繰延税金資産の回収可能性を検討するとき、実務で最後まで論点が残りやすいのが「スケジューリング不能な一時差異」の扱いです。金額そのものは把握できているのに、いつ解消するかを見込めないため、繰延税金資産を計上してよいのかどうかが判断しづらく、監査人との協議が長引く典型論点でもあります。
この記事では、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の定めに沿って、スケジューリング不能な一時差異の意味、将来減算・将来加算それぞれの取扱い、企業分類ごとの計上可否、減損損失や役員退職慰労引当金といった項目別の判定、そして計上と取崩しの仕訳までを整理します。
スケジューリング不能な一時差異の意味
繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消する時に税金負担額を軽減する効果があるかどうかで計上額が決まります(税効果会計に係る会計基準 第二 二 1)。したがって「いつ解消するか」を見込む作業が出発点になり、これをスケジューリングと呼びます。
該当する2つの類型
スケジューリング不能な一時差異とは、税務上の益金又は損金の算入時期が明確でない一時差異をいい、次のいずれかに該当するものを指します(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 第3項(5))。この2類型のいずれにも当たらないものが、スケジューリング可能な一時差異です(同適用指針 第3項(6))。
| 将来の一定の事実の 発生による類型 |
将来の一定の事実が発生することによって税務上の益金又は損金の算入要件を充足することが見込まれるもので、期末において将来の一定の事実の発生を見込めないことにより、その要件を充足することが見込まれないもの |
|---|---|
| 意思決定又は実施計画等の 存在による類型 |
企業による将来の一定の行為の実施についての意思決定又は実施計画等の存在により算入要件を充足することが見込まれるもので、期末においてその意思決定又は実施計画等が存在していないことにより、要件を充足することが見込まれないもの |
要点は、金額が確定しているかどうかではなく、解消時期を見込める状態にあるかどうかで線を引いている点です。売却すれば損金算入されることが分かっていても、期末時点で売却の意思決定や実施計画がなければ、スケジューリング不能な一時差異として取り扱われます。
判断手順の中での位置づけ
回収可能性の判断手順は、期末の将来減算一時差異と将来加算一時差異をそれぞれ解消見込年度ごとにスケジューリングし、解消見込年度ごとに相殺したうえで、相殺しきれない部分を将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額と相殺していく流れで定められています(同適用指針 第11項(1)から(6))。そのうえで、これらの手順によっても相殺しきれなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がないものとし、繰延税金資産から控除するとされています(同適用指針 第11項(7))。
スケジューリング不能な一時差異は、この手順に載せる前提となる解消見込年度が定まらないため、原則としてこの相殺の枠組みに入りません。つまり、企業分類の判定とは別に、まず一時差異ごとにスケジューリングの可否を確かめる必要があるということです。
スケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱い
スケジューリング不能な一時差異のうち将来減算一時差異については、原則として、税務上の損金の算入時期が明確となった時点で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上します(同適用指針 第13項)。期末時点で解消時期が見込めない以上、その時点では繰延税金資産を計上しないという整理です。
ただし、重要な例外が置かれています。期末において税務上の損金の算入時期が明確ではない将来減算一時差異のうち、例えば貸倒引当金等のように、将来発生が見込まれる損失を見積ったものであって、その損失の発生時期を個別に特定してスケジューリングすることが実務上困難なものは、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異とは取り扱わないとされています(同適用指針 第13項ただし書)。
実務では、この例外に当てはめられるかどうかで結論が大きく変わります。過去の損金算入実績を年度ごとに集計し、そこに将来の合理的な予測を加味した見積方法を文書化できていれば、スケジューリング可能な一時差異として通常の手順に載せられます。逆に、集計の裏付けがない当てはめは、監査人との協議で認められにくい部分です。
スケジューリング不能な将来加算一時差異の取扱い
将来加算一時差異の側にも、同じくスケジューリング不能なものが生じます。スケジューリング不能な将来加算一時差異は、将来減算一時差異の解消見込年度との対応ができないため、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたって、当該将来減算一時差異と相殺することはできません(同適用指針 第14項)。
ただし、固定資産圧縮積立金等の将来加算一時差異については、企業が必要に応じて当該積立金等を取り崩す旨の意思決定を行う場合、将来減算一時差異と相殺することができるものとされています(同適用指針 第14項ただし書)。取崩しの意思決定という行為が入ることで、解消時期を見込める状態になるためです。
