株主資本等変動計算書の定義と位置づけ
株主資本等変動計算書(S/S)は、貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額を、主として株主資本の各項目の変動事由ごとに報告する財務諸表です。会社法の施行に伴い、すべての株式会社が貸借対照表・損益計算書に加えて作成することとされました。従来の利益処分計算書や連結剰余金計算書に代わる開示として、純資産の期首から期末までの動きを一覧で示す点に特徴があります。
本記事では、企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」に基づき、表示区分・表示方法・作成手順・注記事項を、上場準備企業の実務目線で整理します。純資産の連続性を正確に示す書類であるため、決算開示の完成度を左右する論点でもあります。
この会計基準は、株主資本等変動計算書を作成することとなるすべての会社に適用されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第6号 株主資本等変動計算書に関する会計基準
作成目的と対象範囲
株主資本等変動計算書は、連結株主資本等変動計算書および個別株主資本等変動計算書の表示区分・表示方法を定めることを目的とする会計基準に基づいて作成します。貸借対照表と損益計算書だけでは、剰余金の配当をいつでも決定でき、株式の数もいつでも変動させられる会社法のもとで、資本金・準備金・剰余金の数値の連続性を把握することが難しいため、その橋渡しとして位置づけられています。
対象は特定の業種や規模に限られず、株主資本等変動計算書を作成することとなるすべての会社です。連結財務諸表を作成する会社は連結株主資本等変動計算書を、作成しない会社は個別株主資本等変動計算書を、それぞれ整備します。
表示区分と各項目の性格
株主資本等変動計算書の表示区分は、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」が定める純資産の部の表示区分に従います。つまり、貸借対照表の純資産の部とS/Sの区分は一致させる必要があります。純資産の部は、大きく次の区分で構成されます。
- 株主資本:資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式など。株主に帰属する持分の中核。
- 評価・換算差額等:その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益など(連結ではその他の包括利益累計額)。
- 新株予約権:ストック・オプションを含む新株予約権の残高。
- 非支配株主持分:連結株主資本等変動計算書にのみ現れる区分。
これらの区分は、後述するとおり変動額の表示方法が株主資本とそれ以外とで異なります。上場準備で多いのは、評価・換算差額等や新株予約権の存在を失念し、株主資本だけで純資産を説明しようとするケースです。純資産の部の全区分を網羅しているかを最初に確認してください。
表示方法:株主資本とそれ以外の違い
株主資本等変動計算書の表示方法の要点は、区分ごとに変動額の見せ方が異なることにあります。株主資本の各項目は、当期首残高・当期変動額・当期末残高に区分し、当期変動額を変動事由ごとにその金額で表示します。たとえば利益剰余金であれば、剰余金の配当、当期純利益(又は当期純損失)といった事由別に金額を並べます。
一方、株主資本以外の各項目(評価・換算差額等、新株予約権、非支配株主持分)は、当期首残高・当期変動額・当期末残高に区分したうえで、当期変動額を原則として純額で表示します。ただし重要性を勘案し、主な変動事由ごとに金額を表示(注記による開示を含む)することもできます。株主資本以外は変動事由別開示の有用性が相対的に低く、事務負担にも配慮した取扱いです。
当期純利益の表示
連結損益計算書の親会社株主に帰属する当期純利益(又は当期純損失)は、連結株主資本等変動計算書において利益剰余金の変動事由として表示します。個別損益計算書の当期純利益(又は当期純損失)は、個別株主資本等変動計算書においてその他利益剰余金、又はその内訳科目である繰越利益剰余金の変動事由として表示します。損益計算書とS/Sの金額を整合させる要となる項目です。
残高整合という大原則
株主資本等変動計算書に表示される各項目の当期首残高および当期末残高は、前期および当期の貸借対照表の純資産の部における各項目の期末残高と整合していなければなりません。S/Sの当期首残高は前期末B/Sと、当期末残高は当期末B/Sと一致するのが原則です。この整合が崩れると、財務諸表全体の整合性が損なわれます。
なお、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に従って遡及処理を行った場合には、表示期間のうち最も古い期間の期首残高に対する累積的影響額を区分表示するとともに、遡及処理後の期首残高を記載します。会計方針の変更が生じた期の決算では、期首残高の起点が変わる点に注意が必要です。
様式イメージと作成手順
実際の株主資本等変動計算書は、純資産の各項目を横に並べ、変動事由を縦に並べる多列の様式(横型)で作成するのが一般的です。列には資本金・資本剰余金・利益剰余金・自己株式・株主資本合計・評価換算差額等・新株予約権などが並び、行には当期首残高、剰余金の配当、当期純利益、自己株式の取得、株主資本以外の項目の当期変動額(純額)、当期末残高などが並びます。縦型で作成することも認められています。
作成の流れは、次の手順で押さえると漏れが生じにくくなります。
- 期首残高の確定:前期末B/Sの純資産各項目を当期首残高として転記する。
