労働組合の解散は、株式会社の解散のように複数の事由が並ぶ制度にはなっていません。労働組合法が定める解散事由は2つだけであり、そのどちらかに当たらなければ、活動が止まっていても組合は法律上存続したままです。まずは自組合がどの事由で解散するのかを確定させることが出発点になります。
もう一つの分岐点が、法人格の有無です。法人である労働組合が解散した場合には、清算人の選任、債権申出の公告、残余財産の引渡し、清算結了の登記という一連の手続が法定されています。本記事では、解散事由と決議要件から、清算の流れ、残余財産の帰属、清算時の会計報告までを、労働組合法および同法施行令の条文に沿って整理します。
労働組合の解散事由と決議要件
労働組合は、次の事由によって解散します(労働組合法 第10条)。この2つは法人である労働組合にも、法人格を持たない労働組合にも共通して適用されます。
| 規約で定めた 解散事由の発生 |
あらかじめ規約に「存続期間の満了」「対象事業場の閉鎖」などの解散事由を定めていた場合に、その事由が現実に発生したときです(労働組合法 第10条第1号) |
|---|---|
| 組合員又は構成団体の 4分の3以上の多数による総会の決議 |
単位労働組合であれば組合員、連合団体である労働組合であれば構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議です(労働組合法 第10条第2号) |
実務では、活動実態がなくなった組合を「自然消滅」として扱おうとする例が見られますが、労働組合法はそうした概念を置いていません。組合費の徴収も大会の開催も止まっている状態でも、上記いずれかの事由が生じない限り、法律上は解散していないという整理になります。
規約で定めた解散事由の発生
第1号による解散は、規約に解散事由の定めがあることが前提です。法人である労働組合の場合、解散事由を定めたときはその事由が登記事項になります(労働組合法施行令 第3条第5号)。したがって、規約に解散事由を置いている組合は、登記簿の記載と規約の文言が一致しているかを先に確認しておくと、後の解散登記で齟齬が生じません。
規約に解散事由の定めがない組合は、第1号による解散はできません。この場合は次の総会決議によることになります。
総会決議による解散と4分の3要件
第2号による解散は、組合員又は構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議を要します(労働組合法 第10条第2号)。出席者の4分の3ではなく、組合員又は構成団体の総数を基準とする点が重要です。定足数を満たした総会で出席者の4分の3が賛成しても、組合員総数の4分の3に届かなければ決議は成立しません。
そのため、実務では議決権を持つ組合員数を確定させる作業が先に来ます。休職者や出向者、脱退の意思表示をしたものの手続が完了していない者の扱いを規約に照らして整理し、母数を確定したうえで大会に諮る流れになります。議事録には、組合員総数、出席者数、賛成数を明記しておくことが望まれます。解散の登記の申請書には、解散の事由を証する書面を添付しなければならないためです(労働組合法施行令 第10条)。
法人である労働組合と法人でない労働組合の分岐
労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。法人登記のために資格証明書の交付を受ける場面では、労働委員会の資格審査を受ける必要があります(中央労働委員会「労働組合の資格審査について」)。
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解散後の手続が大きく分かれるのはここです。労働組合法第13条以下の清算に関する規定は、いずれも「法人である労働組合」を対象としています。法人格を持たない労働組合が解散した場合、清算人の登記や官報公告といった法定の手続はありません。財産や債務の後始末は、規約の定めと総会の決議に従って組合内部で処理することになります。
一方、法人である労働組合が解散したときは、清算の目的の範囲内において、その清算の結了に至るまではなお存続するものとみなされます(労働組合法 第13条)。解散したからといって権利義務の主体が直ちに消えるわけではなく、清算のためにいったん存続が擬制される構造です。
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清算人の選任と解散の登記
法人である労働組合が解散したときは、代表者がその清算人となります。ただし、規約に別段の定めがあるとき、または総会において代表者以外の者を選任したときは、この限りではありません(労働組合法 第13条の2)。つまり、何も手当てをしなければ執行委員長など現に登記されている代表者がそのまま清算人になります。
清算人となる者がいないとき、または清算人が欠けたため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所が利害関係人の請求により清算人を選任することができます(労働組合法 第13条の3)。重要な事由があるときは、裁判所が利害関係人の請求により清算人を解任することもできます(労働組合法 第13条の4)。これらの清算人に関する事件は、法人である労働組合の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(労働組合法 第13条の11第2号)。
