貸倒引当金の計算方法|会計の債権3区分と税務の繰入限度額の違い
目次
- 貸倒引当金の計算方法の全体像
- 会計上の計算|債権の3区分と見積方法
- 債権区分の判定基準
- 区分別の見積方法と算式
- 一般債権|貸倒実績率法の計算例
- 貸倒懸念債権|財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法
- 財務内容評価法の計算例
- キャッシュ・フロー見積法の計算例
- 破産更生債権等|残額の全額引当と直接減額
- 税務上の繰入限度額の計算
- 貸倒引当金を設定できる法人の範囲
- 個別評価金銭債権の繰入限度額
- 一括評価金銭債権の繰入限度額
- 会計と税務の差異と税効果
- 実務での落とし穴
- 基準の適用時期と改正の経緯
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 会計上の貸倒引当金と税務上の繰入限度額は一致しないのが普通ですか
- 貸倒懸念債権は財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法のどちらを使うべきですか
- 貸倒実績率の算定期間は何年にすればよいですか
- 取引先ごとの財務内容が分からない場合、債権区分はどうすればよいですか
- 法定繰入率と貸倒実績率はどちらを使ってもよいのですか
貸倒引当金の計算方法は、会計と税務で別々の計算を2本立てで行うのが実務の姿です。会計上は債権を3つに区分し、区分ごとに異なる方法で貸倒見積高を算定します。一方、税務上は貸倒引当金を設定できる法人が限定されており、繰入限度額の計算式も会計とは別に定められています。
「会計で計算した金額をそのまま申告書に載せてよいのか」「一般債権と貸倒懸念債権で何がどう変わるのか」。決算実務でつまずきやすいのは、この2つの計算体系が頭の中で混ざってしまうときです。この記事では、会計上の債権3区分と3つの見積方法を比較表と数値例で整理したうえで、税務上の繰入限度額の計算と、両者の差額から生じる税効果までを一本の流れで解説します。
貸倒引当金の計算方法の全体像
債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とされています(金融商品に関する会計基準 第14項)。つまり会計上の出発点は「貸倒見積高をいくらと見積もるか」であり、税務上の繰入限度額とは目的も算式も異なります。
両者の位置づけを整理すると次のとおりです。
| 会計上の計算 | 税務上の計算 |
|---|---|
| すべての会社が対象 | 中小法人等・銀行・保険会社など限定された法人のみ(法人税法 第52条第1項) |
| 債権を一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等の3つに区分(同 第27項) | 個別評価金銭債権と一括評価金銭債権の2つに区分(同 第52条第1項、第2項) |
| 区分ごとに貸倒実績率法・財務内容評価法・キャッシュ・フロー見積法を使い分け(同 第28項) | 個別評価は事実の区分ごとの定率、一括評価は貸倒実績率または法定繰入率 |
| 見積りの精度が目的。金額の上限は定められていない | 損金算入の上限を定めることが目的。損金経理と明細の記載が要件(同 第52条第3項) |
実務では、まず会計上の貸倒見積高を算定して貸倒引当金を計上し、そのうえで税務上の繰入限度額を別計算し、超過額を申告書で加算する、という順序になります。この記事もその順序で説明します。
会計上の計算|債権の3区分と見積方法
貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態および経営成績等に応じて、債権を一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等の3つに区分します(金融商品に関する会計基準 第27項)。この区分を誤ると、以降の計算方法もすべてずれてしまうため、最初の判定が最も重要です。
債権区分の判定基準
| 一般債権 | 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権。貸倒懸念債権および破産更生債権等以外の債権が該当します(金融商品会計に関する実務指針 第109項)。 |
|---|---|
| 貸倒懸念債権 | 経営破綻の状態には至っていないものの、債務の弁済に重大な問題が生じているか、生じる可能性の高い債務者に対する債権。弁済がおおむね1年以上延滞している場合や、弁済期間の延長・元金の一部免除など弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれます(同 第112項)。 |
