2027年4月1日以後に開始する事業年度からの強制適用を控え、新リース会計基準をテーマにしたセミナーや社内研修を検討する企業が増えています。ただ、セミナーは限られた時間で基準の全体像を扱うため、事前に論点の地図を持っているかどうかで理解の深さが大きく変わります。
この記事では、新リース会計基準のセミナーで必ず扱われる主要論点を、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と同適用指針第33号の条項に沿って整理します。受講前に押さえておきたい基礎、受講中に自社へ引き寄せて確認すべき点、そして受講後に社内へ展開するまでの手順を通してご説明します。
新リース会計基準セミナーで扱われる主要論点
新リース会計基準は、借手の会計処理を大きく変える基準です。セミナーの多くは、借手の単一モデル、リース期間と割引率の見積り、貸手の処理と開示という3つの柱で構成されます。どの論点がどの条項に対応するかを先に把握しておくと、講義の要点を取りこぼしにくくなります。
借手の単一モデルとオンバランス化
最大の変更点は、借手がリース開始日にリース負債を計上し、これに開始日までに支払ったリース料や付随費用、資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額で使用権資産を計上する点です(リースに関する会計基準 第33項)。旧基準のようにファイナンス・リースかオペレーティング・リースかで借手の処理を分ける枠組みではなくなり、借手はすべてのリースを原則として貸借対照表に計上します。
リース負債の計上額は、原則としてリース開始日において未払である借手のリース料から、これに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項)。この利息相当額は、借手のリース期間にわたり、原則として利息法により各期に配分します(リースに関する会計基準 第36項)。
使用権資産の償却方法は、原資産の所有権が借手に移転すると認められるかどうかで分かれます。移転すると認められるリースでは、自ら所有していたと仮定した場合の減価償却方法と同一の方法により、経済的使用可能予測期間を耐用年数として算定します(リースに関する会計基準 第37項)。それ以外のリースでは、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額はゼロとします(リースに関する会計基準 第38項)。
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リース期間と割引率の見積り
実務で最も判断が割れるのが、リース期間の決定です。借手のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えて決定します(リースに関する会計基準 第31項)。この「合理的に確実」の判断にあたっては、延長・解約オプションの対象期間に係る契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に関連して生じるコスト、事業内容に照らした原資産の重要性などの経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(リースに関する会計基準の適用指針 第17項)。
割引率については、貸手の計算利率を知り得る場合は当該利率により、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率によります(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。不動産の賃貸借など貸手の計算利率が分からない取引が大半を占める企業では、追加借入利子率をどう設定するかがそのまま計上額の水準を左右します。
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貸手の会計処理と表示・注記
貸手は、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースとに分類し(リースに関する会計基準 第43項)、ファイナンス・リースについてはさらに所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースとに分類します(リースに関する会計基準 第44項)。ファイナンス・リースは通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行い(リースに関する会計基準 第45項)、オペレーティング・リースは通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行います(リースに関する会計基準 第48項)。貸手側は旧基準の考え方が概ね引き継がれるため、セミナーでは借手ほど時間が割かれない傾向があります。
表示面では、使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示するであろう科目に含める方法と、原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法のいずれかによります(リースに関する会計基準 第49項)。リース負債は貸借対照表において区分して表示するか、リース負債が含まれる科目および金額を注記し、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものを流動負債、1年を超えて到来するものを固定負債とします(リースに関する会計基準 第50項)。
注記については、財務諸表利用者がリースの影響を評価するための基礎となる情報を開示するという開示目的が定められ(リースに関する会計基準 第54項)、借手は会計方針に関する情報、リース特有の取引に関する情報、当期および翌期以降のリースの金額を理解するための情報を注記します(リースに関する会計基準 第55項)。
新リース会計基準の対応、影響額の簡易試算から
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受講前に押さえておきたい基礎
セミナーは基準の用語を前提に進みます。用語の定義を先に確認しておくだけで、講義中に立ち止まる場面がかなり減ります。
用語の定義
新リース会計基準では、次の用語が繰り返し登場します。いずれも会計基準の「用語の定義」に定めがあります。
