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組合費の値上げ手続き|規約変更の決議要件と大会議案書の書き方

2026-09-01
目次

組合費の値上げでまず確認すべきは、規約に定めた組合費の額を変えるのであれば、大会(総会)の決議だけでは足りず、規約の改正手続として組合員の直接無記名投票による過半数の支持が必要になるという点です。単位労働組合であれば代議員の投票では代替できず、組合員本人の投票が求められます(労働組合法 第5条第2項第9号)。

一方で、組合費の額を規約本体ではなく下位の規程に委ねている組合では、必ずしも同じ手続を踏む必要はありません。値上げの実務は、この「規約変更に当たるかどうか」の切り分けから始まります。本記事では、決議要件の条文上の答えを先に示したうえで、判定の手順、大会議案書の書き方、値上げ後に確認すべき手続きまでを順に整理します。

組合費の値上げに必要な決議要件

労働組合法は、労働組合の規約に一定の規定を含めることを求めており、そのひとつとして規約の改正手続を定めています。組織の区分によって、必要とされる議決の方法が異なります(労働組合法 第5条第2項第9号)。

組合の区分 規約の改正に必要な議決
単位労働組合(連合団体である労働組合以外の労働組合) 組合員の直接無記名投票による過半数の支持
連合団体である労働組合、全国的規模をもつ労働組合 単位労働組合の組合員、またはその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員による直接無記名投票の過半数の支持

ここで押さえておきたいのは、単位労働組合では「代議員の直接無記名投票」という選択肢が条文上用意されていないことです。役員の選挙(労働組合法 第5条第2項第5号)や同盟罷業の開始(労働組合法 第5条第2項第8号)では代議員による投票が明示的に認められていますが、規約の改正について代議員制を使えるのは連合団体である労働組合と全国的規模をもつ労働組合に限られます。代議員大会を年間の意思決定の中心に据えている単組ほど、この違いを見落としやすい部分です。

なお条文は「過半数の支持」とのみ定めており、母数の取り方や投票の成立要件までは規定していません。投票率が低かった場合にどう扱うかを含め、成立要件は規約側で明確にしておくことが実務上の備えになります。

値上げが規約変更に当たるかの判定

労働組合法が規約の必要記載事項として挙げているのは、名称、主たる事務所の所在地、組合員の参与権と均等待遇、資格の差別禁止、役員の選挙、総会の開催、会計報告、同盟罷業の開始、規約の改正の9項目です(労働組合法 第5条第2項第1号から第9号)。組合費の額そのものは、この必要記載事項に含まれていません。つまり組合費の額をどこに書くかは、各組合の規約設計に委ねられています。

したがって値上げの手続は、次の順序で判定します。

  1. 組合費の額(または算定方法)が規約本体に書かれているかを確認する
  2. 書かれていれば、その改正は規約の改正であり、直接無記名投票による過半数の支持が必要になる
  3. 書かれておらず、組合費規程・財政規程など下位の規程に委ねられている場合は、その規程に定められた改正手続に従う

ただし下位規程であれば常に自由というわけではありません。行政解釈(昭和25年11月2日労収第7557号)は、規約に伴って作られた諸規則であっても、それらの規則が労働組合法第5条第2項各号に規定された事項を含んでいる場合には労働組合法上は規約とみられるため、その改正について同項第9号に掲げる規定を設けなければならないとしています。組合費規程に会計報告や総会に関する定めを混ぜ込んでいる組合では、規程全体が規約として扱われる余地が出てきます。値上げの前に、規程の中身が組合費以外の事項に及んでいないかを確認しておくことが必要です。

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値上げ幅と改定方式の考え方

値上げ幅の検討では、必要額の積み上げと、組合員が納得できる水準の双方を見ます。実務では、赤字予算の解消に必要な額を単年度で一気に埋めるのではなく、複数年の収支見通しを示したうえで一度の改定に落とし込む進め方が受け入れられやすい傾向があります。定額制か賃金比例制かによっても、値上げの影響が組合員ごとにどう分布するかが変わるため、改定案の説明には分布の目安を添えておくと議論が具体的になります。

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大会の決議と直接無記名投票の関係

労働組合法は、総会を少なくとも毎年1回開催することを規約に定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第6号)。多くの組合ではこの総会を「大会」と呼び、予算・決算・役員選挙とあわせて規約改正を扱います。ただし大会で議案を可決したことと、規約改正に必要な直接無記名投票を経たことは別の手続です。

