不当労働行為の救済申立ては、使用者による組合活動への妨害や団体交渉の拒否に対して、労働組合や労働者が労働委員会へ救済を求める手続きです。裁判とは別の行政的な救済制度であり、申立てから調査、審問を経て救済命令に至るまでの流れが労働組合法に定められています。申立てを検討する段階で、手続きの全体像と期限を正確に押さえておくことが重要です。
そしてもう一つ、単組の役員が見落としやすいのが申立ての入口にある資格審査です。労働組合が労働組合法上の救済を受けるには、第2条および第5条第2項の要件に適合することを立証しなければならず、その規約要件には会計報告と会計監査人による証明が含まれています。この記事では、不当労働行為の類型と審査手続の流れを条文に沿って整理したうえで、資格審査と会計監査の接続点を解説します。
不当労働行為の救済申立ての全体像
不当労働行為の救済制度は、労働組合法が使用者に対して一定の行為を禁止し、違反があった場合に労働委員会が救済を与える仕組みです。使用者は労働組合法第7条各号に掲げる行為をしてはならないとされており、これに違反した旨の申立てを受けた労働委員会が審査を行います(労働組合法 第7条、第27条第1項)。申立ての相手方は使用者であり、労働組合または労働者が申立人となります。
労働委員会は、都道府県知事の所轄の下に置かれる都道府県労働委員会と、中央労働委員会の二層構造です(労働組合法 第19条の12第1項)。不当労働行為事件は原則として都道府県労働委員会が初めに扱い、その命令に不服がある場合に中央労働委員会への再審査申立てや裁判所への取消訴訟へ進みます。
労働組合法第7条が禁じる4つの類型
不当労働行為として禁止される行為は、第7条の第1号から第4号までに整理されています。用語がやや硬いため、まず内容を噛み砕いて確認します。
| 不利益取扱い (第1号前段) |
労働者が組合員であること、労働組合に加入し若しくは結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由として解雇その他の不利益な取扱いをする行為です。 |
|---|---|
| 黄犬契約 (第1号後段) |
労働組合に加入しないこと、または労働組合から脱退することを雇用の条件とする行為です。採用や雇用の継続と引き換えに組合離れを迫るもので、いわゆる黄犬契約と呼ばれます。 |
| 団体交渉の拒否 (第2号) |
使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒む行為です。形式的に席には着いても実質的な交渉に応じない不誠実な対応も問題となります。 |
| 支配介入と経費援助 (第3号) |
労働組合の結成や運営を支配し、これに介入する行為、および組合運営の経費の支払について経理上の援助を与える行為です。支配介入とは、組合の自主的な意思決定に使用者が干渉することを指します。 |
| 報復的不利益取扱い (第4号) |
労働委員会への申立てや再審査の申立てをしたこと、審査の場で証拠を提示し発言したことを理由に、その労働者を解雇するなど不利益に取り扱う行為です。 |
第1号にはただし書があり、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合に、その労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することは妨げられません(労働組合法 第7条第1号ただし書)。いわゆるユニオン・ショップ協定が許容される根拠にあたります。また第3号のただし書により、労働時間中の協議や交渉を有給で認めること、福利厚生の基金への寄附、最小限の広さの事務所の供与は経費援助から除かれます(労働組合法 第7条第3号ただし書)。
申立てができる期間の制限
救済申立てには明確な期間制限があります。労働委員会は、行為の日から1年を経過した事件に係る申立てを受けることができません(労働組合法 第27条第2項)。継続する行為の場合は、その行為が終了した日が起算点となります。
この1年は除斥期間として扱われ、経過してしまうと救済の道が閉ざされます。組合内部での話し合いや自主交渉を重ねているうちに期限を過ぎてしまう例があるため、不利益取扱いや団交拒否の事実を認識した時点で日付を記録し、期限を意識して対応を進めることが大切です。
申立てから救済命令までの審査手続
労働委員会は、使用者が第7条の規定に違反した旨の申立てを受けたときは、遅滞なく調査を行い、必要があると認めたときは、申立てに理由があるかどうかについて審問を行わなければなりません(労働組合法 第27条第1項)。審問の手続では、使用者および申立人に対し、証拠を提出し証人に反対尋問をする充分な機会が与えられます。おおまかな流れは次のとおりです。
- 労働組合または労働者が労働委員会へ救済申立てを行う