登記については期限が定められています。清算人は、解散後2週間以内に、主たる事務所の所在地において、その氏名及び住所並びに解散の原因及び年月日の登記をしなければなりません(労働組合法 第13条の5第1項)。清算中に就職した清算人は、就職後2週間以内に、その氏名及び住所を登記します(同条第2項)。解散の登記の申請書には解散の事由を証する書面を添付し、代表者が清算人とならない場合には清算人の資格を証する書面も添付します(労働組合法施行令 第10条)。
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清算手続の流れ
法人である労働組合の清算は、清算人の職務と債権者保護の手続を軸に進みます。条文上の期限を時系列で並べると次のとおりです。
| 解散後2週間以内 | 清算人の氏名及び住所、解散の原因及び年月日の登記(労働組合法 第13条の5第1項) |
|---|---|
| 清算人の就職の日から2月以内 | 少なくとも3回の公告により、債権者に対し一定の期間内に債権の申出をすべき旨を催告。その期間は2月を下ることができない(労働組合法 第13条の7第1項) |
| 債権申出期間の経過後 | 現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡し(労働組合法 第13条の6第1項) |
| 清算結了の日から2週間以内 | 清算結了の登記(労働組合法施行令 第6条) |
清算人の職務
清算人の職務は、現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡しの3つです(労働組合法 第13条の6第1項)。清算人は、これらの職務を行うために必要な一切の行為をすることができます(同条第2項)。
現務の結了には、事務所の賃貸借契約の解約、共済事業の打切り、専従者の処遇、備品の処分といった実務が含まれます。債権の取立てでは未収の組合費や貸付金、預け金の回収を、債務の弁済では未払費用や借入金の返済を行います。実務上は、解散決議の直前時点で財産目録に相当する一覧を作り、資産・負債を漏れなく洗い出しておくと清算が滞りません。
債権申出の公告と催告
清算人は、その就職の日から2月以内に、少なくとも3回の公告をもって、債権者に対し、一定の期間内にその債権の申出をすべき旨の催告をしなければなりません。この期間は2月を下ることができません(労働組合法 第13条の7第1項)。公告には、債権者がその期間内に申出をしないときは清算から除斥されるべき旨を付記します(同条第2項)。ただし、清算人は、知れている債権者を除斥することができず、知れている債権者には各別にその申出の催告をしなければなりません(同条第2項ただし書、第3項)。この公告は官報に掲載してします(同条第4項)。
申出期間の経過後に申出をした債権者は、法人である労働組合の債務が完済された後、まだ権利の帰属すべき者に引き渡されていない財産に対してのみ請求をすることができます(労働組合法 第13条の8)。したがって、残余財産を引き渡してしまった後に遅れて出てきた債権については、請求できる財産が残っていないという事態が起こり得ます。公告の回数と期間を確実に満たしたうえで引渡しに進むことが、清算人自身のリスク管理につながります。
債務超過が判明した場合
清算中に法人である労働組合の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続開始の申立てをし、その旨を公告しなければなりません(労働組合法 第13条の9第1項)。この公告も官報に掲載してします(同条第4項)。清算人は、破産手続開始の決定を受けた場合において、破産管財人にその事務を引き継いだときは、その任務を終了したものとされます(同条第2項)。
この場合、清算中の労働組合が既に債権者に支払い、または権利の帰属すべき者に引き渡したものがあるときは、破産管財人はこれを取り戻すことができます(労働組合法 第13条の9第3項)。債務超過の疑いがある段階で一部の債権者へ先行して弁済したり、組合員へ財産を分配したりすると、後から取戻しの対象になります。財産と債務の突合は、公告に先立って行うべき作業です。
残余財産の帰属と分配の可否
債務を弁済してなお財産が残った場合、その帰属先は規約の定めによって決まります(労働組合法 第13条の10)。組合員への分配が当然に認められているわけではない点に注意が必要です。
| 規約で権利の帰属すべき者を 指定しているとき |
解散した法人である労働組合の財産は、規約で指定した者に帰属します(労働組合法 第13条の10第1項) |
|---|---|
| 規約に指定も指定方法の 定めもないとき |
代表者は、総会の決議を経て、当該労働組合の目的に類似する目的のために、その財産を処分することができます(労働組合法 第13条の10第2項) |
| 上のいずれによっても 処分されない財産 |
国庫に帰属します(労働組合法 第13条の10第3項) |
解散にあたって組合員へ残余財産を分配したいのであれば、規約で権利の帰属すべき者として組合員を指定しているかどうかを先に確認します。指定がなければ、総会の決議を経て、組合の目的に類似する目的のために処分する道を検討することになります。上部団体への寄贈や、労働者福祉に関する団体への拠出が典型例です。
なお、共済事業その他福利事業のために特設した基金がある場合、これを他の目的のために流用しようとするときは総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。解散に伴って基金を一般会計と合算して処理する場面でも、この決議を欠かさないようにします。
