新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)では、借手はオペレーティング・リースを含むすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。そのため、どの契約が「リース」に当たるのかを見極める作業が、貸借対照表に載る金額を直接左右することになります。この作業が「リースの識別」です。
実務で難しいのは、契約書の表題が「リース契約」でない取引です。倉庫の保管サービス、データセンターの利用、電力の購入、車両の運行を含む配送委託といった契約の中に、リースを構成する部分が隠れていることがあります。逆に、名称が賃貸借であっても、リースに該当しないと判断される契約もあります。
本コラムでは、公認会計士事務所として上場準備企業の支援で使っている判定の順序に沿って、リースの識別の要件と判定フロー、契約類型別の考え方、識別後の会計処理までを整理します。なお、記載する事例と金額はすべて説明のための当事務所の作例です。
リースの識別とは
リースとは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます(リースに関する会計基準 第6項)。ここでいう契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めであり、書面のほか口頭や取引慣行も含まれます(リースに関する会計基準 第5項)。
注目したいのは、定義に「契約の一部分」という文言が入っている点です。契約全体がリースである必要はなく、サービス契約の一部分だけがリースを構成することがあり得ます。契約書の名称ではなく、契約に含まれる権利の内容から判断するという建付けです。
判断の時点と再判断の要否
リースの識別は、契約の締結時に契約の当事者が行います(リースに関する会計基準 第25項)。そして、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さないこととされています(リースに関する会計基準 第27項)。
実務上は、この「契約条件が変更されない限り見直さない」という定めが運用の負担を軽くします。毎期すべての契約を洗い直す必要はなく、新規契約と契約変更のタイミングで判定を回す仕組みを作れば足ります。上場準備企業では、契約管理台帳に「リース該当性の判定結果」と「判定日」を記録する欄を設け、契約変更の稟議に判定の再実施を紐付けておくと、監査対応でも説明しやすくなります。
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リースを含む契約の判定フロー
契約がリースを含むかどうかは、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうかで判断します(リースに関する会計基準 第26項)。この判断は、特定された資産の使用期間全体を通じて次の2つをいずれも満たすかどうかで行います(リースに関する会計基準の適用指針 第5項)。ここでいう使用期間とは、資産が顧客との契約を履行するために使用される期間をいい、非連続の期間も含まれます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(1))。
| ステップ1 特定された資産 |
契約の対象となる資産が特定されていること。契約に明記されているのが通常だが、サプライヤーが実質的な代替権を有する場合は特定された資産に該当しない |
|---|---|
| ステップ2 経済的利益の享受 |
顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有していること |
| ステップ3 使用を指図する権利 |
顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有していること |
3つのステップは順番に判断します。ステップ1で特定された資産がないと判断されれば、その時点でリースには該当せず、ステップ2以降を検討する必要はありません。実務では、この最初の関門でふるい落とされる契約が想像以上に多い、というのが率直な感覚です。
ステップ1 特定された資産の有無
資産は、通常、契約に明記されることにより特定されます。ただし、契約に明記されている場合であっても、次の2つをいずれも満たすときは、サプライヤーが当該資産を代替する実質的な権利を有しており、特定された資産に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第6項)。
- サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していること
- サプライヤーにおいて、当該資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が、代替することから生じるコストを上回ると見込まれるため、当該資産を代替する権利の行使によりサプライヤーが経済的利益を享受すること
ポイントは、契約書に代替条項があるだけでは足りず、サプライヤーが実際に入れ替えられる状態にあり、かつ入れ替えたほうが得をするという2つが揃って初めて「実質的な代替権」と認められる点です。倉庫や設備が顧客の敷地内に据え付けられているなど、物理的に入れ替えが難しい状況では、代替条項があっても実質的な代替権とは評価しにくくなります。
稼働能力の一部分を使用する契約
顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合には、当該資産の稼働能力部分は特定された資産に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第7項)。ただし、顧客が使用することができる稼働能力が当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合は、その稼働能力部分が特定された資産に該当します(リースに関する会計基準の適用指針 第7項)。
光ファイバーの一部の芯線、倉庫の一区画、データセンターのラック単位の利用など、「全体の一部を使う」契約はこの定めの検討対象になります。区画や設備番号で場所が特定され、他者と共用しない形になっていれば物理的に別個と評価しやすく、逆に「全体のうち何パーセント分」という取り決めにとどまる場合は特定された資産に該当しない方向に傾きます。
ステップ2 経済的利益のほとんどすべての享受