- 労働委員会が調査を行い、争点と証拠を整理する
- 審問開始前に、当事者双方の意見を聴いて審査の計画を定める
- 審問を行い、証人尋問や物件の提出などの証拠調べを実施する
- 審問を終結し、事実の認定に基づいて救済命令または棄却命令を発する
- 命令書の写しを使用者および申立人に交付する
調査と審査の計画
調査は、争点と証拠を整理し、その後の審問を効率的に進めるための手続きです。労働委員会は審問開始前に、当事者双方の意見を聴いて審査の計画を定めなければならないとされています(労働組合法 第27条の6第1項)。
審査の計画では、調査を行う手続において整理された争点および証拠、審問を行う期間および回数ならびに尋問する証人の数、そして救済命令等の交付の予定時期を定めます(労働組合法 第27条の6第2項)。労働委員会と当事者は、適正かつ迅速な審査の実現のため、この計画に基づいて審査が行われるよう努めるものとされています(労働組合法 第27条の6第4項)。あわせて労働委員会は、迅速な審査を行うため審査の期間の目標を定め、その達成状況その他の実施状況を公表することとされています(労働組合法 第27条の18)。
審問と証拠調べ
審問は、当事者が主張と立証を尽くす中心的な手続きです。労働委員会は、当事者の申立てにより又は職権で、事実の認定に必要な限度において当事者または証人に出頭を命じて陳述させることができます(労働組合法 第27条の7第1項第1号)。
また、事件に関係のある帳簿書類その他の物件について、その所持者に提出を命じ、または提出された物件を留め置くことができます(労働組合法 第27条の7第1項第2号)。この物件提出命令を出すかどうかを決定するにあたっては、個人の秘密および事業者の事業上の秘密の保護に配慮しなければならないとされています(労働組合法 第27条の7第2項)。労働委員会が職権で証拠調べをしたときは、その結果について当事者の意見を聴くことになります(労働組合法 第27条の7第5項)。
救済命令等の交付と確定
事件が命令を発するのに熟したときは、労働委員会は事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令を発しなければなりません(労働組合法 第27条の12第1項)。この認容命令と棄却命令をあわせて救済命令等と呼びます。
事実の認定および救済命令等は書面によるものとされ、その写しが使用者および申立人に交付されます(労働組合法 第27条の12第3項)。救済命令等は、交付の日から効力を生じます(労働組合法 第27条の12第4項)。使用者が取消しの訴えを提起しないまま期間が経過すると、救済命令等は確定します(労働組合法 第27条の13第1項)。
使用者が確定した救済命令等に従わないときは、労働委員会は使用者の住所地の地方裁判所にその旨を通知しなければならず、この通知は労働組合および労働者も行うことができます(労働組合法 第27条の13第2項)。さらに、救済命令等の全部または一部が確定判決によって支持された場合にその違反があったときは、その行為をした者は1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています(労働組合法 第28条)。
和解による解決
審査は必ずしも命令で終わるとは限りません。労働委員会は、審査の途中においていつでも当事者に和解を勧めることができます(労働組合法 第27条の14第1項)。救済命令等が確定するまでの間に当事者間で和解が成立し、当事者双方の申立てがあった場合において、労働委員会がその内容を労働関係の正常な秩序の維持または確立のため適当と認めるときは、審査の手続は終了します(労働組合法 第27条の14第2項)。
この場合、既に発せられている救済命令等は効力を失います(労働組合法 第27条の14第3項)。また、和解に金銭の一定額の支払などを内容とする合意が含まれる場合は、当事者双方の申立てにより和解調書を作成することができ、この和解調書は強制執行に関して債務名義とみなされます(労働組合法 第27条の14第4項、第5項)。
再審査申立てと取消訴訟
都道府県労働委員会の命令に不服がある場合、争いは中央労働委員会または裁判所へ移ります。使用者は、都道府県労働委員会の救済命令等の交付を受けたときは、15日以内に中央労働委員会に再審査の申立てをすることができます(労働組合法 第27条の15第1項)。この規定は、労働組合または労働者が中央労働委員会に対して行う再審査の申立てについても準用されます(労働組合法 第27条の15第2項)。
注意したいのは、再審査の申立てをしても救済命令等の効力は停止しないという点です。中央労働委員会が再審査の結果これを取り消し、または変更したときに、はじめてその効力を失います(労働組合法 第27条の15第1項ただし書)。
