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財務会計

吸収合併の会計処理と仕訳|取得と共通支配下の判定・抱合せ株式

目次
  1. 吸収合併の会計処理の全体像
  2. 取得か共通支配下の取引かの判定
  3. 共通支配下の取引の範囲
  4. 取得と判定された場合の取得企業の決定
  5. 取得と判定された吸収合併の会計処理
  6. 取得原価の算定と取得関連費用
  7. 取得原価の配分とのれん
  8. 取得と判定された吸収合併の仕訳
  9. 増加すべき株主資本の判定
  10. 共通支配下の取引と判定された吸収合併の会計処理
  11. 簿価引継ぎと差額の処理
  12. 親会社が子会社を吸収合併する場合と抱合せ株式消滅差損益
  13. 抱合せ株式消滅差損益の仕訳
  14. 子会社同士の合併と増加すべき株主資本
  15. 子会社同士の合併の仕訳
  16. 子会社が親会社を吸収合併する場合
  17. 吸収合併の実務上の留意点
  18. 適用時期と改正の経緯
  19. まとめ
  20. 参考文献
  21. よくある質問
  22. 吸収合併が取得か共通支配下の取引かは、何を基準に見分けますか。
  23. 抱合せ株式消滅差損益はどの区分に表示しますか。
  24. 吸収合併で増加する株主資本は、払込資本と利益剰余金のどちらになりますか。
  25. 合併に要した費用やのれんの償却はどのように扱いますか。

吸収合併の会計処理は、まずその合併が「取得」に当たるのか「共通支配下の取引」に当たるのかを判定するところから始まります。ここを取り違えると、受け入れる資産・負債を時価で計上するのか帳簿価額で引き継ぐのかという出発点から結論が変わってしまいます。

この記事では、吸収合併の会計処理を分岐フローに沿って整理し、取得の場合の時価受入れとのれん、共通支配下の場合の簿価引継ぎ、抱合せ株式消滅差損益、そして増加すべき株主資本の判定まで、仕訳例を交えて解説します。

吸収合併の会計処理の全体像

吸収合併は、消滅会社の権利義務のすべてを存続会社が承継し、消滅会社が解散する組織再編です。会計上は、ある企業を構成する事業と他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合される「企業結合」に該当します(企業結合に関する会計基準 第5項)。

会計処理の基準日となるのは合併期日です。企業結合日とは、被取得企業もしくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日、または結合当事企業の事業のすべてもしくは事実上すべてが統合された日をいい、合併の場合には合併期日がこれに当たります(企業結合に関する会計基準 第15項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第31項)。合併期日は会社法上の組織再編の効力が発生する日と同じ日になります。

企業結合に該当する取引には、共同支配企業の形成および共通支配下の取引も含めて企業結合会計基準が適用されます(企業結合に関する会計基準 第3項)。つまり、吸収合併の会計処理は次の3つの類型のいずれに当たるかで決まります。

取得 パーチェス法を適用します。被取得企業から受け入れる資産及び負債を企業結合日の時価を基礎として計上し、取得原価との差額をのれん又は負ののれんとして処理します。
共同支配企業の形成 移転する資産及び負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上します。
共通支配下の取引 移転する資産及び負債を、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します。差額は純資産として処理します。

共同支配企業の形成および共通支配下の取引以外の企業結合は、すべて取得となります(企業結合に関する会計基準 第17項)。実務で扱う吸収合併の大半は、グループ外の会社を取り込む「取得」か、グループ内再編としての「共通支配下の取引」かのどちらかです。

関連コラム企業結合に関する会計基準|取得法とのれん・取得原価の配分の実務▸

取得か共通支配下の取引かの判定

共通支配下の取引の範囲

共通支配下の取引とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます。親会社と子会社の合併及び子会社同士の合併は、共通支配下の取引に含まれます(企業結合に関する会計基準 第16項)。

