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「職業的に資格がある会計監査人」とは|労働組合法第5条の要件

2026-08-19
目次

労働組合の規約を点検していると、「組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人」という独特の言い回しに行き当たります。会社法や監査基準では見かけない表現のため、誰を指しているのか判断できず手が止まる担当者は少なくありません。

この文言は、労働組合法が組合規約に必ず盛り込むよう求めている記載事項の一部です。つまり、単なる慣行や書式上の飾りではなく、労働委員会の資格審査や法人登記の場面で実際に確認される法令上の要件にあたります。

本記事では、労働組合法の条文そのものに立ち返り、「職業的に資格がある会計監査人」がどの条文のどの位置に置かれた文言なのか、なぜ法律に定義規定が置かれていないのか、そして実務上どのような専門家がこの役割を担っているのかを整理します。あわせて、資格審査・法人登記との関係、会社法の「会計監査人」との混同を避けるための整理も示します。

「職業的に資格がある会計監査人」の法令上の位置づけ

まず押さえるべきは、この表現が労働組合法のどこに置かれているかです。条文上の位置が分かると、要件の性質と、守らなかった場合に何が起こるのかが自然に見えてきます。

労働組合法第5条第2項第7号の条文構造

「職業的に資格がある会計監査人」は、労働組合の規約に含めなければならない事項を列挙した規定の第7号に登場します。同号は、すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告について、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年一回組合員に公表することを規約に定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。

ここで重要なのは、条文が義務づけているのが「監査を受けること」そのものではなく、まず「そうした内容を規約に定めること」だという点です。規約という組合の自治規範に落とし込ませることで、組合員に対する会計の透明性を担保する構造になっています。

また、証明の対象は決算書一式ではなく、財源・使途・主要な寄附者の氏名・現在の経理状況を示す「会計報告」です。会社の計算書類とは範囲も様式も異なるため、株式会社の監査をそのまま当てはめて考えると齟齬が生じます。

法律に定義規定が置かれていない理由と読み方

労働組合法には、「職業的に資格がある会計監査人」を定義する規定が置かれていません。会計士資格の名称を直接指定するのではなく、会計監査を職業として行う資格を備えた者、という機能に着目した書き方になっているためです。

この書きぶりは、組合の内部で選ばれる会計監査担当者との対比で理解すると分かりやすくなります。組合員の互選による内部の会計監査担当者は、組合運営の一部を担う立場であり、職業として会計監査を行う資格を備えた第三者とは性質が異なります。条文が「職業的に」という限定を置いているのは、この違いを意識した表現です。

さらに、条文は「組合員によつて委嘱された」とも定めています。会計監査人を選ぶ主体は執行部ではなく組合員であり、総会などの機関決定を経て委嘱する筋道が想定されています(労働組合法 第5条第2項第7号)。

会社法上の「会計監査人」との違い

「会計監査人」という語は会社法にも登場するため、混同が起こりやすい部分です。会社法の会計監査人は株式会社に置かれる機関であり、公認会計士又は監査法人でなければならないと明文で定められています(会社法 第337条第1項)。

これに対して労働組合法の文言は、機関設計の規定ではなく、規約の記載事項として登場します。呼称が似ていても、根拠法・選任の主体・対象となる報告書が異なる点を押さえておく必要があります。

区分 位置づけ
労働組合法上の職業的に資格がある会計監査人 組合規約の必要的記載事項として登場する文言です。組合員によって委嘱され、会計報告が正確であることの証明書を作成します。法律上の定義規定は置かれていません。
会社法上の会計監査人 株式会社に置かれる機関の名称です。公認会計士又は監査法人でなければならないと定められ、計算書類等の監査を行います。

労働組合の会計監査に求められる資格の考え方

「労働組合 会計監査 資格」という視点で条文を読み直すと、法律が正面から定めているのは資格の名称ではなく、証明を行う者の独立性と職業性であることが分かります。ここでは実務でよく問われる論点を順に整理します。

「組合員によつて委嘱された」の意味

委嘱の主体を組合員としているのは、会計を執行する側が自ら監査人を選ぶ構造を避ける趣旨と読めます。実務では、総会や大会の議案として会計監査人の委嘱を諮り、議事録に決議として残す運用が整合的です。

規約に選任手続を書き込む際は、誰が候補者を提案し、どの機関が決定するのかを明記しておくと、後日の資格審査で説明しやすくなります。条文は選任手続の細目まで定めていないため、この部分は各組合の規約設計に委ねられています。