裁判所への道としては、使用者が都道府県労働委員会の救済命令等について再審査の申立てをしないとき、または中央労働委員会が救済命令等を発したときは、使用者は救済命令等の交付の日から30日以内に取消しの訴えを提起することができます(労働組合法 第27条の19第1項)。この期間は不変期間とされています。労働組合または労働者が提起する取消しの訴えにも同様の規律が準用されます(労働組合法 第27条の19第3項)。
訴訟が係属している間の救済の実効性を確保する仕組みとして、緊急命令があります。使用者が訴えを提起した場合、受訴裁判所は救済命令等を発した労働委員会の申立てにより、決定をもって、使用者に対し判決の確定に至るまで救済命令等の全部または一部に従うべき旨を命じることができます(労働組合法 第27条の20)。主な期限を整理すると次のとおりです。
| 救済申立て | 行為の日、継続する行為にあってはその終了した日から1年以内(労働組合法 第27条第2項) |
|---|---|
| 再審査の申立て | 都道府県労働委員会の救済命令等の交付を受けてから15日以内(労働組合法 第27条の15第1項) |
| 取消しの訴え | 救済命令等の交付の日から30日以内。この期間は不変期間(労働組合法 第27条の19第1項) |
申立ての入口で必要になる資格審査
ここからが、会計を預かる役員にとって最も重要な論点です。労働組合は、労働委員会に証拠を提出して労働組合法第2条および第5条第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、かつ、この法律に規定する救済を与えられません(労働組合法 第5条第1項)。この適合性を審査する手続きが資格審査です。
つまり、不当労働行為の救済申立てを行う労働組合は、申立てと並行して資格審査を受け、労働組合法上の労働組合であることを立証する必要があります。実際、中央労働委員会も、不当労働行為の救済申立てをする場合を資格審査が必要となる場面の一つとして挙げています。ここで規約や会計の不備が見つかると、本題である不当労働行為の審理に入る前に補正を求められ、解決までの時間が余計にかかります。
なお、第5条第1項にはただし書があり、この規定は第7条第1号に基づく個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではないとされています(労働組合法 第5条第1項ただし書)。組合としての資格が問題となる場合でも、労働者個人の不利益取扱いに対する保護までが失われるわけではありません。
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自主性の要件と民主性の要件
資格審査で確認される要件は、大きく二つに分かれます。一つは第2条が定める自主性の要件です。労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体をいいます(労働組合法 第2条本文)。
ただし、役員や雇入解雇昇進などに直接の権限を持つ監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの、団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの、共済事業その他福利事業のみを目的とするもの、主として政治運動または社会運動を目的とするものは、労働組合にあたらないとされています(労働組合法 第2条ただし書第1号から第4号)。
もう一つは第5条第2項が定める民主性の要件で、規約に含めるべき事項が第1号から第9号まで列挙されています。名称や主たる事務所の所在地に加え、組合員の均等取扱い、役員の直接無記名投票による選挙、総会の年1回以上の開催、同盟罷業の開始手続、規約改正の手続などが含まれます(労働組合法 第5条第2項)。
第5条第2項第7号の会計報告と会計監査人の証明
規約要件のうち、会計に直接かかわるのが第7号です。すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少くとも毎年一回組合員に公表されること、と定められています(労働組合法 第5条第2項第7号)。
この条文が求めているのは三つの要素です。第一に、財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を作成すること。第二に、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人による、その会計報告が正確である旨の証明書を得ること。第三に、両者をセットで少なくとも毎年1回、組合員に公表することです。規約にこの趣旨の規定が置かれ、かつ実際に運用されている必要があります。
