外貨建前受金・前渡金の換算【仕訳例】充当部分と決算時の為替相場
目次
- 外貨建前受金・前渡金の換算の結論
- 前受金・前渡金が外貨建金銭債権債務に当たらない理由
- 決算時の換算替えの要否【判定表】
- 前受金を受け取った輸出取引の仕訳例
- 前受金の受取りから出荷までの仕訳
- 決算日をまたいだ場合の扱い
- 前渡金を支払った輸入取引の仕訳例
- 原則的な処理の仕訳
- 重要性が乏しい場合の簡便的な処理
- 収益認識基準の契約負債との関係
- 為替差損益の表示
- 税務上の取扱いとの比較
- 実務で迷いやすい判断ポイント
- 適用時期と改正の経緯
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 外貨建前受金は決算日の為替相場で換算替えしますか。
- 前受金を充当した売上高はどの為替相場で計上しますか。
- 外貨建の未収収益や未払費用も換算替えしないのですか。
- 輸出入取引で生じた為替差損益はどこに表示しますか。
外貨で受け取った前受金と、外貨で支払った前渡金は、金銭を授受したときの為替相場で円換算し、決算時にも換算替えしません。売上や仕入に充当するときも、充当した部分は授受時の円換算額をそのまま使い、残りの部分だけを取引発生時の為替相場で換算します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項、第26項)。
輸出入のある会社では、前受金を受け取った月と出荷した月で為替相場が違うことが珍しくありません。売上高をどちらの相場で計上するのか、期末に残った前受金を決算日の相場に直すのか。この記事では、この2点を条項に沿って整理し、輸出と輸入の仕訳例で確認します。
外貨建前受金・前渡金の換算の結論
まず全体像です。前受金・前渡金は、受け取った時点・支払った時点の円換算額が最後までその勘定の金額になります。為替相場が動いても、残高を評価し直す処理はありません。
| 前受金を受け取った時・ 前渡金を支払った時 |
金銭授受時の為替相場で円換算する |
|---|---|
| 決算時(期末残高) | 換算替えをしない(授受時の円換算額のまま) |
| 売上・仕入のうち 前受金・前渡金を充当する部分 |
前受金・前渡金の授受時の円換算額を付す |
| 売上・仕入のうち 充当されない残りの部分 |
取引発生時の為替相場で換算する |
| 営業利益・経常利益に 重要な影響がない場合 |
取引高の全額を取引発生時の為替相場で換算し、差額を為替差損益とすることができる |
根拠は、前受金・前渡金の換算(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)と、充当部分・残りの部分の換算と重要性の取扱い(同 第26項)です。以下、それぞれの理由と仕訳を順に見ていきます。
前受金・前渡金が外貨建金銭債権債務に当たらない理由
外国通貨による前渡金の支払や前受金の受入れは、外貨建取引に含まれます(外貨建取引等会計処理基準注解 注1)。そのため受払いの時点では、他の外貨建取引と同じく取引発生時の為替相場で円換算します(外貨建取引等会計処理基準 一1)。取引発生時の為替相場には、その日の直物為替相場のほか、前月・前週の平均相場など合理的な基礎に基づく平均相場も使えます(外貨建取引等会計処理基準注解 注2)。
違いが出るのは決算時です。外貨建金銭債権債務は決算時の為替相場で円換算します(外貨建取引等会計処理基準 一2(1)②)。外貨建金銭債権債務とは、契約上の債権額または債務額が外国通貨で表示されている金銭債権債務をいいます(外貨建取引等会計処理基準注解 注4)。
一方、前渡金は将来に財やサービスの提供を受ける費用性の資産、前受金は将来に財やサービスを提供する収益性の負債と位置づけられています。いずれも将来お金で決済されるものではないため、外貨建金銭債権債務ではなく、金銭授受時の為替相場による円換算額を付します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)。
決算時の換算替えの要否【判定表】
期末に外貨建ての残高を洗い出すとき、前受金・前渡金を売掛金や買掛金と同じリストに入れてしまう誤りがよく見られます。科目ごとの扱いは次のとおりです。
| 外国通貨(外貨現金) | 決算時の為替相場で換算する |
|---|---|
| 外貨建売掛金・買掛金・ 貸付金・借入金・外貨預金 |
決算時の為替相場で換算する |
| 外貨建未収収益・未払費用 | 外貨建金銭債権債務に準じて決算時の為替相場で換算する |
| 外貨建前渡金・前受金 | 換算替えをしない(金銭授受時の円換算額のまま) |
