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電子決済手段の会計処理|ステーブルコインの仕訳と開示

2026-07-31
目次

資金決済法上の「電子決済手段」(いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動し券面額と同額での払戻しを約するもの)を保有・利用する企業が増えています。電子決済手段の会計処理は、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」に定められており、その中心は時価評価ではなく券面額に基づく価額での測定です。本記事では、公認会計士事務所プライムパートナーズの実務目線で、適用範囲・保有者側と発行者側の仕訳・外貨建の換算・注記・適用時期までを一気に整理します。

電子決済手段の会計処理の全体像

電子決済手段の会計処理は、実務対応報告第45号が「当面必要と考えられる最小限の項目」に絞って定めています。結論として、対象となる電子決済手段は受渡日に券面額に基づく価額で計上し、期末も券面額に基づく価額のまま据え置くという、きわめてシンプルな枠組みです。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

測定の基礎 券面額に基づく価額(時価評価は行いません)
認識時点 契約締結日ではなく受渡日
会計上の性格 通貨に類似する性格と要求払預金に類似する性格を併せ持つ資産
発行者側 払戻義務を債務額で負債計上し、期末も債務額のまま
開示 金融商品会計基準第40-2項に定める事項を注記
適用時期 公表日(2023年11月17日)以後適用(適用済み)

実務対応報告第45号の適用範囲

最初に確認すべきは適用範囲です。ステーブルコインと呼ばれるものがすべて実務対応報告第45号の対象になるわけではなく、資金決済法上の区分によって取扱いが分かれます。上場準備の現場でも、まずここを取り違えると会計方針全体がずれてしまいます。

対象となる第1号から第3号の電子決済手段

実務対応報告第45号は、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象としています。第1号と第2号は通貨建資産としての電子的な財産的価値、第3号は電子的な財産的価値に表示される金銭信託の受益権という違いはありますが、資産から得られる経済的便益は異ならないとして、同一の資産項目として取り扱われます。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

適用範囲から外れるもの・限定されるもの

一方で、次のものは実務対応報告第45号の対象から外れるか、対象となる範囲が限定されます。とくに海外発行のステーブルコインを直接ウォレットで保有しているケースは対象外になるため、保有形態の確認が欠かせません。

第4号電子決済手段 資金決済法における暗号資産に類似する性格を有する可能性があるため対象外とされています。審議時点では第4号に指定されるものが見込まれていませんでした
外国電子決済手段 第1号から第3号に該当するものであっても、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限って対象となり、それ以外は対象外です
第3号の発行者側 発行者側の会計処理及び開示は、信託の受託者の会計処理として実務対応報告第23号を適用します

預託されている外国電子決済手段だけを対象としたのは、電子決済手段等取引業者に課される買取義務や資産保全の規制により、換金リスクが国内発行のものと同程度と考えられるためです。裏を返せば、海外ステーブルコインを自社ウォレットで直接保有している場合、実務対応報告第45号をそのまま当てはめる根拠はありません。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

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保有者側の会計処理と仕訳

ここからが、経理実務で最も使う部分です。保有者側の処理は、取得時・移転時(払戻時)・期末時の3場面に整理できます。

取得時の会計処理

対象となる電子決済手段を取得したときは、その受渡日に券面額に基づく価額をもって資産として計上します。取得価額と券面額に基づく価額との間に差額がある場合、その差額は損益として処理します。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

取得価額 − 券面額に基づく価額 = 取得時に損益として処理する差額

券面額100万円の電子決済手段を発行者から金銭100万円と交換で取得した場合は、電子決済手段100万円/現金預金100万円という単純な仕訳になります。これに対し、流通市場で券面額100万円のものを99万8千円で取得した場合は、電子決済手段100万円/現金預金99万8千円・利益2千円となり、差額を繰り延べずにその期の損益に落とす点が特徴です。

移転時・払戻時の会計処理

電子決済手段を第三者に移転するとき、または発行者から金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に電子決済手段を取り崩します。第三者に移転して金銭を受け取り、帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、その差額は損益として処理します。仕入代金の支払に電子決済手段を充てた場合は、買掛金/電子決済手段という取り崩しの仕訳になります。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

期末時の評価

期末時においては、券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とします。市場価格が観察できる場合であっても時価評価は行いません。これは、対象となる電子決済手段が送金・決済手段として使用されるものであり金融投資目的での保有が想定されていないこと、発行者や電子決済手段等取引業者に対する規制により換金リスクが要求払預金の信用リスクと同程度に低いと考えられることによります。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

