子会社株式売却損益の税務上繰延べと税効果会計の実務対応
目次
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に基づき、完全支配関係にあるグループ会社間における子会社等株式の売却損益の税務上繰延べに係る一時差異の取扱いについて詳細に解説いたします。個別財務諸表における税効果会計の適用実務や、グループ法人税制との関係性について、具体的なケーススタディを交えて紐解いていきます。
子会社等株式の売却損益に係る一時差異の発生メカニズム
個別財務諸表における会計と税務のズレ
連結会社間において子会社や関連会社の株式を売却した場合、売却元の企業の個別財務諸表上は、売却額と帳簿価額の差額が当期の子会社株式売却損益として計上されます。しかし、完全支配関係がある法人間での移転など、法人税法第61条の11に定める要件を満たす場合、課税所得計算において当該売却損益は譲渡損益調整勘定として繰り延べられ、当期の益金又は損金には算入されません。これにより、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差異が生じます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 設例8 2.(2)①(*2))
| 項目 | 取扱い内容 |
|---|---|
| 会計上の取扱い(個別財務諸表) | 売却額と帳簿価額の差額を当期の売却損益として認識する |
| 税務上の取扱い(法人税法) | 完全支配関係等の要件を満たす場合、譲渡損益調整勘定として課税を繰り延べる |
将来加算一時差異と将来減算一時差異の認識
上記の会計と税務のズレは、将来において当該子会社株式が企業集団外の第三者に譲渡されるなどの事象が発生した際に、税務上の益金又は損金として実現します。この将来の課税所得を増減させる効果を持つ差異は、売却益の繰延べであれば将来の税金を増加させるため将来加算一時差異、売却損の繰延べであれば将来の税金を減少させるため将来減算一時差異として認識されます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 設例8 2.(2)①(*2))
個別財務諸表における繰延税金資産及び負債の計上実務
繰延税金資産の回収可能性と負債の計上原則
子会社株式等の売却損益が税務上繰り延べられる場合、個別財務諸表における税効果の取扱いは、通常の資産(子会社株式等を除く)の売却損益を税務上繰り延べる場合と同様に取り扱うことが規定されています。売却益が繰り延べられて将来加算一時差異が生じた場合は、原則として全額を繰延税金負債として計上します。一方、売却損が繰り延べられて将来減算一時差異が生じた場合は、回収可能性適用指針に従って将来の課税所得の見積り等を行い、回収可能性が認められる範囲内で繰延税金資産を計上します。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第8項、第16項、第17項)
| 一時差異の種類 | 計上する勘定科目と要件 |
|---|---|
| 将来加算一時差異(売却益の繰延べ) | 原則として全額を繰延税金負債として計上する |
| 将来減算一時差異(売却損の繰延べ) | 回収可能性を判断した上で、認められる範囲内で繰延税金資産を計上する |
相手勘定の取扱いと法人税等調整額
計上された繰延税金資産又は繰延税金負債の相手勘定は、原則として損益計算書の法人税等調整額として処理します。これにより、個別財務諸表上において計上された売却損益に対する将来の税金負担額又は税金軽減効果が当期の損益として適正に反映され、税引前当期純利益と法人税等の合理的な対応関係が構築されます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第9項、第16項、第17項)
グループ法人税制と税効果会計の基準設定の背景
課税の繰延べ制度と単体決算の独立性の摩擦
このような特別な規定が設けられている背景には、グループ法人税制における課税の繰延べ制度と、企業会計における単体決算の独立性との間に生じる摩擦が存在します。税務上は、完全支配関係にあるグループ内の企業間での資産移転は単なる内部移動とみなされ、グループ外へ流出するまで課税が繰り延べられます。しかし、個別財務諸表の会計処理においては、法的な権利の移転として売却損益を認識しなければなりません。
もし税効果会計を適用しない場合、個別財務諸表上は売却益が計上されて税引前当期純利益が増加しているにもかかわらず、税務上は益金不算入となるため当期の税金負担は増加せず、利益と税金が対応しない状態に陥ります。これを是正し、会計上の利益に対する適正な税金費用を反映させるために、税効果の計上が明確に定められています。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第17項)
【ケーススタディ】完全支配関係下の株式売却における会計処理
取引の前提条件と税務上の取扱い
