の実際の返済額との間に生じる差額は、弁済期または償還期に至るまで、毎期一定の方法で受取利息として計上します。また、借手が対象となる土地建物に抵当権を設定している場合には、原則として国債の利回りなどのリスク・フリーの利子率を割引率として使用します(企業会計基準適用指針第33号 第30項)。
| 項目 | 詳細な要件 |
|---|---|
| 受取利息の計上 | 弁済期まで毎期一定の方法で計上し、貸付金残高を増加させる(企業会計基準適用指針第33号 第29項) |
| 割引率の特例 | 抵当権設定時はリスク・フリーの利子率を使用する(企業会計基準適用指針第33号 第30項) |
重要性が乏しい場合の例外処理と返還されない金額の取扱い
返済期日までの期間が短いなど、影響額に重要性が乏しい建設協力金については、現在価値計算を行わず、金融商品会計基準に基づく債権に準じた会計処理を行う例外が認められています(企業会計基準適用指針第33号 第31項)。一方、将来返還されないことが契約上定められている金額(償却対象額など)は、実質的な賃料の前払いとして使用権資産の取得価額に含めて計上します(企業会計基準適用指針第33号 第32項)。
| 項目 | 会計処理の方法 |
|---|---|
| 重要性が乏しい場合 | 債権に準じた会計処理を例外として容認(企業会計基準適用指針第33号 第31項) |
| 返還されない金額 | 使用権資産の取得価額に含めて計上(企業会計基準適用指針第33号 第32項) |
敷金の取扱い
敷金については、その性質上、建設協力金等とは異なる原則的な取扱いが定められています。
敷金の原則的な処理と例外
借手は、差し入れた敷金のうち将来返還される部分について、現在価値計算を行わずに取得原価で計上することが原則とされています。ただし、実務上の選択肢として、建設協力金と同様に現在価値で割り引いて使用権資産に算入する会計処理も容認されています(企業会計基準適用指針第33号 第33項)。
| 処理方法 | 内容 |
|---|---|
| 原則的な処理 | 将来返還される部分を取得原価で計上(企業会計基準適用指針第33号 第33項) |
| 例外的な処理 | 現在価値で割り引いて使用権資産に算入することも容認(企業会計基準適用指針第33号 第33項ただし書き) |
返還されない敷金と資産除去債務の取扱い
敷引などにより将来返還されないことが契約上定められている金額については、建設協力金と同様に使用権資産の取得価額に含めて計上します(企業会計基準適用指針第33号 第34項)。また、原状回復費用等に充当されるため回収が見込めない敷金について、企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」に基づく費用配分処理を選択する場合は、同指針に従って処理を行います(企業会計基準適用指針第33号 第35項)。
| 項目 | 適用される会計処理 |
|---|---|
| 返還されない敷金 | 使用権資産の取得価額に含めて計上(企業会計基準適用指針第33号 第34項) |
| 資産除去債務への充当 | 同指針の費用配分処理を選択可能(企業会計基準適用指針第33号 第35項) |
貸倒引当金の設定
建設協力金等の差入預託保証金について、貸手の支払能力の悪化等により回収不能と見込まれる金額が発生した場合には、金融商品に関する会計基準に従って貸倒引当金を設定する必要があります(企業会計基準適用指針第33号 第36項)。
背景と結論の根拠(BC)
本基準において、建設協力金や敷金の取扱いがどのように整理されたのか、その背景と根拠について解説します。
建設協力金をリース基準に含めた背景と使用権資産への変更根拠
建設協力金は主としてリース契約の締結により生じるため、従来の金融商品実務指針から本適用指針へと一元的に規定が移管されました(企業会計基準適用指針第33号 BC59項)。また、従来の「長期前払家賃」から「使用権資産」への計上に変更された理由は、支払額と現在価値の差額が利息の受取を低額とすることによる実質的な賃料の支払の性質を有すると整理されたためです(企業会計基準適用指針第33号 BC62項)。
| 項目 | 結論の根拠 |
|---|---|
| 基準の移管 | 主としてリースの締結により生じる取引であるため(企業会計基準適用指針第33号 BC59項) |
| 使用権資産への変更 | 差額は実質的な賃料支払の性質を有するため(企業会計基準適用指針第33号 BC62項) |