| 破産更生債権等 | 経営破綻または実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権。破産・清算・会社更生・民事再生・手形交換所の取引停止処分などの事由が生じている債務者のほか、法的な事実は発生していなくても深刻な経営難にあり再建の見通しがない債務者も含まれます(同 第116項)。 |
なお、一般事業会社がすべての取引先の財務内容を把握することは難しいため、原則的な区分方法に代えて、債権の計上月(売掛金の場合)や弁済期限(貸付金等の場合)からの経過期間に応じて債権区分を行う簡便な方法も認められています(金融商品会計に関する実務指針 第107項)。滞留年齢表を使った区分が実務で広く使われているのは、この簡便法が根拠です。
区分別の見積方法と算式
債権の貸倒見積高は、その区分に応じてそれぞれ次の方法により算定します(金融商品に関する会計基準 第28項)。
| 債権区分と見積方法 | 貸倒見積高の算定内容 |
|---|---|
| 一般債権/貸倒実績率法 | 債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により算定します。 |
| 貸倒懸念債権/財務内容評価法 | 債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態および経営成績を考慮して算定します。 |
| 貸倒懸念債権/キャッシュ・フロー見積法 | 元本の回収および利息の受取りに係るキャッシュ・フローを当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と、債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とします。 |
| 破産更生債権等/財務内容評価法 | 債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額の全額を貸倒見積高とします。 |
貸倒懸念債権について財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法のどちらを使うかは債権の状況に応じて選択できますが、同一の債権については、債務者の財政状態および経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用しなければなりません(金融商品に関する会計基準 第28項)。期によって有利な方法へ乗り換えることはできない点に注意が必要です。
一般債権|貸倒実績率法の計算例
貸倒実績率は、ある期における債権残高を分母とし、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定します。貸倒損失の過去のデータから貸倒実績率を算定する期間(算定期間)は、一般には債権の平均回収期間が妥当とされ、その期間が1年を下回る場合には1年とします(金融商品会計に関する実務指針 第110項)。
さらに、当期末に保有する債権について適用する貸倒実績率を算定するにあたっては、当期を最終年度とする算定期間を含む、それ以前の2〜3算定期間に係る貸倒実績率の平均値によります(同 第110項)。単年度の実績率をそのまま使うのではなく、複数期間の平均をとるのがルールです。
次の前提で計算してみます(単位:千円)。当期末の一般債権残高が200,000、直近3算定期間の貸倒実績率がそれぞれ0.6%・0.9%・0.9%であったとします。
なお、期末日現在に保有する債権の信用リスクが、外部環境等の変化により過去に有していた債権の信用リスクと著しく異なる場合には、過去の貸倒実績率を補正することが必要です(金融商品会計に関する実務指針 第111項)。主要な販売先の業界が急速に悪化した期などは、過去実績をそのまま使うと見積りが不足します。
関連コラム一般債権の貸倒見積高の算定:貸倒実績率法を徹底解説▸
貸倒懸念債権|財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法
貸倒懸念債権は、3区分のなかで最も判断が難しく、金額的な影響も大きい区分です。2つの方法それぞれについて、数値例で計算の流れを確認します。
財務内容評価法の計算例
財務内容評価法を採用する場合には、債務者の支払能力を総合的に判断する必要があります。支払能力は、債務者の経営状態、債務超過の程度、延滞の期間、事業活動の状況、銀行等金融機関および親会社の支援状況、再建計画の実現可能性や資金繰りの見通し、その他債権保全に関係のない一切の定量的・定性的要因を考慮して判断されます(金融商品会計に関する実務指針 第114項)。
