労働組合の会計で最初に迷いやすいのが、闘争積立金のように使いみちを決めて積み立てた資金を、一般会計のまま持つのか、特別会計に分けるのかという判断です。結論から示すと、特別の目的を定めて徴収した資金を財源として組合活動を行う場合は、特別会計を設けなければなりません。一方、将来の特定の支出に備える目的や、特定の資金を区分して管理する目的であれば、特別会計を設けるかどうかは組合の選択です(労働組合会計基準 第6 特別会計 1)。
そして、繰入れと取崩しの仕訳は、次の3つの型に収まります。一般会計側は「繰入金支出」、特別会計側は「繰入金収入」で受け、留保する資金は「積立預金」という拘束資産に振り替える。取り崩すときはその逆をたどる、という流れです。本記事では、この仕訳を最初に示したうえで、区分の基準・総合貸借対照表での表示・取崩しの決議・外部監査での確認点までを、公認会計士の実務目線で整理します。
特別会計を設ける基準と闘争積立金の位置づけ
労働組合会計基準は、労働組合が活動目的に応じて会計区分を設けるものとしています(労働組合会計基準 第1 総則 4)。その会計区分の代表が一般会計と特別会計であり、特別会計を設けるかどうかは、次の2つの場面で判断が分かれます。
| 特別の目的を定めて徴収した資金を 財源として組合活動を行う場合 |
その活動状況を明らかにするため、特別会計を設けなければなりません。闘争資金特別会計がこの類型に当たります |
|---|---|
| 将来の特定の支出に備える場合 又は特定の資金を区分して管理する場合 |
特別会計を設けることができます。退職積立金特別会計や会館維持管理特別会計がこれに当たります |
闘争積立金は、大会や規約で使途と徴収方法を定めたうえで組合員から集め、争議に備えて積み立てるのが通例です。当初から収入源を定めた資金を財源として組合活動を行うため、闘争資金特別会計は前者、すなわち設置が求められる側の特別会計に位置づけられます(労働組合会計基準解釈指針 5(1))。
この区分を曖昧にしたまま一般会計に混ぜてしまうと、組合員に対して「特別の目的で集めた資金がその目的どおりに使われたか」を示せなくなります。会計報告は、すべての財源及び使途を示すことが求められているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、財源と使途の対応関係が読み取れない会計は、報告としての機能を果たしません。
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個人闘争積立預金の扱い
組合員ごとに積み立て、脱退時に返金する形の個人闘争積立預金を採用している組合もあります。この資金は組合員から預かる性格が強く、必ずしも組合財産を構成しないという見方もありますが、一定の条件の下で闘争資金として使用されるため、特別会計として処理するものとされています(労働組合会計基準解釈指針 5(3))。返金義務の有無によって、後述する総合貸借対照表での貸方区分の判断が変わる点に注意してください。
一般会計から特別会計へ繰り入れるときの仕訳
ここからは具体的な仕訳です。以下はいずれも当事務所が説明のために作成した設例で、実際の金額・科目名は組合の規程によります。前提は、一般会計から闘争資金特別会計へ3,000を繰り入れ、特別会計側はそのうち2,500を闘争積立預金として留保する、というものです(単位:千円)。繰入れ・受入れは収支計算書の科目で、留保する預金は資金の範囲に含まれない拘束資産として処理します(労働組合会計基準 注2、注5)。
まず一般会計側です。支出の部に特別会計繰入金支出を置き、繰り入れた会計区分が分かる科目名を付けます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 闘争資金特別会計繰入金支出 | 3,000 | 現金預金 | 3,000 |
次に闘争資金特別会計側です。受け入れた資金を収入に計上し、留保する分を闘争積立預金へ振り替えます。この振替は資金の範囲から出ていく動きなので、収支計算書上は闘争積立預金支出として表示され、貸借対照表にはその他の固定資産として闘争積立預金が残ります(労働組合会計基準 第4 貸借対照表 2(1)、注5)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 3,000 | 一般会計繰入金収入 | 3,000 |
| 闘争積立預金 | 2,500 | 現金預金 | 2,500 |
科目名は基準が示す一般的な例であり、組合の態様・規模等に応じて加除又は変更できます(労働組合会計基準 第1 総則 5)。実務では「闘争積立金繰入支出」「闘争資金繰入金収入」などの名称も見られますが、どの会計区分との取引かが名称から分かることが要点です。相手先の分からない繰入金科目は、後述する相殺処理でつまずく原因になります。
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取崩しの仕訳
争議に伴う支出のために1,800を取り崩す場合の仕訳です(単位:千円)。留保していた闘争積立預金を資金の範囲へ戻し、そのうえで支出を計上する、という2段構えで考えると迷いません。収支計算書上は、1行目が闘争積立預金取崩収入として収入の部に表示されます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,800 | 闘争積立預金 | 1,800 |
