新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(リースに関する会計基準 第58項)。IPO準備企業にとって問題になるのは、この適用初年度が「上場審査で見られる期間」のどこに当たるかです。
上場準備の実務では、申請期から遡った直前2期(いわゆるN-2期・N-1期)の財務諸表が比較可能な形で整っていることが前提になります。新リース会計基準の適用初年度がこの期間の途中に来ると、審査対象期間の中で会計方針が切り替わることになります。だからこそ、着手の起点は適用初年度そのものではなく、その前に来るN-2期の期首です。
この記事では、上場審査で何が問われるかという論点ではなく、IPO準備企業が自社のスケジュールに新リース会計基準をどう落とし込むかに絞って整理します。
適用時期と決算期ごとの適用初年度
新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。また、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。本基準の適用により、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」等に従って会計処理されている取引については、これらの会計基準等の適用を終了します(リースに関する会計基準 第59項)。
「2027年4月1日以後開始する事業年度」という言い方は、決算期によって適用初年度が1年近くずれます。自社の適用初年度を先に確定させないと、逆算のしようがありません。
| 決算期 | 強制適用となる適用初年度 |
|---|---|
| 3月決算 | 2028年3月期(2027年4月1日開始) |
| 6月決算 | 2028年6月期(2027年7月1日開始) |
| 9月決算 | 2028年9月期(2027年10月1日開始) |
| 12月決算 | 2028年12月期(2028年1月1日開始) |
12月決算の会社は、2027年1月1日開始の事業年度が「2027年4月1日以後開始」に当たらないため、適用初年度が2028年12月期まで後ろにずれます。同じ「2027年適用」という言葉で社内共有していると、9か月から1年の認識差が生まれます。
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N-2期から逆算する準備スケジュール
適用初年度が決まったら、そこから逆算して社内の作業を割り付けます。実務でつまずくのは会計処理そのものよりも、契約の洗い出しと、判断の文書化です。どちらも1つの決算期では終わりません。
| 時期 | 主に取り組む内容 |
|---|---|
| N-2期の期首まで | 適用初年度の確定、早期適用の要否判断、経過措置の方針の仮決め、契約を洗い出す範囲と担当部署の決定 |
| N-2期 | リース契約の網羅的な棚卸し、リースの識別判定、借手のリース期間と割引率の決定方針の文書化 |
| N-1期 | 使用権資産・リース負債の試算と影響額の把握、注記に必要なデータ項目の洗い出し、管理体制の整備 |
| 申請期 | 経過措置の適用結果の説明資料の整備、契約の新規発生・条件変更を拾う運用の定着 |
N-2期の期首を起点に置く理由は2つあります。1つは、契約の洗い出しが総務・人事・情報システムなど経理以外の部署に及ぶため、期中の依頼では回収しきれないこと。もう1つは、経過措置の選択が財務数値そのものを変えるため、影響額を早く把握しないと事業計画や資本政策の前提が動いてしまうことです。
特に成長中のIPO準備企業では、オフィスの増床・移転、店舗や倉庫の新規開設、社用車や情報機器の追加といった形で、リースに該当しうる契約が期中に増え続けます。棚卸しを一度で終わる作業と考えないほうが安全です。
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早期適用と原則どおりの適用の選び方
早期適用は、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から可能です(リースに関する会計基準 第58項)。3月決算であれば2026年3月期から、12月決算であれば2026年12月期から適用できます。
IPO準備企業が早期適用を検討する意味は、会計方針の切替えを審査で見られる期間より前に済ませられる可能性がある点にあります。適用初年度が申請期やN-1期に重なると、その期の財務諸表は前期と異なる会計方針で作成されることになり、期間比較の説明が一段増えます。
もっとも、早期適用には相応の前倒しコストが伴います。契約の棚卸しと測定の体制が整っていない段階で適用時期だけを前倒しすると、初年度の数値の精度が落ちます。判断材料は次の3点に整理できます。
- 想定している上場申請時期と、強制適用の適用初年度との重なり方
- リース契約の件数・種類と、契約情報を集約できている度合い
- 使用権資産・リース負債の計上が財務指標に与える影響の大きさ
実務では、契約件数が少なく影響額も限定的な会社ほど早期適用に踏み切りやすく、店舗や拠点を多く抱える会社ほど原則どおりの適用を選び、そのぶん準備期間を長く取る傾向があります。
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契約の棚卸しから使用権資産の計上まで
準備作業の中身を、実際の会計処理の順序に沿って確認します。
リースの識別
契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断します(リースに関する会計基準 第25項)。この判断にあたり、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含みます(リースに関する会計基準 第26項)。支配の移転は、顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、当該資産の使用を指図する権利を有する場合に認められます(リースに関する会計基準の適用指針 第5項)。
ここが上場準備の実務で最も手間のかかる工程です。契約書の題名が「賃貸借契約書」でなくても、業務委託契約や保守契約の中に特定された資産の使用を支配する権利が含まれていればリースに該当しうるためです。契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直しません(リースに関する会計基準 第27項)。
借手のリース期間の決定