ここでいう「支配」とは、ある企業又は企業を構成する事業の活動から便益を享受するために、その企業又は事業の財務及び経営方針を左右する能力を有していることをいいます(企業結合に関する会計基準 第7項)。

実務で判断に迷いやすいのが「同一の株主」の範囲です。支配の主体である同一の株主は企業に限定されず、個人も含まれます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第201項)。オーナー企業のグループ再編では、この点が判定を分ける場面があります。

また、同一の株主により支配されているかどうかの判定にあたっては、ある株主と緊密な者及び同意している者が保有する議決権を合わせて、結合当事企業のすべてが同一の株主により最終的に支配されているかを実質的に判定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第202項)。一方、投資会社とその関連会社との企業結合は、共通支配下の取引には該当しません(同適用指針 第201項)。持分比率が50%以下の関連会社との合併は共通支配下ではなく取得として扱う、という整理です。

関連コラム共通支配下の取引とは|グループ内再編の会計処理と簿価引継ぎ▸

取得と判定された場合の取得企業の決定

取得と判定された企業結合では、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定します。被取得企業の支配を獲得することとなる取得企業を決定するために、連結財務諸表に関する会計基準の考え方を用います(企業結合に関する会計基準 第18項)。

対価の種類が株式である吸収合併では、通常は株式を交付する企業が取得企業となりますが、必ずしもそうならない場合もあるため、次のような要素を総合的に勘案しなければなりません(企業結合に関する会計基準 第20項)。

  • 総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ
  • 最も大きな議決権比率を有する株主の存在
  • 取締役等を選解任できる株主の存在
  • 取締役会等の構成
  • 株式の交換条件(企業結合前の株式の時価を超えるプレミアムの支払)

また、いずれかの企業の相対的な規模が著しく大きい場合には、通常、当該相対的な規模が著しく大きい結合当事企業が取得企業となります(企業結合に関する会計基準 第21項)。結合当事企業が3社以上である場合には、これらに加えて、いずれの企業がその企業結合を最初に提案したかについても考慮します(同基準 第22項)。

吸収合併では、法律上存続する会社が議決権のある株式を交付するにもかかわらず、会計上は法律上消滅する会社が取得企業に該当することがあります。これがいわゆる逆取得です(企業結合に関する会計基準 第79項)。この場合、存続会社の個別財務諸表では、取得企業である消滅会社の資産及び負債を合併直前の適正な帳簿価額により計上します(同基準 第34項)。形式と実質が逆転するため、合併契約の設計段階で確認しておきたい論点です。

取得と判定された吸収合併の会計処理

取得原価の算定と取得関連費用

被取得企業又は取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します。支払対価が株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と被取得企業又は取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します(企業結合に関する会計基準 第23項)。市場価格のある取得企業の株式が対価として交付される場合には、取得の対価となる財の時価は、原則として企業結合日における株価を基礎にして算定します(同基準 第24項)。

実務で見落とされやすいのが取得関連費用です。外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等の取得関連費用は、取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合に関する会計基準 第26項)。株式交付費を含む合併に要した支出額も、発生時の事業年度の費用として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-7項)。デューデリジェンス費用を取得原価に加算してしまう誤りは、上場準備の過去決算の見直しでも比較的よく見つかります。

取得原価の配分とのれん

取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なものの、企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項)。受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います(同基準 第29項)。

取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとなり、下回る場合には、その不足額は負ののれんとなります(企業結合に関する会計基準 第31項)。のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します(同基準 第32項)。のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます(同基準 第32項ただし書き)。

負ののれんが生じると見込まれる場合には、識別可能資産及び負債がすべて把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直したうえで、なお負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(企業結合に関する会計基準 第33項)。表示区分は、のれんが無形固定資産で当期償却額は販売費及び一般管理費、負ののれんは原則として特別利益です(同基準 第47項、第48項)。