| 闘争支出 | 1,800 | 現金預金 | 1,800 |
取り崩した結果、正味財産の部に計上している闘争積立金も同額だけ減らします。この点は次の見出しで説明する一致の原則に直結します。取崩しの仕訳だけを起こして正味財産側を放置すると、貸借対照表が合わなくなります。
積立金と拘束資産は必ず一致させる
労働組合会計基準では、貸借対照表の正味財産の部を、固定資産等見返正味財産・積立金・次年度繰越金に区分します(労働組合会計基準 第4 貸借対照表 2(3)、注7)。
| 固定資産等 見返正味財産 |
固定資産や固定負債など、資金の範囲に含まれない項目を貸借対照表に計上したことに伴って生じる見返勘定 |
|---|---|
| 積立金 | 特定の目的を有した拘束資産を留保していることを示す区分。闘争積立金はここに入ります |
| 次年度繰越金 | 次年度へ繰り越す資金の剰余額 |
ここで実務上もっとも重要なのが、正味財産の部に積立金を設定する場合には、その設定目的を達成するため、積立金と拘束資産は必ず一致させなければならないという考え方です(労働組合会計基準解釈指針 3(4))。闘争積立金2,500に対して、資産側には同額の闘争積立預金が留保されている、という対応関係が求められます。
拘束資産には設定目的を明らかにした名称を付け、預金であれば「闘争積立預金」、預金以外の資産を含む場合は「闘争積立資産」と表示します(労働組合会計基準解釈指針 3(4))。実務では、積立金だけを帳簿上で増やして預金は普通預金に混ざったまま、という状態がしばしば見られます。この状態は、目的資金が実在するかを検証できないため、監査の場面でまず指摘される論点です。
また、拘束資産は流動資産ではなく、その他の固定資産に属するものとして扱います(労働組合会計基準 注5)。決算期末に短期の定期預金へ振り替えたからといって流動資産に戻すと、拘束性の表示が失われる点に注意してください。
労働組合の会計監査は公認会計士へ
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総合貸借対照表での表示と相殺
特別会計を設けた場合、会計区分ごとの活動状況を明らかにする計算書類を作成したうえで、一般会計及び特別会計を総合した貸借対照表を作成しなければなりません。この場合、各会計区分間の貸借は相殺して表示します(労働組合会計基準 第6 特別会計 2、第7 総合貸借対照表)。一般会計と特別会計の間の債権債務は、貸借対照表上は特別会計勘定として残るため、総合する段階で消去することになります。
難所は、特別会計の貸方残高をどの区分に置くかです。特別会計の貸方残高は、当該特別会計の性格に従って総合貸借対照表の貸方区分に記載します(労働組合会計基準 注10)。設定した資金の性格が正味財産たる性格か、負債たる性格かで、置き場所が分かれます(労働組合会計基準解釈指針 6(1))。
| 闘争資金特別会計 | 貸方残高は正味財産の部に計上します。組合員へ返す義務を負う資金ではなく、組合の正味財産としての性格を持つためです |
|---|---|
| 退職積立金特別会計 | 貸方残高は負債の部に計上します。将来の特定の支出に備えて計上した、負債たる性格を持つためです |
同じ「特別会計」でも置き場所が逆になるため、複数の特別会計を持つ組合では、会計区分ごとに性格を整理しておく必要があります。個人闘争積立預金のように脱退時の返金を予定している資金は、闘争という名称であっても返還義務の実態から判断することになります。
なお、総合収支計算書は作成しません。特別会計は設定された目的に従って収支計算を行っており、目的の異なる一般会計や他の特別会計と総合して収支計算書を作る必要は認められないためです(労働組合会計基準解釈指針 6(2))。総合するのは貸借対照表だけ、と覚えておくと決算資料の作り過ぎを防げます。
取崩しの決議|法令上の規定と規約による定めの違い
ここは、法令が定めている範囲と、組合が自ら定めるべき範囲を混同しやすいところです。労働組合法は、共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的のために流用しようとするときは、総会の決議を経なければならないと定めています(労働組合法 第9条)。条文が対象としているのは共済事業その他福利事業の基金であり、闘争資金そのものを名指しした規定ではありません。
つまり、闘争積立金の取崩しに総会決議を要するかどうかは、労働組合法が直接答えを与えている論点ではなく、組合の規約・会計規程・大会決議が定めるべき事項です。実務では、闘争資金は使途と徴収方法を大会で決議して集めている以上、取崩しについても同じ意思決定機関の承認を得る運用にしておくのが安全です。特別の目的を定めた資金の他目的への流用は、一定の承認の下に行われる必要があるとされている趣旨にも合致します(労働組合会計基準解釈指針 5(1))。
あわせて押さえておきたいのが、同盟罷業は組合員又は代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始できない、という規約の必要記載事項です(労働組合法 第5条第2項第8号)。争議行為の開始手続と、その資金を取り崩す会計上の手続は別の意思決定であり、議事録もそれぞれ残す必要があります。監査の場面では、この2つの決議書類の突合が実際に行われます。
