予実分析のやり方【差異分析表のひな形】差異の要因分解と改善の打ち手
目次
- 予実分析のやり方【差異分析表のひな形】
- 差異分析表に置く7つの欄
- 記入例(作例・単位は千円)
- 売上差異を価格と数量に分解する
- 2つの計算式
- 計算例
- 原価・経費の差異を分解する
- 直接材料費の計算例
- どの差異から手を付けるか
- 予算の前提が変わっていないかを先に確認する
- 差異から改善の打ち手へ
- 財務数値の手前にあるKPIを併せて見る
- サイクルは月次、確定は早く
- 予実分析で陥りやすい落とし穴
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 予実分析の表には何を入れればよいですか。
- 差異率はどのように計算しますか。
- 売上の差異を価格と数量に分ける計算式を教えてください。
- 原価の差異はどのような区分で分析しますか。
- 異常な原因で生じた差異も同じように扱ってよいですか。
- 予実分析はどのくらいの頻度で行うべきですか。
- 差異が大きいとき、まず何を疑うべきですか。
予実分析でつまずくのは、差異を計算する手前ではなく「差異を出したあと」です。売上が予算に1,200千円届かなかったと分かっても、それが値引きによるものか受注件数の不足によるものかを切り分けられなければ、翌月の打ち手は決まりません。予実分析のやり方の要点は、差異を一覧にする表の型を決めることと、その差異を価格と数量のように要因へ分解することの2つに集約されます。
本記事では、そのまま転記して使える差異分析表のひな形を先に示し、続いて売上・原価・経費の差異を要因分解する計算例、分析する差異の優先順位、改善の打ち手への落とし込みまでを、公認会計士事務所の実務視点で整理します。数値はすべて説明用の作例です。
予実分析のやり方【差異分析表のひな形】
予実分析は、予算(計画)と実績(結果)を突き合わせ、差異の大きさを算定・記録し、その原因を分析して経営管理者に報告する一連の流れを指します。原価の領域では、この「差異を算定記録し、分析して報告する」という手続き自体が制度として位置づけられており、原価計算の目的にも原価管理と予算統制のための資料提供が挙げられています(原価計算基準 1(三)、原価計算基準 1(四))。予実分析は、この考え方を売上や販管費を含む損益全体へ広げたものだと捉えると、必要な項目が決まります。
差異分析表に置く7つの欄
最初に作るべきは、凝った資料ではなく、毎月同じ形で埋まる1枚です。次の7欄を用意すれば、月次会議で「どこが」「どれだけ」「なぜ」「次に何をするか」が1行で追えます。
| 科目 | 売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業利益など、社内で管理している単位に合わせた勘定科目。部門別・製品別に分けるかは、打ち手を決められる粒度で判断します。 |
|---|---|
| 予算額 | 期首に確定した当月分と累計分。期中に改定した場合は、当初予算と改定後予算のどちらを基準にしたかを必ず併記します。 |
| 実績額 | 月次決算で確定した当月分と累計分。見込みや速報値を混ぜると差異の意味が変わるため、確定値に統一します。 |
| 差異額 | 実績額から予算額を差し引いた金額。収益はプラスが有利、費用はマイナスが有利になるため、表の中で有利・不利の向きを明示します。 |
| 差異率 | 差異額を予算額で割った比率。金額の大きい科目と率の大きい科目は一致しないため、両方を並べて見ます。 |
| 差異の主因 | 要因分解の結果を1行で書く欄。「値引き」ではなく「単価10千円の引下げによる価格差異450千円」のように、金額まで書き切ります。 |
| 打ち手と期日 | 誰が、いつまでに、何をするか。ここが空欄の行は、分析ではなく報告で終わっています。 |
差異率は次の式で求めます。金額の絶対値が小さくても率が大きい科目は、予算の前提そのものが崩れている可能性があります。
記入例(作例・単位は千円)
ある月の営業損益について、上の7欄を埋めた例が次の表です。営業利益が予算を930千円下回っていますが、原因は費用ではなく売上側にあることが1枚で分かります。
| 科目 | 売上高 |
|---|---|
| 予算額 | 12,000 |
| 実績額 | 10,800 |
| 差異額 | △1,200(不利) |
| 差異率 | △10.0% |
| 差異の主因 | 単価引下げによる価格差異450、受注件数3件減による数量差異750 |
| 打ち手と期日 | 値引き決裁を営業部長承認に変更(当月内)、失注3件の要因を営業会議で共有(翌月第1週) |
同じ月の売上原価は予算7,200に対し実績6,750、販売費及び一般管理費は予算3,600に対し実績3,780でした。営業利益の予算1,200に対し実績は270となり、差異930のうち大半が売上高に起因していることが読み取れます。費用側の差異を細かく追う前に、まず売上高の分解へ進むべき局面です。
売上差異を価格と数量に分解する
