EPS算定の要!期中平均株式数の計算方法と実務上の留意点
目次
企業の経営成績を示す重要な指標である1株当たり当期純利益(EPS)を正確に算定するためには、分母となる普通株式の期中平均株式数の正しい理解が不可欠です。本記事では、「1株当たり当期純利益に関する会計基準」等に基づき、期中平均株式数の基本的な算定構造から、潜在株式の取り扱い、株式分割や自己株式の取得・消却時の実務対応まで、具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。
普通株式の期中平均株式数の基本的な算定構造
1株当たり当期純利益の分母である普通株式の期中平均株式数は、普通株式の期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除して算定されます〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項〕。
原則的な2つの算定方法
期中平均株式数を具体的に算定する際、以下の2つの方法のいずれかを用いることが認められており、どちらを採用しても計算結果は一致します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第50項〕。実務上は、自社のデータ管理状況に応じた合理的な方法を選択します。
| 算定方法 | 概要 |
|---|---|
| 日々の累計平均(方法①) | 会計期間における日々の普通株式の発行済株式数から自己株式数を控除した株式数の累計を平均する方法〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第50項(2)〕 |
| 期間按分(方法②) | 期首の株式数に、期中の発行株式数を「発行時から期末までの期間」で按分加算し、自己株式数を同様に按分控除する方法〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第50項(1)〕 |
算定実務における簡便的な期間按分方法
期間按分法において、厳密な「日数」に基づく計算のほか、合理的な基礎に基づく簡便法も認められています。例えば、株式の発行時から期末までの月数に応じた普通株式数を算定する方法や、会計期間における月末の発行済株式数から自己株式数を控除した株式数の累計を平均する方法が実務上広く容認されています〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第13項〕。
潜在株式や条件付発行可能株式を分母に含めるタイミング
ワラントや転換証券など、将来普通株式となる可能性のある証券が当期の期中平均株式数に加算されるタイミングは、証券の性質に応じて厳密に定められています。誤ったタイミングで算入するとEPSが歪むため注意が必要です。
| 証券の種類 | 分母に含めるタイミングと計算方法 |
|---|---|
| 潜在株式(ワラント等) | 実際に権利が行使されたときに含め、行使日以降の期間で按分計算します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第18項〕 |
| 条件付発行可能普通株式 | 特定の利益水準達成などの特定の条件を満たしたときに含めます〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第14項〕 |
| 条件付発行可能潜在株式 | 特定の条件を満たした上で、さらに実際に権利が行使されたときに含めます〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第15項〕 |
連結財務諸表における自己株式控除の特例
連結財務諸表において1株当たり当期純利益を算定する際、分母から控除する自己株式には特例が存在します。親会社が直接保有する自己株式だけでなく、子会社および関連会社が保有している親会社等の発行する普通株式数のうち、親会社等の持分に相当する株式数も含めて控除しなければなりません〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項なお書き〕。グループ全体での株式保有状況を正確に把握することが求められます。
株式併合・分割等の遡及的・仮定計算と背景
当期中に株式併合や株式分割が行われた場合、期中平均株式数の算定にあたっては、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に当該事象が行われたと仮定し、遡及的に株式数を調整します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第30-2項、同適用指針 第16項〕。また、時価より低い払込金額での株主割当が行われた場合も、株式分割と同様の効果を持つ株式分割相当部分が含まれるため、同部分について最も古い期間の期首に行われたと仮定して算定します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第30-2項、同適用指針 第16項、第52項〕。
遡及計算の背景と第三者割当増資の取り扱い
株主への割当てや株式分割に遡及計算を求めるのは、これらが既存の普通株主に一律に影響を及ぼし、そのままでは過去の経営成績との時系列比較が不可能になるためです〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第52項〕。一方で、時価より低い払込金額での第三者割当増資は、特定の第三者のみが有利な発行を受け、既存株主に一律の影響を与えません。そのため、第三者割当増資の場合は期首からの遡及計算は行わず、発行日以降の増加株式として期間按分のみを行います〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第52項ただし書き〕。
