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時価の算定に関する会計基準|インプットのレベル1〜3と評価技法

2026-07-20
目次

企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」は、金融商品などの時価をどのような考え方で算定するかを定めた基準です。ここでいう時価とは、算定日に市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合に、資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいいます。算定にあたっては評価技法を用い、そこで使うインプットを観察可能性に応じてレベル1からレベル3に区分し、優先順位に沿って使用します。この記事では、上場準備企業の経理・財務や金融商品を保有する企業の実務を想定し、時価の定義、評価技法、インプットの3レベル、時価の分類、適用範囲、開示の枠組みまでを、原典にもとづいて整理します。

時価算定基準の全体像

本基準は2019年7月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した基準で、同時に企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」が公表されています。実務での適用にあたっては、基準本体と適用指針の双方を参照する必要があります。背景には、従来の日本基準では時価の算定方法に関する詳細なガイダンスが定められていなかったことがあり、国際的な会計基準であるIFRS第13号「公正価値測定」の定めを基本的にすべて取り入れる形で整備されました。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準

IFRS第13号では「公正価値」という用語が用いられていますが、本基準では我が国の他の関連諸法規で「時価」という用語が広く用いられていることに配慮し、代わりに「時価」という用語を用いています。用語は異なりますが、その内容は国際的な整合性を図ることを意図したものです。

出口価格としての時価の定義

本基準における時価は、出口価格としての性格を持ちます。出口価格とは、資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいい、交換取引において資産を取得するために支払った価格や負債を引き受けるために受け取った価格である入口価格とは区別されます。時価は市場を基礎としたものであり、対象となる企業に固有のものではありません。したがって、資産の保有や負債の決済または履行に関する企業の意図は、時価の算定に反映しません。

時価を算定する市場は、原則として資産の売却または負債の移転を行う主要な市場を前提とします。主要な市場とは、その資産または負債についての取引の数量および頻度が最も大きい市場をいいます。主要な市場がない場合には、取得または売却に要する付随費用を考慮したうえで最も有利となる市場である最も有利な市場を用います。

適用範囲

本基準が時価の算定について定める対象は限定されています。金融商品以外の資産および負債は、国際的な整合性を図る必要性が高くないことなどから、原則として範囲に含めていません。対象となるのは、次の項目の時価です。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準

金融商品 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」における金融商品
棚卸資産 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産

ここで注意したいのは、本基準はあくまで「時価をどのように算定するか」を定めるものであり、「どのような場合に時価で算定すべきか」を定めるものではないという点です。時価評価の要否は他の会計基準に従います。たとえば市場価格のない株式等については、時価評価しないこととされています。

また、実務では金融商品会計基準の表示区分や注記の理解とあわせて整理すると全体像がつかみやすくなります。関連する論点は次のコラムでも解説しています。

関連コラム金融商品会計基準の表示区分と注記事項を徹底解説

評価技法の3つのアプローチ

時価の算定にあたっては、状況に応じて十分なデータが利用できる評価技法を用います。評価技法とは、時価を見積るための具体的な計算の枠組みを指します。適用指針では、評価技法として例えば次の3つのアプローチが示されています。いずれのアプローチを用いる場合でも、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第31号 時価の算定に関する会計基準の適用指針

アプローチ 内容
マーケット・アプローチ 同一または類似の資産または負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法。倍率法や、主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシングが含まれる
インカム・アプローチ 利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割り引いて現在価値で示す評価技法。現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる
コスト・アプローチ 資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法

時価の算定に複数の評価技法を用いる場合には、複数の評価技法に基づく結果を踏まえた合理的な範囲を考慮して、時価を最もよく表す結果を決定します。適切な評価技法は状況によって異なる可能性があり、評価技法の適切性を一律に判断することは困難であるため、本基準では評価技法そのものにレベルは設けていません。

評価技法の継続適用と変更

時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用します。評価技法またはその適用を変更する場合には、会計上の見積りの変更として処理します。たとえば新しい市場が出現した場合、新しい情報が利用可能となった場合、これまで使用していた情報が利用できなくなった場合、評価技法が向上した場合、市場の状況が変化した場合などが、変更が適切となり得る状況として挙げられます。

インプットのレベル1〜3

時価の算定に用いる仮定をインプットといいます。インプットは、入手できる観察可能な市場データに基づく「観察可能なインプット」と、観察可能な市場データではないものの入手できる最良の情報に基づく「観察できないインプット」に分けられます。本基準では、インプットを観察可能性に応じて次の3つのレベルに区分し、レベル1が最も優先順位が高く、レベル3が最も優先順位が低いものとして、優先的に使用する順序を定めています。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準