実務では「暗号資産と同じように期末で時価洗い替えするのか」という質問をよく受けますが、対象となる電子決済手段については評価差額そのものが発生しないと理解しておくのが正確です。なお、券面額での払戻しが困難になるような換金リスクについて実務対応報告第45号は会計上の取扱いを定めておらず、発行者の信用状況が悪化した場合の処理は基準に答えが書かれていない領域です。

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発行者側の会計処理

自社で電子決済手段を発行する場合は、資産ではなく払戻義務という負債から会計処理を組み立てます。発行者側は金融負債を負うという整理であり、保有者側と鏡合わせの構造になっています。

発行時 受渡日に、払戻義務について債務額をもって負債計上します。発行価額の総額と債務額との差額は損益として処理します
払戻時 受渡日に、払戻しに対応する債務額を取り崩します
期末時 払戻義務は債務額をもって貸借対照表価額とします

発行価額の総額と債務額との差額を損益とするのは、発行者が券面額と同額で速やかに払い戻す義務を負っており、差額を繰り延べる根拠が認められないためです。なお、第3号電子決済手段(金銭信託の受益権として発行されるもの)の発行者側は、信託における受託者の会計処理となるため実務対応報告第23号によります。発行スキームの法的形式によって参照すべき基準が変わる点は、設計段階で確認しておきたいところです。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

外貨建電子決済手段の換算

外国通貨で表示される電子決済手段(外貨建電子決済手段)については、期末時の円換算の取扱いが定められています。保有側と発行側で参照する定めが分かれる点がポイントです。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

保有する外貨建電子決済手段 外貨建取引等会計処理基準 一 2 (1) ①(外国通貨)の定めに準じて処理します。すなわち決算時の為替相場による円換算額を付します
外貨建の払戻義務 外貨建取引等会計処理基準 一 2 (1) ②(外貨建金銭債権債務)の定めに従って処理します。同じく決算時の為替相場による円換算額を付します

保有側が「外国通貨に準じて」と整理されているのは、外貨建電子決済手段そのものの換算方法が外貨建取引等会計処理基準に具体的に定められていなかったためです。発行側の払戻義務は金銭債務に該当するため換算方法自体は明らかですが、保有側の取扱いと併せて具体的な処理が明らかにされています。いずれも決算時の為替相場で換算し、換算差額は原則として当期の為替差損益となるため、米ドル建てステーブルコインを期末に保有していると為替差損益が計上される点は必ず押さえてください。

電子決済手段の表示と開示

電子決済手段の開示は、注記とキャッシュ・フロー計算書の2つの論点に分かれます。加えて、貸借対照表の表示科目については基準に定めがないという事情も理解しておく必要があります。

注記事項

対象となる電子決済手段及びその払戻義務については、金融商品会計基準第40-2項に定める事項を注記します。具体的には、金融商品の状況に関する事項、金融商品の時価等に関する事項、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項です。企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準

実務対応報告第45号は、電子決済手段が要求払預金に類似する性格も有することに鑑み、時価等に関する事項の注記は預金に関する取扱いに準ずることが考えられるとしています。また払戻義務は金銭債務に該当するため、金銭債務に関する取扱いに従うことになります。

キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲

実務対応報告第45号と同日に公表された企業会計基準第32号「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」の一部改正により、キャッシュ・フロー計算書における「現金」に特定の電子決済手段が含まれることとされました。適用時期も実務対応報告第45号と同様です。電子決済手段は通貨に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有するため、現金に含めることが経済実態を的確に反映すると整理されています。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

ここで見落とされがちなのが、貸借対照表の表示科目については実務対応報告第45号に定めがないという点です。開示として定められているのは注記事項のみであり、「現金及び預金」に含めるのか独立掲記するのかは各社の判断に委ねられます。キャッシュ・フロー計算書上は現金に含まれる一方で科目名は自動的に決まらないため、資金の範囲と表示科目の対応関係は監査人と早めに擦り合わせておくことをおすすめします。

預託電子決済手段の取扱い

電子決済手段等取引業者等が、利用者との合意に基づいて利用者から預かった電子決済手段(預託電子決済手段)については、資産として計上せず、利用者に対する返還義務も負債として計上しません。信託や自己信託による分別管理と倒産隔離が図られており、預託電子決済手段に関する利用者の権利が取引業者等に移転しないと考えられるためです。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

これは電子決済手段等取引業者側の取扱いであり、預託している利用者(事業会社)側では引き続き自社の資産として計上します。

適用時期と今後の改正動向

実務対応報告第45号は公表日以後適用とされており、公表日は2023年11月17日です。したがって2026年7月時点ではすでに適用されています。会計処理に複雑さがなく適用の困難さもないため特段の準備期間は必要ないと判断され、公表日からの適用とされました。企業会計基準委員会 実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