関連コラムPPA(取得原価の配分)とは|無形資産の識別とのれんの算定▸

取得と判定された吸収合併の仕訳

A社がB社を吸収合併し、対価としてA社株式のみを新株発行により交付したとします(単位:千円)。交付したA社株式の合併期日における時価は120,000、B社から受け入れた識別可能資産の時価は200,000、引き受けた負債の時価は100,000で、増加すべき払込資本はすべて資本金としたケースです。のれんは、取得原価120,000から受け入れた純額100,000を差し引いた20,000となります(企業結合に関する会計基準 第23項、第28項、第31項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第79項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 200,000 諸負債 100,000
のれん 20,000 資本金 120,000

増加すべき株主資本の判定

取得と判定された吸収合併で、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理します。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第79項)。

ここで押さえておきたいのは、取得の場合には消滅会社の利益剰余金を引き継がないという点です。増加するのはあくまで払込資本であり、利益剰余金は増加しません。対価として自己株式を処分した場合には、増加すべき株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加として会計処理します(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少とします。同適用指針 第80項)。また、対価として自社の株式以外の財産を交付した場合には、交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を損益に計上します(同適用指針 第81項)。

なお、吸収合併が取得とされた場合の吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、吸収合併消滅会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額によります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第83項)。

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共通支配下の取引と判定された吸収合併の会計処理

簿価引継ぎと差額の処理

共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産及び負債は、原則として、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合に関する会計基準 第41項)。移転された資産及び負債の差額は、純資産として処理します(同基準 第42項)。時価評価ものれんの計上も行わない、というのが基本形です。

連結財務諸表上は、共通支配下の取引は内部取引としてすべて消去します(企業結合に関する会計基準 第44項)。したがって、共通支配下の吸収合併で個別財務諸表に計上された損益は、連結上は残りません。

ただし、親会社の個別財務諸表で受け入れる子会社の資産及び負債について、親会社が作成する連結財務諸表において帳簿価額を修正しているときは、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第207項)。資本連結にあたり子会社の資産及び負債を時価評価している場合や、子会社株式の取得に係るのれんの未償却残高が計上されている場合には、親会社の個別財務諸表上も当該金額を引き継ぐことになります。単なる簿価引継ぎと考えていると漏れやすい論点です。

親会社が子会社を吸収合併する場合と抱合せ株式消滅差損益

親会社が子会社を吸収合併する場合、子会社は合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第205項)。

親会社の個別財務諸表上は、子会社から受け入れる資産及び負債を合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上したうえで、受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を、合併期日直前の持分比率に基づき親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分します。このうち親会社持分相当額と、親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第206項)。これが抱合せ株式消滅差損益です。

非支配株主持分相当額については、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価)との差額をその他資本剰余金とし、合併により増加する親会社の株主資本の額は払込資本として会計処理します(同適用指針 第206項)。

吸収合併が行われた後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、この抱合せ株式消滅差損益は連結財務諸表上、過年度に認識済みの損益となるため、相殺消去します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第208項)。個別で特別利益が立っても連結には残らない、という点は説明を求められやすいところです。

抱合せ株式消滅差損益の仕訳

P社が発行済株式の100%を保有するS社を吸収合併したとします(単位:千円)。P社が保有するS社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額は70,000、S社の合併期日の前日における適正な帳簿価額による資産は180,000、負債は100,000(株主資本は80,000)で、対価は交付していません。親会社持分相当額80,000と抱合せ株式の帳簿価額70,000との差額10,000が抱合せ株式消滅差益となります(企業結合に関する会計基準 第41項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第206項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 180,000 諸負債 100,000
子会社株式 70,000
抱合せ株式消滅差益 10,000

子会社同士の合併と増加すべき株主資本

同一の株主により支配されている子会社同士の吸収合併で、合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合、存続会社である子会社は、受け入れた資産及び負債を合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します。増加すべき株主資本の会計処理は、合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理に準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第247項)。

その内容は次の2つです(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第185項)。

原則的な会計処理 吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理します。内訳項目は会社法の規定に基づき決定します。
認められる
会計処理
合併の対価が原則として自社の株式のみである場合、消滅会社の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目を、そのまま引き継ぐことができます。

