段階取得の取得原価算定とは?個別・連結の会計処理を徹底解説
目次
企業結合において、過去に一部の株式を取得していた状態から追加取得等により支配を獲得する段階取得は、実務上頻繁に発生します。本記事では、段階取得における取得原価の算定方法について、個別財務諸表と連結財務諸表における会計処理の違いを中心に、基準設定の背景や具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。
段階取得(複数の取引により達成された取得)の概要
企業が他の企業の株式を一度に取得して支配を獲得するのではなく、過去に一部の株式を取得して保有していた状態から、さらに株式を追加取得したり、合併や株式交換等の企業結合を行ったりすることで、最終的に支配を獲得するに至った場合、これを段階取得と呼びます。(企業会計基準第21号 第25項)
個別財務諸表と連結財務諸表での取扱いの違い
段階取得における被取得企業の取得原価をどのように算定するかについては、個別財務諸表と連結財務諸表とで全く異なる会計処理が定められている点が最大の特徴です。以下の表に基本的な違いをまとめます。
| 個別財務諸表 | 過去の帳簿価額と追加対価の合算 |
| 連結財務諸表 | 個々の取引すべての企業結合日における時価の合算 |
個別財務諸表上の会計処理(過去の帳簿価額の合算)
個別財務諸表上においては、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって、被取得企業の取得原価とします。すなわち、過去に取得した株式の企業結合日前の適正な帳簿価額と、追加で交付又は支払った対価(自社株式の時価や現金など)を単純に合算して取得原価を算定します。(企業会計基準第21号 第25項(1)、企業会計基準適用指針第10号 第46項)
過去の帳簿価額算定における留意点
過去に保有していた株式の企業結合日直前の帳簿価額を算定するにあたり、以下の点に留意して適正な金額を導き出す必要があります。(企業会計基準適用指針第10号 第46項(1)〜(3))
| その他有価証券の評価差額 | 評価差額を戻し入れた取得時の帳簿価額(原価)を基礎とする |
| 減損処理や引当金の影響 | 減損処理後の帳簿価額、または投資損失引当金を控除した価額を基礎とする |
連結財務諸表上の会計処理(時価評価と損益の認識)
連結財務諸表上においては、個別財務諸表のように過去の帳簿価額を引き継ぐのではなく、支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって、被取得企業の取得原価を算定します。(企業会計基準第21号 第25項(2)、企業会計基準適用指針第10号 第46-2項)
段階取得に係る損益の認識
連結財務諸表上では、過去から保有していた被取得企業の株式等の持分について、企業結合日における時価と過去の取引ごとの原価の合計額(帳簿価額)との間に差額が生じます。この差額は、企業結合が成立した当期の段階取得に係る損益(段階取得に係る差益又は差損)として、連結損益計算書上の当期損益として処理しなければなりません。なお、過去に持分法を適用していた場合は、過去の原価の合計額は持分法による評価額となります。(企業会計基準第21号 第25項(2)、企業会計基準適用指針第10号 第46-2項)
基準設定の背景(なぜ個別と連結で処理が異なるのか)
個別財務諸表と連結財務諸表とで取得原価の算定アプローチが異なる背景には、会計基準の国際的なコンバージェンス(収斂)の歴史が深く関わっています。平成15年に公表された古い会計基準では、個別・連結ともに過去の取引ごとの原価を単純に合算して取得原価とするアプローチが採用されていました。(企業会計基準第21号 第88項)
国際的な会計基準の考え方と再投資アプローチ
国際的な会計基準においては、支配を獲得した時点で、過去に所有していた投資は一度すべて清算(売却)され、企業結合時点の時価をもって支配権を持つ新たな投資として再投資を行ったとみなすべきだという強い考え方があります。我が国は平成20年の基準改正において、この考え方を連結財務諸表に優先して導入しました。一方で、個別財務諸表については、単に支配を獲得したというだけで過去の投資の法的な実態や本質が変わったとまでは認識しづらいことから、従来通りの過去の原価の合算による処理が据え置かれました。(企業会計基準第21号 第89項、企業会計基準第21号 第90項、企業会計基準第21号 第93項)
段階取得の具体的なケーススタディ
実務において段階取得がどのように処理されるか、適用指針の設例に基づいて解説します。企業が過去に取得原価「20」で対象会社株式の20%を取得し、その他有価証券として保有していたとします。その後、対象会社株式の時価が「40」に上昇し、評価差額金「20」が計上されています。今回、対象会社を吸収合併し、残りの80%に対して時価「540」の新株を交付しました。合併期日における過去保有分(20%)の時価は「60」です。
個別財務諸表と連結財務諸表の具体的な処理
このケースにおける個別および連結財務諸表上の処理は以下のようになります。個別上は損益が発生しませんが、連結上は段階取得に係る差益が明確に認識されます。
| 個別財務諸表の取得原価 | 評価差額戻入後の原価「20」+新株時価「540」=「560」(企業会計基準適用指針第10号 第46項(1)) |
| 連結財務諸表の取得原価 | 過去保有分の時価「60」+新株時価「540」=「600」。差額の「40」は段階取得に係る差益として計上(企業会計基準適用指針第10号 第46-2項) |
まとめ
段階取得における取得原価の算定は、個別財務諸表では過去の帳簿価額と追加対価の合算、連結財務諸表ではすべての持分の時価評価という異なるアプローチが採られています。これは国際的な会計基準とのコンバージェンスを背景としたものであり、実務においては両者の違いを正確に理解し、適切に段階取得に係る損益を認識することが求められます。
段階取得と取得原価の算定に関するよくある質問まとめ
Q.段階取得とは何ですか?
A.企業が他の企業の株式を一度に取得するのではなく、過去に一部を取得していた状態から追加取得等を行い、最終的に支配を獲得することを指します。(企業会計基準第21号 第25項)
Q.個別財務諸表における段階取得の取得原価はどのように算定しますか?
A.過去に取得した株式の企業結合日前の適正な帳簿価額と、追加で交付又は支払った対価を合算して算定します。(企業会計基準第21号 第25項(1))
Q.連結財務諸表における段階取得の取得原価はどのように算定しますか?
A.支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって算定します。(企業会計基準第21号 第25項(2))
Q.段階取得に係る損益とは何ですか?
A.連結財務諸表において、過去から保有していた持分の企業結合日における時価と、過去の取引ごとの原価の合計額との差額を当期損益として認識するものです。(企業会計基準適用指針第10号 第46-2項)
Q.なぜ個別と連結で取得原価の算定方法が異なるのですか?
A.国際的な会計基準の「再投資」の考え方を連結財務諸表に優先して導入した一方、個別財務諸表では過去の投資の法的な実態が変わったと認識しづらいため従来の処理が据え置かれたからです。(企業会計基準第21号 第90項)
Q.過去にその他有価証券として保有していた株式を段階取得した場合、個別上の帳簿価額はどうなりますか?
A.評価差額を戻し入れた「取得時の帳簿価額(原価)」を基礎として算定します。(企業会計基準適用指針第10号 第46項(1))
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。


