労働組合の運営は、組合員から預かった組合費と信頼のうえに成り立っています。委員長・書記長・会計担当といった役員が交代しながら引き継いでいくため、「前任者のやり方をなぞってはいるが、何が法律上の義務で何が自組合の慣行なのかが分からない」という声を多く伺います。労働組合法が運営について求めていることは、実はそれほど多くありません。求めている事項が限られているからこそ、その部分は確実に押さえておく必要があります。
本記事では、労働組合の運営を「法律上の要件」「年間スケジュール」「役員の役割」「会計」の4つの角度から整理します。公認会計士として労働組合の会計監査に関わる立場から、実務でつまずきやすい点も併せてお伝えします。
労働組合の運営を支える法律上の枠組み
労働組合の運営を考えるうえでの出発点は、労働組合法です。労働組合法は1949年に制定された法律で、労働組合が団体交渉や不当労働行為の救済といった法律上の保護を受けるための要件を定めています。運営のルールは、この要件を満たし続けるための仕組みとして設計されています。
労働組合法上の労働組合の要件
労働組合法上の労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体をいいます(労働組合法 第2条本文)。ここでいう「自主的に」という文言が、運営の独立性を求める根拠になっています。
一方で、次のいずれかに該当する団体は労働組合法上の労働組合にあたりません。役員や人事権を持つ監督的地位にある労働者など、使用者の利益を代表する者の参加を許すもの(同条第1号)、団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの(同条第2号)、共済事業その他福利事業のみを目的とするもの(同条第3号)、主として政治運動または社会運動を目的とするもの(同条第4号)の4つです。
特に運営実務で問題になりやすいのが第2号の経費援助です。ただし、労働者が労働時間中に時間または賃金を失うことなく使用者と協議し、または交渉することを使用者が許すことは妨げられず、福利その他の基金に対する使用者の寄附および最小限の広さの事務所の供与は除かれています(労働組合法 第2条第2号ただし書)。この線引きを規約と運用の両面で説明できる状態にしておくことが、運営上の防衛線になります。
資格審査と規約の法定記載事項
労働組合は、労働委員会に証拠を提出して労働組合法第2条および第5条第2項の規定に適合することを立証しなければ、同法に規定する手続に参与する資格を有さず、また同法に規定する救済を与えられません(労働組合法 第5条第1項)。これが一般に資格審査と呼ばれる手続です。不当労働行為の救済申立てを行う場面などで必要になり、労働委員会は労働組合法第2条の要件と第5条第2項の規約要件の双方から判断します。
規約に含めなければならない事項は、次の9項目です(労働組合法 第5条第2項第1号から第9号)。運営のルールは、この9項目を土台に組み立てることになります。
| 号 | 規約に含めるべき規定 |
|---|---|
| 第1号 | 名称 |
| 第2号 | 主たる事務所の所在地 |
| 第3号 | 単位労働組合の組合員が、その労働組合のすべての問題に参与する権利および均等の取扱を受ける権利を有すること |
| 第4号 | 何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地または身分によって組合員たる資格を奪われないこと |
| 第5号 | 役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること |
| 第6号 | 総会は、少なくとも毎年1回開催すること |
| 第7号 | 会計報告を、会計監査人による証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表すること |
| 第8号 | 同盟罷業は、直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと |
| 第9号 | 規約は、直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと |
なお第5号・第9号は、連合団体である労働組合または全国的規模をもつ労働組合の場合、単位労働組合の組合員またはその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票によることとされています(労働組合法 第5条第2項第5号、第9号)。単組と連合体で条文上の書き分けがあるため、自組合がどちらに当たるかを確認したうえで規約を整える必要があります。
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労働組合の年間スケジュール
労働組合の運営スケジュールを組み立てるときは、法律が毎年求めている行為と、自組合の規約や慣行で行っている行為を分けて考えると整理しやすくなります。前者は動かせない締切であり、後者は組合の事情に合わせて設計できる部分だからです。
毎年必ず必要になる運営行為
労働組合法が「少なくとも毎年1回」と定めているのは、次の2つだけです。1つは総会の開催(労働組合法 第5条第2項第6号)、もう1つは会計報告の組合員への公表(同項第7号)です。単組では総会を大会と呼ぶことも多く、実務ではこの2つを同じ場で行う運営が一般的です。
役員の選挙については、労働組合法は選出方法を直接無記名投票と定めているものの(労働組合法 第5条第2項第5号)、任期や改選の周期は定めていません。任期は規約で定める事項であり、多くの組合が1年または2年としています。自組合の規約に何と書いてあるかを確認したうえで、改選年の日程を年間計画に組み込んでください。
決算から大会までの流れ
会計を軸に年間の流れを描くと、運営の全体像がつかみやすくなります。会計報告は会計監査人による正確であることの証明書とともに公表しなければならないため(労働組合法 第5条第2項第7号)、決算から大会までの間に監査の期間を必ず確保する必要があります。次の流れは、決算期末を起点とした一般的な組み立て方の一例です。
| 時期の目安 | 主な運営行為 |
|---|---|
