セキュリティトークン(ST)やデジタル証券を発行または保有した場合の会計処理は、実務対応報告第43号に定められています。本稿では発行者側と保有者側の会計処理、開示、適用時期を条項番号とともに整理します。
電子記録移転有価証券表示権利等の概要
結論から述べます。電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、トークン化されていない従来の有価証券(みなし有価証券)と基本的に同様に取り扱うというのが基準の立場です。その定義上、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であり、両者の差は発行および保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いてなされるか否かのみと整理されているためです(実務対応報告第43号 第25項、第27項)。企業会計基準委員会 実務対応報告第43号 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金融商品取引業等に関する内閣府令(金商業等府令)に規定される権利で、金融商品取引法上の有価証券とみなされるもの(みなし有価証券)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいいます(実務対応報告第43号 第3項(1))。本実務対応報告の適用範囲は、株式会社がこれを発行または保有する場合に限られます(同 第2項)。
電子記録移転権利との範囲の違い
混同されやすい用語に「電子記録移転権利」があります。2019年5月成立の改正法により、いわゆる投資性ICOが金融商品取引法で規律されることとなり、集団投資スキーム持分等をトークン化したものが電子記録移転権利と定義されました(実務対応報告第43号 第15項)。2020年5月施行の改正府令では、より広い概念である電子記録移転有価証券表示権利等が定められ、株式や社債などの有価証券表示権利も含まれることとなり(同 第18項)、本実務対応報告は範囲の広い後者を対象としています(同 第21項)。
電子決済手段・暗号資産との違い
デジタル資産では、電子記録移転有価証券表示権利等、電子決済手段、暗号資産の3つが並びます。根拠法と適用される実務対応報告が異なるため、どの区分に入るかの判定が出発点です。
| 電子記録移転有価証券表示権利等 | 金融商品取引法上のみなし有価証券をトークン化したもの。実務対応報告第43号を適用(同 第1項、第3項(1)) |
|---|---|
| 電子決済手段 | 資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち特定のもの。実務対応報告第45号を適用(同 第1項、第2項) |
| 暗号資産 | 資金決済法第2条第14項に規定されるもの。第43号・第45号のいずれの対象でもない(実務対応報告第45号 BC3) |
経済的な性格も対照的です。電子決済手段は送金・決済の手段であり、取得時に受渡日に券面額に基づく価額をもって資産計上し、取得価額との差額を損益として処理します(実務対応報告第45号 第5項)。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い
暗号資産については、投資性ICO以外のICOトークンが資金決済法上の暗号資産に該当する範囲で同法の規制対象とされ(実務対応報告第43号 第16項)、企業会計基準委員会は電子記録移転権利と暗号資産では権利としての性格が異なるとして両者を分けて検討しています(同 第19項)。
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会計処理の基本的な考え方
権利の内容が従来のみなし有価証券と同一である以上、発行および保有の会計処理は基本的に従来のみなし有価証券と同様に取り扱うこととされました(実務対応報告第43号 第27項)。トークン化を理由に新しい測定方法が生まれるわけではありません。
実務上の起点は、対象となる権利が金融商品会計基準等の上でどの金融商品に当たるかの確定であり、発行者側は払込金額の区分を、保有者側は有価証券に該当するか否かを判断します(実務対応報告第43号 第4項、第7項)。ただし保有時の発生および消滅の認識には、金融商品実務指針と異なる定めが置かれています(同 第48項)。
発行者側の会計処理
払込金額の区分
電子記録移転有価証券表示権利等に該当する有価証券を発行する場合は、従来のみなし有価証券の発行と同様の会計処理を行います(実務対応報告第43号 第28項)。具体的には、発行に伴う払込金額を、負債、株主資本または新株予約権として会計処理し(同 第4項)、区分ごとの取扱いは第5項および第6項に定められています。
負債に区分される場合
払込金額が負債に区分される場合は、金融負債として金融商品会計基準第7項の定めに従って発生の認識を行い、その金額は金融商品会計基準第26項、または第36項、第38項(1)および企業会計基準適用指針第17号(複合金融商品適用指針)の定めに従います(実務対応報告第43号 第5項、第3項(2))。
参照先では、契約を締結したときに発生を認識し(金融商品会計基準 第7項)、社債その他の債務は債務額を、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合は償却原価法に基づく価額を貸借対照表価額とします(同 第26項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
株主資本または新株予約権に区分される場合
内訳項目は企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第5項から第7項に従い、金額は会社法第445条および第446条の規定、または金融商品会計基準第36項、第38項(2)および複合金融商品適用指針に従います(実務対応報告第43号 第6項)。新株予約権付社債では転換社債型か否かで処理が分かれます(金融商品会計基準 第36項、第38項)。
特段の定めが置かれていない論点
