商品券やギフト券を発行したとき、受け取った現金をその期の売上にしてよいのか、使われないまま残った分をいつ収益にできるのか。この2点は、小売業・飲食業・EC事業者の決算でつまずきやすい論点です。収益認識に関する会計基準のもとでは、商品券の発行は収益ではなく契約負債の認識から始まり、最後まで使われない部分(非行使部分)についても、収益認識の時点を基準に沿って判定する必要があります。
本コラムでは、発行時・使用時の仕訳から、非行使部分を権利行使のパターンに比例して収益認識する方法と、権利が消滅した時に一括して認識する方法の使い分けまで、条項番号と仕訳例を示しながら整理します。
商品券の収益認識における基本的な考え方
発行時は収益ではなく契約負債
商品券の発行は、顧客から先に代金を受け取り、後日その顧客に商品又はサービスを引き渡す約束をする取引です。財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合には、対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第78項)。
ここでいう契約負債とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいいます(収益認識に関する会計基準 第11項)。商品券の発行代金は、まさにこの定義に当てはまります。
適用指針も同じ構造を確認しています。将来において財又はサービスを移転する(あるいは移転するための準備を行う)履行義務については、顧客から支払を受けた時に、支払を受けた金額で契約負債を認識し、財又はサービスを移転して履行義務を充足した時に、当該契約負債の消滅を認識して収益を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)。
収益認識基準の適用範囲との関係
収益認識に関する会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます(収益認識に関する会計基準 第3項)。同項では、資金決済に関する法律における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引業等に関する内閣府令における定義を満たす電子記録移転有価証券表示権利等に関連する取引が適用範囲から除かれていますが(収益認識に関する会計基準 第3項(7))、商品券やギフト券の発行はこの除外に該当しません。したがって、商品券の発行と使用は収益認識に関する会計基準に従って処理します。
なお、収益認識に関する会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。商品券の会計処理も、この基準のもとで既に運用されている論点です。
発行時と使用時の会計処理
発行時と使用時の仕訳
当社が額面合計1,000千円の商品券を発行して代金1,000千円を現金で受け取り、その後に顧客が600千円分を商品の購入に使用したものとします(単位:千円)。発行時点では財又はサービスの移転は行われていないため、収益は認識せず、受け取った金額で契約負債を認識します(収益認識に関する会計基準 第78項、収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)。顧客が商品券を提示して商品を購入した時点で商品を引き渡す履行義務を充足するため、使用された金額に相当する契約負債を取り崩し、同額を収益として認識します(収益認識に関する会計基準 第35項、収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)。ここでは非行使部分の見積りを行わない前提としています。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000 | 契約負債 | 1,000 |
| 契約負債 | 600 | 売上高 | 600 |
上段が発行時、下段が使用時の仕訳です。発行時に「売上高」を計上してしまうと、履行義務を充足していない段階で収益を認識することになり、基準の基本となる原則から外れます(収益認識に関する会計基準 第16項、第35項)。過去に前受金や預り金として処理していた企業も、収益認識に関する会計基準の適用後は契約負債として表示する点を確認しておく必要があります。
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実務では、商品券の使用と現金決済が同一のレジ取引で混在します。売上計上の際に、対価の内訳(現金・商品券・ポイント)を販売管理システムで分解できるようにしておくことが、契約負債残高の管理と注記作成の前提になります。
非行使部分(breakage)の会計処理
非行使部分とは
顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、将来において企業から財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与され、企業は当該財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負いますが、顧客は当該権利のすべては行使しない場合があります。この顧客により行使されない権利を「非行使部分」といいます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第53項)。商品券でいえば、発行したまま使われずに残る額面部分がこれに当たります。
非行使部分をそのまま契約負債に残し続けると、実態として履行の可能性がない義務が負債に滞留します。基準は、非行使部分についても収益を認識する時点を定めており、その方法は企業が将来において権利を得ると見込むかどうかで分かれます。
収益認識の時点は2つに分かれる