将来加算一時差異は繰延税金資産の回収可能性を支える要素であるため、この相殺可否は計上額に直結します。圧縮積立金を保有している企業では、取崩しの意思決定が機関決定として残っているかどうかを確認しておく必要があります。
企業分類ごとの計上可否
スケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱いは、収益力に基づく分類(分類1から分類5)によっても変わります。分類の判定要件そのものは別のコラムで整理していますので、あわせてご確認ください。
関連コラム繰延税金資産の回収可能性と企業分類の実務ポイント▸
| (分類1) | 原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされるため、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産も計上の対象となります(同適用指針 第18項) |
|---|---|
| (分類2) | 原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がないものとされます。ただし書に該当する場合は計上できます(同適用指針 第21項) |
| (分類3) | 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内のスケジューリングの結果に基づいて見積るため、スケジューリング不能なものは計上の対象となりません(同適用指針 第23項、第11項(7)) |
| (分類4) | 翌期のスケジューリングの結果に基づいて見積るため、スケジューリング不能なものは計上の対象となりません(同適用指針 第27項、第11項(7)) |
| (分類5) | 原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものとされます(同適用指針 第31項) |
分類2のただし書が実務の分かれ目
実務で最も検討されるのが分類2のただし書です。スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないものの、将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、その繰延税金資産は回収可能性があるものとされます(同適用指針 第21項ただし書)。
この取扱いは、2015年に公表された適用指針で新たに設けられたもので、適用初年度に従来の会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされていました(同適用指針 第49項(3)①)。上場準備企業でこの取扱いを使う場合は、「可能性が高い」と判断した根拠と、「いずれかの時点で回収できる」と説明する根拠の両方を、社内資料として残しておくことが実務上の要になります。
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項目別の判定
適用指針は、実務で判断が割れやすい項目について個別の定めを置いています。代表的なものを整理します。
固定資産の減損損失
固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、償却資産と非償却資産で性格が異なるため、次のように取り扱われます(同適用指針 第36項)。
| 償却資産 | 減価償却計算を通して解消されることから、スケジューリング可能な一時差異として取り扱います。あわせて、解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱いは適用しません |
|---|---|
| 非償却資産(土地等) | 売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合、スケジューリング不能な一時差異として取り扱います |
土地の減損損失は金額が大きくなりやすく、意思決定の有無だけで繰延税金資産の計上額が動きます。売却の実施計画があるかどうかは、取締役会等での決議の有無や事業計画への織り込み状況で確認します。
役員退職慰労引当金
役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異は、役員在任期間の実績や社内規程等に基づいて役員の退任時期を合理的に見込む方法等によりスケジューリングが行われている場合は、その結果に基づいて回収可能性を判断します(同適用指針 第37項)。一方、スケジューリングが行われていない場合は、スケジューリング不能な将来減算一時差異として取り扱われます。
この場合、分類2に該当する企業においては、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、第21項ただし書に従って回収可能性を判断することとされています(同適用指針 第37項)。役員退職慰労引当金は、分類2のただし書が実際に使われる代表的な項目です。
その他有価証券の評価差額
その他有価証券の評価差額に係る一時差異がスケジューリング不能な一時差異である場合、評価差損の銘柄ごとの合計額と評価差益の銘柄ごとの合計額を相殺した後の純額について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上します(同適用指針 第38項(2))。