借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定します(リースに関する会計基準 第31項)。合理的に確実であるかどうかの判定にあたっては、延長オプションや解約オプションの対象期間に係る契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、リースの解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性などの経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(リースに関する会計基準の適用指針 第17項)。
成長中の企業では、本社オフィスの内装に多額の投資をしている、拠点が事業上不可欠であるといった事情から、契約上の解約不能期間より長いリース期間になることが少なくありません。この判断の根拠を残しておくことが、後の説明負担を大きく左右します。
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リース開始日の当初測定
借手は、リース開始日に、算定された額によりリース負債を計上します。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項)。リース負債の計上額は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項)。
以下は自社作例です。本社オフィスについて、借手のリース期間5年、リース料は年12,000千円を各年度末に支払い、追加借入利子率は年2パーセントとします。開始日までに支払ったリース料・付随費用はないものとします。現在価値は56,562千円となります(リースに関する会計基準 第33項、第34項。単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 56,562 | リース負債 | 56,562 |
この時点で、これまで賃借料として費用処理していた契約が、貸借対照表に資産と負債の両建てで表れます。自己資本比率や有利子負債の水準を前提に置いた事業計画・資本政策には、必ず影響が及びます。
各期の費用配分
利息相当額については、借手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分します(リースに関する会計基準 第36項)。また、原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します(リースに関する会計基準 第38項)。
上記の作例で、1年目の利息費用は56,562千円に2パーセントを乗じた1,131千円、リース料の支払12,000千円との差額10,869千円がリース負債の返済額となります(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 1,131 | 現金預金 | 12,000 |
| リース負債 | 10,869 |
減価償却費は、使用権資産56,562千円をリース期間5年で配分し、1年目は11,312千円となります(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 11,312 | 使用権資産 | 11,312 |
賃借料12,000千円が、減価償却費11,312千円と支払利息1,131千円に置き換わります。営業利益より下の段階で費用が計上される部分が生じるため、営業利益やEBITDAといった指標の見え方も変わります。上場準備の過程で投資家や関係者へ示す数値の前提を、早い段階で揃えておくことが実務上は重要です。
短期リース・少額リースの簡便的取扱い
すべての契約を測定の対象にすると作業量が膨らむため、簡便的な取扱いの適用範囲をどこまで広げるかが、準備工数を左右します。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 短期リース | リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリース(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2)) |
| 少額リース | 重要性が乏しい減価償却資産について購入時に費用処理する方法が採用されている場合で借手のリース料が基準額以下のリース、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースでリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース、又は新品時の原資産の価値が少額であるリース(リースに関する会計基準の適用指針 第22項) |
短期リースについては、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたり原則として定額法により費用として計上することができます。この取扱いは、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと、又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに適用するか否かを選択できます(リースに関する会計基準の適用指針 第20項)。
少額リースについても、使用権資産及びリース負債を計上せず費用として計上することができます。このうち事業内容に照らして重要性が乏しいリースに係る取扱いを適用する場合、リース契約1件当たりの金額の算定の基礎となる対象期間は、原則として借手のリース期間としますが、契約に定められた期間とすることもできます(リースに関する会計基準の適用指針 第23項)。
注意したいのは、簡便的な取扱いを使う場合でも契約の洗い出しと判定そのものは省略できない点です。12か月以内かどうか、金額が基準額以下かどうかを判定するには、結局すべての契約を一覧化する必要があります。準備工数を減らせるのは測定と管理の部分であって、棚卸しの部分ではありません。
経過措置の選択がスケジュールを左右する
会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。
この選択は、IPO準備企業にとって単なる会計処理の選択ではありません。ただし書きの方法を選択する借手は、適用初年度においては、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行いません(リースに関する会計基準の適用指針 第136項)。つまり前期の数値は旧基準のまま並ぶことになり、期間比較の説明が必要になります。
また、ただし書きの方法を選択する借手及び貸手は、適用初年度においては、リースに関する会計基準第55項に記載した内容を適用初年度の比較情報に記載せず、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に定める事項を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第137項)。注記の作り方まで、この選択で分かれます。