レベル インプットの内容
レベル1 算定日に企業が入手できる、活発な市場における同一の資産または負債に関する相場価格であり、調整されていないもの。時価の最適な根拠を提供するため、利用できる場合は原則として調整せずに使用する
レベル2 資産または負債について直接または間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1以外のもの。契約期間のほぼ全体を通じて観察可能なインプットが該当する
レベル3 資産または負債について観察できないインプット。関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合に用いる

レベル2のインプットには、たとえば活発な市場における類似の資産・負債の相場価格、活発でない市場における同一または類似の資産・負債の相場価格、相場価格以外の観察可能なインプットなどが含まれます。レベル3のインプットを用いるにあたっては、市場参加者が時価を算定する際に用いる仮定を反映し、その状況において入手できる最良の情報を用います。

時価のヒエラルキーと分類

インプットを用いて算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価またはレベル3の時価に分類します。これが時価のヒエラルキーの考え方です。時価を算定するために異なるレベルに区分される複数のインプットを用いており、これらのインプットに時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合には、それら重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類します。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準

実務では、時価が属するレベルは評価技法のレベルではなく、評価技法に用いるインプットのレベルに基づいて判断する点に留意が必要です。上場準備で多いのは、社債やデリバティブなどについて、用いたインプットのどれが重要な影響を与えているかを整理し、レベルの分類根拠を文書化しておく対応です。

取引の減少と負債の時価

資産または負債の取引の数量または頻度が、通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合には、取引価格または相場価格が時価を表しているかどうかを評価します。評価の結果、それらが時価を表していない(取引が秩序ある取引ではないと判断する場合を含む)と判断するときには、市場参加者が資産または負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行います。なお、他から強制された取引、たとえば強制された清算取引や投売りは、秩序ある取引には該当しません。

負債または払込資本を増加させる金融商品については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して時価を算定します。負債の時価の算定にあたっては、負債の不履行リスクの影響を反映します。負債の不履行リスクとは、企業が債務を履行しないリスクであり、企業自身の信用リスクに限られるものではありません。また、負債の不履行リスクは、当該負債の移転の前後で同一であると仮定します。

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開示の枠組みと適用時期

時価をレベル別に分類する枠組みは、財務諸表における時価の開示の基礎となります。金融商品の時価等に関する具体的な注記事項は、金融商品時価開示適用指針が定めており、本基準で分類したレベルの区分に沿って開示が行われます。たとえば評価技法またはその適用を変更した場合には、連結会計年度および事業年度の年度末に係る財務諸表において、変更の旨および変更の理由を注記します。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準

適用時期については、本基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することとされています。ただし、2020年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することも認められています。適用初年度においては、原則として本基準が定める新たな会計方針を将来にわたって適用し、その変更の内容について注記します。

上場準備での実務対応

実務では、保有する金融商品ごとに用いる評価技法とインプットを整理し、レベル分類の根拠を明確にしておくことが求められます。特にレベル3に分類される項目は観察できないインプットを用いるため、市場参加者の仮定をどのように反映したかの説明が重要になります。時価評価の要否そのものは金融商品会計基準など他の基準に従うため、本基準の適用範囲と評価対象の切り分けを最初に確認しておくと、開示までの流れが整理しやすくなります。

まとめ

時価の算定に関する会計基準(企業会計基準第30号)は、金融商品などの時価を、算定日に市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格として定義します。算定にあたっては、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチといった評価技法を用い、関連性のある観察可能なインプットを最大限に利用します。

インプットは観察可能性に応じてレベル1からレベル3に区分され、レベル1が最も優先順位が高く、算定された時価は重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて分類されます。適用範囲は金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産に限られ、時価評価の要否は他の会計基準に従います。判断に迷う具体的なケースは、公認会計士へのご相談をおすすめします。

参考文献

時価の算定に関する会計基準のよくある質問

Q.時価の算定に関する会計基準における時価とは何ですか。

A.算定日に市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいいます。取得のために支払う入口価格ではなく、出口価格としての性格を持ちます。

Q.インプットのレベル1、レベル2、レベル3はどう違いますか。

A.レベル1は活発な市場における同一の資産・負債の調整されていない相場価格、レベル2は直接または間接的に観察可能なレベル1以外のインプット、レベル3は観察できないインプットです。レベル1が最も優先順位が高く、レベル3が最も低くなります。

Q.算定した時価はどのレベルに分類されますか。

A.時価の算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて分類します。重要な影響を与えるインプットが複数のレベルにまたがる場合には、そのうち優先順位が最も低いレベルに分類します。

Q.この会計基準の適用範囲はどこまでですか。

A.金融商品会計基準における金融商品と、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価が対象です。原則として金融商品以外の資産および負債は範囲に含まれません。

Q.評価技法にはどのようなものがありますか。

A.マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチの3つが例示されています。複数の評価技法を用いる場合は、合理的な範囲を考慮して時価を最もよく表す結果を決定します。

Q.いつから適用されますか。

A.2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。2020年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からの早期適用も認められています。

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〒107-0052
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電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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