外国通貨と外貨建金銭債権債務(外貨預金を含みます)は決算時の為替相場で換算します(外貨建取引等会計処理基準 一2(1)①②)。未収収益・未払費用は外貨建金銭債権債務に準ずるものとして扱います(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第27項)。前渡金・前受金だけが授受時の円換算額のまま残る、という整理です(同 第25項)。
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前受金を受け取った輸出取引の仕訳例
売上高の計上では、前受金が充当される部分に前受金の授受時の円換算額を付し、残りの部分は取引発生時の為替相場で換算します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第26項)。つまり1件の売上高が、2つの為替相場の合計で計上されることになります。
前受金の受取りから出荷までの仕訳
前提は次のとおりです(単位:円)。輸出代金は100,000ドル。契約時に前受金30,000ドルを受け取り、そのときの為替相場は1ドル=150円でした。その後、出荷して売上を計上した日の為替相場は1ドル=145円、残額70,000ドルは売掛金とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 4,500,000 | 前受金 | 4,500,000 |
| 前受金 | 4,500,000 | 売上高 | 14,650,000 |
| 売掛金 | 10,150,000 |
1行目が前受金の受取時、2〜3行目が出荷時の仕訳です。前受金30,000ドル分は、出荷日の145円ではなく受取時の150円のまま売上高に振り替わります。仮に100,000ドル全額を出荷日の145円で換算すると売上高は14,500,000円となり、前受金4,500,000円との差額150,000円を為替差損益として処理することになります。これは重要性が乏しい場合に限って認められる簡便的な処理(後述)で、原則どおりに分けて換算すれば、このような差額はそもそも生じません。
決算日をまたいだ場合の扱い
前受金を受け取った後、出荷前に決算日を迎えたとします。決算日の為替相場が1ドル=140円になっていても、前受金4,500,000円はそのまま据え置き、換算替えの仕訳は起こしません(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)。翌期に出荷したときは、上の仕訳と同じく受取時の4,500,000円で売上高へ振り替えます。
一方、出荷後に売掛金として残っている70,000ドルは外貨建金銭債権です。決算日に残っていれば決算時の為替相場で換算し、換算差額は当期の為替差損益とします(外貨建取引等会計処理基準 一2(1)②、一2(2))。入金時に生じた差額も為替差損益として処理します(外貨建取引等会計処理基準 一3)。前受金と売掛金で、決算時の扱いがはっきり分かれる点がポイントです。
前渡金を支払った輸入取引の仕訳例
前渡金も考え方は同じです。仕入高のうち前渡金を充当する部分は前渡金の支払時の円換算額、残りの部分は仕入計上日の為替相場で換算します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第26項)。
原則的な処理の仕訳
前提は次のとおりです(単位:円)。輸入代金は50,000ドル。発注時に前渡金20,000ドルを支払い、そのときの為替相場は1ドル=152円でした。商品を受け取って仕入を計上した日の為替相場は1ドル=147円、残額30,000ドルは買掛金とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 前渡金 | 3,040,000 | 現金預金 | 3,040,000 |
| 仕入高 | 7,450,000 | 前渡金 | 3,040,000 |
| 買掛金 | 4,410,000 |
1行目が前渡金の支払時、2〜3行目が仕入計上時の仕訳です。仕入高7,450,000円は、前渡金部分の152円と残額部分の147円を合わせた金額になります。
重要性が乏しい場合の簡便的な処理
営業利益および経常利益に重要な影響を及ぼさないと認められるときは、取引高の全額を取引発生時の為替相場で換算して計上し、前渡金・前受金の授受時の相場との差から生じる換算差額を為替差損益として処理することができます(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第26項ただし書)。上の輸入取引にこの処理を当てはめると次のとおりです(単位:円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 7,350,000 | 前渡金 | 3,040,000 |
| 為替差損益 | 100,000 | 買掛金 | 4,410,000 |