特定された資産があると判断できたら、次は、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているかを確認します(リースに関する会計基準の適用指針 第5項(1))。ここでいう経済的利益には、資産を自ら使用することで得られる利益だけでなく、第三者に転貸するなど二次的な取引から得られる利益も含めて考えます。
実務で論点になりやすいのは、同じ資産をサプライヤーや他の顧客と共用する契約です。倉庫の一部を他社と共同で使う、発電設備の出力の一部だけを引き取るといった形では、「ほとんどすべて」と言えるだけの取り分があるかが判断の分かれ目になります。契約上の数量条項や、実績としての利用割合を確認することになります。
ステップ3 使用を指図する権利
顧客は、次の(1)又は(2)のいずれかの場合にのみ、使用期間全体を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有しているとされます(リースに関する会計基準の適用指針 第8項)。
- 顧客が使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合
- 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされており、かつ、次のいずれかである場合
- 使用期間全体を通じて顧客のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している
- 顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計している
(2)は見落とされやすい要件です。使用方法があらかじめ固定されていて指図の余地がない契約でも、顧客だけが稼働させられる、あるいは顧客が資産を設計しているのであれば、使用を指図する権利があると評価されます。専用設備を顧客仕様で設計・設置してもらうケースは、この経路でリースに該当することがあります。
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契約類型別の判定の考え方
ここからは、上場準備企業の契約棚卸しで論点になりやすい類型を、当事務所の作例として整理します。いずれも結論は契約条件次第で変わるため、実際の判定は個々の契約書に当たって行う必要があります。
| 契約の例 | 判定で確認する点 |
|---|---|
| オフィス・店舗の不動産賃借 | 区画が特定され、貸主が他の区画へ移す実質的な権利を持たないのが通常。使用方法も借主が決めるため、リースに該当する方向 |
| サーバー・複合機などのIT機器の賃借 | 機番で特定されるか、供給者が任意の機器と入れ替えられるかを確認。据置型で入替コストが高ければ特定された資産に該当しやすい |
| 倉庫の保管サービス | 区画を指定せず「一定量を保管する」内容であれば、特定された資産に該当しない方向。専用区画を割り当てる契約は該当を検討 |
| データセンターのラック利用 | ラック番号が特定され施錠管理されていれば物理的に別個と評価しやすい。稼働能力の一部にとどまる場合は該当しない方向 |
| 再生可能エネルギーの電力購入契約 | 特定の発電設備から全量を購入し、発電量の決定に関与する場合は該当を検討。系統から一般の電力を買うだけなら該当しない |
| 車両を含む配送委託 | 車両が特定されず、運行の指図も受託者が行う場合は該当しない方向。専用車両を顧客仕様で用意させる場合は該当を検討 |
この一覧で伝えたいのは、同じ「サービス契約」でも、資産が特定されているか、誰が使い方を決めているかで結論が分かれるということです。契約書の表題だけで機械的に振り分けると、判定を誤ります。棚卸しの実務では、契約書に加えて、現場担当者への「その設備は入れ替えられることがあるか」「稼働の指示は誰が出しているか」というヒアリングが有効でした。
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リースの識別より先に確認する適用範囲
なお、リースの識別に入る前に、そもそも本会計基準の適用対象かどうかを確認する必要があります。次に該当する場合は、リースに関する会計基準を適用しません(リースに関する会計基準 第3項)。
| 公共施設等運営権 の取得 |
実務対応報告第35号の範囲に含まれる運営権者による公共施設等運営権の取得 |
|---|---|
| 知的財産の ライセンスの供与 |
収益認識に関する会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与 |
| 非再生型資源の 探査又は使用の権利 |
鉱物、石油、天然ガス及び類似の非再生型資源を探査する又は使用する権利の取得 |
また、無形固定資産のリースについては、本会計基準を適用しないことができるとされています(リースに関する会計基準 第4項)。ソフトウェアの利用契約をどう扱うかは、この定めをどう選択するかとあわせて検討します。
リースを含むと判定した後の会計処理
リースを構成する部分としない部分の区分
借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行います(リースに関する会計基準 第28項)。借手は、契約における対価の金額について、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分します(リースに関する会計基準の適用指針 第11項)。
もっとも、この配分は独立価格の把握が必要になり、負担が重くなりがちです。そこで借手は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成しない部分を分けずに合わせてリースを構成する部分として会計処理することを選択できます(リースに関する会計基準 第29項)。ビル管理費込みのオフィス賃借など、区分が難しい契約ではこの選択が現実的な解になります。
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リース開始日のオンバランス仕訳
借手は、リース開始日に、未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定した額によりリース負債を計上します(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。使用権資産は、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料及び付随費用等を加算した額により計上します(リースに関する会計基準 第33項)。現在価値の算定に用いる割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率によります(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。