割引率の選択と敷金の取扱いの根拠
抵当権が設定されている場合にリスク・フリー・レートを用いる根拠は、債権の保全性が極めて高くなるためです(企業会計基準適用指針第33号 BC63項)。また、敷金を取得原価とする原則は、敷金が債務不履行に対する担保的性格を有し、通常は無金利であることに基づいています。ただし、IFRS任意適用企業への実務的な配慮から、現在価値評価の例外も認められています(企業会計基準適用指針第33号 BC64項)。
| 項目 | 結論の根拠 |
|---|---|
| リスク・フリー・レートの適用 | 抵当権設定により債権の保全性が高まるため(企業会計基準適用指針第33号 BC63項) |
| 敷金の取得原価原則 | 担保的性格を有し、通常は無金利であるため(企業会計基準適用指針第33号 BC64項) |
実務ケーススタディ:商業施設出店時の会計処理
本セクションでは、小売業の借手が商業施設にテナント出店し、建設協力金を差し入れた具体的なケーススタディを通じて実務上の仕訳を解説します。
現在価値の算定とリース開始日の仕訳
借手のリース期間が10年、建設協力金20,000千円を現金で支払い、6年目から10年目にかけて毎年4,000千円ずつ無利息で返済される契約を想定します。割引率を5%とした場合、将来キャッシュ・フローの現在価値は14,410千円と算定されます。この場合、実際の支払額20,000千円と現在価値14,410千円の差額である5,590千円を使用権資産に計上します(企業会計基準適用指針第33号 設例14)。
| 勘定科目 | 金額 |
|---|---|
| 借方:長期貸付金 | 14,410千円 |
| 借方:使用権資産 | 5,590千円 |
| 貸方:現金預金 | 20,000千円 |
期中の受取利息計上と使用権資産の減価償却
リース期間中、借手は各期の長期貸付金残高に対して5%の利回りで受取利息を計上し、長期貸付金の帳簿価額を増加させます。同時に、取得価額に加算された使用権資産5,590千円について、リース期間である10年にわたって定額法等で減価償却費を計上します。最終的に最後の返済を受けた時点で、長期貸付金の残高はゼロとなります(企業会計基準適用指針第33号 設例14)。
| 処理内容 | 具体的な計算・処理方法 |
|---|---|
| 受取利息の計上 | 各期の長期貸付金残高に対して5%の利回りで計上(企業会計基準適用指針第33号 第29項) |
| 使用権資産の償却 | 取得価額5,590千円をリース期間10年で減価償却 |
まとめ
新リース会計基準における借手の建設協力金や敷金の取扱いは、現在価値の算定や使用権資産への算入など、実務において重要な変更点を含んでいます。契約内容を精査し、適切な会計処理を行うことが求められます。
新リース会計基準の建設協力金・敷金に関するよくある質問まとめ
Q.建設協力金等の当初認識時の時価はどのように算定しますか?
A.将来返還される建設協力金等は、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値として算定します(企業会計基準適用指針第33号 第29項)。
Q.建設協力金の支払額と現在価値の差額はどのように処理しますか?
A.実際の支払額と現在価値の差額は、実質的な賃料の前払いとして使用権資産の取得価額に含めて計上します(企業会計基準適用指針第33号 第29項)。
Q.建設協力金に抵当権が設定されている場合の割引率は何を使用しますか?
A.借手が対象の土地建物に抵当権を設定している場合、原則として国債利回りなどのリスク・フリーの利子率を使用します(企業会計基準適用指針第33号 第30項)。
Q.敷金の原則的な会計処理はどのようなものですか?
A.敷金のうち将来返還される部分は、現在価値計算を行わず取得原価で計上することが原則です(企業会計基準適用指針第33号 第33項)。
Q.将来返還されないことが確定している敷引などの金額はどう処理しますか?
A.返還されないことが契約上定められている金額は、使用権資産の取得価額に含めて計上します(企業会計基準適用指針第33号 第34項)。
Q.建設協力金の回収が懸念される場合の処理を教えてください。
A.貸手の支払能力から回収不能と見込まれる金額がある場合は、金融商品会計基準に従って貸倒引当金を設定する必要があります(企業会計基準適用指針第33号 第36項)。
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。