会計報告に含める三つの事項

証明の対象となる会計報告には、条文上、三つの要素が明示されています。実務では収支計算書と貸借対照表を整えて終わりにしがちですが、寄附者に関する記載が抜けると条文の要求を満たしません。

会計報告に示すべき事項 実務上の整理
すべての財源及び使途 組合費だけでなく、貸与金の返済や事業収入、交付金など、期中に組合へ入ったすべての財源と、その使い道を漏れなく示します。
主要な寄附者の氏名 寄附を受けている場合、主要な寄附者の氏名を会計報告に記載します。金額基準は条文に定めがないため、規約や内規で運用基準を決めておく方法が現実的です。
現在の経理状況 期末時点の資産・負債の状況が分かる情報を示します。基金や積立金を保有している場合は、その残高と性格が読み取れる形にします。

これらを示す会計報告に、職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書を添えて、少なくとも毎年1回組合員に公表することが求められています(労働組合法 第5条第2項第7号)。公表の相手は行政庁ではなく組合員である点も、制度の性格を示しています。

公認会計士による労働組合監査の実務指針

労働組合の会計監査を公認会計士が受嘱する場合に備えて、日本公認会計士協会は非営利法人委員会実務指針第37号「労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例」を公表しています。同指針は2022年3月に改正され、改正後の取扱いは2022年3月31日以後終了する会計年度に係る監査から適用されています。

職業専門家向けの実務指針が整備されていること自体が、労働組合の会計監査が公認会計士の業務として位置づけられていることを示しています。監査報告書の文例まで用意されているため、依頼する側も成果物の形式をあらかじめ想定しやすくなります。

実務では、監査契約の締結時期、監査対象とする会計報告の範囲、証明書の様式を早い段階で擦り合わせておくと、決算総会の日程に間に合わせやすくなります。

関連コラム労働組合の会計監査のやり方|進め方・必要書類と年間スケジュール

労働組合法第5条の全体像と資格審査

第5条第2項第7号は独立した義務ではなく、第5条全体の仕組みの一部です。労働組合法上の監査を理解するには、第1項が定める立証の構造から見る必要があります。

第5条第1項が定める立証の構造

労働組合は、労働委員会に証拠を提出して、労働組合法第2条及び第5条第2項の規定に適合することを立証しなければ、同法に規定する手続に参与する資格を有せず、同法に規定する救済も与えられません(労働組合法 第5条第1項)。ここでいう第2条は、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体という、労働組合の定義規定です(労働組合法 第2条)。

つまり、規約に第7号の会計監査に関する定めがないと、この立証ができず、不当労働行為の救済申立てなどの手続を利用できなくなります。日本では労働組合を自由に設立でき、設立時にどこかへ届け出る必要はありませんが、法律上の手続を使う段階になると資格要件の充足が問われる仕組みです。

もっとも、規約に監査規定を置いていない場合であっても、そのことによって直ちに労働組合法上の労働組合であることが否定されるわけではないという整理が、所管官庁の通知で示されています。手続への参与や救済が受けられなくなるという効果と、労働組合としての存在そのものの否定とは、区別して理解する必要があります。

規約の必要的記載事項

第5条第2項は、規約に含めなければならない事項を第1号から第9号まで列挙しています。会計監査に関する第7号だけを整えても、他の号に不足があれば資格要件を満たしません。

規約に含めるべき規定
第1号 名称
第2号 主たる事務所の所在地
第3号 単位労働組合の組合員が、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること
第4号 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われないこと
第5号 役員が、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること
第6号 総会を少なくとも毎年1回開催すること
第7号 会計報告を、職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表すること
第8号 同盟罷業を、直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと
第9号 規約を、直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと

各号の正確な文言は条文に当たって確認する必要がありますが、規約の点検を第7号だけで終わらせない姿勢が実務では欠かせません。

資格審査が必要になる場面

労働組合法第2条及び第5条第2項に定める資格要件を備えているかどうかを審査する手続が、労働組合の資格審査です。労働委員会は、労働組合が自主的な組合であるか、民主的な組合としての規約を備えているかなどの要件を公益委員会議において審査し、適合していると判断される場合に資格決定書の写し又は資格証明書を交付します。

厚生労働省は、過去に資格審査の適格決定を受けたことがある労働組合であっても、次の場面ではその都度資格審査を受ける必要があるとしています。

  • 不当労働行為の救済申立てをする場合
  • 労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合
  • 法人登記をするために資格証明書の交付を受ける場合
  • 労働協約の地域的拡張適用の申立てをする場合
  • 職業安定法で決められている無料の労働者供給事業の許可申請を行う場合