自己株式の取得および消却の実務上の取扱いと背景
期中に企業が自己株式の取得を行った場合、取得日以降の期中平均株式数の算定において、分母から控除する自己株式として期間按分で反映させます〔実務対応報告第9号 Q1〕。対照的に、当期に取得した自己株式の消却が行われた場合、すでに取得時点で流通株式から控除されているため、消却時には発行済株式数と自己株式数が同数減少するのみです。社外に流通する株式数に一切変化はないため、自己株式の消却はEPS算定に影響を与えず、遡及的な仮定計算も行いません〔実務対応報告第9号 Q1〕。
自己株式取得に関する結論の背景
自己株式の取得について、株式併合のように「期首に行われたと仮定」しない理由は、自己株式の取得が全株主に対して平等に行われるものではなく、市場価格(時価)での取引であるためです。既存株主に一律の無償影響を与える事象とは性質が根本的に異なるため、取得時点以降の期間按分で反映させることが理論的に整合するとされています〔実務対応報告第9号 Q1〕。
期中平均株式数の実務ケーススタディ
実際の会計実務において、これらの規定がどのように適用されるかを具体的なケーススタディを通じて解説します。
増資、自己株式の取得・消却が混在する企業の算定例
3月決算の上場企業が、簡便法である月数に応じた期間按分を採用して当期の期中平均株式数を算定するケースを想定します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第13項〕。期首(4月1日)の発行済普通株式数は1,000万株(自己株式ゼロ)とします。
| 算定ステップ(事象) | 処理内容と計算式 |
|---|---|
| 7月1日:第三者割当増資(200万株発行) | 遡及計算せず月数按分。200万株 × (9ヶ月/12ヶ月) = 150万株を加算〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第52項ただし書き、第13項〕 |
| 10月1日:自己株式の取得(100万株取得) | 遡及計算せず取得時以降で月数按分。100万株 × (6ヶ月/12ヶ月) = 50万株を控除〔実務対応報告第9号 Q1〕 |
| 12月1日:自己株式の消却(50万株消却) | 取得時に控除済みのため、EPS算定上の影響はゼロ(完全に無視)〔実務対応報告第9号 Q1〕 |
上記の結果、期中平均株式数は「1,000万株 + 150万株 - 50万株 = 1,100万株」と確定します。この数値を当期純利益で除することで、正確な1株当たり当期純利益が算定されます。
まとめ
1株当たり当期純利益(EPS)の算定において、分母となる期中平均株式数の計算は多岐にわたるルールが存在します。原則的な日々の累計平均や期間按分に加え、月数を用いた簡便法の実務適用、潜在株式を含める厳密なタイミング、そして株式分割や自己株式の取得・消却時の遡及計算の有無など、各事象の経済的実態に基づいた処理が求められます。特に第三者割当増資や自己株式の消却については、既存株主への影響度合いを正しく理解し、適切な会計処理を行うことが重要です。
期中平均株式数の算定に関するよくある質問まとめ
Q.期中平均株式数はどのように算定しますか?
A.期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除して算定します。日々の累計平均を算出する方法、または期首の株式数に期中の変動を期間按分して加減算する方法のいずれかを用います〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項、第50項〕。
Q.期間按分において月数を用いた簡便法は認められますか?
A.はい、認められます。厳密な日数に応じた算定のほか、株式の発行時から期末までの月数に応じた普通株式数を算定する簡便法も実務上容認されています〔1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第13項〕。
Q.潜在株式はいつから期中平均株式数に含めますか?
A.ワラントや転換証券などの潜在株式は、実際に権利が行使されたときに初めて普通株式数に含められ、行使日以降の期間で按分計算されます〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第18項〕。
Q.連結財務諸表において控除すべき自己株式の範囲はどうなりますか?
A.親会社が直接保有する自己株式に加え、子会社および関連会社が保有している親会社等の発行する普通株式数のうち、親会社等の持分に相当する株式数も含めて控除します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項なお書き〕。
Q.期中に株式分割が行われた場合、どのように計算しますか?
A.既存株主に一律に影響を及ぼすため、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に株式分割が行われたと仮定し、遡及的に株式数を調整して算定します〔1株当たり当期純利益に関する会計基準 第30-2項、同適用指針 第16項〕。
Q.取得した自己株式を消却した場合、EPSの算定に影響はありますか?
A.すでに取得時点で分母から流通株式として控除されているため、自己株式の消却は社外に流通する株式数に変化を与えず、EPSの算定には一切影響しません〔実務対応報告第9号 Q1〕。
実際の会計処理は個別事情によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