あわせて、実務対応報告第45号は特段の経過的な取扱いを定めていません。そのため企業会計基準第24号第6項(1)に定める会計方針の変更の原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することになります。適用初年度に過年度からステーブルコインを保有していた企業では、比較情報の遡及修正が必要になる点に留意してください。

今後については、資金決済に関する法律の改正及び電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の改正に伴い、企業会計基準委員会が実務対応報告第45号の改正の検討を進めています。2026年6月より検討が開始され、2026年8月に公開草案を公表することが目標とされています。2026年7月23日開催の第581回企業会計基準委員会では、改正の内容に加えて適用時期及び経過措置についても審議されました。企業会計基準委員会 資金決済法等の改正に伴う電子決済手段に係る会計上の取扱い

整理すると、現行の実務対応報告第45号は2023年11月17日から適用済みであり、改正版は2026年8月に公開草案が公表される見込みという二段構えです。現時点で対応すべきは現行基準に基づく会計方針の整備であり、改正の内容と適用時期は公開草案の公表後に確認する進め方が現実的です。

実務で押さえる判断ポイント

上場準備企業や事業会社の経理財務で論点になりやすいのは、次の3点です。第一に、保有している電子的な資産が第1号から第3号の電子決済手段なのか、第4号や暗号資産、前払式支払手段なのかを先に確定させることです。海外発行のものは電子決済手段等取引業者に預託しているかどうかで結論が変わり、この分類を誤ると期末評価も注記もすべてずれます。

第二に、認識・消滅が受渡日で判定されるため、ブロックチェーン上の移転記録と社内の計上日が一致する運用が必要になります。上場準備の局面では、ウォレット残高の証跡取得、取引業者残高との照合、期末日をまたぐ移転の締め処理といった内部統制の設計が、会計方針そのものよりも監査上の論点になりやすい印象です。第三に、電子決済手段は決済手段として日常的に動くため、期末残高が小さくても期中の取引量が大きい場合があります。残高だけで注記の重要性を判断せず、判断の根拠を文書化しておくことをおすすめします。

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まとめ

資金決済法上の電子決済手段の会計処理は、実務対応報告第45号により、受渡日に券面額に基づく価額で計上し、期末も券面額に基づく価額のまま据え置くという枠組みで整理されています。発行者側は払戻義務を債務額で負債計上し、期末も債務額とします。外貨建の場合は保有側・発行側とも決算時の為替相場で換算します。

開示は金融商品会計基準第40-2項に定める事項の注記が求められ、キャッシュ・フロー計算書では特定の電子決済手段が現金に含まれます。一方で、貸借対照表の表示科目や換金リスクの会計処理は基準に定めがなく、各社の判断と説明が必要な領域として残されています。実務対応報告第45号は2023年11月17日の公表日以後すでに適用されており、資金決済法等の改正に伴う改正版は2026年8月に公開草案が公表される見込みです。

電子決済手段は制度が動いている領域であり、保有形態や発行スキームによって参照すべき基準が変わります。自社の取引がどの類型に当たるのか、注記や表示をどう組み立てるのかといった具体的なケースについては、公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

電子決済手段は期末に時価評価しますか

時価評価は行いません。実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段は、期末時においてその券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とします。送金・決済手段として使用されるもので金融投資目的での保有が想定されていないこと、規制により換金リスクが要求払預金の信用リスクと同程度に低いと考えられることが理由です。

ステーブルコインなら必ず実務対応報告第45号を適用しますか

いいえ。対象は資金決済法第2条第5項の第1号・第2号・第3号電子決済手段です。第4号電子決済手段は対象外であり、外国電子決済手段については利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限って対象となります。また第3号電子決済手段の発行者側は、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」によります。

電子決済手段は貸借対照表のどの科目に表示しますか

実務対応報告第45号は貸借対照表の表示科目について定めを置いておらず、開示として求めているのは金融商品会計基準第40-2項に定める事項の注記です。ただし同日公表の企業会計基準第32号により、キャッシュ・フロー計算書の「現金」には特定の電子決済手段が含まれます。表示科目は金額的重要性等を踏まえた各社の判断となります。

実務対応報告第45号はいつから適用されていますか

公表日以後適用とされており、公表日は2023年11月17日です。したがってすでに適用されています。特段の経過的な取扱いは定められていないため、企業会計基準第24号第6項(1)の原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することになります。

米ドル建てのステーブルコインを保有すると為替差損益は出ますか

出ます。外貨建電子決済手段の期末時における円換算は、外貨建取引等会計処理基準 一 2 (1) ①(外国通貨)の定めに準じて処理するため、決算時の為替相場による円換算額を付します。決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として当期の為替差損益として処理されます。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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