審査を行う労働委員会には、国の機関である中央労働委員会と、都道府県の機関である都道府県労働委員会の2種類が置かれています。なお、労働組合の「認証」という制度は存在しないため、認証を受けている旨の表示には注意が必要です。

法人登記と会計監査人の証明書の関係

会計監査の要件が最も具体的に効いてくるのが、法人格の取得を検討する場面です。単組が事務所を借りる、金融機関に口座を開設するといった実務上の必要から、法人登記を検討する組合は少なくありません。

労働組合法第11条による法人化

労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。労働組合に関して登記すべき事項は、登記した後でなければ第三者に対抗することができません(労働組合法 第11条第3項)。

ここでいう労働委員会の証明を受ける前提が、第2条及び第5条第2項への適合であり、その中に第7号の会計監査に関する規約規定が含まれています。法人化を目指す組合にとって、「職業的に資格がある会計監査人」の文言は避けて通れない論点になります。

関連コラム労働組合の法人登記の手順|資格審査と登記事項・必要書類

実務でつまずきやすい点

実務で多いのは、規約には第7号に沿った条文を置いているものの、実際の会計監査が規約どおりに運用されていないケースです。規約の規定を実行しない場合について労働組合法は特別の規定を設けていませんが、組合運営上・規約上の問題として残ります。

また、会計監査人の委嘱を執行部の判断だけで行い、総会の議案として諮っていない例も見受けられます。条文が委嘱の主体を組合員としている以上、決議の記録は残しておくべきです。

さらに、会計報告に主要な寄附者の氏名が記載されていない、基金の残高が示されていないなど、報告の内容面で条文の要求を満たしていないケースもあります。証明書だけを整えても、対象となる会計報告が条文の求める内容を備えていなければ意味がありません。

まとめ

「職業的に資格がある会計監査人」は、労働組合法第5条第2項第7号に置かれた、組合規約の必要的記載事項に関する文言です。法律に定義規定はなく、会計監査を職業として行う資格を備えた第三者という機能に着目した表現になっています。

この要件は、規約に定めを置くだけで完結するものではありません。組合員による委嘱、条文が求める三つの事項を備えた会計報告、正確であることの証明書、そして年1回以上の組合員への公表という一連の運用が揃って初めて、資格審査や法人登記の場面で説明できる状態になります。

公認会計士の側にも労働組合監査の実務指針が整備されており、監査報告書の文例まで示されています。規約の文言と実際の運用が噛み合っているかを早めに点検し、決算総会の日程から逆算して準備を進めることが有効です。個別の規約の書きぶりや、自組合で必要となる対応の範囲については、具体的なケースに応じて公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

「職業的に資格がある会計監査人」は公認会計士でなければならないか

労働組合法には、この文言に該当する者を資格名で特定する定義規定が置かれていません(労働組合法 第5条第2項第7号)。一方で、日本公認会計士協会は労働組合監査に関する実務指針と監査報告書の文例を整備しており、公認会計士が受嘱することを前提とした体制が整っています。資格審査や法人登記を見据える組合では、公認会計士に委嘱する選択が説明しやすい方法です。

組合内部の会計監査担当者による監査で足りるか

条文は「組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書」を求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。組合の内部で選ばれた会計監査担当者による点検は組合運営上有用ですが、条文が想定する職業性を備えた第三者による証明とは性質が異なります。両者を混同しないよう、規約上も役割を書き分けておくことが望まれます。

規約に会計監査の規定がない場合はどうなるか

労働委員会に証拠を提出して労働組合法第2条及び第5条第2項への適合を立証できないため、同法に規定する手続に参与する資格を有せず、同法に規定する救済も与えられません(労働組合法 第5条第1項)。ただし、そのことによって直ちに労働組合法上の労働組合であることが否定されるわけではないという整理が、所管官庁の通知で示されています。

会計報告と証明書はいつ公表すればよいか

条文は、少なくとも毎年1回、組合員に公表することを規約に定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。公表の相手は行政庁ではなく組合員です。実務では、決算に関する議案を諮る総会に合わせて公表する運用が一般的で、監査の日程はその総会から逆算して組み立てます。

法人登記のたびに資格審査を受け直す必要があるか

厚生労働省は、過去に資格審査の適格決定を受けたことがある労働組合であっても、法人登記をするために資格証明書の交付を受ける場合には、その都度資格審査を受ける必要があるとしています。労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合が、主たる事務所の所在地において登記することによって法人となる仕組みだからです(労働組合法 第11条第1項)。

事務所概要
社名
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住所
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電話番号
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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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