もっとも、一般事業会社では債務者の支払能力を判断する資料の入手が困難な場合もあるため、たとえば貸倒懸念債権と初めて認定した期には、担保の処分見込額および保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において毎期見直す等の簡便法を採用することも考えられます(同 第114項)。ただし、個別に重要性の高い貸倒懸念債権については、可能な限り資料を入手し、評価時点における回収可能額の最善の見積りを行う必要があります。
次の前提で計算します(単位:千円)。A社に対する売掛金50,000について、当期に貸倒懸念債権と初めて認定しました。担保である不動産の処分見込額が20,000、代表者の保証による回収見込額が5,000と見込まれ、簡便法により残額の50%を引き当てます。
担保の処分見込額を求めるにあたっては、合理的に算定した担保の時価に基づくとともに、当該担保の信用度、流動性および時価の変動の可能性を考慮する必要があります(金融商品会計に関する実務指針 第114項)。帳簿価額や固定資産税評価額をそのまま使うのではなく、処分可能性を織り込むのが実務です。
キャッシュ・フロー見積法の計算例
キャッシュ・フロー見積法は、債権の元本の回収および利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり、当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法です(金融商品に関する会計基準 第28項)。支払条件の緩和が行われている場合には、それに基づく将来キャッシュ・フローを用います(金融商品会計に関する実務指針 第115項)。
次の前提で計算します(単位:千円)。B社への貸付金の帳簿価額が30,000、当初の約定利子率は年5%でした。当期にB社から支払条件の緩和を要請され、今後2年間の利息を免除したうえで2年後に元本30,000を一括返済する条件に変更しました。
この方法では、担保や保証があるかどうかではなく、回収時期が後ろ倒しになったこと自体が損失として計上される点が特徴です。元本が全額回収できる見込みでも、条件緩和により貸倒引当金が計上されます。
将来キャッシュ・フローの見積りは、少なくとも各期末に更新し、貸倒見積高を洗い替えます。割引効果の時の経過による実現分のうち貸倒見積高の減額分は、原則として受取利息に含めて処理しますが、それを受取利息に含めないで貸倒引当金戻入額として営業費用または営業外費用から控除するか、営業外収益に計上することもできます(金融商品会計に関する実務指針 第115項)。
当期末の個別引当が必要な貸倒見積高が、上記の貸倒懸念債権2件で合計15,289(12,500+2,789)となり、前期末の同区分に係る貸倒引当金残高が10,000であったとします。差額補充法による繰入れの仕訳は次のとおりです(単位:千円)。貸倒引当金の繰入れおよび取崩しの処理は、引当の対象となった債権の区分ごとに行わなければなりません(金融商品会計に関する実務指針 第122項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入額 | 5,289 | 貸倒引当金 | 5,289 |
破産更生債権等|残額の全額引当と直接減額
破産更生債権等については、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とします(金融商品に関する会計基準 第28項)。貸倒懸念債権の財務内容評価法と算式は似ていますが、残額に一定率を乗じるのではなく残額の全額を引き当てる点が決定的に異なります。
なお、清算配当等により回収が可能と認められる金額については、担保の処分見込額および保証による回収見込額と同様に債権額から減額することができます(金融商品会計に関する実務指針 第117項)。
債権額8,000、担保の処分見込額3,000、保証による回収見込額なしの場合、貸倒見積高は次のとおりです(単位:千円)。
その後、債権の回収可能性がほとんどないと判断された場合には、貸倒損失額を債権から直接減額し、当該貸倒損失額と当該債権に係る前期貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで貸倒引当金を取り崩し、当期貸倒損失額と相殺しなければなりません(金融商品会計に関する実務指針 第123項)。上記の債権について担保を処分して3,000を回収し、残額5,000を直接減額する場合の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。前期末の当該債権に係る貸倒引当金残高は5,000とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 3,000 | 破産更生債権等 | 8,000 |
| 貸倒引当金 | 5,000 |