| リース | 原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます(リースに関する会計基準 第6項)。 |
|---|---|
| 原資産 | リースの対象となる資産で、貸手によって借手に当該資産を使用する権利が移転されているものをいいます(リースに関する会計基準 第9項)。 |
| 使用権資産 | 借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産をいいます(リースに関する会計基準 第10項)。 |
| 借手のリース期間 | 解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えた期間をいいます(リースに関する会計基準 第15項)。 |
| 借手のリース料 | 借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払で、固定リース料や指数・レートに応じて決まる変動リース料などで構成されます(リースに関する会計基準 第19項)。 |
なお、契約がリースを含むかどうかの判断は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうかで行います(リースに関する会計基準 第26項)。この判定は新基準で新たに必要となる作業であり、セミナーでも冒頭で触れられることが多い部分です。
適用時期と早期適用
適用時期は、受講前に必ず自社の決算期に当てはめて確認しておきたい情報です。本会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。
| 強制適用 | 2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます(リースに関する会計基準 第58項)。3月決算会社であれば2028年3月期が適用初年度です。 |
|---|---|
| 早期適用 | 2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。 |
| 旧基準の 取扱い |
本会計基準の適用により、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」などに従って会計処理されている取引については、これらの会計基準等の適用を終了します(リースに関する会計基準 第59項)。 |
また、適用初年度は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用しますが、適用初年度の期首より前に遡及適用した場合の累積的影響額を期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。どちらを選ぶかで移行時の作業量が変わるため、セミナーでも重点的に説明される論点です。
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講義の前後で確認したい基本の仕訳
セミナーで数値例が示されたときに理解が追いつくよう、借手の基本形を先に確認しておくと安心です。ここでは、借手のリース期間5年、リース料が年額1,200千円(各期末払い)、貸手の計算利率を知り得ないため借手の追加借入利子率3%を用いる自社作例で示します(単位:千円)。リース負債は未払のリース料から利息相当額を控除した現在価値により算定し、その額に基づいて使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 5,496 | リース負債 | 5,496 |
続く第1期は、使用権資産の償却と、リース負債に係る利息費用の計上が発生します。所有権が移転すると認められないリースであるため、借手のリース期間5年を耐用年数、残存価額をゼロとして償却します(リースに関する会計基準 第38項)。利息相当額は利息法により配分するため、初年度の利息費用は期首のリース負債5,496に3%を乗じた165となります(リースに関する会計基準 第36項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 1,099 | 使用権資産 | 1,099 |
| 支払利息 | 165 | 現金預金 | 1,200 |
| リース負債 | 1,035 |
旧基準のオペレーティング・リース取引では、支払リース料1,200がそのまま費用となっていました。新基準では減価償却費1,099と支払利息165の合計1,264が費用となり、期間の前半に費用が偏る形になります。この費用パターンの変化は、セミナーで必ず取り上げられる論点です。
関連コラム新リース会計基準の仕訳|借手・貸手の数値例と再測定▸
受講中に自社へ引き寄せて確認したい論点
セミナーは一般論として組み立てられているため、そのまま聞くだけでは自社の作業量が見えてきません。実務では、次の観点を手元のメモに立てておき、講師の説明を自社の契約に当てはめながら聞く進め方が有効です。
- 契約の棚卸しの範囲:不動産、車両、複合機、サーバーなど、リース契約書という名称でない賃貸借契約も対象になり得るため、どこまで洗い出すかを確認します。
- 簡便的な取扱いの採否:短期リースは、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり購入オプションを含まないリースをいい(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2))、使用権資産およびリース負債を計上せず、リース料を借手のリース期間にわたり原則として定額法により費用計上することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第20項)。少額リースについても同様の簡便的な取扱いが認められています(リースに関する会計基準の適用指針 第22項)。
- リースを構成しない部分の扱い:リースを含む契約は、原則としてリースを構成する部分と構成しない部分に分けて会計処理しますが(リースに関する会計基準 第28項)、借手は科目ごとまたは原資産のグループごとに、分けずに合わせて処理する選択もできます(リースに関する会計基準 第29項)。
- 再測定が生じる場面:契約条件の変更が生じた場合の処理(リースに関する会計基準 第39項)と、契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し(リースに関する会計基準 第40項)は、運用開始後の負荷に直結します。