ただし書きの方法を選ぶ場合には、実務負担を軽減する取扱いも用意されています。
- 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期末日において企業会計基準第13号を適用しているリース取引について、契約にリースが含まれているか否かの判断を行わずに会計基準を適用すること(リースに関する会計基準の適用指針 第119項)
- ファイナンス・リース取引に分類していたリースについて、前期末のリース資産及びリース債務の帳簿価額を、適用初年度の期首の使用権資産及びリース負債の帳簿価額とすること(リースに関する会計基準の適用指針 第120項)
- オペレーティング・リース取引に分類していたリース等について、適用初年度の期首時点における残りの借手のリース料を期首時点の借手の追加借入利子率で割り引いた現在価値によりリース負債を計上すること(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)
- 特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用すること、適用初年度の期首から12か月以内に借手のリース期間が終了するリースについて短期リースの方法で会計処理すること、付随費用を使用権資産の計上額から除外することなど(リースに関する会計基準の適用指針 第124項)
さらに、ただし書きの方法を選択する借手は、適用初年度の期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均と、前期末に開示したオペレーティング・リースの未経過リース料を当該追加借入利子率で割り引いた額と期首のリース負債との差額の説明を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第125項)。この差額の説明資料は、期首時点のデータが揃っていないと後から作れません。経過措置の方針は、適用初年度の期首を迎える前に決めておく必要があるのはこのためです。
関連コラム新リース会計基準の経過措置|適用初年度の選択肢と遡及適用の実務▸
上場準備で見落としやすい表示と注記
数値の算定だけでなく、表示と注記の準備も逆算の対象です。使用権資産については、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法、又は対応する原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法のいずれかにより表示します(リースに関する会計基準 第49項)。リース負債については、貸借対照表において区分して表示するか、リース負債が含まれる科目及び金額を注記します。このとき、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとします(リースに関する会計基準 第50項)。リース負債に係る利息費用についても、損益計算書において区分して表示するか、含まれる科目及び金額を注記します(リースに関する会計基準 第51項)。
注記としては、借手は会計方針に関する情報、リース特有の取引に関する情報、当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報を注記します(リースに関する会計基準 第55項)。リースに関する注記は独立の注記項目としますが、他の注記事項に既に記載している情報については、繰り返す必要はなく、当該他の注記事項を参照することができます(リースに関する会計基準 第57項)。
実務では、これらの注記に必要なデータ項目が既存の契約管理台帳に入っていないことが珍しくありません。契約単位のリース期間、割引率、支払スケジュールを、決算のたびに手作業で集計する運用のままでは、上場後の開示スピードに耐えられません。N-1期のうちに管理の仕組みまで含めて設計しておくことが望まれます。
まとめ
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用も認められています(リースに関する会計基準 第58項)。IPO準備企業がまず行うべきことは、自社の決算期から適用初年度を確定させ、それが想定している申請時期のどこに当たるかを重ね合わせることです。
そのうえで、N-2期の期首までに早期適用の要否と経過措置の方針を決め、N-2期で契約の棚卸しと判断の文書化、N-1期で影響額の試算と管理体制の整備を進めるのが、無理のない順序です。会計処理そのものより、契約情報を集める工程と、判断の根拠を残す工程に時間がかかります。逆算の起点を早めに置くほど、選べる選択肢は広がります。
リース契約の実態や上場準備の進捗は会社ごとに大きく異なり、早期適用や経過措置の選択も個別の事情に左右されます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
IPO準備企業は、新リース会計基準の対応をいつから始めるべきですか。
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(リースに関する会計基準 第58項)。実務上は、適用初年度の期首時点でリース負債の測定と注記に必要なデータが揃っている必要があるため、契約の棚卸しと判断の文書化を含めると、適用初年度の2期前を目安に着手しておくと余裕を持って進められます。
上場審査で見られる期間の途中で適用初年度を迎えても問題ありませんか。
会計基準の適用時期は制度で定まっているため、適用初年度が準備期間の途中に来ること自体が問題になるわけではありません。ただし、累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する方法を選択した場合、比較情報は新たな表示方法に従い組み替えないため(リースに関する会計基準の適用指針 第136項)、前期との比較を説明する資料が別途必要になります。この負担を見込んでスケジュールを組むことが実務上の要点です。
早期適用はいつから可能ですか。
2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。3月決算であれば2026年3月期から、12月決算であれば2026年12月期からが早期適用の最初の機会となります。
短期リースや少額リースの簡便的取扱いを使えば、準備の負担は小さくなりますか。
短期リースや少額リースについては、使用権資産及びリース負債を計上せず費用として計上することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第20項、第22項)。ただし、これらに該当するかどうかを判定するには全契約の一覧化が前提になるため、契約の洗い出し工程そのものは省略できません。軽くなるのは測定と継続管理の負担です。