純額で評価差損となる場合、その将来減算一時差異はスケジューリング不能であるため、原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとされます。ただし、その他有価証券は通常随時売却が可能であり長期的には売却されることが想定される点を考慮し、分類1に該当する企業及び分類2に該当する企業においては、純額の評価差損に係る繰延税金資産の回収可能性があるものとすることができます(同適用指針 第39項(2))。
あわせて、スケジューリング不能なその他有価証券の評価差額に係る一時差異について第38項(2)によった場合、その他有価証券の売却損益計上予定額を将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に含めることはできません(同適用指針 第40項)。売却予定額を課税所得の見積りに織り込んで回収可能性を補強する、という組み立てはできないということです。
解消見込年度が長期にわたる一時差異との違い
混同されやすいのが、退職給付引当金や建物の減価償却超過額のように、スケジューリングの結果その解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異です。これらは企業が継続する限り将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有するため、分類1及び分類2に該当する企業においては、繰延税金資産の回収可能性があると判断できるものとされています(同適用指針 第35項(1))。
解消時期が遠いことと、解消時期を見込めないことは別の話です。長期にわたるだけでスケジューリング不能と整理してしまうと、計上できるはずの繰延税金資産を落とすことになります。
計上と取崩しの仕訳
スケジューリング不能な一時差異の判断は、繰延税金資産の計上額と法人税等調整額に直結します。ここでは自社作例により、計上する場合と取り崩す場合の仕訳を示します。
分類2のただし書により計上する場合
分類2に該当する企業が、スケジューリングを行っていない役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異50,000千円について、将来のいずれかの時点で回収できることを合理的な根拠をもって説明できたケースを想定します。法定実効税率は30%とします(単位:千円)。根拠となる定めは、分類2のただし書と役員退職慰労引当金の取扱いです(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 第21項ただし書、第37項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 15,000 | 法人税等調整額 | 15,000 |
スケジューリング不能となり取り崩す場合
次に、土地の減損損失に係る将来減算一時差異100,000千円について、前期末は売却の実施計画があったためスケジューリング可能な一時差異として繰延税金資産30,000千円を計上していたものの、当期末に売却の意思決定が撤回され、スケジューリング不能な一時差異となったケースを想定します(単位:千円)。非償却資産の減損損失は、売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合、スケジューリング不能な一時差異として取り扱われます(同適用指針 第36項(2))。
繰延税金資産から控除すべき金額は毎期見直し、回収可能性がないと判断された金額は取り崩します(同適用指針 第8項)。この見直しにより生じた差額は、原則として見直しを行った年度における法人税等調整額に計上します(同適用指針 第10項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税等調整額 | 30,000 | 繰延税金資産 | 30,000 |
なお、資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等をその他の包括利益で認識したうえで純資産の部のその他の包括利益累計額に計上する場合など、一定の場合には、差額を法人税等調整額ではなくその他の包括利益や評価・換算差額等に計上します(同適用指針 第10項(1)、(2))。その他有価証券の評価差額に係る繰延税金資産の見直しは、この例外に当たる点に注意が必要です。
実務上の留意点
上場準備企業や上場企業の決算実務では、次の点で監査人との認識合わせが必要になります。
- 一時差異の一覧について、スケジューリング可能か不能かの区分を明示した資料を作成する。区分の理由まで書いておくと協議が短くなります
- 貸倒引当金のように第13項ただし書で救えるものは、過去の損金算入実績の集計と将来の予測方法をセットで残す
- 土地の減損損失や役員退職慰労引当金は、意思決定・実施計画・社内規程の有無が結論を左右するため、機関決定の記録を確認しておく
- 圧縮積立金等の将来加算一時差異は、取崩しの意思決定の有無で相殺可否が変わる
また、スケジューリング不能な一時差異の判断や将来課税所得の見積りは、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすおそれのある会計上の見積りとして、注記の検討対象になり得ます。
中間財務諸表における取扱い
