不動産を賃貸して収益を得ている企業では、貸借対照表に計上された不動産の帳簿価額だけでなく、その時価を財務諸表の注記として開示することが求められます。この開示を定めているのが、企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」です。
賃貸等不動産の時価開示は、あくまで注記による情報開示であり、時価評価によって損益を計上する会計処理ではありません。しかし、対象となる不動産の範囲や注記すべき事項、時価の算定方法には実務上の判断を要する論点が多く含まれます。本記事では、企業会計基準第20号と企業会計基準適用指針第23号の定めに沿って、賃貸等不動産の時価開示の全体像を整理します。
賃貸等不動産の時価開示の概要
企業会計基準第20号は、財務諸表の注記事項としての賃貸等不動産の時価等の開示について、その内容を定めることを目的としています。我が国では固定資産に区分される不動産は取得原価から減価償却累計額等を控除した金額で計上され、貸借対照表には時価が表れません。そこで、投資情報として一定の不動産の時価を注記することとされました。
この開示は、あくまで時価の注記であって、賃貸等不動産を時価評価し評価差額を損益とするものではありません。賃貸収益やキャピタル・ゲインを目的として保有する不動産であっても、直ちに売却・換金を行うことに事業遂行上の制約がある場合が多く、時価の変動を企業活動の成果とは捉えないという考え方に基づいています。国際財務報告基準が原価評価の場合に時価を注記することとしていることとのコンバージェンスを図る観点からも、時価の注記を行うこととされています。
なお、本会計基準は賃貸等不動産を保有する企業に適用されますが、連結財務諸表において時価等の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は要しません。
賃貸等不動産の範囲
賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として所有者又は使用権資産の形でリースの借手が保有する不動産をいいます。物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産は含まれません。開示対象を正しく画定することが、時価開示の出発点となります。
賃貸等不動産に含まれる不動産
賃貸等不動産には、次の不動産が含まれます。いずれも、売却による回収額を意味する時価以上のキャッシュ・フローが見込めないため、これらを保有する企業にとって時価が意味を持つと考えられるものです。
- 貸借対照表において投資不動産(投資の目的で所有する土地、建物その他の不動産)として区分されている不動産
- 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
- 上記以外で賃貸されている不動産
将来において賃貸等不動産として使用される予定で開発中・再開発中の不動産も含まれます。また、賃貸を目的として保有されているにもかかわらず、一時的に借手が存在していない不動産についても、賃貸等不動産として取り扱います。
開示対象から除かれる不動産
棚卸資産に計上されている不動産は、通常の販売目的で保有する販売用不動産やトレーディング目的で保有する不動産として別の評価基準が定められているため、時価等の開示対象から除かれます。また、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産は、その企業にとっての価値が市場の平均的な期待で決まる時価ではないと考えられるため、開示対象外です。
自ら運営しているホテルやゴルフ場等は、賃貸されている不動産に該当しないため開示対象外となります。ただし、その所有者が第三者に賃貸し当該第三者が運営業務を行っている場合には、当該所有者にとっては賃貸されている不動産であり開示対象となります。
一部を賃貸等不動産として使用する不動産
自社利用部分と賃貸部分で構成される不動産については、賃貸等不動産として使用される部分を賃貸等不動産に含めます。ただし、賃貸等不動産として使用される部分の割合が低いと考えられる場合には、賃貸等不動産に含めないことができます。区分にあたっては、管理会計上の区分方法その他の合理的な方法を用います。
開示(注記)が求められる事項
賃貸等不動産を保有している場合は、次の事項を注記します。貸借対照表計上額と当期末の時価のみならず、期中の主な変動や損益も併せて注記することで、財務諸表利用者が賃貸等不動産の収益性や投資効率などを総合的に把握できるようにする趣旨です。
| 賃貸等不動産の概要 | 主な賃貸等不動産の内容、種類、場所 |
|---|---|
| 貸借対照表計上額及び期中の主な変動 | 原則として取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額と、その期中変動 |
| 当期末における時価及びその算定方法 | 当期末の時価と、時価の算定に用いた方法 |
| 賃貸等不動産に関する損益 | 賃貸収益とこれに係る費用による損益、売却損益、減損損失等 |
貸借対照表計上額は、当期末における時価と対応するように、原則として次の算式による金額をもって注記します。
なお、管理状況等に応じて、用途別、地域別等に区分して開示することができます。賃貸等不動産の貸借対照表計上額に資産除去債務が含まれるなど、当期末の時価と対応しない場合には、その金額を記載するなど追加的な説明を行うことが適当と考えられます。
使用権資産として保有する場合の注記
2024年のリース会計基準(企業会計基準第34号)の公表に伴い、使用権資産の形でリースの借手が保有する賃貸等不動産も定義に含まれることとなりました。この使用権資産の形で保有する賃貸等不動産については、概要、貸借対照表計上額及び期中の主な変動、損益の3点について注記を行い、時価及びその算定方法は注記の対象外とされています。使用権資産の時価の算定には困難性やコストの問題があることが考慮されたものです。
重要性が乏しい場合の注記の省略
賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は、注記を省略することができます。重要性が乏しいかどうかは、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価を基礎とした金額と、当該時価を基礎とした総資産の金額との比較によって判断します。判断にあたっては、貸借対照表計上額と時価との差額(含み損益相当額)を勘案する必要があります。
賃貸等不動産の時価の算定方法
賃貸等不動産の当期末における時価とは、通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいいます。合理的に算定された価額は、国土交通省の「不動産鑑定評価基準」による方法又は類似の方法に基づいて算定します。契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合は、その売却予定価額を用います。
原則的な時価の算定