この点について前掲の行政解釈は、規約に第9号の趣旨に沿った定めがあるにもかかわらず、大会において規約の改正は直接無記名投票を要せず挙手によって決めると決議したり、規約を改正することだけを直接無記名投票で決定して改正条項は挙手で採決したりすることは、規約違反の問題があるとしています。大会当日の時間短縮を理由に投票を省略する運用は、後日の資格審査で手続の適法性を問われる火種になります。

投票の単位と実施方法

投票を改正条項ごとに行うか、改正条項を一括して行うかは、同じ行政解釈により組合の自由とされています。組合費の値上げだけを扱う改正であれば一括投票で足りますが、他の条項の改正を同時に諮る場合は、組合員が組合費の是非だけを判断できるように投票用紙を分けるかどうかを、あらかじめ執行部で決めておきます。

実務上は、大会当日に会場で投票を行う方法と、大会前後に職場ごとの投票を行う方法があります。いずれの場合も、投票期間、開票立会人、有効投票の判定基準、開票結果の記録方法を事前に決め、議事録と投票記録の双方を残しておくことが求められます。

関連コラム労働組合の大会での決算承認|議事の進め方と会計監査のタイミング

大会議案書の書き方

組合費の値上げは、組合員にとって毎月の手取りが減る議案です。議案書は「なぜ必要か」「いくら上がるか」「いつから変わるか」の3点が最初の1ページで分かる構成にします。以下は、値上げ議案として盛り込んでおきたい項目の目安です。法令が様式を定めているものではなく、実務上の整理として示します。

議案の名称 「組合費の改定に関する規約一部改正の件」など、規約改正であることが分かる名称にする
提案の理由 直近の収支実績、値上げをしない場合の資金見通し、支出削減で対応できなかった理由
改定の内容 現行の組合費と改定後の組合費、算定方式を変える場合はその方式
規約の
新旧対照表
改正する条・項・号ごとに、現行条文と改正案を左右に並べて示す
施行日と
適用開始月
規約改正の効力発生日と、新しい組合費を徴収し始める月を分けて書く
改定後の
収支見通し
改定後の年間収入見込みと、増収分の使途(活動費・積立・予備費などの内訳)
議決の方法 規約第○条に基づき組合員の直接無記名投票により決する旨と、投票日・投票方法

新旧対照表は、条文をそのまま貼るだけでなく、改正部分に下線を引くなどして変更箇所を一目で示します。組合費の額を規約から削除して規程に委ねる改正を同時に行う場合は、委任先の規程名と、その規程の改正手続をどう定めるかまで議案書に書いておかないと、値上げのたびに手続が不明確になります。

説明の順序と質疑への備え

議案書の説明は、収支の現状、値上げ以外に検討した案、値上げ案の内容、改定後の見通しという順序が理解されやすい流れです。質疑では、増収分の使途、値上げの次回改定時期、退職者や休職者の扱い、パートタイム組合員の負担割合といった論点が出やすいため、想定問答を用意しておきます。増収分の使途については、値上げ後の会計報告でどの科目に反映されるかまで説明できると、組合員の納得を得やすくなります。

値上げ決定後に確認する手続き

投票で可決された後も、実際に新しい組合費を徴収するまでにいくつかの確認事項があります。

議事録と
投票記録の保管
大会の議事録に加え、投票の実施要領・開票結果・立会人の記録を組で保管する
チェックオフの
控除額変更
賃金からの控除で徴収している場合、控除額の変更時期を使用者と事前に調整する
変更登記の要否 法人である労働組合の登記事項は名称・主たる事務所の所在場所・目的及び事業・代表者の氏名及び住所・解散事由に限られ、組合費の額は含まれない(労働組合法施行令 第3条)
資格審査への備え 不当労働行為の救済申立てや資格証明書の交付を受ける際は、その都度資格審査を受ける
会計報告への反映 改定後の組合費収入は、年1回以上の会計報告で組合員に公表する対象となる

変更登記については、組合費の額を改定しても登記事項そのものは動きません。登記事項に変更が生じた場合には2週間以内に登記が必要とされていますが(労働組合法施行令 第5条)、値上げのみであればこの対象にはならないと整理できます。もっとも、同じ大会で名称や主たる事務所の変更を併せて決議した場合は登記が必要になるため、議案の組み合わせには注意が必要です。

資格審査は、不当労働行為の救済申立てをする場合、労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合、法人登記のために資格証明書の交付を受ける場合、労働協約の地域的拡張適用の申立てをする場合などに、その都度受ける必要があります。審査では、労働組合が自主的な組合であるか、民主的な組合としての規約を備えているかが確認されるため、改正後の規約が労働組合法第5条第2項の各号を満たしているかを、値上げの改正とあわせて点検しておきます。