原則的な処理と比べると、仕入高が100,000円少なく、同額が為替差損として営業外に計上されます。売上総利益と営業利益の金額が変わるため、この処理を選べるのは営業利益と経常利益への影響に重要性がないと判断できる場合に限られます。前受金・前渡金の規模や為替相場の変動幅が大きい会社では、原則的な処理を前提に考えるのが安全です。
収益認識基準の契約負債との関係
収益認識基準では、財やサービスを顧客に移転する義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの等を「契約負債」と定義しています(収益認識に関する会計基準 第11項)。契約負債は適切な科目で貸借対照表に表示するとされ(同 第79項)、科目の例として契約負債のほか前受金が挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第104-3項)。
移管指針第2号は「前受金」という用語で換算の取扱いを定めています。貸借対照表で契約負債と表示している会社でも、外貨で受け取った前受金の性格は変わらないため、換算の考え方は本記事の内容と同じになると考えられます。ただし、対価の受取期限が到来しているものの未入金の契約負債など、外貨の授受が無いものの扱いは個別の検討が必要です。
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為替差損益の表示
外貨建金銭債権債務等の決済差損益と換算差損益は、どちらも為替差損益として処理し、差益と差損を相殺した純額で損益計算書に表示します。表示区分は原則として営業外損益です(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第28項)。
ただし、為替差損益の発生要因となった取引が経常取引以外の取引で金額に重要性がある場合や、特殊な要因で一事業年度に異常かつ多額に発生した場合は、特別損益に表示します(同 第28項)。通常の輸出入取引は経常取引にあたるため、そこから生じる為替差損益は、特殊な要因で一事業年度に異常かつ多額に発生した場合を除き、営業外損益に表示することになります。
税務上の取扱いとの比較
法人税の取扱いでも、外貨建取引に関して支払った前渡金・収受した前受金で資産の売買代金に充てられるものは、外貨建債権債務に含まれないとされています(法人税基本通達 13の2-2-1)。期末換算の対象外とする点は、会計と同じ方向です。
同じ通達では、外貨建取引に係る未収収益・未払費用は外貨建債権債務に該当するものとして扱います(法人税基本通達 13の2-2-1ただし書)。会計で未収収益・未払費用を金銭債権債務に準じて扱う整理(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第27項)とも揃っています。税務の期末換算方法の選択など、詳細は別途確認が必要です。
実務で迷いやすい判断ポイント
前受金・前渡金の換算は条文自体は短いものの、経理の現場では次のような点で処理がぶれやすくなります。決算前の点検項目として使ってください。
- 期末の換算替えリストから除いているか:外貨建残高の一覧を口座・取引先単位で作ると、前受金・前渡金が売掛金・買掛金と一緒に換算替えされがちです。科目単位で除外します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)。
- 分割で受け払いした場合の円換算額:前受金・前渡金は金銭授受時の為替相場で換算するため、2回に分けて受け取れば、それぞれの受取時の相場で円換算額が決まります。充当時はどの受取分を充当したかを追える台帳にしておくと、売上高の検証が容易になります。
- 売上高・仕入高を1つの為替相場で計上していないか:原則は充当部分と残りの部分で相場が分かれます(同 第26項)。全額を1つの相場で計上しているなら、ただし書の重要性の判断を記録しておく必要があります。
- 重要性の判断は営業利益と経常利益で見る:ただし書は「営業利益及び経常利益に重要な影響を及ぼさない」ことが条件です(同 第26項)。売上総利益だけでなく、両方の利益への影響を確認します。
- 残額の売掛金・買掛金は外貨建金銭債権債務:充当されなかった残りの部分は決算時の為替相場で換算します(外貨建取引等会計処理基準 一2(1)②)。同じ1件の取引の中で、扱いが異なる2つの残高が生まれる点に注意します。
- 在外支店で受け払いした場合も考え方は同じ:在外支店の外貨建取引は、原則として本店と同様に処理します(外貨建取引等会計処理基準 二)。本支店合併財務諸表の作成で収益・費用を期中平均相場で換算する特例でも、収益性負債の収益化額と費用性資産の費用化額は対象から除かれています(同 二1)。前受金から振り替えた売上高を期中平均相場で換算し直さないよう注意します。