この場合に、当該債権に係る前期末の貸倒引当金が当期貸倒損失額に不足するときは、当該不足額をそれぞれの債権の性格により原則として営業費用または営業外費用に計上します(金融商品会計に関する実務指針 第123項)。また、直接減額した後に残存する帳簿価額を上回る回収があった場合には、原則として営業外収益として当該期間に認識します(同 第124項)。
税務上の繰入限度額の計算
ここからが会計と最も混同されやすい領域です。税務上の貸倒引当金は、会計上の見積りとはまったく別の体系で計算します。
貸倒引当金を設定できる法人の範囲
税務上、貸倒引当金の繰入額を損金算入できるのは、事業年度終了の時において次のいずれかに該当する内国法人に限られます(法人税法 第52条第1項)。
- 資本金の額または出資金の額が1億円以下の普通法人(投資法人および特定目的会社を除き、大通算法人等を除く)、資本または出資を有しない法人
- 公益法人等または協同組合等、人格のない社団等
- 銀行法に規定する銀行、保険業法に規定する保険会社、およびこれらに準ずるものとして政令で定める内国法人
- リース取引に係る金銭債権を有する内国法人その他の金融に関する取引に係る金銭債権を有する内国法人として政令で定める内国法人
つまり、資本金1億円超の一般の事業会社は、会計上は貸倒引当金を計上しても、税務上はその全額が損金不算入になります。上場準備企業で資本金を増やした結果、前期まで損金算入できていた繰入額が翌期から全額加算対象になる、というのは実際に起こる論点です。
また、これらの規定は、確定申告書に貸倒引当金勘定に繰り入れた金額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用されます(法人税法 第52条第3項)。損金経理と明細の記載がそろって初めて損金算入できます。さらに、完全支配関係がある他の法人に対して有する金銭債権は、個別評価金銭債権および一括評価金銭債権のいずれからも除かれます(同 第52条第9項)。
個別評価金銭債権の繰入限度額
個別評価金銭債権の繰入限度額は、生じている事実の区分に応じて次のとおり計算します(法人税法施行令 第96条第1項)。
| 更生計画認可等の決定 による長期棚上げ |
更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定等に基づき弁済が猶予された場合。事実が生じた日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額(取立て等の見込みがあると認められる部分を除く)。 |
|---|---|
| 債務超過等による 回収不能見込み |
債務超過の状態が相当期間継続し事業に好転の見通しがないこと、災害・経済事情の急変等により多大な損害が生じたこと等により、一部の金額につき取立て等の見込みがないと認められる場合。その一部の金額に相当する金額。 |
| 形式基準(50%) | 更生手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、特別清算開始の申立て等が生じている場合。実質的に債権とみられない部分および取立て等の見込みがあると認められる部分を除いた金額の50%。 |
| 外国政府等に対する債権 | 債務者である外国の政府、中央銀行または地方公共団体の長期にわたる債務の履行遅滞により経済的価値が著しく減少し、弁済を受けることが著しく困難と認められる場合。同様に控除後の金額の50%。 |
会計上の「貸倒懸念債権」と税務上の「個別評価金銭債権」は似て見えますが、税務は法的手続の申立てなど形式的な事実の発生を要件にしている点が大きな違いです。会計上は弁済が1年以上延滞していれば貸倒懸念債権となり得ますが、税務上は申立て等がなければ個別評価の対象になりません。なお、これらの事実が生じていることを証する書類等の保存がない場合には、その事実は生じていないものとみなされます(法人税法施行令 第96条第2項)。
一括評価金銭債権の繰入限度額
一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権のうち個別評価金銭債権を除いたものをいいます(法人税法 第52条第2項)。繰入限度額は、期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に貸倒実績率を乗じて計算します(法人税法施行令 第96条第6項)。
貸倒実績率は、次の分母と分子の割合として求め、小数点以下4位未満の端数は切り上げます(法人税法施行令 第96条第6項)。前3年内事業年度とは、当該事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度をいいます。