有価証券を発行した場合に払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについては明確な会計基準は存在せず、法的形式等を勘案した実務上の対応が行われていると整理されており、本実務対応報告でも特段の定めを置かないこととされました(実務対応報告第43号 第30項)。現行の実務を参考にすることが考えられるとされているにとどまります。
発行に伴う費用も同様です。第4項から第6項は払込金額の区分と金額の算定を定めるにとどまり、発行費用の会計処理を定めた規定は置かれていません(実務対応報告第43号 第4項から第6項)。設例や仕訳例もないため、仕訳は金融商品会計基準等の一般的な定めを当てはめて組み立てます。有価証券に該当しないものの発行の会計処理も取り扱われていません(同 第29項)。
保有者側の会計処理
保有者側は入口の判定が必要です。金融商品取引法上の有価証券には、金融商品会計基準等の上で有価証券として取り扱われるものと取り扱われないものがあるため、保有の会計処理は両者に分けて定められています(実務対応報告第43号 第7項)。
発生および消滅の認識
有価証券に該当する場合、発生および消滅の認識は金融商品会計基準第7項から第9項および金融商品実務指針の定めに従います(実務対応報告第43号 第8項本文)。金融資産は、契約上の権利を行使・喪失したとき、または権利に対する支配が他に移転したときに消滅を認識します(金融商品会計基準 第8項、第9項)。
ここに固有の定めがあります。契約を締結した時点から権利が移転した時点までの期間が短期間である場合は、約定日基準を定める金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約を締結した時点で買手は発生を認識し、売手は消滅を認識します(実務対応報告第43号 第8項ただし書)。約定日に相当する時点は売買契約を締結した時点、受渡日に相当する時点は権利が移転した時点とされ、約定日や受渡日が明確な場合はそれらを用いることが考えられます(同 第38項、第39項)。
「短期間」かどうかは、我が国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間か、それより短い期間であるかで判断することが考えられます(実務対応報告第43号 第42項)。売買の事例が限定的で約定日および受渡日が明確でない場合が生じ得ることが、別途の定めを置いた理由です(同 第37項)。
保有目的区分と評価
貸借対照表価額の算定および評価差額に係る会計処理は、金融商品会計基準第15項から第22項および金融商品実務指針の定めに従います(実務対応報告第43号 第9項)。これは従来のみなし有価証券の保有と同様で、組合等への出資の会計処理を含みます(同 第34項)。
| 保有目的区分 | 貸借対照表価額と評価差額の処理 |
|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価。評価差額は当期の損益(金融商品会計基準 第15項) |
| 満期保有目的の債券 | 取得原価。金利の調整と認められる差額は償却原価法(同 第16項) |
| 子会社株式および関連会社株式 | 取得原価(同 第17項) |
| その他有価証券 | 時価。評価差額は洗い替え方式で全部純資産直入法または部分純資産直入法(同 第18項) |
| 市場価格のない株式等 | 取得原価(同 第19項) |
評価差額は次の関係で把握されます。
減損に相当する処理も同様で、時価が著しく下落したとき(回復する見込があると認められる場合を除きます。)や市場価格のない株式等の実質価額が著しく低下したときは、当期の損失として処理し、当該金額を翌期首の取得原価とします(金融商品会計基準 第20項から第22項)。
時価の算定
時価とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいいます(時価の算定に関する会計基準 第5項)。インプットはレベル1が最も優先順位が高く、レベル1は活発な市場における同一の資産または負債の調整されていない相場価格を指します(同 第11項)。算定した時価は重要な影響を与えるインプットが属するレベルに分類し、複数のレベルにわたる場合は最も低いレベルに分類します(同 第12項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準
「活発な市場」とは、継続的に価格情報が提供される程度に十分な数量および頻度で取引が行われている市場をいいます(時価の算定に関する会計基準 第4項(6))。その相場価格を入手できない場合はレベル1のインプットを利用できないため、十分なデータが利用できる評価技法を用い、観察可能なインプットを最大限利用します(同 第8項)。
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有価証券に該当しない場合
会計処理は金融商品実務指針および実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」に従います(実務対応報告第43号 第10項本文)。一部の信託受益権は金融商品取引法上の有価証券である一方、金融商品会計基準等の上では有価証券として取り扱われない場合があり(同 第29項、第44項)、信託受益権型のSTでの論点です。
ただし、これらの定めにより結果的に有価証券として、または有価証券に準じて取り扱うものは、発生の認識(信託設定時を除きます。)および消滅の認識を本実務対応報告第8項に従って行います(実務対応報告第43号 第10項ただし書)。短期間なら契約締結時点で認識する取扱いは、この類型にも及ぶということです。
開示(表示と注記事項)
開示に追加の負担は求められていません。表示方法は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合と同様です(実務対応報告第43号 第11項)。保有する有価証券の表示区分も従来どおり、売買目的有価証券および一年内に満期の到来する社債その他の債券は流動資産、それ以外は投資その他の資産に属します(金融商品会計基準 第23項)。