関連コラム在外支店の換算【計算例】本支店合併で使う為替相場と換算差額▸
適用時期と改正の経緯
現行の外貨建取引等会計処理基準は1999年10月に改訂され、2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第1項)。前受金・前渡金の換算を定める実務指針も、2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(同 第47項)。
この実務指針は日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第4号として公表され、2003年以降、関連する会計基準の公表・改正に合わせて改正が重ねられてきました(同 第47-2項〜第47-14項)。主な改正は、企業結合会計基準・連結会計基準への対応(2009年、2014年)、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準・包括利益会計基準への対応(2011年)、税効果会計適用指針への対応(2018年)、金融商品会計基準の改正への対応(2019年)です。内容面の直近の改正は、法人税等会計基準等への対応として行われた2022年の改正です(同 第1-2項〜第1-7項)。
2024年7月には企業会計基準委員会へ移管され、移管指針第2号となりました。移管は実務指針の所管を日本公認会計士協会から企業会計基準委員会へ移すためのもので、名称を移管指針の体系に合わせる変更を除き、移管前の内容は変更されていません(移管指針の適用 第3項、BC13項)。前受金・前渡金の換算の取扱い(第25項、第26項)も従来と同じ内容で適用されています。
まとめ
外貨建前受金・前渡金は、将来に財やサービスで精算される項目であり、外貨建金銭債権債務ではありません。そのため金銭授受時の為替相場で円換算し、決算時に換算替えはしません(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)。
売上・仕入を計上するときは、前受金・前渡金を充当した部分に授受時の円換算額を付し、残りの部分だけを取引発生時の為替相場で換算します。営業利益・経常利益への影響に重要性がなければ、全額を取引発生時の相場で換算し差額を為替差損益とする処理も選べます(同 第26項)。期末の換算替えリストから前受金・前渡金を外すことと、残額の売掛金・買掛金は決算時の相場で換算することを、決算の点検項目に入れておくと処理のぶれを防げます。
具体的な取引条件によって判断が変わる場合もあるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら参考文献
- 企業会計基準委員会 移管指針第2号 外貨建取引等の会計処理に関する実務指針
- 企業会計基準委員会 外貨建取引等会計処理基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 移管指針 移管指針の適用
- 国税庁 第2節 外貨建資産等の換算等
よくある質問
外貨建前受金は決算日の為替相場で換算替えしますか。
換算替えはしません。前受金は将来に財やサービスを提供する収益性の負債で外貨建金銭債権債務ではないため、金銭を受け取ったときの為替相場による円換算額のまま据え置きます(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第25項)。
前受金を充当した売上高はどの為替相場で計上しますか。
前受金が充当される部分は前受金の受取時の円換算額、残りの部分は取引発生時の為替相場で換算し、その合計を売上高とします。営業利益と経常利益に重要な影響がなければ、全額を取引発生時の相場で換算し、差額を為替差損益とすることもできます(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第26項)。
外貨建の未収収益や未払費用も換算替えしないのですか。
未収収益と未払費用は、為替換算上は外貨建金銭債権債務に準ずるものとして扱うため、決算時の為替相場で換算します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第27項)。換算替えをしないのは前受金・前渡金です。
輸出入取引で生じた為替差損益はどこに表示しますか。
決済差損益と換算差損益は純額で為替差損益として、原則として営業外損益に表示します。経常取引以外の取引で金額に重要性がある場合や、特殊な要因で一事業年度に異常かつ多額に発生した場合は、特別損益に表示します(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 第28項)。
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