新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(リースに関する会計基準 第58項)。監査を受ける会社にとって、この基準は「どう処理するか」だけでなく「その処理をどう説明し、どう裏づけるか」が問われる基準です。
監査する側から見ると、新リース会計基準の論点はほとんどが会社の判断と見積りに帰着します。契約をすべて拾えているか、リース期間をどう決めたか、割引率の根拠は何か。いずれも会計システムの出力を見るだけでは検証できず、会社が作った資料を辿ることになります。この記事では、公認会計士が監査の現場で実際に確認する論点を5つに整理し、あわせて「監査人に何を出せる状態にしておくか」を解説します。
監査で新リース会計基準が論点になる理由
新リース会計基準では、借手はリースを解約不能期間とオプション期間から成るリース期間にわたって使用権資産とリース負債として計上します(リースに関する会計基準 第33項)。旧基準でオペレーティング・リース取引として賃借料処理していた取引が貸借対照表に載るため、影響が及ぶ契約の数が一気に増えます。オフィス、店舗、駐車場、複合機、車両、サーバー機器といった、これまで会計処理の対象として意識されていなかった契約まで対象になります。
監査人の関心は、この「数の多さ」に直結します。金額の大きい1件を精査するタイプの論点ではなく、網羅性(拾い漏れがないか)と、判断の一貫性(同じ性質の契約を同じ考え方で処理しているか)が中心になります。加えて、リース期間と割引率は見積りの要素を含むため、監査人は会社の判断過程そのものを検討対象にします。
基準の全体像をまだ整理していない場合は、先に借手の基本的な会計処理を押さえておくと、以下の論点が読みやすくなります。
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監査人が確認する5つの論点
実務では、初年度の監査で論点になる箇所はおおむね次の5つに集約されます。いずれも「正解を1つに決められない」性質を持つため、会社の説明と裏づけ資料の質がそのまま監査の進み方を左右します。
リースの識別と契約の網羅性
契約の当事者は、契約の締結時に、その契約がリースを含むか否かを判断します。契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含みます(リースに関する会計基準 第25項、第26項)。適用指針では、特定された資産の使用期間全体を通じて、顧客が使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ使用を指図する権利を有する場合に、支配が移転しているとされています(リースに関する会計基準の適用指針 第5項)。
監査で最初に問われるのは、この判断の前提となる契約母集団が完全かどうかです。「賃貸借契約書のファイル」だけを見ていると、業務委託契約や保守契約の中に埋もれたリース、口頭や取引慣行で継続している取決めが漏れます。契約には書面のほか、口頭、取引慣行等が含まれるとされている点に注意が必要です(リースに関する会計基準 第5項)。
監査人は通常、契約台帳と総勘定元帳の賃借料・地代家賃・使用料といった費用科目を突き合わせ、台帳にない支払先がないかを確認します。費用科目からの逆引きに耐えられる契約台帳を作れているかが、この論点の実質的な合否になります。
借手のリース期間の決定
借手は、原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えてリース期間を決定します(リースに関する会計基準 第31項)。「合理的に確実」かどうかの判定にあたっては、延長・解約オプションの対象期間に係る契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に関連して生じるコスト、事業内容に照らした原資産の重要性、オプションの行使条件といった経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(リースに関する会計基準の適用指針 第17項)。
ここが監査で最も議論になる論点です。オフィスの普通借家契約のように契約上は2年でも実態として長期に使い続ける物件で、リース期間を2年と置くのか、更新を織り込むのか。監査人は結論そのものよりも、会社が何を考慮してその結論に至ったかの記録を確認します。物件ごとに考慮要因を書き出した判断メモが残っていれば、監査は比較的スムーズに進みます。
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割引率の決定根拠
借手がリース負債の現在価値の算定に用いる割引率は、貸手の計算利率を知り得る場合には当該利率、知り得ない場合には借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率によります(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。多くの借手にとっては後者、すなわち追加借入利子率を自ら見積ることになります。
監査人が確認するのは、その利率の出どころです。取引金融機関からの実際の借入条件なのか、社債やスワップの市場データなのか、通貨・期間・信用力・担保の状況が対象のリースと整合しているのか。単一の利率をすべてのリースに当てているのであれば、なぜそれが許容されるのかの説明が要ります。割引率は使用権資産とリース負債の計上額に直結するため、根拠が曖昧なままだと数値全体の心証に影響します。
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簡便的な取扱いの選択と適用の一貫性