会計面では、組合費収入の増加そのものは特別な処理を要しません。改定月をまたぐ期の会計報告では、旧額と新額のどちらで計上した月があるかを明示しておくと、組合員から見た増収額の説明が容易になります。会計報告は、職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することが求められています(労働組合法 第5条第2項第7号)。

関連コラムチェックオフとは|労働組合費の控除要件と会計処理

実務でつまずきやすい点

第一に、規約に「規約の改正は大会の3分の2以上の賛成による」とだけ定めている組合です。この定め方では労働組合法第5条第2項第9号の要件を満たさず、資格審査で規約の不備を指摘される可能性があります。値上げの議案と同時に、改正手続の条項自体を法定の形へ直す改正を提案しておくと二度手間を避けられます。

第二に、値上げの効力発生日と徴収開始月を混同するケースです。規約改正の効力が発生した月と、給与控除の実務が切り替わる月は通常ずれます。議案書で両方を明記しておかないと、最初の1か月分をどちらの額で徴収するかで混乱が生じます。

第三に、投票記録を残していないケースです。大会の議事録に「賛成多数で可決」とだけ記載し、投票用紙や集計表を廃棄してしまうと、後日その改正が第9号の要件を満たしていたことを立証できません。改正の効力に疑義が生じたときに備え、投票関係の記録は規約の改正履歴と一体で保管します。

第四に、組合費の一部を上部団体への上納金や特定目的の積立に充てる設計を、値上げと同時に変える場合です。使途の変更は組合員の関心が高い論点であり、値上げの是非と使途の変更を一つの議案に混ぜると、どちらに反対しているのかが投票結果から読み取れなくなります。議案を分けるか、投票用紙を分けるかを事前に決めておきます。

規約の改正手続や会計報告の要件は、組合の組織形態や既存の規約の書きぶりによって判断が分かれる部分があります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

まとめ

組合費の値上げ手続の出発点は、組合費の額が規約本体に定められているかどうかの確認です。規約に定めがあれば、その改正には単位労働組合で組合員の直接無記名投票による過半数の支持が必要であり、代議員の投票では代替できません(労働組合法 第5条第2項第9号)。下位規程に委ねている場合でも、その規程が労働組合法第5条第2項各号の事項を含んでいれば規約として扱われる余地があります。

大会の議決と直接無記名投票は別の手続であり、挙手による採決で投票を省略する運用は規約違反の問題を生じます。議案書では、提案理由、改定内容、新旧対照表、施行日と適用開始月、改定後の収支見通し、議決の方法を明示し、投票記録とあわせて保管しておくことが、後日の資格審査への最善の備えになります。

参考文献

よくある質問

大会の決議だけで組合費を値上げできますか

組合費の額を規約に定めている場合はできません。単位労働組合では、規約の改正について組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しない旨を規約に定めることが求められており(労働組合法 第5条第2項第9号)、大会での挙手や起立による採決はこれに代えられません。組合費の額を規約に置いていない組合では、その額を定める規程に従った手続で足ります。

代議員大会での投票で要件を満たせますか

単位労働組合では満たせません。代議員の直接無記名投票が認められているのは、連合団体である労働組合と全国的規模をもつ労働組合の場合です(労働組合法 第5条第2項第9号)。単位労働組合については、条文上は組合員の直接無記名投票のみが定められています。役員の選挙や同盟罷業の開始とは扱いが異なる点に注意が必要です。

組合費規程で額を定めていれば投票は不要ですか

原則としてその規程の定める手続によりますが、例外があります。行政解釈(昭和25年11月2日労収第7557号)は、規約に伴って作られた諸規則であっても、労働組合法第5条第2項各号に規定された事項を含んでいる場合には労働組合法上は規約とみられるとしています。組合費規程に会計報告や総会に関する定めを含めている場合は、規程全体が規約として扱われる可能性があるため、事前に規程の記載範囲を確認してください。

値上げに伴って変更登記や届出は必要ですか

組合費の額の改定だけであれば、法人である労働組合の変更登記は必要ありません。登記事項は名称、主たる事務所の所在場所、目的及び事業、代表者の氏名及び住所、解散事由に限られており(労働組合法施行令 第3条)、組合費の額は含まれていないためです。また、労働組合の設立や規約改正について行政庁へ届け出る制度はありません。ただし、不当労働行為の救済申立てや資格証明書の交付を受ける際には、その都度資格審査を受ける必要があります。

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