労働組合法には、特別会計の様式や積立金の計上方法を定めた規定はありません。だからこそ、規約と会計規程にどこまで書き込んでおくかが、組合ごとの会計の質を分けます。
外部会計監査で確認される点
労働組合法は、すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告について、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを規約に定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。
この規定に基づく監査の実務指針では、監査報告書の文例が一般会計及び特別会計に関する計算書類を対象として記載する形で示されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。特別会計は監査の対象外、という整理は成り立ちません。この実務指針は2022年3月25日に改正され、2022年3月31日以後終了する会計年度に係る監査から適用されています。
実務上、闘争資金特別会計で確認されるのは次のような点です。積立金と闘争積立預金の残高が一致しているか。繰入れと取崩しが予算と大会決議の範囲内か。一般会計との間の特別会計勘定が両会計で符合し、総合貸借対照表で相殺されているか。取り崩した資金の使途が、当初定めた目的の範囲に収まっているか。いずれも、決算後に慌てて整えるのではなく、期中の記帳段階で押さえておくべき事項です。
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まとめ
闘争積立金のように目的を定めて徴収した資金を財源に活動する場合、特別会計の設置は選択ではなく求められる対応です(労働組合会計基準 第6 特別会計 1(1))。繰入れは一般会計の繰入金支出と特別会計の繰入金収入で受け、留保する資金は闘争積立預金という拘束資産へ振り替える。取崩しはその逆をたどり、正味財産の部の積立金も同額動かす。この対応関係を崩さないことが、会計処理の要点です。
決算では、会計区分間の貸借を相殺した総合貸借対照表を作成し、闘争資金特別会計の貸方残高は正味財産の部へ、退職積立金特別会計の貸方残高は負債の部へ置きます(労働組合会計基準 注10、解釈指針 6(1))。総合収支計算書は作成しません。そして取崩しの手続は、労働組合法が直接定めていない領域だからこそ、規約と会計規程で自ら設計しておく必要があります。
会計区分の設け方や積立金の性格の判断は、組合の規約や資金の実態によって適切な答えが変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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- e-Gov法令検索 労働組合法
- 日本公認会計士協会 公益法人委員会報告第5号 労働組合会計基準
- 日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第37号 労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例の改正について
よくある質問
闘争積立金は必ず特別会計にしなければなりませんか。
大会や規約で使途を定めて徴収した資金を財源として組合活動を行う場合は、その活動状況を明らかにするため特別会計を設けなければなりません(労働組合会計基準 第6 特別会計 1(1))。闘争資金特別会計はこの類型に当たるものとして示されています(労働組合会計基準解釈指針 5(1))。
闘争積立金を取り崩すには総会の決議が必要ですか。
労働組合法が総会の決議を求めているのは、共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的へ流用する場合です(労働組合法 第9条)。闘争資金の取崩し手続そのものを定めた規定はないため、規約・会計規程・大会決議によることになります。特別の目的を定めた資金の他目的への流用は一定の承認の下に行う必要があるとされており、実務では大会等の承認を得る運用が安全です(労働組合会計基準解釈指針 5(1))。
積立金と積立預金の金額はそろえる必要がありますか。
正味財産の部に積立金を設定する場合、その設定目的を達成するため、積立金と拘束資産は必ず一致させるものとされています(労働組合会計基準解釈指針 3(4))。拘束資産には設定目的が分かる名称を付け、預金であれば「闘争積立預金」と表示します。
総合収支計算書も作成する必要がありますか。
作成しません。特別会計は設定された目的に従って収支計算を行っており、目的の異なる会計区分と総合した収支計算書を作る必要は認められないため、総合するのは貸借対照表のみとされています(労働組合会計基準解釈指針 6(2))。
特別会計も外部の会計監査の対象になりますか。
対象になります。監査報告書の文例は、一般会計及び特別会計に関する計算書類を監査対象として記載する形で示されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。会計報告はすべての財源及び使途を示すものとされているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、特別会計だけを除外する整理は成り立ちません。