労働組合の会計監査のやり方|進め方・必要書類と年間スケジュール
目次
- 労働組合の会計監査の法的根拠
- 会計報告と会計監査人の証明書
- 職業的に資格がある会計監査人の範囲
- 資格審査と会計監査の関係
- 会計監査の進め方と5つのステップ
- 監査で準備する必要書類
- 計算書類と会計報告
- 組織・意思決定に関する書類
- 会計記録と証憑
- 決算から会計報告までのスケジュール
- 実務で論点になりやすい3つの規制
- 使用者からの経理上の援助
- 主要な寄附者の氏名
- 共済事業その他福利事業の基金
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 組合内部の会計監査委員による監査だけでは足りませんか。
- 会計監査人には誰を選べばよいですか。
- 会計監査は毎年受ける必要がありますか。
- 計算書類はどの会計基準で作成すればよいですか。
- 法人登記をしていない組合でも会計監査は必要ですか。
労働組合の会計監査は、組合の判断で任意に行う手続ではなく、労働組合法が組合規約に定めることを求めている手続です。すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することとされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。
やり方の全体像は、会計監査人の選任 → 監査契約の締結と計画 → 期末の監査手続 → 監査報告書の受領 → 会計報告としての組合員への公表という流れです。この記事では、条文と公的な行政解釈、日本公認会計士協会の実務指針を根拠に、進め方・必要書類・年間スケジュールを順に整理します。
労働組合の会計監査の法的根拠
最初に押さえたいのは、会計監査が「組合の内部ルール」ではなく「法律が規約に求める事項」だという点です。ここを取り違えると、内部の会計監査委員による点検だけで足りると誤解しやすくなります。
会計報告と会計監査人の証明書
労働組合の規約には、会計報告を職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表する旨の規定を含めなければなりません(労働組合法 第5条第2項第7号)。会計報告の内容として条文が挙げているのは、すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況の3点です。
この規約要件は、労働組合が労働組合法の手続に参与し、救済を受けるための前提でもあります。労働組合は、労働委員会に証拠を提出して労働組合法第2条および第5条第2項の規定に適合することを立証しなければ、同法に規定する手続に参与する資格を有しないこととされています(労働組合法 第5条第1項)。会計監査を受けていない状態は、この立証ができない状態に直結します。
なお、労働組合の計算書類は、広く一般の利用者ではなく組合員という特定の利用者の会計報告ニーズを満たすために作成されるものと整理されており、財務報告の枠組みとしては特別目的・準拠性の枠組みに位置づけられます(非営利法人委員会実務指針第37号 第10項、第12項)。上場会社の財務諸表監査とは目的も枠組みも異なる、という点は最初に理解しておくと監査人とのやり取りがスムーズになります。
職業的に資格がある会計監査人の範囲
条文にある「職業的に資格がある会計監査人」が誰を指すかは、厚生労働省の行政解釈で示されています。公認会計士法に規定する公認会計士および監査法人、ならびに信託業法に規定する信託会社がこれに該当します。実務で選任されるのは、ほぼ公認会計士または監査法人です。
| 公認会計士 | 公認会計士法に規定する公認会計士。単組や中小規模の組合では個人事務所と契約するケースが多くみられます。 |
|---|---|
| 監査法人 | 公認会計士法に規定する監査法人。組合員数が多く特別会計が複数ある大規模組合で選ばれることがあります。 |
| 信託会社 | 信託業法に規定する信託会社。行政解釈上は該当しますが、労働組合の会計監査の実務で選任される例は限られます。 |
組合の会計監査委員や監事は、この会計監査人には当たりません。組合内部の会計監査委員による監査と、会計監査人による外部の会計監査は別の手続であり、内部監査を行っていても条文が求める証明書は得られない点に注意が必要です。
資格審査と会計監査の関係
労働組合は自由に設立でき、設立にあたって行政庁への届出は必要ありません。ただし、労働組合法に定める手続に参与したり救済を受けたりするためには、労働組合法第2条および第5条第2項に定める資格要件を備えている必要があり、この資格の有無を審査する手続が資格審査です。資格審査は、不当労働行為の救済申立てをする場合、労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合、法人登記のために資格証明書の交付を受ける場合、労働協約の地域的拡張適用の申立てをする場合、職業安定法で定められている無料の労働者供給事業の許可申請を行う場合などに、その都度受ける必要があります。
資格審査では、資格審査申請書と立証資料を管轄権のある労働委員会に提出し、労働委員会の公益委員会議が、労働組合が自主的な組合であるか、民主的な組合としての規約を備えているかなどの要件を審査します。適格と判断された場合には、資格決定書の写しまたは資格証明書が交付されます。会計監査は、この「民主的な組合としての規約」の中身(労働組合法 第5条第2項第7号)を実際に満たしているかを裏づける手続と位置づけられます。
法人格を取得する場合は、労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けたうえで、主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。法人登記の手順そのものは次のコラムで詳しく解説しています。
関連コラム労働組合の法人登記の手順|資格審査と登記事項・必要書類▸
会計監査の進め方と5つのステップ
会計監査の進め方は、次の5つのステップに整理できます。実務では、決算作業と並行して進むため、どのステップに何が必要かを役員側で把握しておくと、監査期間を短く抑えられます。