清算結了の登記と最後の会計報告
清算が結了したときは、清算結了の日から2週間以内にその登記をしなければなりません(労働組合法施行令 第6条)。清算結了の登記によって登記記録が閉鎖され、法人としての手続が完了します。
会計面では、解散の年度についても組合員に対する会計報告が必要です。労働組合の規約には、すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表する旨の規定を含まなければならないとされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。解散を決議した年度も例外ではなく、むしろ組合員の関心が最も高まる決算になります。
実務上は、解散決議までの通常の活動期間と、清算期間の収支を区分して示すと組合員に伝わりやすくなります。清算期間の報告では、債権の取立て額、債務の弁済額、公告費用などの清算費用、そして最終的な残余財産の額と引渡先を明らかにします。清算人の職務が現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の引渡しである以上(労働組合法 第13条の6第1項)、この3つに沿って数字を並べるのが最も分かりやすい構成です。
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解散実務で誤りやすい点
第一に、決議要件の母数を出席者数で計算してしまうケースです。労働組合法が求めるのは組合員又は構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議であり(労働組合法 第10条第2号)、出席者の4分の3ではありません。母数の取り違えは決議自体の効力に関わります。
第二に、公告を1回で済ませてしまうケースです。債権申出の催告は、就職の日から2月以内に少なくとも3回の公告をもって行い、申出期間は2月を下ることができません(労働組合法 第13条の7第1項)。回数と期間のいずれかを欠くと、除斥の効果を主張しにくくなります。
第三に、残余財産を先に分配してしまうケースです。清算人の職務の順序は、現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡しです(労働組合法 第13条の6第1項)。債務の弁済を終える前に分配すると、債務超過が判明した際に破産管財人から取り戻される可能性があります(労働組合法 第13条の9第3項)。
第四に、税務の確認を後回しにするケースです。収益事業を行っていた組合では、解散に伴う申告や届出の要否を、清算の日程と併せて確認しておく必要があります。
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まとめ
労働組合の解散事由は、規約で定めた解散事由の発生と、組合員又は構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議の2つです(労働組合法 第10条)。母数は出席者ではなく組合員又は構成団体の総数であり、議事録に人数を明記しておくことが、後の解散登記にもつながります。
法人である労働組合が解散したときは、清算の目的の範囲内で清算結了まで存続するものとみなされ(労働組合法 第13条)、代表者が清算人となって、解散後2週間以内の登記、就職の日から2月以内の3回以上の官報公告、債務の弁済、残余財産の引渡し、清算結了の日から2週間以内の登記へと進みます。残余財産の帰属は規約の定めが第一で、定めがなければ総会決議による類似目的への処分、それもなければ国庫帰属です(労働組合法 第13条の10)。
解散の年度も会計報告の対象であり、清算期間の収支と残余財産の引渡先まで含めて組合員に示すことが求められます。財産や債務の状況、規約の定め方によって手順や必要書類は変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
活動していない労働組合は自然に解散しますか
自然消滅という扱いはありません。労働組合が解散するのは、規約で定めた解散事由が発生した場合か、組合員又は構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議があった場合に限られます(労働組合法 第10条)。活動実態がない状態が続いていても、いずれかの事由が生じない限り法律上は存続しています。
解散の決議は出席者の4分の3で足りますか
足りません。労働組合法が求めるのは、組合員又は構成団体の4分の3以上の多数による総会の決議です(労働組合法 第10条第2号)。母数は出席者数ではなく組合員又は構成団体の総数であるため、議決権を持つ組合員数を確定させたうえで大会に諮る必要があります。
法人格のない労働組合にも清算の手続は必要ですか
労働組合法第13条以下の清算に関する規定は、法人である労働組合を対象としています。法人格のない労働組合には、清算人の登記や官報公告といった法定の手続はありません。ただし、財産や債務の後始末そのものは必要であり、規約の定めと総会の決議に従って処理することになります。
残余財産は組合員に分配できますか
規約で権利の帰属すべき者として組合員を指定していれば、その定めに従って帰属します(労働組合法 第13条の10第1項)。規約で指定せず、指定する方法も定めていない場合は、代表者が総会の決議を経て、組合の目的に類似する目的のために財産を処分することができます(同条第2項)。いずれによっても処分されない財産は国庫に帰属します(同条第3項)。