契約負債における非行使部分の取扱いは、次の2通りです(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。
| 企業が将来において 権利を得ると見込む場合 |
非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する |
|---|---|
| 企業が将来において 権利を得ると見込まない場合 |
非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識する |
実務上の分かれ目は、失効実績のデータが十分にあるかどうかです。長年にわたり同種の商品券を発行し、使用率と失効率が安定的に把握できている企業は前者に、発行を始めたばかりで実績が乏しい企業は後者に整理されることが多い論点です。
権利行使のパターンに比例して認識する方法
企業が非行使部分について将来において権利を得ると見込む場合は、顧客が権利を行使するのに合わせて、非行使部分も按分して収益に振り替えます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。
額面合計1,000千円の商品券を発行し、過去の失効実績から最終的に100千円は使用されずに終わると見込んでいるとします。したがって使用が見込まれる金額は900千円です。当期に顧客が540千円を使用した場合、権利行使の進捗は900千円のうち540千円、すなわち60%となります。
この結果、当期は使用された540千円と非行使部分60千円の合計600千円の契約負債を取り崩して収益を認識します。非行使部分に係る収益も顧客との契約から生じる収益であるため、損益計算書には適切な科目をもって表示します(収益認識に関する会計基準 第78-2項)。ここでは区分を明確にするため、非行使部分を「商品券回収益」としています(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 契約負債 | 600 | 売上高 | 540 |
| 商品券回収益 | 60 |
この方法では、非行使部分の見積りが変われば按分計算も変わります。決算ごとに使用実績を反映して見積りを見直し、契約負債残高と収益計上額を修正する運用が必要になります。
権利が消滅した時に一括して認識する方法
企業が非行使部分について将来において権利を得ると見込まない場合は、按分は行わず、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に、その金額を収益として認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。
額面合計1,000千円の商品券のうち800千円が使用され、有効期限の到来により残る200千円について顧客が権利を行使する可能性が極めて低くなったものとします。この時点で残高200千円を収益に振り替えます(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 契約負債 | 200 | 商品券回収益 | 200 |
有効期限を定めていない商品券であっても、この方法が使えなくなるわけではありません。発行からの経過期間と過去の使用実績に照らして、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなったと判断できる時点を、社内で一貫した基準として定めておくことが実務上の要点になります。
「権利を得ると見込む」かどうかの判定
非行使部分について企業が将来において権利を得ると見込むかどうかを判定するにあたっては、変動対価の見積りに関する定めを考慮します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第55項)。具体的には、見積られた変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めるという制限が働きます(収益認識に関する会計基準 第54項)。また、見積った取引価格は各決算日に見直します(収益認識に関する会計基準 第55項)。
したがって、失効見込みを収益に取り込む場合には「将来にわたって著しい減額が起こらないと言えるだけの根拠があるか」が問われます。発行実績が数年に満たない、キャンペーンごとに使用率が大きくぶれる、特定の大口取引先向けに発行しているといったケースでは、比例的な認識ではなく権利消滅時の一括認識に寄せる判断が妥当になることがあります。
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法律により他の当事者への支払が要求される場合
顧客により行使されていない権利に係る顧客から受け取った対価について、法律により他の当事者への支払が要求される場合には、収益ではなく負債を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第56項)。自社が発行した商品券について、未使用残高を第三者へ引き渡す法的義務が課されている場合には、非行使部分を収益にできない点に注意が必要です。適用の可否は、発行スキームと根拠法令の内容によって決まるため、契約書・約款とあわせて確認します。
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表示と注記
商品券に係る契約負債と、そこから生じた収益の表示・注記は次のとおり整理できます。
| 貸借対照表 | 契約負債を適切な科目をもって表示する。他の負債と区分して表示しない場合には契約負債の残高を注記する(収益認識に関する会計基準 第79項) |
|---|---|
| 損益計算書 | 顧客との契約から生じる収益を適切な科目をもって表示する。それ以外の収益と区分して表示するか、区分しない場合は顧客との契約から生じる収益の額を注記する(収益認識に関する会計基準 第78-2項) |