短期リース(リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリース)については、使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を原則として定額法により費用として計上することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2)、第20項)。この取扱いは、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表に表示するであろう科目ごと、又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに適用するか否かを選択します(リースに関する会計基準の適用指針 第20項)。
少額リースについても、重要性が乏しい減価償却資産について購入時に費用処理する方法が採用されている場合の基準額以下のリース、企業の事業内容に照らして重要性が乏しく1件当たりの金額にも重要性が乏しいリース、新品時の原資産の価値が少額であるリースについて、同様の簡便的な取扱いが認められています(リースに関する会計基準の適用指針 第22項)。1件当たりの金額を算定する基礎となる対象期間は、原則として借手のリース期間とされています(リースに関する会計基準の適用指針 第23項)。
さらに、未経過の借手のリース料の期末残高が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合には、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められるとして、利息相当額を控除しない方法などが認められます(リースに関する会計基準の適用指針 第40項、第41項)。
監査人がここで見るのは、選択したこと自体ではなく、選択の単位と適用の一貫性です。グループ単位で選択したはずなのに一部の契約だけ原則処理になっている、期中に新規契約が増えた結果10パーセント基準を満たさなくなったのに簡便法を続けている、といったずれは監査で必ず指摘されます。簡便的な取扱いは「楽になる仕組み」ではなく、要件充足を毎期モニタリングする義務がセットになった仕組みだと捉えたほうが実態に合います。
注記情報の作成体制
リースに関する注記の開示目的は、財務諸表本表で提供される情報と併せて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにあります(リースに関する会計基準 第54項)。借手は、会計方針に関する情報、リース特有の取引に関する情報、当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報を注記します(リースに関する会計基準 第55項(1))。
このうち「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」としては、リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額(少額リースに係るものを除く)、使用権資産の増加額、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとの使用権資産に係る減価償却の金額を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第102項)。会計方針についても、リースを構成しない部分を分けずに処理する選択などを行った場合は、その旨及び内容を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第97項)。
実務で監査の障害になりやすいのは、これらの数値が会計帳簿から直接出てこない点です。使用権資産の増加額や科目別の減価償却額は、契約単位の管理台帳から集計する必要があります。決算日の直前に手作業で集計した表を提出すると、監査人はその集計プロセス自体を検証対象に加えざるを得ず、結果として作業が増えます。注記に必要な項目を最初から台帳の項目として持たせておくことが、実務上いちばん効きます。
新リース会計基準の対応、影響額の簡易試算から
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監査人に示す資料を先に用意する
上の5論点は、いずれも「会社が判断し、その判断を資料で説明する」構造をしています。監査対応の準備とは、突き詰めれば説明資料をあらかじめ作っておくことに尽きます。実務でよく求められる資料を論点別に整理すると次のとおりです。
| リースの識別と 契約の網羅性 |
全社の契約台帳、賃借料等の費用科目からの逆引き突合表、リース該当性の判定結果と判定理由 |
|---|---|
| 借手のリース期間 | 物件ごとの解約不能期間とオプション条項の整理表、考慮した経済的インセンティブ要因と結論を記載した判断メモ |
| 割引率 | 採用した利率の一覧、利率ごとの根拠資料(借入条件の記録、市場データ等)、通貨・期間・信用力の対応関係の説明 |
| 簡便的な取扱い | 選択した単位(科目・原資産グループ)の定義書、基準額の設定根拠、期末時点での要件充足の検証資料 |
| 注記情報 | 注記項目ごとの集計表と、台帳から集計表に至るデータの流れを示した資料 |
加えて、初年度は経過措置の選択が監査の入口になります。原則的な遡及適用を選ぶのか、適用初年度の期首に累積的影響額を計上する方法を選ぶのかで、監査人が検証する対象期間そのものが変わるためです。
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計上額の整合性は仕訳で確認される
監査人は、判断の妥当性を確認したあと、その判断が数値として正しく落ちているかを再計算で確かめます。ここで会社側の集計と監査人の再計算が合わないと、原因の特定に時間を要します。以下は自社作例による数値です。