適用指針の設例に基づき、グループ内で子会社株式を売却し、売却益が税務上繰り延べられた場合の個別財務諸表における具体的な会計処理を確認します。当期(X2年3月期)において、完全支配関係にあるグループ内で株式の売買が行われたケースを想定します。
| 項目 | 前提条件の内容 |
|---|---|
| 資本関係 | 親会社P社はS1社とS2社を100%所有、S1社はS3社を100%所有(すべて完全支配関係) |
| 取引内容と税率 | S1社が保有するS3社株式(帳簿価額100)をS2社に130で売却。S1社の法定実効税率は30% |
この取引によりS1社には子会社株式売却益30が発生しますが、完全支配関係にある法人間での取引であるため、税務上はこの売却益30は当期の益金に算入されず繰り延べられます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 設例8)
具体的な仕訳と個別財務諸表への影響
S1社は個別財務諸表において、売却額130と帳簿価額100の差額である30を子会社株式売却益として計上します。税務上はこの利益が繰り延べられるため、S1社のS3社株式の税務上の課税所得計算上の価額は譲渡損益調整勘定として30となり、将来加算一時差異が発生します。S1社はこの一時差異30に法定実効税率30%を乗じた9を、繰延税金負債として計上し、相手勘定を法人税等調整額とします。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第8項、第9項、第17項)
| 借方勘定科目と金額 | 貸方勘定科目と金額 |
|---|---|
| 現金預金 130 | 子会社株式 100 / 子会社株式売却益 30 |
| 法人税等調整額 9 | 繰延税金負債 9 |
まとめ
子会社等株式の売却損益が税務上繰り延べられる場合、個別財務諸表においては、当該繰延べによる会計と税務の差異を一時差異として認識し、税効果会計を適用する必要があります。将来加算一時差異には繰延税金負債を、将来減算一時差異には回収可能性を考慮した上で繰延税金資産を計上し、相手勘定は法人税等調整額とします。これにより、グループ法人税制下においても、個別財務諸表における税引前当期純利益と税金費用の適切な対応を図ることが可能となります。
子会社株式売却損益の税務上繰延べに関するよくある質問まとめ
Q. 子会社株式の売却損益が税務上繰り延べられる要件は何ですか?
A. 完全支配関係(100%所有など)にある法人間で子会社株式等の譲渡を行った場合など、法人税法第61条の11に規定される要件を満たす場合に、譲渡損益調整勘定として税務上の益金又は損金への算入が繰り延べられます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 設例8)
Q. 税務上繰り延べられた売却益は、税効果会計上どのように扱われますか?
A. 会計上は利益が計上される一方で税務上は益金に算入されないため、将来の課税所得を増加させる「将来加算一時差異」として認識され、原則として全額について繰延税金負債を計上します。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第8項、第16項、第17項)
Q. 繰延税金負債を計上する際の相手勘定は何ですか?
A. 個別財務諸表において計上される繰延税金負債(又は繰延税金資産)の相手勘定は、原則として損益計算書の「法人税等調整額」として処理します。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第9項、第16項、第17項)
Q. 繰延税金資産を計上する場合、どのような点に注意すべきですか?
A. 子会社株式の売却損が税務上繰り延べられて「将来減算一時差異」が発生した場合、全額を無条件で計上するのではなく、回収可能性適用指針に従って将来の課税所得の見積り等を行い、回収可能性が認められる範囲内で繰延税金資産を計上する必要があります。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第8項、第16項)
Q. なぜグループ法人間の取引で税効果会計を適用する必要があるのですか?
A. 税効果会計を適用しないと、個別財務諸表上で売却益が計上されて税引前当期純利益が増加しているのに、税金費用が増加せず、「利益と税金が対応しない」状態になるためです。これを是正し、適正な税金費用を反映させる目的があります。(参考:企業会計基準適用指針第28号 第17項)
Q. 繰り延べられた売却損益に対する一時差異はいつ解消されますか?
A. 譲渡を受けた法人が、当該子会社株式を企業集団外の第三者に売却するなど、税務上で定められた一定の事由が生じた際に、税務上の益金又は損金として実現し、一時差異が解消されます。(参考:企業会計基準適用指針第28号 設例8 2.(2)①(*2))
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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