一方、中小企業者等については特例があり、法人税法第52条第1項第1号イからハまでに掲げる法人(適用除外事業者に該当するものを除く)は、一括評価金銭債権の帳簿価額(政令で定める金銭債権については政令で定める金額を控除した残額)の合計額に政令で定める割合(法定繰入率)を乗じて計算した金額を繰入限度額とすることができます(租税特別措置法 第57条の9第1項)。業種別の法定繰入率は次のとおりです(国税庁 No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定)。
| 卸売業・小売業 (飲食店業を含む) |
1,000分の10 |
|---|---|
| 製造業(電気業・ガス業・ 水道業等を含む) |
1,000分の8 |
| 金融業・保険業 | 1,000分の3 |
| 割賦販売小売業等 | 1,000分の7 |
| その他の事業 | 1,000分の6 |
法定繰入率は「とすることができる」と定められているため、貸倒実績率による計算と法定繰入率による計算を比較し、有利な方を選択できます。卸売業を営む中小法人で期末の一括評価金銭債権が200,000(単位:千円)の場合、法定繰入率による繰入限度額は次のとおりです。
なお、税務上の貸倒引当金は洗替方式です。損金の額に算入された貸倒引当金勘定の金額は、翌事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されます(法人税法 第52条第10項)。会計上は差額補充法を採用していても、申告書上は毎期全額を戻し入れて新たに繰り入れる形になります。
会計と税務の差異と税効果
会計上の貸倒引当金と税務上の繰入限度額の差額は、そのまま放置されるわけではありません。差異の生じ方を整理すると次のとおりです。
| 差異が生じる場面 | 差異の内容 |
|---|---|
| 資本金1億円超の会社 | 税務上は貸倒引当金の設定自体が認められないため、会計上計上した繰入額の全額が損金不算入になります。 |
| 貸倒懸念債権を計上したが法的手続の申立てがない | 会計上は財務内容評価法等で引き当てるのに対し、税務上は個別評価の要件を満たさず、一括評価の対象にとどまります。 |
| 一般債権の見積りが法定繰入率を上回る | 信用リスクの高い取引先が多い会社では、会計上の貸倒実績率が法定繰入率を上回り、超過額が損金不算入になります。 |
| キャッシュ・フロー見積法を採用 | 回収時期の後ろ倒しによる損失は税務上の繰入事由に当たらないため、全額が差異になります。 |
これらの差異は、いずれ債権が実際に貸倒れたときに損金算入される性質のものであるため、将来減算一時差異として繰延税金資産の計上対象になります。ただし、計上できるかどうかは会社の課税所得の見込みなど回収可能性の判断次第です。
会計上の貸倒引当金残高が20,289、税務上の繰入限度額が2,000で、差額18,289が将来減算一時差異となり、法定実効税率を30%とした場合の仕訳は次のとおりです(単位:千円、千円未満切捨て)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 5,486 | 法人税等調整額 | 5,486 |
債務者の業績が悪化している局面ほど貸倒引当金は増えますが、同時に自社の課税所得も細っていることが多く、繰延税金資産の回収可能性の判断が厳しくなります。「引当金は積んだが繰延税金資産は立てられない」という組み合わせは実務でよく起こります。
関連コラムスケジューリング不能な一時差異とは|繰延税金資産の計上可否と仕訳▸
実務での落とし穴
上場準備企業の監査対応で実際に指摘が出やすいのは、次の4点です。
- 税務の計算をそのまま会計に流用している。法定繰入率だけで貸倒引当金を計上し、会計上の債権区分を行っていないケースです。監査の初年度に必ず論点になります。
- 貸倒実績率を単年度で算定している。当期を最終年度とする算定期間を含む2〜3算定期間の平均値によるのが原則です(金融商品会計に関する実務指針 第110項)。
- 貸倒懸念債権の見積方法を期ごとに変えている。同一の債権については、債務者の状況等が変化しない限り同一の方法を継続適用しなければなりません(金融商品に関する会計基準 第28項)。
- 担保の処分見込額を時価のまま置いている。担保の信用度、流動性および時価の変動の可能性を考慮する必要があります(金融商品会計に関する実務指針 第114項)。定期的な見直しも求められます。
また、貸倒引当金は会計上の見積りの代表例であり、金額的重要性が高い場合には注記の検討も必要です。
関連コラム会計上の見積りの開示の記載例|注記項目の選び方と文例▸
基準の適用時期と改正の経緯
金融商品に関する会計基準は1999年1月に公表され、2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(金融商品に関する会計基準 第41項)。その後、2006年・2007年・2008年に改正され、2019年改正会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています(同 第41項)。