- 注記に必要な情報:注記事項(リースに関する会計基準 第55項)を作成するために、どの情報を契約単位で保持しておく必要があるかを確認します。
関連コラム短期リース・少額リースの免除規定|適用要件と実務上の判断ポイント▸
受講後の社内展開の進め方
セミナーの内容は、受講者個人の理解で止めると社内に残りません。実務では、次の順序で社内へ落とし込む企業が多く見られます。
- 対象契約の洗い出し:契約書の保管場所と担当部署を特定し、賃貸借に該当し得る契約を一覧化します。総務・情報システム・各事業部が個別に締結している契約が抜けやすい部分です。
- 判断基準の文書化:リース期間の見積り、追加借入利子率の設定、簡便的な取扱いの適用範囲について、自社としての方針を文書にまとめます。担当者ごとに判断がぶれると、監査対応で説明できなくなります。
- 影響額の試算:主要な契約について使用権資産とリース負債の概算を算定し、自己資本比率やEBITDAなどの経営指標への影響を把握します。
- 関係部署への説明:契約担当部署に対して、契約条件の設定が財務諸表に与える影響を共有します。延長オプションの置き方ひとつで計上額が変わるため、経理だけで完結しません。
- 運用体制の整備:新規契約・条件変更を経理が把握できる情報連携の仕組みと、注記に必要な情報の蓄積方法を決めます。
上場準備企業では、監査対応の期間から逆算して整備を進める必要があります。適用初年度に慌てて対応するのではなく、影響額の試算までを早い段階で終えておくと、監査人との論点整理に時間を充てられます。
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セミナー・社内研修を選ぶ際の観点
新リース会計基準のセミナーは、対象者と深さの設計が大きく異なります。実務では、次の観点で自社の目的に合うものを選ぶと過不足が生じにくくなります。
| 確認する観点 | 見極めのポイント |
|---|---|
| 対象者の設定 | 経理担当者向けか、経営層・契約担当部署向けか。社内展開が目的なら、経理以外も理解できる粒度かどうかを確認します。 |
| 数値例の有無 | 仕訳と算定過程が示されるか。条文の解説だけでは、自社の試算に接続しにくくなります。 |
| 移行時の取扱い | 経過措置の選択肢まで扱うか。適用初年度の作業量に直結する部分です。 |
| 質疑の機会 | 自社固有の契約について質問できるか。録画配信のみの場合は、別途相談できる窓口があるかを確認します。 |
| 資料の残り方 | 受講後に社内で共有できる資料が配布されるか。社内研修の教材として再利用できると効率的です。 |
なお、セミナーで得られるのは一般的な枠組みの理解までです。自社の契約が特定された資産の使用を支配する権利を移転しているか、延長オプションの行使が合理的に確実といえるかといった判断は、契約ごとの個別性が高く、講義の場だけで結論が出るものではありません。
まとめ
新リース会計基準のセミナーは、借手の単一モデル、リース期間と割引率の見積り、貸手の処理と表示・注記という3つの柱で構成されるのが一般的です。受講前に用語の定義(リースに関する会計基準 第5項から第24項)と適用時期(リースに関する会計基準 第58項)を押さえ、基本の仕訳の形を確認しておくと、講義の内容を自社の契約へ引き寄せながら聞くことができます。
そして、受講後に対象契約の洗い出し、判断基準の文書化、影響額の試算までを進めてはじめて、セミナーの内容が社内の実務として定着します。強制適用は2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からであり、早期適用も選択できます(リースに関する会計基準 第58項)。残された期間を逆算し、どこまでを自社で行い、どこから外部の助けを借りるかを決めておくことをおすすめします。
リース期間の見積りや割引率の設定、簡便的な取扱いの適用範囲などは個別性が高い論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
新リース会計基準対応の無料相談はこちら ▸参考文献
よくある質問
セミナーの前に読んでおくべき基準はどれですか。
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」の2つです。会計基準の適用にあたっては適用指針も参照する必要があるとされています(リースに関する会計基準 第2項)。時間が限られる場合は、用語の定義と借手の会計処理の部分だけでも目を通しておくと、講義の理解が進みます。
早期適用を検討している場合、セミナーで何を確認すべきですか。
早期適用は2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能です(リースに関する会計基準 第58項)。確認したいのは、適用初年度の会計方針の変更の取扱いです。原則は過去の期間のすべてへの遡及適用ですが、累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法も認められています(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。どちらを選ぶかで準備すべき情報の範囲が変わります。
経理担当者以外もセミナーを受講したほうがよいですか。
契約条件の設定が計上額に直結するため、契約を締結する部署の担当者にも概要の理解が必要です。とくに借手のリース期間は、延長オプションや解約オプションの行使が合理的に確実かどうかで変わります(リースに関する会計基準 第31項)。契約担当部署が影響を理解していないと、経理側で判断材料を集めきれなくなります。
社内研修に落とし込む際、最初に整理すべき情報は何ですか。
対象契約の一覧と、簡便的な取扱いの適用方針です。短期リースはリース開始日において借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まないリースをいい(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2))、使用権資産およびリース負債を計上しない取扱いを選択できます(リースに関する会計基準の適用指針 第20項)。適用範囲を先に決めておくと、研修で説明すべき論点を絞り込めます。