合理的に算定された価額は、自社における合理的な見積り又は不動産鑑定士による鑑定評価等として算定します。不動産鑑定評価基準では、時価に対応するものは正常価格であると考えられ、原価法・取引事例比較法・収益還元法の3手法の適用により求められた価格を併用又は勘案して求めます。収益物件の場合には、収益還元法のうち割引キャッシュ・フロー(DCF)法を重視した算定方法を用いることができます。
みなし時価による簡便的な取扱い
第三者からの取得時又は直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額をもって当期末の時価とみなすことができます。その変動が軽微であるときは、取得時の価額又は直近の原則的な時価算定による価額をそのまま当期末の時価とみなすこともできます。
また、開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいものについては、容易に入手できる評価額や指標に基づく価額を時価とみなすことができます。容易に入手できると考えられる土地の価格指標には、次のものが含まれます。建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができます。
| 公示価格 | 地価公示に基づき公表される標準地の価格 |
|---|---|
| 都道府県基準地価格 | 都道府県が調査・公表する基準地の価格 |
| 路線価による相続税評価額 | 相続税評価に用いられる路線価に基づく評価額 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税の課税標準となる評価額 |
時価の把握が極めて困難な場合
賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合は、時価を注記せず、重要性が乏しいものを除き、その事由、当該賃貸等不動産の概要及び貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に記載します。例えば、現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林や、着工して間もない大規模開発中の不動産などが該当し得ます。
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適用時期と改正の経緯
2008年(平成20年)に公表された本会計基準は、2010年(平成22年)3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています。同時に、適用指針第23号も同日に公表されており、本会計基準の適用にあたっては当該適用指針も参照する必要があります。すでに強制適用が始まっている基準であり、上場準備の過程で対応する場合も、これから備える論点ではなく既定の開示実務として整理します。
その後、2011年(平成23年)改正では、四半期財務諸表に関する会計基準の改正に伴い、四半期での注記事項を定めていた規定が削除されました。さらに2024年改正では、2024年のリース会計基準(企業会計基準第34号)の公表に伴い、使用権資産の形でリースの借手が保有する不動産を定義に含めるなど、賃貸等不動産の定義及び注記事項について所要の改正が行われています。この2024年改正の適用時期は、リース会計基準の適用時期と同様とされており、2027年(令和9年)4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。
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賃貸等不動産の時価開示は、対象範囲の画定、時価算定方法の選択、重要性の判断など、企業の実情に応じた判断が求められる論点です。具体的なケースの適用にあたっては、公認会計士へのご相談をおすすめします。本記事の根拠とした出典は下記のとおりです。
企業会計基準委員会 企業会計基準第20号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準及び企業会計基準適用指針第23号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針の公表
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企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」は、賃貸収益やキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有する不動産等について、財務諸表の注記としてその時価等を開示することを求める基準です。時価評価による損益計上ではなく、投資情報としての注記である点が特徴です。
実務では、賃貸等不動産の範囲の画定、注記4事項の整理、不動産鑑定評価基準に基づく時価の算定、重要性が乏しい場合の省略判断が中心的な論点となります。本会計基準は2010年3月期末から適用されており、2024年改正によって使用権資産の形で保有する賃貸等不動産も定義に取り込まれました。最新の改正内容を踏まえて開示体制を整えることが重要です。
参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第20号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準及び企業会計基準適用指針第23号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針の公表(https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards/y2008/2008-1128.html)
よくある質問
賃貸等不動産の時価開示は時価評価による損益計上を意味しますか。
いいえ。賃貸等不動産の時価開示は財務諸表の注記による情報開示であり、賃貸等不動産を時価評価して評価差額を損益とする会計処理ではありません。貸借対照表計上額は原則として取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額のままです。
自社利用と賃貸が混在する不動産はどう扱いますか。
賃貸等不動産として使用される部分を賃貸等不動産に含めます。ただし、賃貸等不動産として使用される部分の割合が低いと考えられる場合には、賃貸等不動産に含めないことができます。区分には管理会計上の区分方法その他の合理的な方法を用います。
時価はどのように算定しますか。
市場価格が観察できない場合は、国土交通省の不動産鑑定評価基準による方法又は類似の方法で合理的に算定します。重要性が乏しいものについては、公示価格や路線価による相続税評価額など容易に入手できる指標に基づく価額を時価とみなすこともできます。
重要性が乏しい場合は注記を省略できますか。
できます。賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略できます。重要性は、貸借対照表日における時価を基礎とした金額と総資産の金額との比較によって判断します。