注記事項も該当しない場合に求められるものと同様とされ、トークン化されたことを理由とする追加の注記は求められていません(実務対応報告第43号 第12項)。権利の内容が従来のみなし有価証券と同一であり、従来の開示の定めに従うことで有用な情報が開示されると考えられたためです(同 第47項)。
記載内容は金融商品に係る注記の枠組みに従い、金融商品の状況に関する事項、時価等に関する事項、時価のレベルごとの内訳等に関する事項で構成されます(金融商品会計基準 第40-2項)。
適用時期と改正の経緯
実務対応報告第43号は2022年8月26日に公表され、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています(同 第13項、第48項)。3月決算会社であれば2024年3月期が適用初年度に当たり、2026年8月時点ではすでに適用済みです。公表当時は、公表日以後終了する事業年度および四半期会計期間からの早期適用も認められていました(同 第13項ただし書)。
一定の周知期間が設けられたのは、保有時の発生および消滅の認識に金融商品実務指針と異なる定めを置いているためであり、早期適用が認められたのは、改正金融商品取引法が既に2020年5月より施行されていたためです(実務対応報告第43号 第48項)。経緯としては、2020年5月施行の改正府令で電子記録移転有価証券表示権利等が定められた後(同 第18項)、2022年3月に公開草案第63号および論点整理が公表され(同 第22項)、第485回企業会計基準委員会に出席した委員13名全員の賛成により公表が承認されました(同 第14項)。
実務対応報告第43号は公表以降、改正されていません(2026年8月5日時点)。ただし参照先である金融商品会計基準および時価の算定に関する会計基準はその後も改正されているため、条項を確認する際はこれらの最新版を参照してください。
実務上の留意点
第一に、適用範囲の非対称性です。本実務対応報告は株式会社による発行および保有のみを対象としていますが(実務対応報告第43号 第2項、第24項から第26項)、保有の会計処理は発行者がいずれの事業体等であるかにかかわらず適用されます(同 第26項なお書き)。
第二に、取り扱われていない論点の把握です。会社に準ずる事業体等における発行・保有の会計処理、財またはサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理、暗号資産建のものの発行の会計処理、組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理は、いずれも対象外とされました(実務対応報告第43号 第23項(1)から(4))。
第三に、短期間の判定と証憑の整備です。契約締結時点で認識する取扱いには、契約締結時点と権利の移転時点を客観的に説明できることが前提となり(実務対応報告第43号 第8項ただし書、第38項、第39項)、取引記録の取得方法を定めておくことが実務的です。
第四に、時価算定の準備です。売買目的有価証券やその他有価証券に区分される場合は時価の算定とレベルごとの内訳等の注記が必要になり(金融商品会計基準 第18項、第40-2項)、活発な市場が存在しない場合は評価技法とインプットの選定が論点になります(時価の算定に関する会計基準 第8項、第11項)。上場準備企業がSTで資金調達を行った場合は、この評価プロセスの整備も問われます。
まとめ
電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、従来のみなし有価証券と基本的に同様に取り扱うことが出発点です(実務対応報告第43号 第27項)。発行者側は払込金額を負債、株主資本または新株予約権に区分し(同 第4項から第6項)、保有者側は保有目的区分に応じて評価します(同 第9項)。従来と異なるのは保有時の発生および消滅の認識で、締結から移転までが短期間であれば契約締結時点で認識します(同 第8項ただし書、第42項)。
開示は表示・注記ともに追加の要求がなく(実務対応報告第43号 第11項、第12項)、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首からすでに適用済みです(同 第13項)。他方、払込金額の区分の判定基準、発行費用の取扱い、株式会社以外の事業体における発行・保有の会計処理には定めが置かれておらず(同 第23項、第30項)、個別の判断が必要です。具体的なケースの判断や監査人との協議を伴う論点は、公認会計士へのご相談をおすすめします。
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- 企業会計基準委員会 実務対応報告第43号 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い
よくある質問
セキュリティトークンやデジタル証券は、電子記録移転有価証券表示権利等と同じものですか。
みなし有価証券のうち電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであれば、呼称にかかわらず電子記録移転有価証券表示権利等に当たります(実務対応報告第43号 第3項(1))。権利の内容と移転の方法によって判定します。
電子記録移転権利と電子記録移転有価証券表示権利等は、どちらが広い概念ですか。
電子記録移転有価証券表示権利等のほうが広い概念です。電子記録移転権利は集団投資スキーム持分等を対象としますが(実務対応報告第43号 第15項)、電子記録移転有価証券表示権利等には株式や社債も含まれます(同 第18項)。本実務対応報告は後者を対象としています(同 第21項)。
トークン化されたことを理由とする追加の注記は必要ですか。
必要ありません。表示方法および注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合と同様とされています(実務対応報告第43号 第11項、第12項)。従来の開示の定めに従うことで有用な情報が開示されると考えられたためです(同 第47項)。