次は当事務所の作例です。オフィスの賃借契約がリースを含むと判定され、借手のリース期間5年、借手のリース料の総額60,000千円、貸手の計算利子率を知り得ないため追加借入利子率により算定した利息相当額の合理的な見積額が4,400千円、リース開始日までに支払った付随費用が200千円であったと仮定します(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 55,800 | リース負債 | 55,600 |
| 現金預金 | 200 |
リース負債55,600千円は、リース料総額60,000千円から利息相当額4,400千円を控除した金額です。使用権資産は、このリース負債に付随費用200千円を加えた55,800千円となります。リースの識別を誤って役務提供契約として処理していれば、この使用権資産とリース負債がまるごと貸借対照表から漏れることになります。
短期リース・少額リースの簡便的な取扱い
借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第20項)。短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいいます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2))。少額リースについても、一定の要件を満たす場合に同様の簡便的な取扱いが認められています(リースに関する会計基準の適用指針 第22項)。
ここで押さえておきたいのは、これらの簡便的な取扱いは「リースの識別を省略してよい」という定めではないことです。まずリースに該当するかを判定し、該当したうえで短期・少額の要件を満たすものについて計上を省略する、という順序になります。判定の記録自体は残しておく必要があります。
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適用時期と識別作業の進め方
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、2024年9月13日に企業会計基準委員会から公表されました。適用時期は次のとおりです。
| 強制適用 | 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます |
|---|---|
| 早期適用 | 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができます |
本会計基準の適用により、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」等に従って会計処理されている取引については、これらの会計基準等の適用を終了します(リースに関する会計基準 第59項)。
3月決算会社であれば、2027年4月1日から始まる事業年度が適用初年度になります。逆算すると、契約の洗い出しとリースの識別は、その前の事業年度のうちに終えておきたい作業です。実務では、購買・総務・情報システム・各事業部門が個別に結んだ契約が散在していることが多く、契約の網羅的な収集そのものが最初の山場になります。契約書の保管場所を先に特定し、金額基準で優先順位を付けて判定を進めるのが現実的です。
まとめ
リースの識別は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転するかどうかで判断します(リースに関する会計基準 第26項)。具体的には、特定された資産があるか、顧客が経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有するか、顧客が使用を指図する権利を有するか、という3つの関門を順に確認します(リースに関する会計基準の適用指針 第5項、第6項、第8項)。
判断の時点は契約の締結時であり、契約条件が変更されない限り見直しは不要です(リースに関する会計基準 第25項、第27項)。この定めを踏まえ、新規契約と契約変更のタイミングで判定が回る業務プロセスを先に組み立てておくと、適用初年度以降の負担が大きく変わります。
リースの識別は、契約条件の読み方ひとつで結論が変わる個別性の高い判断です。判断に迷うケースや、契約の棚卸しの進め方については、具体的なケースを踏まえて公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
リースの識別はいつ行うのですか。
契約の締結時に、契約の当事者が当該契約がリースを含むか否かを判断します(リースに関する会計基準 第25項)。契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直しません(リースに関する会計基準 第27項)。したがって、毎期すべての契約を再判定する必要はなく、新規契約と契約変更を捕捉する仕組みを整えることが実務上の要点になります。
賃貸借契約はすべてリースに該当しますか。
契約の名称ではなく内容で判断するため、賃貸借契約であっても該当しない場合があります。サプライヤーが使用期間全体を通じて資産を代替する実質上の能力を有し、かつ代替により経済的利益を享受する場合には、特定された資産に該当せず、リースにも該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第6項)。
短期リースや少額リースはリースの識別を省略できますか。
省略できません。短期リース・少額リースの簡便的な取扱いは、リースに該当すると判定したうえで使用権資産及びリース負債の計上を省略できるという定めです(リースに関する会計基準の適用指針 第20項、第22項)。識別の判定自体は行い、記録を残す必要があります。
リースを含む契約に役務提供が含まれる場合はどう処理しますか。
原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行い、借手は契約における対価をそれぞれの独立価格の比率に基づいて配分します(リースに関する会計基準 第28項、リースに関する会計基準の適用指針 第11項)。ただし借手は、原資産のグループごとに、両者を分けずに合わせてリースを構成する部分として会計処理することを選択できます(リースに関する会計基準 第29項)。