差異額だけでは、打ち手は決まりません。売上高の差異は、単価の変動によるものと、数量の変動によるものに分けて捉えます。この分解は、原価差異について定められている価格差異と数量差異の考え方(原価計算基準 46(二))を、売上高の側へ応用したものです。
2つの計算式
価格差異は実績数量を、数量差異は予算単価を掛けます。掛ける相手を取り違えると差異の合計が一致しなくなるため、順序を固定して運用します。
計算例
先ほどの作例で、予算は単価250千円×48件、実績は単価240千円×45件だったとします。それぞれの式に当てはめると次のとおりです。
ここまで分解して初めて、打ち手が分かれます。不足の6割強は受注件数の不足によるものなので、値引きの抑制よりも商談数と受注率の回復が先です。実務では、この2つの差異の比率が月ごとにどう動くかを並べておくと、価格競争が始まった時期を数値で特定できます。
原価・経費の差異を分解する
標準原価計算を採用している製造業では、原価差異はあらかじめ定められた区分に沿って算定・分析します(原価計算基準 46)。売上の分解と発想は同じで、「単価に相当するもの」と「数量に相当するもの」に分けていきます。
| 材料受入価格差異 | 標準受入価格と実際受入価格との差異に、実際受入数量を掛けて算定します(原価計算基準 46(一))。 |
|---|---|
| 直接材料費差異 | 材料種類別に価格差異と数量差異へ分解します。価格差異は実際消費数量を、数量差異は標準消費価格を掛けます(原価計算基準 46(二))。 |
| 直接労務費差異 | 部門別または作業種類別に賃率差異と作業時間差異へ分解します。賃率差異は実際作業時間を、作業時間差異は標準賃率を掛けます(原価計算基準 46(三))。 |
| 製造間接費差異 | 原則として一定期間の部門間接費差異として算定し、能率差異や操業度差異などに分析します(原価計算基準 46(四))。 |
直接材料費の計算例
標準単価500円/kg、製品1個あたりの標準消費量2kg、当月生産1,000個という前提で、実際は単価520円/kg、消費量1,900kgだったとします。標準原価は1,000千円、実際発生額は988千円です。
合計では12千円の有利差異ですが、内訳は仕入価格の上昇による38千円の不利と、歩留まり改善による50千円の有利に分かれます。合計だけを見て「原価は計画どおり」と結論づけると、仕入価格の上昇という継続的なリスクを見落とします。差異は必ず符号の違う要因に分けてから評価するのが実務の鉄則です。
なお、数量差異・作業時間差異・能率差異などのうち、異常な状態に基づくと認められるものは非原価項目として処理します(原価計算基準 47(二)1)。臨時の設備事故や災害による差異を通常の原価管理の土俵に載せると、現場の評価がゆがみます。予実分析の場でも、異常要因は別枠に切り出して議論します。
関連コラム原価計算基準の全文構成47項目一覧|実務への読み替え対応表▸
販売費及び一般管理費は標準原価の枠組みに乗らないため、費用の性質で分けて見ます。売上に連動する変動費(販売手数料、荷造運賃など)は、売上高の減少に応じて減っているかを確認し、減っていなければ単価やレートの悪化を疑います。固定費(地代家賃、人件費、システム利用料など)は、金額の大小より「予算に無かった支出が入っていないか」を見る欄だと割り切ると、毎月の確認が速くなります。
公認会計士へまずはご相談
公認会計士事務所プライムパートナーズ
お問い合わせはこちら
どの差異から手を付けるか
すべての差異を同じ熱量で追うと、分析そのものが目的化します。実務では、次の順に絞り込むと月次会議の時間内に結論が出ます。
- 金額の大きい順に3科目まで:営業利益に対するインパクトで並べ、上位だけを分解します。
- 差異率が大きい科目を追加で1〜2件:金額は小さくても率が大きい科目は、予算の前提が崩れているサインです。
- 2か月以上続いている差異:単月のぶれは翌月に戻ることがありますが、連続する差異は構造的な問題です。
逆に、金額も率も小さく、単月で収まっている差異は原因を追わずに一覧へ残すだけで足ります。分析にかけた時間が改善の金額を上回るなら、その分析は費用対効果に見合いません。
予算の前提が変わっていないかを先に確認する
差異が大きいとき、現場の実行力を疑う前に確認すべきは予算側です。予算策定時に置いた前提(市場規模、主要顧客の発注計画、原材料相場、人員計画、法規制など)が期中に変わっていれば、差異は現場の問題ではなく前提の陳腐化を表しています。
前提が崩れたまま当初予算を掲げ続けると、達成不能な目標が毎月報告され、予実分析そのものが形骸化します。期中の予算改定を行う場合は、当初予算と改定後予算の両方を残し、どちらとの差異を議論しているのかを表の中で明示してください。改定の履歴を消してしまうと、翌期の予算精度を検証する材料が失われます。
差異から改善の打ち手へ
要因分解まで終えたら、差異のパターンごとに打ち手の型を持っておくと、会議での議論が早くなります。以下は典型的な対応関係です。
| 差異のパターン | 優先して検討する打ち手 |
|---|---|
| 価格差異が不利(単価下落) | 値引き決裁権限の引上げ、価格改定、低採算案件の受注基準の見直し |
| 数量差異が不利(受注減) | 商談数と受注率の分解、失注要因の共有、リード獲得施策の前倒し |