| 決算期末まで | 組合費の収納状況と支出の整理、証憑の保管状況の確認 |
| 決算期末後1か月程度 | 決算数値の確定と計算書類の作成、会計監査人への資料提出 |
| 決算期末後1〜2か月 | 会計監査の実施と、正確であることの証明書の受領 |
| 決算期末後2〜3か月 | 大会(総会)の開催、会計報告の公表、必要に応じて役員選挙と規約改正 |
| 大会後 | 新年度予算の執行開始、役員交代に伴う引継ぎ |
この流れで最も詰まりやすいのが、監査の期間の見積りです。計算書類の作成が遅れると監査に着手できず、証明書が大会に間に合わないという事態になります。決算期末後の作業日程は、会計担当だけで決めずに会計監査人と事前にすり合わせておくことをおすすめします。
関連コラム労働組合の会計監査のやり方|進め方・必要書類と年間スケジュール▸
役員の役割と執行部の体制
法律が定めているのは選出方法のみ
委員長・副委員長・書記長といった役職名や、それぞれの職務分担について、労働組合法は何も定めていません。同法が役員について定めているのは、組合員の直接無記名投票により選挙されること(労働組合法 第5条第2項第5号)という選出方法だけです。したがって、執行部の構成や役員の権限は、各組合が規約で自由に設計することになります。
裏を返せば、役割分担が曖昧なまま運営されていても法律違反にはならないため、組合内部の問題として表面化しにくいという性質があります。役員交代のたびに業務が属人的に引き継がれ、誰が何に責任を持つのかが不明確になっている組合は少なくありません。規約または規約に基づく細則で、少なくとも「対外的に組合を代表する者」「会計を担当する者」「会計を監査する者」を明確に切り分けておくことが、健全な運営の前提になります。
会計担当と監査担当の分離
会計運営で最も重視すべき考え方が、出納を担当する者と監査を担当する者を分けることです。会計報告には会計監査人による正確であることの証明書が必要とされており(労働組合法 第5条第2項第7号)、条文上も報告する側と証明する側は別の役割として想定されています。会計担当者が自らの処理を自ら監査する体制では、証明書の意味が失われます。
また、組合費の入金確認、支出の承認、通帳や印章の保管を1人に集中させない運用も重要です。役員数が限られる小規模な組合では完全な分離が難しい場合もありますが、その場合は委員長や書記長が定期的に通帳残高を確認するなど、相互牽制の仕組みを規約や細則に落とし込んでおくとよいでしょう。
法人である労働組合の代表者
労働組合が法人格を取得している場合、代表者に関する規律が加わります。労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。労働組合に関して登記すべき事項は、登記した後でなければ第三者に対抗することができません(同条第3項)。
法人である労働組合には、1人または数人の代表者を置かなければなりません(労働組合法 第12条第1項)。代表者が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、法人である労働組合の事務は代表者の過半数で決するとされています(同条第2項)。代表者は法人である労働組合のすべての事務について労働組合を代表しますが、規約の規定に反することはできず、また総会の決議に従わなければなりません(労働組合法 第12条の2)。なお、代表者の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(労働組合法 第12条の3)。
役員改選で代表者が交代した場合は、登記事項の変更手続を忘れずに行ってください。登記が実態と一致していないと、対外的な取引や訴訟の場面で不利益を受けるおそれがあります。
会計運営で押さえるポイント
会計報告に盛り込む内容
労働組合法は、公表すべき会計報告の内容を具体的に示しています。すなわち、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することとされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。
ここで求められているのは、収入と支出の両面を網羅した報告です。組合費収入だけを示して支出の内訳を省略する、特別会計を一般会計と切り離したまま報告しないといった運用は、条文が求める「すべての財源及び使途」を満たさないおそれがあります。会計の枠組みを整えるところから見直すことが、報告の質を高める近道です。
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会計監査人の位置づけ
条文は「組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人」という表現を用いています(労働組合法 第5条第2項第7号)。この文言をどう解するかは、資格審査の場面でしばしば論点になります。組合員から選任された会計監査委員が担う運用が広く行われている一方、規模の大きい組合や、過去に会計上の問題が生じた組合では、公認会計士による外部監査を導入する例もあります。
いずれの体制を採るにせよ、証明書を出す立場の者が会計処理そのものに関与していないこと、監査の手続と結果が記録として残っていることが重要です。証明書が形式的な押印に留まっている状態では、資格審査や組合員からの説明要求に耐えられません。
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基金の流用には総会の決議
共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的のために流用しようとするときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。一般会計の資金繰りが苦しいという理由で、執行部の判断だけで共済基金を取り崩すことはできないという趣旨です。
特別会計や基金を設けている組合では、資金移動のルールを規約または細則に明記し、総会決議が必要な行為を役員が判断できる状態にしておいてください。年度途中の資金移動は記録が残りにくく、後任の会計担当や会計監査人が経緯を追えなくなる典型的な論点です。
労働協約の期限管理も運営の一部