- 株主資本の変動事由の洗い出し:増資、剰余金の配当、当期純利益、自己株式の取得・処分・消却などを事由別に集計する。
- 株主資本以外の当期変動額の算定:評価・換算差額等、新株予約権、非支配株主持分を純額で把握する。
- 当期末残高の算定と突合:期首+変動額=期末を計算し、当期末B/Sと一致することを確認する。
- 注記事項の整備:後述の注記を作成し、本表と整合させる。
上場準備の実務では、自己株式の処分差益・差損の資本剰余金への振替や、新株予約権の失効・行使に伴う振替の処理漏れが指摘されやすい論点です。変動事由の網羅性を、増減の起点となった取締役会・株主総会決議と突き合わせて確認すると精度が上がります。
注記事項
株主資本等変動計算書には、財務諸表利用者が持分の変動を把握できるよう、一定の事項を注記します。注記は原則として連結株主資本等変動計算書に記載し、内容が異なる自己株式に関する事項は個別株主資本等変動計算書にも記載します。
連結株主資本等変動計算書の注記
- 発行済株式の種類および総数に関する事項
- 自己株式の種類および株式数に関する事項
- 新株予約権および自己新株予約権に関する事項
- 配当に関する事項
個別株主資本等変動計算書の注記
個別株主資本等変動計算書には、自己株式の種類および株式数に関する事項を注記します。これに加えて、発行済株式・新株予約権・配当に準ずる事項を注記することも妨げられません。また、連結財務諸表を作成しない会社では、個別株主資本等変動計算書に連結の注記に準ずる事項を記載します。
中間株主資本等変動計算書
中間会計期間においても、他の中間財務諸表と同様に中間株主資本等変動計算書(中間連結・中間個別)を作成します。その作成方法は、通常の株主資本等変動計算書に準じます。四半期・中間開示を行う上場準備企業では、年度末と同じ考え方で期中の純資産変動を示す点を押さえておくとよいでしょう。
適用時期と改正の経緯
本会計基準は平成17年12月に公表され、株主資本等変動計算書は会社法(平成17年法律第86号)施行日以後終了する連結会計年度および事業年度から作成することとされています。すでに長く適用されている基準であり、現在の決算実務では作成が定着しています。この基準の適用に伴い、連結剰余金計算書は廃止され、個別損益計算書・中間個別損益計算書の末尾は当期純利益(又は当期純損失)となりました。
その後、平成22年改正会計基準が公表され、企業会計基準第24号により遡及処理における累積的影響額を期首残高に反映する取扱いが定められたことを踏まえた改正が行われました。この平成22年改正は、平成23年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度から適用されています。さらに平成25年改正会計基準では、当期純利益を親会社株主に帰属する当期純利益とする表示方法の変更や、企業結合会計基準等の改正に伴う経過的な取扱いの整備が行われ、その適用時期は平成25年改正の企業結合会計基準および連結会計基準と同様とされています。実務では、この最新の改正を反映した表示(親会社株主に帰属する当期純利益の表記など)に準拠しているかを確認してください。
まとめ
株主資本等変動計算書は、純資産の部の一会計期間の変動を、株主資本は変動事由ごとに、株主資本以外は原則純額で示す財務諸表です。表示区分は貸借対照表の純資産の部に従い、期首・期末残高はB/Sと整合させる必要があります。連結では発行済株式・自己株式・新株予約権・配当の4項目を注記し、親会社株主に帰属する当期純利益は利益剰余金の変動事由として表示します。会社法施行以後の決算で作成が定着し、平成22年・平成25年の改正を経た現行の表示に準拠することが求められます。上場準備では変動事由の網羅性と残高整合が実務上の要点であり、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
関連コラム自己株式の会計処理を徹底解説|取得・処分・消却の仕訳と資本の部の表示▸
関連コラム包括利益とその他の包括利益の表示|組替調整と計算書方式▸
関連コラムストック・オプション等に関する会計基準の費用計上実務▸
関連コラム会計方針の変更・見積りの変更・誤謬の訂正の実務▸
よくある質問
株主資本等変動計算書はどの会社が作成しますか。
株主資本等変動計算書を作成することとなるすべての会社が対象です。会社法の施行に伴い、株式会社は貸借対照表・損益計算書に加えて株主資本等変動計算書を作成することとされています。連結財務諸表を作成する会社は連結株主資本等変動計算書を、作成しない会社は個別株主資本等変動計算書を整備します。
株主資本と株主資本以外で表示方法はどう違いますか。
株主資本の各項目は当期変動額を変動事由ごとに金額で表示します。これに対し、評価・換算差額等や新株予約権、非支配株主持分といった株主資本以外の各項目は、当期変動額を原則として純額で表示します。ただし重要性に応じて、主な変動事由ごとに表示(注記を含む)することもできます。
連結株主資本等変動計算書の注記事項は何ですか。
発行済株式の種類および総数、自己株式の種類および株式数、新株予約権および自己新株予約権、配当に関する事項の4項目を注記します。個別株主資本等変動計算書では、自己株式の種類および株式数に関する事項を注記します。
いつから適用されている会計基準ですか。
会社法施行日以後終了する連結会計年度および事業年度から作成することとされ、平成17年12月公表以降、決算実務に定着しています。その後、平成22年改正(平成23年4月1日以後開始する事業年度から適用)および平成25年改正が行われ、現行の表示に至っています。