| 材料の価格差異が不利 | 仕入先の複数化、発注ロットと在庫水準の見直し、販売価格への転嫁可否の検討 |
| 作業時間差異が不利 | 工程別の標準時間の再設定、段取り替え回数の削減、外注との切替判断 |
| 固定費が予算超過 | 予算に無い支出の発生経路の確認、稟議・承認フローの見直し |
財務数値の手前にあるKPIを併せて見る
売上高や利益は結果の指標なので、分かった時点では打ち手が半月遅れます。商談件数、受注率、平均単価、稼働率、歩留まりといった先行指標を予実分析の表に並べておくと、財務数値が動く前に異常を捉えられます。先ほどの作例であれば、受注件数3件の不足は、その前月の商談件数の落ち込みとして先に現れていたはずです。
サイクルは月次、確定は早く
分析の価値は速さでほぼ決まります。月次決算が翌月20日に締まる体制では、打ち手を実行できるのは翌々月からで、四半期に1回しか軌道修正できません。まずは月次実績を5営業日程度で確定させる体制を整え、重要プロジェクトは週次で数量系のKPIだけ追う、といった二層構えが現実的です。
予実分析で陥りやすい落とし穴
上場準備企業の支援で繰り返し見かけるのは、次の3つです。
- 予算と実績で集計ルールが違う:予算は受注ベース、実績は計上基準ベースといったずれがあると、差異の大半が定義の違いで説明されてしまいます。表を作る前に、両者の粒度と認識時点をそろえます。
- 差異を部門評価に直結させすぎる:差異がそのまま人事評価になると、達成しやすい予算を出す動機が生まれ、予算の精度が落ちます。評価と分析は別の会議体で扱うのが無難です。
- 報告書の欄が毎月増える:指摘を受けるたびに欄を足すと、半年後には誰も読まない資料になります。欄を足したら別の欄を落とす運用にします。
また、営業損益のマイナスが継続している事業や資産グループがある場合、予実分析は管理会計の問題にとどまりません。固定資産の減損の兆候に該当する可能性があるため、月次の差異が赤字の継続として現れてきたら、決算の論点としても確認が必要です。
関連コラム減損の兆候とは|4分類の判定チェックリストと仕訳▸
予算制度の設計、標準原価の設定水準、期中改定の扱いは、事業の実態によって適切な形が変わります。具体的なケースの判断は公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
予実分析のやり方は、7欄の差異分析表を毎月同じ形で埋めることから始まります。差異額と差異率を並べて対象を3〜5科目に絞り、価格差異と数量差異のように符号の違う要因へ分解し、分解結果を1行の主因と期日付きの打ち手に落とし込む。この流れを月次で回し続けることが、予実分析を報告作業から経営改善の手段へ変える唯一の方法です。
まずは今月分から、差異の主因欄に金額を書き切るところだけを徹底してみてください。金額で書けない差異は、まだ分解が足りていないという合図になります。
参考文献
よくある質問
予実分析の表には何を入れればよいですか。
科目、予算額、実績額、差異額、差異率、差異の主因、打ち手と期日の7欄で足ります。差異の主因欄には「値引き」ではなく「単価引下げによる価格差異450千円」のように金額まで書き切ると、翌月の打ち手が決まります。
差異率はどのように計算しますか。
差異額を予算額で割って求めます。金額の大きい科目と率の大きい科目は一致しないため、両方を並べて見ます。金額が小さくても率が大きい科目は、予算の前提そのものが崩れているサインです。
売上の差異を価格と数量に分ける計算式を教えてください。
価格差異は(実績単価−予算単価)×実績数量、数量差異は(実績数量−予算数量)×予算単価で求めます。価格差異には実績数量を、数量差異には予算単価を掛ける点が入れ替わりやすいので、順序を固定して運用します。
原価の差異はどのような区分で分析しますか。
標準原価計算制度では、材料受入価格差異、直接材料費差異、直接労務費差異、製造間接費差異に分けて算定・分析します。直接材料費差異は価格差異と数量差異へ、直接労務費差異は賃率差異と作業時間差異へ分解します(原価計算基準 46)。
異常な原因で生じた差異も同じように扱ってよいですか。
数量差異・作業時間差異・能率差異などのうち異常な状態に基づくと認められるものは、非原価項目として処理します(原価計算基準 47(二)1)。予実分析の場でも、設備事故や災害などの異常要因は別枠に切り出して議論します。
予実分析はどのくらいの頻度で行うべきですか。
月次が基本です。ただし月次決算の確定が翌月20日では打ち手が翌々月になるため、5営業日程度での確定を目指します。重要プロジェクトは、商談件数や稼働率などの数量系KPIだけを週次で追う二層構えが現実的です。
差異が大きいとき、まず何を疑うべきですか。
現場の実行力より先に、予算の前提を確認します。市場規模、主要顧客の発注計画、原材料相場、人員計画などが期中に変わっていれば、差異は前提の陳腐化を表しています。期中改定を行う場合は、当初予算と改定後予算のどちらとの差異かを表に明示します。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