- 会計監査人の選任:会計監査人は、組合員によって委嘱されることが条文上の前提です(労働組合法 第5条第2項第7号)。実務では、規約の定めに従って総会または執行委員会で選任の決議を行い、委嘱の事実を議事録に残します。
- 監査契約の締結と適用する会計基準の確認:監査対象となる会計年度、対象とする一般会計・特別会計の範囲、監査報告書の提出時期を契約で確定します。あわせて、計算書類の作成にどの会計基準を用いるかを確認します。
- 監査計画の策定とリスク評価:監査人は、不正または誤謬による重要な虚偽表示リスクを識別・評価し、リスクに対応した監査手続を立案します。リスク評価にあたっては、組合の会計処理に関連する内部統制も検討されます(非営利法人委員会実務指針第37号 付録)。
- 期末の監査手続の実施:会計方針の適切性、会計上の見積りの合理性、継続組合の前提の適切性、計算書類の表示および注記事項の準拠性が評価されます。組合側は、資料提出と質問への回答を通じて監査証拠の入手に協力します。
- 監査報告書の受領と会計報告の公表:無限定意見の場合、監査報告書には計算書類が全ての重要な点において会計基準に準拠して作成されている旨が記載されます。組合はこの監査報告書とともに会計報告を、少なくとも毎年1回組合員に公表します(労働組合法 第5条第2項第7号)。
実務でつまずきやすいのは、1つ目の「委嘱」と5つ目の「公表」です。監査そのものは受けているのに、選任決議の記録が残っていない、監査報告書が組合員に届いていない、という状態は、条文が求める形を満たしているとは言いにくくなります。
労働組合の会計監査は公認会計士へ
全国対応・オンライン完結|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料見積り・ご相談はこちら
監査で準備する必要書類
必要書類は、法令・実務指針が直接求めるものと、監査証拠として実務上求められるものに分けて考えると準備が進めやすくなります。
計算書類と会計報告
監査の対象となるのは計算書類です。日本公認会計士協会の監査報告書の文例では、一般会計および特別会計に関する計算書類として、収支計算書、貸借対照表、総合貸借対照表、計算書類の注記および附属明細表が挙げられています(非営利法人委員会実務指針第37号 付録)。附属明細表には寄附金収入明細表などが含まれます。
計算書類の作成基準として広く採用されているのは、日本公認会計士協会が1985年に公表した労働組合会計基準です(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項)。組合が独自に定めた会計規程であっても、組合員に対する会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たしていれば、適用される財務報告の枠組みとして受入可能と判断されることがあります(非営利法人委員会実務指針第37号 第13項)。自組合の会計規程で対応するのか、労働組合会計基準に寄せるのかは、契約前に監査人と確認しておきたい論点です。
会計報告そのものは、計算書類およびその監査報告書を含む年次報告書に該当すると整理されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第14項)。したがって、組合員へ配布する会計報告の書式には、計算書類と監査報告書の両方を組み込む必要があります。
組織・意思決定に関する書類
会計そのものではありませんが、労働組合法上の要件を確認するために必要になる書類があります。代表的なものは次のとおりです。
| 組合規約 | 労働組合法第5条第2項各号の記載事項を含んでいるかの確認に用います。会計報告と会計監査人の証明に関する規定の有無が特に重要です。 |
|---|---|
| 総会・執行委員会 の議事録 |
総会が少なくとも毎年1回開催されているか、会計監査人の委嘱や予算・決算の承認がどの機関でなされたかを確認します。 |
| 労働委員会の 資格決定書・資格証明書 |
資格審査を受けている場合に、審査の結果と時期を確認します。法人登記をしている組合では登記事項も確認対象になります。 |
総会は少なくとも毎年1回開催することが規約の必要記載事項とされているため(労働組合法 第5条第2項第6号)、開催記録は監査の過程でも確認されます。
会計記録と証憑
計算書類の金額を裏づける会計記録と証憑が、監査証拠の中心になります。実務では、総勘定元帳や補助元帳などの帳簿、組合費の収納記録、預金通帳や残高証明書などの資産の実在性を示す資料、支出の根拠となる請求書や領収書を求められることが一般的です。特別会計を設けている場合は、会計ごとに区分した記録が必要になります。
これらは監査人の判断とリスク評価の結果によって範囲が変わるため、契約時に依頼資料リストを受け取り、決算作業と並行して準備しておくと監査期間が短くなります。
決算から会計報告までのスケジュール
会計監査は決算日の後に集中しますが、実際には決算日前から動き出すほうが円滑です。多くの組合は総会で決算を承認するため、総会日から逆算して組み立てます。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 会計年度の開始前後 | 会計監査人の選任決議と委嘱、監査契約の締結、監査対象範囲と会計基準の確認 |
| 会計年度の期中 | 会計処理と証憑の整理、特別会計の区分管理、監査人からの事前質問への回答 |
| 決算日から1か月程度 | 計算書類の作成、残高証明書の入手、依頼資料の準備 |
| 計算書類の完成後 | 期末の監査手続の実施、質問対応、必要に応じた修正 |
| 総会の前 | 監査報告書の受領、会計報告の書式への組み込み |
| 総会および総会後 | 決算の承認、監査報告書とともに会計報告を組合員へ公表 |
会計報告は少なくとも毎年1回の公表が求められているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、監査報告書が総会に間に合わないと、会計報告の公表そのものが後ろ倒しになります。監査契約の段階で監査報告書の提出時期を総会日から逆算して合意しておくことが、最も効果的な段取りです。
実務で論点になりやすい3つの規制