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救済申立てを急ぐ局面になってから会計監査人を探し、過年度分の会計報告を整えるのは現実的ではありません。日頃から会計報告と証明書を毎年きちんと作成し公表しておくことが、いざというときに手続きを滞らせない最良の備えになります。
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資格審査を経て得られる効果
資格審査で適合が確認されると、労働組合は労働組合法上の手続に参与し、救済を受けることができます。資格審査は救済申立てだけでなく、労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合、法人登記のために資格証明書の交付を受ける場合、労働協約の地域的拡張適用の申立てをする場合などにも必要とされ、過去に適格決定を受けたことがある労働組合でも、その都度受ける必要があります。
なお、法人格との関係では、労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。資格審査は、救済申立ての入口であると同時に、法人化の入口でもあります。
まとめ
不当労働行為の救済申立ては、労働組合法第7条が禁じる不利益取扱い、黄犬契約、団体交渉の拒否、支配介入と経費援助、報復的不利益取扱いに対して、労働委員会に救済を求める手続きです。申立ては行為の日から1年以内に行う必要があり、調査、審査の計画、審問、救済命令等の交付という流れで進みます(労働組合法 第27条第2項、第27条の6、第27条の7、第27条の12)。
そして申立ての前提として、労働組合は第2条と第5条第2項への適合を立証する資格審査を受けなければなりません(労働組合法 第5条第1項)。その規約要件には、会計報告と職業的に資格がある会計監査人による証明書の年1回以上の公表が含まれています(労働組合法 第5条第2項第7号)。会計面の備えは平時からの積み重ねでしか整いません。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
よくある質問
救済申立てはいつまでに行う必要がありますか
行為の日から1年以内です。継続する行為にあっては、その行為が終了した日から1年以内となります。労働委員会は、この期間を経過した事件に係る申立てを受けることができません(労働組合法 第27条第2項)。
会計報告や会計監査人の証明書が整っていないと救済申立てはできませんか
労働組合として救済を受けるには、労働組合法第2条および第5条第2項の規定に適合することを立証する必要があり、規約要件には会計報告と職業的に資格がある会計監査人による証明書の年1回以上の公表が含まれます(労働組合法 第5条第1項、第5条第2項第7号)。不備があると資格審査の段階で補正を求められ、審理の開始が遅れる要因になります。ただし第5条第1項ただし書により、この規定が第7条第1号に基づく個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではないとされています。
救済命令に不服がある場合はどうなりますか
使用者は、都道府県労働委員会の救済命令等の交付を受けてから15日以内に中央労働委員会へ再審査を申し立てることができ、この規定は労働組合または労働者にも準用されます(労働組合法 第27条の15第1項、第2項)。また、救済命令等の交付の日から30日以内に取消しの訴えを提起することもできます(労働組合法 第27条の19第1項)。再審査の申立ては救済命令等の効力を停止しません。
使用者が救済命令に従わない場合の効果はありますか
使用者が確定した救済命令等に従わないときは、労働委員会が使用者の住所地の地方裁判所にその旨を通知しなければならず、労働組合および労働者も通知することができます(労働組合法 第27条の13第2項)。さらに、救済命令等の全部または一部が確定判決によって支持された場合にその違反があったときは、その行為をした者は1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています(労働組合法 第28条)。
審査の途中で和解することはできますか
できます。労働委員会は審査の途中においていつでも当事者に和解を勧めることができ、当事者間で和解が成立して双方の申立てがあり、労働委員会がその内容を適当と認めるときは審査の手続が終了します(労働組合法 第27条の14第1項、第2項)。金銭の支払などを内容とする合意については和解調書を作成でき、強制執行に関して債務名義とみなされます(労働組合法 第27条の14第4項、第5項)。
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