前提は次のとおりです。2027年4月1日にリースを開始し、借手のリース期間は5年、借手のリース料は年額1,200千円で各年度末に後払い、貸手の計算利率を知り得ないため追加借入利子率年3パーセントを割引率として用いるものとします(単位:千円)。借手は、リース開始日に、未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定した額によりリース負債を計上し、同額により使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。この前提では現在価値は5,496となります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 5,496 | リース負債 | 5,496 |
その後、利息相当額はリース期間にわたり原則として利息法により配分します(リースに関する会計基準 第36項)。また、所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します(リースに関する会計基準 第38項)。第1期の支払利息は5,496に3パーセントを乗じた165、元本返済額は1,200から165を差し引いた1,035、減価償却費は5,496を5年で除した1,099となります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 165 | 現金預金 | 1,200 |
| リース負債 | 1,035 | ||
| 減価償却費 | 1,099 | 使用権資産 | 1,099 |
監査人は、この計算をリース単位で再現できるかたちの明細を求めます。契約ごとにリース期間・リース料・割引率・各期の利息と元本内訳が並んだ償却スケジュールが台帳から出力できれば、この論点は事実上完了します。逆に、総額だけが記帳されていて内訳を復元できない場合、監査人はサンプルを抽出して個別に再計算することになり、会社側の対応工数が膨らみます。
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監査対応でつまずきやすい点
監査する側の経験から、初年度に議論が長引きやすいのは次の3点です。いずれも会計処理の難易度そのものではなく、社内の情報の持ち方に起因します。
第一に、契約情報が部門ごとに分散しているケースです。オフィスは総務、車両は営業、サーバーは情報システムというように管理主体が分かれていると、経理が全体像を把握できません。網羅性の説明が経理の口頭説明にとどまると、監査人は各部門への追加質問に踏み込むことになります。
第二に、判断の記録が残っていないケースです。リース期間や割引率の結論だけが台帳に入力されていて、なぜそうしたかの記録がない状態です。担当者の記憶に依存した説明は、翌期以降の継続性の説明にも支障が出ます。
第三に、期中の変動を拾う仕組みがないケースです。契約条件の変更が生じた場合、借手は変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理を行うか、リース負債の計上額の見直しを行います(リースに関する会計基準 第39項)。また、契約条件の変更を伴わない場合でも、リース期間に変更があるとき等はリース負債の計上額の見直しを行います(リースに関する会計基準 第40項)。期首に整えた台帳を放置すると、期末に大量の遡り修正が発生します。
これらはいずれも、基準の理解ではなく業務プロセスの設計の問題です。適用初年度を迎える前に、契約情報の集約ルートと判断記録の様式を決めておくことが、監査対応の負荷を最も確実に下げます。
まとめ
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。監査で問われるのは、この基準をどれだけ精緻に理解しているかではなく、会社の判断を第三者が辿れる状態にできているかです。
確認される論点は、契約の網羅性、リース期間、割引率、簡便的な取扱いの一貫性、注記情報の作成体制の5つに整理できます。いずれも決算作業の中で片づく性質のものではなく、契約情報を集める仕組みと判断を記録する様式を先に用意しておく必要があります。適用初年度の監査を円滑に進める鍵は、基準適用の前段階にあります。
なお、リースに該当するかどうかの判断や簡便的な取扱いの適用可否は個別性が高いため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
監査ではまずどの資料を求められますか。
最初に求められるのは、リース該当性の判定結果を含む全社の契約台帳と、賃借料や地代家賃といった費用科目の明細です。台帳に載っていない支払先がないかを突き合わせることで、契約の網羅性を確かめるためです。契約には書面のほか口頭や取引慣行による取決めも含まれるため、書面の契約書ファイルだけでは足りない点に注意が必要です(リースに関する会計基準 第5項)。
短期リースや少額リースの簡便的な取扱いを使えば、監査対応は軽くなりますか。
計上額の算定作業は軽くなりますが、監査対応が不要になるわけではありません。短期リースは科目ごと又は性質及び用途が類似する原資産のグループごとに適用の可否を選択し、少額リースは基準額以下であること等の要件を満たす必要があります(リースに関する会計基準の適用指針 第20項、第22項)。監査人は選択の単位の定義と、期末時点で要件を満たしているかの検証資料を確認します。
割引率について監査人から必ず確認されることは何ですか。
貸手の計算利率を知り得るかどうかの検討状況と、知り得ない場合に用いた追加借入利子率の見積根拠です(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。通貨、期間、信用力、担保の状況が対象のリースと整合しているかを説明できる資料を用意しておくと、確認はすぐに終わります。
注記のためのデータは会計システムから出力できる必要がありますか。
必ずしもシステム出力である必要はありませんが、集計プロセスを説明できることが前提になります。注記では、リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額、使用権資産の増加額、科目ごとの使用権資産に係る減価償却の金額などが求められます(リースに関する会計基準の適用指針 第102項)。これらを台帳の管理項目として持たせておくと、決算期の手作業と監査人による集計プロセスの検証を減らせます。