日本公認会計士協会の実務指針は、労働組合の監査にあたって留意すべき労働組合法上の規制事項として、使用者の援助に関する規制、主要な寄附者に関する規制、共済事業その他福利事業に関する規制の3つを挙げています(非営利法人委員会実務指針第37号 第7項)。いずれも、監査の過程で必ず論点になる箇所です。
使用者からの経理上の援助
団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるものは、労働組合法上の労働組合に該当しないとされています(労働組合法 第2条第2号)。ただし、労働者が労働時間中に時間または賃金を失うことなく使用者と協議・交渉することを使用者が許すこと、厚生資金または経済上の不幸もしくは災厄を防止・救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附、最小限の広さの事務所の供与は除かれます。
実務では、会社からの事務所や什器の提供、事務費の負担などが、この但書の範囲に収まるかどうかが問題になります。会計監査では、こうした受入れが会計記録上どのように処理されているかが確認されます。
主要な寄附者の氏名
会計報告には、すべての財源および使途とともに、主要な寄附者の氏名を示すことが求められています(労働組合法 第5条第2項第7号)。寄附収入がある場合は、附属明細表として寄附金収入明細表を作成し、主要な寄附者を把握できる形で記録しておく必要があります。組合費だけで運営している組合でも、周年行事などで臨時の寄附を受けることがあるため、期中の記録の付け方を決めておくと安全です。
共済事業その他福利事業の基金
労働組合が、共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的のために流用しようとするときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。基金から一般会計へ資金を移す処理を行っている場合は、総会決議の有無が確認されます。決議を経ずに流用していると、会計処理の是正だけでは済まない問題になり得ます。
あわせて、会計監査人の独立性にも注意が必要です。厚生労働省の行政解釈では、使用者側の者が組合会計を証明すること、および組合役員や組合専従職員が自分の所属する組合の会計を証明することは、信憑性について疑念を生ずるおそれが多いことから不適当とされています。組合の役員に公認会計士がいる場合でも、その方に自組合の会計監査を委嘱することはできない、という整理になります。
まとめ
労働組合の会計監査は、会計報告を職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員へ公表するという、労働組合法第5条第2項第7号の規約要件を実際に満たすための手続です。進め方は、会計監査人の選任、監査契約の締結、監査計画とリスク評価、期末の監査手続、監査報告書の受領と会計報告の公表という5つのステップに整理できます。
必要書類は、収支計算書・貸借対照表・総合貸借対照表・注記・附属明細表といった計算書類を中心に、組合規約、総会等の議事録、会計記録と証憑が加わります。スケジュールは総会日から逆算し、監査報告書の提出時期を契約段階で合意しておくことが要点です。使用者からの経理上の援助、主要な寄附者、共済事業の基金の3つは、毎年の監査で論点になりやすい箇所として先に整理しておくと安心です。
組合の規模や特別会計の構成によって、必要な準備や監査の範囲は変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 労働組合法
- 厚生労働省 労働組合の資格審査について
- 厚生労働省 職業的に資格がある会計監査人に該当する者の範囲
- 厚生労働省 職業的に資格がある会計監査人による会計証明
- 日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第37号 労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例の改正について
よくある質問
組合内部の会計監査委員による監査だけでは足りませんか。
足りません。労働組合法が求めているのは、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書です(労働組合法 第5条第2項第7号)。組合内部の会計監査委員は会計監査人には該当しないため、内部監査を行っていても外部の会計監査人による監査は別途必要になります。
会計監査人には誰を選べばよいですか。
厚生労働省の行政解釈では、公認会計士法に規定する公認会計士および監査法人、ならびに信託業法に規定する信託会社が該当するとされています。実務では公認会計士または監査法人を選任するのが一般的です。なお、組合役員や組合専従職員が自分の所属する組合の会計を証明することは不適当とされています。
会計監査は毎年受ける必要がありますか。
会計報告を会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表することが規約の必要記載事項とされているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、毎会計年度受けることが前提になります。
計算書類はどの会計基準で作成すればよいですか。
広く採用されているのは、日本公認会計士協会が1985年に公表した労働組合会計基準です(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項)。組合が独自に定めた会計規程であっても、組合員に対する会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たしていれば受入可能と判断されることがあります(非営利法人委員会実務指針第37号 第13項)。
法人登記をしていない組合でも会計監査は必要ですか。
必要です。会計報告と会計監査人の証明は、法人格の有無にかかわらず規約の必要記載事項とされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。法人登記のために資格証明書の交付を受ける場合は、あらためて労働委員会の資格審査を受けることになります。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