団体交渉の結果として締結する労働協約は、運営上の期限管理という観点でも押さえておく必要があります。労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、または記名押印することによってその効力を生じます(労働組合法 第14条)。口頭の合意や議事録の記載だけでは協約としての効力が認められません。
有効期間についても上限が定められています。労働協約には、3年を超える有効期間の定めをすることができず、3年を超える有効期間の定めをした労働協約は3年の有効期間の定めをした労働協約とみなされます(労働組合法 第15条第1項、第2項)。また、有効期間の定めがない労働協約は、当事者の一方が署名または記名押印した文書によって相手方に予告して解約することができ、この予告は解約しようとする日の少なくとも90日前にしなければなりません(同条第3項、第4項)。
締結済みの協約について、名称・締結日・有効期間・自動更新条項の有無を一覧にして管理しておくと、改定交渉の時期を逃しません。役員交代のタイミングで一覧が更新されず、期限切れに気づかないまま運用しているケースがあるため注意してください。
なお、一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されます(労働組合法 第17条)。組織率が変動する場合は、この一般的拘束力の要件を満たすかどうかも確認しておくとよいでしょう。
運営でつまずきやすい論点
投票手続を要する意思決定
労働組合法は、いくつかの意思決定について直接無記名投票を求めています。同盟罷業は、組合員または組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこととされ(労働組合法 第5条第2項第8号)、規約の改正は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ行えないこととされています(同項第9号)。
実務で問題になりやすいのは規約改正です。会計年度の変更や役員定数の見直しといった内部的な改正であっても、挙手や拍手による承認では条文の要件を満たしません。投票の実施記録と集計結果を議事録とともに保管しておいてください。
解散の要件
労働組合は、規約で定めた解散事由の発生、または組合員もしくは構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議によって解散します(労働組合法 第10条第1号、第2号)。組織再編や上部団体の変更を検討する際は、この要件を満たす手続を踏む必要があります。解散に至る場合でも、それまでの会計を明らかにしたうえで組合員に報告することが求められます。
使用者からの独立性
事務所の使用、専従者の賃金、事務用品の負担といった日常的な事項が、労働組合法第2条第2号の経理上の援助に当たらないかという論点は、運営が長期化するほど検証されにくくなります。慣行として続いてきた便宜供与について、最小限の広さの事務所の供与など条文が除外している範囲に収まっているかを、定期的に点検しておくことをおすすめします。
まとめ
労働組合の運営について労働組合法が求めている事項は、規約の法定記載事項9項目(労働組合法 第5条第2項)を中心に、決して多くはありません。しかし、総会の年1回以上の開催と、会計監査人の証明書を伴う会計報告の年1回以上の公表は、資格審査の場面で必ず確認される要件です。この2つを軸に年間スケジュールを組み、決算から監査、大会までの日程を無理のない形で設計することが運営の基本になります。
役員の役割分担は法律が定めていない領域だからこそ、規約や細則で明確にしておく価値があります。特に会計担当と監査担当の分離は、組合費を預かる組織としての信頼を支える仕組みです。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
労働組合の運営で毎年必ず行わなければならないことは何ですか。
労働組合法が「少なくとも毎年1回」と定めているのは、総会の開催と、会計報告の組合員への公表の2つです(労働組合法 第5条第2項第6号、第7号)。会計報告は、職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに公表する必要があります。役員選挙の周期は法律では定められておらず、規約で定めた任期に従います。
委員長や書記長の役割は法律で決まっていますか。
決まっていません。労働組合法が役員について定めているのは、組合員の直接無記名投票により選挙されるという選出方法だけです(労働組合法 第5条第2項第5号)。役職名や職務分担は各組合が規約で設計する事項です。法人である労働組合については、1人または数人の代表者を置くことが別途求められています(労働組合法 第12条第1項)。
会計報告にはどこまで含める必要がありますか。
すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す内容が必要です(労働組合法 第5条第2項第7号)。収入だけでなく支出の内訳を含め、特別会計を設けている場合はその状況も含めて組合員に公表することが求められます。
組合の運営費を会社に負担してもらうことはできますか。
団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるものは、労働組合法上の労働組合にあたらないとされています(労働組合法 第2条第2号)。ただし、労働時間中に賃金を失うことなく使用者と協議・交渉することを許すこと、福利その他の基金に対する使用者の寄附、最小限の広さの事務所の供与は除かれています(同号ただし書)。便宜供与の範囲は個別に検討が必要です。
規約を変更するにはどのような手続きが必要ですか。
単位労働組合の場合、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ規約を改正できません(労働組合法 第5条第2項第9号)。連合団体である労働組合または全国的規模をもつ労働組合の場合は、単位労働組合の組合員またはその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票によります。挙手や拍手による承認では要件を満たさないため、投票の記録を残してください。