企業結合における取得原価の算定方法と実務ケース
目次
パーチェス法が適用される企業結合において、取得企業は被取得企業や事業の取得原価を正確に算定する必要があります。本記事では、「企業結合に関する会計基準」および「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に基づき、取得原価算定の基本原則から、株式を対価とする場合の特例、そして具体的なケーススタディまでを詳細に解説いたします。
取得原価の算定に関する基本原則
企業結合においてパーチェス法が適用される「取得」に該当する場合、取得企業は受け入れた事業や企業の取得原価を算定しなければなりません。この取得原価は、原則として支払対価となる財の企業結合日における時価を用いて算定されます(企業結合会計基準 第23項、企業結合適用指針 第36項)。
現金を対価とする場合の算定
買収の対価が「現金」である場合、算定は非常にシンプルです。支払った現金の支出額がそのまま取得原価となります(企業結合適用指針 第44項)。例えば、現金5,000万円を支払って事業を譲り受けた場合、取得原価は5,000万円として計上されます。
現金以外の資産等を対価とする場合の算定
支払対価が現金以外、すなわち「現金以外の資産の引渡し」「負債の引受け」「株式の交付」である場合、支払対価となる財の時価と、被取得企業または取得した事業の時価を比較します。そして、両者のうちより高い信頼性をもって測定可能な時価を取得原価として算定しなければならないと規定されています(企業結合会計基準 第23項、企業結合適用指針 第37項)。
| 支払対価の形態 | 取得原価の算定基準 |
|---|---|
| 現金 | 現金の支出額(企業結合適用指針 第44項) |
| 現金以外の資産・負債・株式 | 支払対価の時価と取得事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価(企業結合会計基準 第23項) |
支払対価が結合企業の株式である場合の算定方法
実務上、企業結合の対価として最も頻繁に用いられるのが自社の株式(結合企業の株式)です。株式を交付した場合の取得原価は、原則として当該株式の企業結合日における時価により算定します(企業結合適用指針 第38項)。
時価の算定が困難な場合の特例
非公開企業同士の合併など、自社株式の時価を客観的に把握することが困難なケースが存在します。このように結合企業の株式の時価算定が困難と認められる場合には、被取得企業から受け入れた識別可能資産および負債の企業結合日における時価を基礎として、取得原価を算定することが特例として認められています(企業結合適用指針 第38項)。
交換比率算定目的の価額の利用
企業結合の合意に向けて、事前に「株式の交換比率を算定する目的で算定された価額」が存在することがあります。この価額が、取得の対価となる財の時価や取得した事業の時価に適切に調整されており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には、当該価額を取得原価として利用することが可能です(企業結合適用指針 第39項)。
| 株式対価の算定方法 | 適用要件・算定基準 |
|---|---|
| 原則的な算定方法 | 交付した自社株式の企業結合日における時価(企業結合適用指針 第38項) |
| 時価算定が困難な場合 | 受け入れた識別可能資産・負債の企業結合日における時価の純額(企業結合適用指針 第38項) |
| 交換比率算定目的の価額 | 適切に調整され、企業結合日までに重要な変動がない場合に利用可能(企業結合適用指針 第39項) |
基準設定の背景と会計理論
取得原価が対価の形態にかかわらず「企業結合日における時価」で算定される背景には、一般的な交換取引における会計理論との整合性があります。
一般的な交換取引との整合性
一般的な交換取引において、支払った対価の時価は、受け入れた資産の時価と等価であると考えられます。そのため、取得原価は原則として「支払対価となる財の時価」で測定されます。公開企業が非公開企業を自社株式で買収する場合、非公開企業の事業の時価よりも、市場価格が存在する公開企業株式の時価の方がより高い信頼性をもって測定できるため、公開企業株式の時価を基礎として取得原価が算定されるという論理構成になっています(企業結合会計基準 第84項)。
具体的なケーススタディ
実務において取得原価がどのように算定されるか、3つの具体的なケースを用いて解説します。
ケース1:現金を対価とする事業の買収
買収企業が対象企業の特定事業を現金5,000万円で買い取る事業譲受契約を締結し、企業結合日に現金5,000万円を支払ったケースです。この場合、支払対価が現金であるため、現金の支出額である5,000万円がそのまま取得原価となります(企業結合適用指針 第44項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買収対価 | 現金 5,000万円 |
| 取得原価の算定結果 | 5,000万円(現金の支出額) |
ケース2:上場企業が非上場企業を自社株式で買収
上場企業が非上場企業を吸収合併し、非上場企業の株主に上場企業の新株100万株を交付したケースです。企業結合日の上場企業株式の市場株価は1株2,000円、非上場企業事業の時価見積額は約21億円でした。上場企業は自社株式の時価が容易に把握できるため、非上場企業事業の見積額よりも上場企業株式の時価の方がより高い信頼性をもって測定可能と判断されます。したがって、取得原価は20億円(2,000円×100万株)となります(企業結合会計基準 第23項、企業結合適用指針 第38項、企業結合会計基準 第84項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 交付株式数と株価 | 100万株(1株あたり2,000円) |
| 取得原価の算定結果 | 20億円(より高い信頼性を持つ自社株の時価) |
ケース3:非上場企業同士の合併
非上場企業が同業の非上場企業を吸収合併し、自社株式を交付したケースです。両社とも非上場であり、株式の時価を高い信頼性をもって算定することが困難でした。この場合、特例的な算定方法が適用されます。存続企業は、消滅企業から受け入れる土地や建物、特許権等の個々の識別可能資産および負債について、不動産鑑定やインカム・アプローチ等を用いて企業結合日における時価を算定し、その識別可能資産・負債の時価の純額を基礎として取得原価を算定します(企業結合適用指針 第38項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 株式の時価 | 算定困難(非上場企業同士) |
| 取得原価の算定結果 | 受け入れた識別可能資産・負債の時価の純額 |
まとめ
企業結合における取得原価は、原則として支払対価の企業結合日における時価で算定されます。現金の場合は支出額、株式等の場合はより高い信頼性をもって測定可能な時価を用います。非上場企業同士の合併など時価算定が困難なケースでは、受け入れた純資産の時価を基礎とする特例も設けられています。実務においては、これらの原則と特例を正しく理解し、適切な会計処理を行うことが求められます。
企業結合の取得原価に関するよくある質問まとめ
Q.取得原価の算定における基本原則は何ですか?
A.取得原価は、原則として取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定されます(企業結合会計基準 第23項)。
Q.支払対価が現金の場合、取得原価はどのように算定しますか?
A.支払対価が現金である場合は、当該現金の支出額をそのまま取得原価として算定します(企業結合適用指針 第44項)。
Q.現金以外の資産や株式を対価とする場合の算定方法を教えてください。
A.支払対価となる財の時価と、受け入れた事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します(企業結合会計基準 第23項)。
Q.非上場企業同士の合併などで自社株式の時価算定が困難な場合はどうなりますか?
A.受け入れた識別可能資産および負債の企業結合日における時価の純額を基礎として、取得原価を算定することが認められています(企業結合適用指針 第38項)。
Q.交換比率算定目的の価額を取得原価として利用することは可能ですか?
A.適切に調整されており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には、当該価額を利用することができます(企業結合適用指針 第39項)。
Q.なぜ取得原価は時価で算定されるのですか?
A.一般的な交換取引において、支払った対価の時価は受け入れた資産の時価と等価であるという会計理論との整合性を図るためです(企業結合会計基準 第84項)。
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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