つまり、共通支配下の子会社同士の合併では、消滅会社の利益剰余金をそのまま引き継ぐ処理が認められています。取得の場合に払込資本しか増加しないのと対照的で、ここが「増加すべき株主資本」の判定で最も差が出る場面です。なお、消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合には、原則的な会計処理では払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理します(同適用指針 第185項)。

存続会社が消滅会社の株式を保有していた場合の抱合せ株式については、消滅会社の株主資本の額から当該抱合せ株式の適正な帳簿価額を控除した額を払込資本の増加とする方法か、消滅会社の株主資本を引き継いだ上で当該抱合せ株式の適正な帳簿価額をその他資本剰余金から控除する方法のいずれかによります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第247項)。

子会社同士の合併の仕訳

同一の親会社に支配されるC社(存続会社)とD社(消滅会社)が合併し、対価はC社の新株のみで、C社はD社株式を保有していないとします(単位:千円)。D社の合併期日の前日における適正な帳簿価額による資産は90,000、負債は50,000、株主資本の内訳は資本金30,000と繰越利益剰余金10,000です。ここでは消滅会社の株主資本の内訳をそのまま引き継ぐ「認められる会計処理」を採用しています(企業結合に関する会計基準 第41項、第42項、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第247項、第185項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 90,000 諸負債 50,000
資本金 30,000
繰越利益剰余金 10,000

子会社が親会社を吸収合併する場合

子会社が吸収合併存続会社となり、親会社が吸収合併消滅会社となる合併も、共通支配下の取引に該当します。この場合、親会社は合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第209項)。

子会社の個別財務諸表上は、親会社から受け入れる資産及び負債を合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上したうえで、親会社が所有していた子会社株式を自己株式として株主資本から控除します。移転された資産及び負債の差額は純資産として処理し、具体的には逆取得となる吸収合併の会計処理に準じて処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第210項、企業結合に関する会計基準 第42項)。

吸収合併が行われた後に子会社が連結財務諸表を作成する場合には、個別財務諸表における処理を振り戻し、親会社が子会社の非支配株主から株式を取得したものとした会計処理を行います(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第212項)。

吸収合併の実務上の留意点

会計処理の分岐そのものよりも、周辺の実務論点で作業量が膨らむことが少なくありません。上場準備企業のグループ再編では、次の4点を早めに詰めておくと合併期日前後の混乱を避けられます。

会計処理方法の統一 存続会社と消滅会社の間で会計処理方法に違いがある場合、同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については、会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一します。
統一のタイミング 会計処理方法の統一は、原則として存続会社が行い、合併期日に会計処理方法を変更します。複数の会計処理方法を統一する必要がある場合は、原則として同一の事業年度に行います。
合併に要した支出額 株式交付費を含む合併に要した支出額は、取得原価に含めず、発生時の事業年度の費用として処理します。
新株予約権の承継 存続会社は消滅会社における新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぎます。現金を交付する場合は、引き継いだ帳簿価額との差額を損益に計上します。

会計処理方法の統一は、日本公認会計士協会の親会社等と子会社の会計処理の統一に関する取扱いに準じて行います(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-5項、第84-6項)。合併に要した支出額の費用処理は同適用指針 第84-7項、新株予約権の承継は同適用指針 第84-4項が根拠です。

開示面では、企業結合年度において取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、企業結合の概要、取得原価の算定等に関する事項、取得原価の配分に関する事項、比較損益情報などを注記します(企業結合に関する会計基準 第49項)。共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、企業結合の概要と実施した会計処理の概要などを注記します(同基準 第52項)。また、子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないときは、親会社が子会社を吸収合併したものとした場合と比較した影響額を注記します(同基準 第53項)。

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適用時期と改正の経緯

企業結合に関する会計基準はすでに適用されている基準です。2003年に公表された会計基準は2006年4月1日以後実施される企業結合から適用されました(企業結合に関する会計基準 第56項)。