中間連結財務諸表及び中間財務諸表における繰延税金資産の回収可能性に係る取扱いは、企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」に定められたものが、本適用指針の取扱いにかかわらず適用されます(同適用指針 第2項(2-2))。年度決算と同じ手順をそのまま当てはめない点に留意が必要です。
関連コラム中間財務諸表の税効果会計|年度見積実効税率法と実務▸
適用時期と改正の経緯
本適用指針は2015年12月28日に公表され、2016年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(同適用指針 第49項(1))。その後、早期適用した場合の比較情報の取扱いを明確にするための2016年の改正(同適用指針 第49-2項)と、個別財務諸表における完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損等に係る取扱いを明確化するための2018年の改正(同適用指針 第49-3項)が行われており、2018年の改正は2018年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。加えて、中間財務諸表に係る取扱いを整理する範囲の定めが置かれています(同適用指針 第2項(2-2))。
まとめ
スケジューリング不能な一時差異とは、税務上の益金又は損金の算入時期が明確でない一時差異をいい、将来の一定の事実の発生を見込めない類型と、意思決定又は実施計画等が存在しない類型の2つに整理されています。判断の分かれ目は金額の確定ではなく、解消時期を見込める状態にあるかどうかです。
将来減算一時差異については、原則として損金算入時期が明確になった時点で回収可能性を判断しますが、貸倒引当金等で合理的なスケジューリングが行われているものは例外的にスケジューリング可能として扱えます。分類2の企業には、将来のいずれかの時点で回収できることを合理的な根拠をもって説明できれば計上できる余地が残されており、役員退職慰労引当金がその代表例です。
実務では、一時差異ごとの区分と、その区分を支える意思決定・実施計画・過去実績の記録が揃っているかどうかが、監査人との協議の速さを決めます。判断は企業の状況によって結論が変わりますので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
スケジューリング不能な一時差異があると繰延税金資産は計上できませんか
一律に計上できないわけではありません。分類1に該当する企業では、原則として繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされます(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針 第18項)。分類2に該当する企業でも、将来のいずれかの時点で回収できることを合理的な根拠をもって説明する場合は計上できます(同適用指針 第21項ただし書)。分類3及び分類4はスケジューリングの結果に基づいて見積るため計上の対象とならず、分類5は原則として回収可能性がないものとされます(同適用指針 第23項、第27項、第31項)。
貸倒引当金はスケジューリング不能な一時差異に当たりますか
貸倒引当金等のように、将来発生が見込まれる損失を見積ったものであって、その損失の発生時期を個別に特定してスケジューリングすることが実務上困難なものは、過去の税務上の損金の算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異とは取り扱いません(同適用指針 第13項ただし書)。実績集計と予測方法の裏付けがない場合は、この例外に当てはめられません。
土地の減損損失に係る一時差異はどのように扱いますか
土地等の非償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、売却等に係る意思決定又は実施計画等がない場合、スケジューリング不能な一時差異として取り扱います(同適用指針 第36項(2))。一方、償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、減価償却計算を通して解消されるため、スケジューリング可能な一時差異として取り扱います(同適用指針 第36項(1))。
分類2で計上するにはどのような根拠が必要ですか
対象となるのは、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないものの、将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれる将来減算一時差異です。そのうえで、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する必要があります(同適用指針 第21項ただし書)。役員退職慰労引当金についても、この定めに従って回収可能性を判断します(同適用指針 第37項)。
スケジューリング不能な将来加算一時差異は相殺に使えますか
スケジューリング不能な将来加算一時差異は、将来減算一時差異の解消見込年度との対応ができないため、回収可能性の判断にあたって将来減算一時差異と相殺することはできません(同適用指針 第14項)。ただし、固定資産圧縮積立金等の将来加算一時差異については、企業が必要に応じて当該積立金等を取り崩す旨の意思決定を行う場合、相殺することができます(同適用指針 第14項ただし書)。