直近では2026年に改正が行われていますが、これは特別目的会社を譲受人とする金融資産の譲渡における消滅の認識の範囲を明確化するものであり、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首以後に実施される金融資産の譲渡から適用されます(2026年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首以後に実施される譲渡から早期適用が可能です)。貸倒見積高の算定に関する第27項および第28項の定めには変更はありませんので、本記事で解説した計算方法はそのまま適用されます。
具体的な債権区分の判定や見積方法の選択は、取引先の状況や自社の債権管理体制によって結論が変わります。判断に迷うケースは、公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
貸倒引当金の計算方法は、会計と税務の2本立てで考えるのが出発点です。会計上は債権を一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等の3つに区分し、それぞれ貸倒実績率法、財務内容評価法またはキャッシュ・フロー見積法、財務内容評価法(残額全額)で貸倒見積高を算定します(金融商品に関する会計基準 第27項、第28項)。
一方、税務上は資本金1億円以下の中小法人等や銀行・保険会社等に設定が限られ、個別評価金銭債権は事実の区分ごとの定率、一括評価金銭債権は貸倒実績率または法定繰入率で繰入限度額を計算します(法人税法 第52条、租税特別措置法 第57条の9)。両者の差額は将来減算一時差異として税効果の検討対象になります。決算では会計の見積りを先に固め、税務の限度額は別計算で申告調整する、という順序を崩さないことが実務の要点です。
お問い合わせはこちら参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針
- e-Gov法令検索 法人税法
- e-Gov法令検索 法人税法施行令
- e-Gov法令検索 租税特別措置法
- 国税庁 No.5501 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定
よくある質問
会計上の貸倒引当金と税務上の繰入限度額は一致しないのが普通ですか
一致しないのが通常です。会計上はすべての会社が債権の3区分に応じて見積りを行いますが、税務上は資本金1億円以下の中小法人等や銀行・保険会社等に設定が限られ、計算式も別に定められています(法人税法 第52条第1項)。差額は申告書で加算し、将来減算一時差異として税効果の検討対象になります。
貸倒懸念債権は財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法のどちらを使うべきですか
債権の状況に応じて選択できますが、元本の回収および利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権であることがキャッシュ・フロー見積法の前提です。担保や保証が付されている債権は財務内容評価法、支払条件の緩和が行われた債権はキャッシュ・フロー見積法が馴染みます。いずれにせよ、同一の債権については債務者の状況等が変化しない限り同一の方法を継続適用します(金融商品に関する会計基準 第28項)。
貸倒実績率の算定期間は何年にすればよいですか
算定期間は一般には債権の平均回収期間が妥当とされ、その期間が1年を下回る場合には1年とします。当期末に保有する債権に適用する貸倒実績率は、当期を最終年度とする算定期間を含む、それ以前の2〜3算定期間に係る貸倒実績率の平均値によります(金融商品会計に関する実務指針 第110項)。
取引先ごとの財務内容が分からない場合、債権区分はどうすればよいですか
一般事業会社では、原則的な区分方法に代えて、債権の計上月(売掛金の場合)または弁済期限(貸付金等の場合)からの経過期間に応じて債権区分を行う簡便な方法も認められています(金融商品会計に関する実務指針 第107項)。ただし、重要な債務者については、一定期間ごとに業況および財務内容を調査したうえで債務弁済能力を検討することが必要です(同 第109項)。
法定繰入率と貸倒実績率はどちらを使ってもよいのですか
中小企業者等(適用除外事業者に該当するものを除く)は、法定繰入率による計算を選択することができます(租税特別措置法 第57条の9第1項)。原則は貸倒実績率による計算であり、法定繰入率は特例という位置づけです。両方を試算して有利な方を選択するのが実務です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