その後、持分プーリング法の廃止や取得企業の決定方法の見直しなどを内容とする2008年の改正が行われ、2010年4月1日以後実施される企業結合から適用されています(企業結合に関する会計基準 第57項)。さらに、少数株主持分(非支配株主持分)の取扱い、取得関連費用の会計処理、暫定的な会計処理の確定に関する処理を主な見直し内容とする2013年の改正が行われ、2015年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています(同基準 第58-2項)。

最新の改正は2019年の改正で、条件付取得対価について、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく返還されるものも含まれる旨、及び将来の業績に依存する条件付取得対価について対価が返還される場合の会計処理を明確にする改正が行われました(企業結合に関する会計基準 第65-2項)。この改正は2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用されています(同基準 第58-3項)。

企業会計基準適用指針第10号は2005年12月27日に公表され、2006年及び2007年に所要の改正が行われた後、2008年及び2013年の企業結合会計基準等の改正に伴う改正を経て、2019年に企業結合会計基準の改正に伴う所要の改正が行われています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第1項、第1-2項)。

まとめ

吸収合併の会計処理は、次の順序で押さえると迷いません。

  1. 分岐の判定 — 結合当事企業のすべてが企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配されているかを確認し、共通支配下の取引か取得かを決める(企業結合に関する会計基準 第16項、第17項)。
  2. 取得の場合 — 企業結合日の時価で識別可能資産及び負債を受け入れ、取得原価との差額をのれん又は負ののれんとする。取得関連費用は発生した事業年度の費用(同基準 第26項、第28項、第31項)。
  3. 共通支配下の場合 — 移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぎ、差額は純資産として処理する(同基準 第41項、第42項)。
  4. 抱合せ株式 — 親会社持分相当額と抱合せ株式の適正な帳簿価額との差額を特別損益に計上する(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第206項)。
  5. 増加すべき株主資本 — 取得の場合は払込資本の増加、共通支配下の子会社同士の合併では消滅会社の株主資本の内訳をそのまま引き継ぐ処理も認められる(同適用指針 第79項、第185項、第247項)。

吸収合併は、法律上の形式と会計上の実質が一致しない逆取得や、連結上の帳簿価額の引継ぎなど、契約の設計段階で結論が変わる論点を多く含みます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

参考文献

よくある質問

吸収合併が取得か共通支配下の取引かは、何を基準に見分けますか。

結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合が共通支配下の取引です(企業結合に関する会計基準 第16項)。親会社と子会社の合併及び子会社同士の合併はこれに含まれます。共同支配企業の形成と共通支配下の取引以外の企業結合は、すべて取得となります(同基準 第17項)。なお、同一の株主には個人も含まれ、投資会社とその関連会社との企業結合は共通支配下の取引には該当しません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第201項)。

抱合せ株式消滅差損益はどの区分に表示しますか。

親会社が子会社を吸収合併する場合、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を持分比率に基づき按分した親会社持分相当額と、親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第206項)。なお、合併後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、この損益は連結上、過年度に認識済みの損益となるため相殺消去されます(同適用指針 第208項)。

吸収合併で増加する株主資本は、払込資本と利益剰余金のどちらになりますか。

取得と判定された企業結合で取得企業が新株を発行した場合は、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理し、内訳項目は会社法の規定に基づき決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第79項)。一方、共通支配下の子会社同士の合併で対価が存続会社の株式のみである場合には、消滅会社の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目をそのまま引き継ぐ会計処理も認められています(同適用指針 第185項、第247項)。

合併に要した費用やのれんの償却はどのように扱いますか。

外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等の取得関連費用は、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合に関する会計基準 第26項)。株式交付費を含む合併に要した支出額も発生時の事業年度の費用として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第84-7項)。のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します(企業結合に関する会計基準 第32項)。表示は無形固定資産、当期償却額は販売費及び一般管理費の区分です(同基準 第47項)。

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