| 注記 | 契約負債の期首残高及び期末残高、当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額などを注記する(収益認識に関する会計基準 第80-20項) |
商品券を継続的に発行している企業では、期首の契約負債残高からいくら収益に振り替わったかという情報が、注記の中核になります。非行使部分を比例的に認識している場合には、その金額も「期首現在の契約負債残高に含まれていた額」に含まれるため、通常の使用分と失効見込分を分けて集計できる仕組みを先に整えておくと、決算作業が安定します。
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実務上の留意点
自社ポイントとの違い
商品券と自社ポイントは、いずれも契約負債を生む点で似ていますが、会計上の入口が異なります。商品券は代金を先に受け取る前払いであり、受け取った金額で契約負債を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)。一方、自社ポイントは商品の販売に付随して顧客に付与される追加の財又はサービスを取得するオプションであり、重要な権利に該当する場合には、独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分する手続が入ります(収益認識に関する会計基準 第66項)。
つまり、商品券は「いくらを契約負債にするか」が明確で論点が非行使部分に集中するのに対し、ポイントは「取引価格をどう配分するか」から検討が始まります。両者を同じロジックで処理しようとすると、配分計算が漏れたり、逆に商品券に不要な配分計算を持ち込んだりする原因になります。
資金決済法上の供託義務との関係
自社で使える商品券は、対価を得て発行され、代価の弁済のために使用できる証票等として、資金決済に関する法律上の前払式支払手段に該当することがあります(資金決済に関する法律 第3条第1項第1号)。前払式支払手段の発行者は、毎年3月31日及び9月30日を基準日とする基準日未使用残高が政令で定める基準額を超えるときは、当該基準日未使用残高の2分の1以上の額に相当する額の発行保証金を供託しなければなりません(資金決済に関する法律 第3条第2項、第14条第1項)。
これは会計処理のルールではなく発行者に対する規制ですが、供託額の算定基礎となる未使用残高は、会計上の契約負債残高と同じ元データから作られます。決算・基準日の両方で残高を突き合わせられるように管理しておくと、上場審査や監査対応での説明が容易になります。
運用体制で押さえるべき3点
- 発行・使用・失効の履歴を券種別に把握することが、非行使部分の見積りと注記の前提になります。
- 見積りの方法を会計方針として文書化することで、比例的な認識と一括認識のどちらを採用したかを毎期一貫して説明できます。
- 各決算日に見積りを見直す手続を締めスケジュールに組み込みます(収益認識に関する会計基準 第55項)。
適用時期と改正の経緯
収益認識に関する会計基準は2018年3月30日に公表され、2020年3月31日に改正されました。2020年改正会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。また、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することも認められていました(収益認識に関する会計基準 第82項)。
その後、2024年9月13日に、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の公表に伴い、改正企業会計基準第29号及び改正企業会計基準適用指針第30号が公表されています。2024年改正会計基準の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項)。この改正はリース会計基準の新設に伴う所要の改正であり、商品券の非行使部分に関する取扱いを変更するものではありません。
まとめ
商品券の会計処理は、発行時に契約負債を認識し(収益認識に関する会計基準 第78項)、使用時に契約負債を取り崩して収益を認識する(収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)という骨格の上に成り立ちます。実務の勝負どころは、最後まで使われない非行使部分をいつ収益にするかです。
判定は2択です。企業が将来において権利を得ると見込む場合は顧客による権利行使のパターンと比例的に、見込まない場合は顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。前者を選ぶには、変動対価の見積りの制限を踏まえた実績データの裏付けが必要です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第55項、収益認識に関する会計基準 第54項)。券種別の発行・使用・失効データの整備、会計方針の文書化、各決算日での見積りの見直しの3点を先に固めておけば、監査対応と注記作成の負荷は大きく下がります。
参考文献
よくある質問
商品券を発行した時点で売上を計上できますか。
できません。財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合には、対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で契約負債を計上します(収益認識に関する会計基準 第78項)。収益は、商品券が使用されて履行義務を充足した時に認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第52項)。
使われないまま残った商品券はいつ収益にできますか。
企業が非行使部分について将来において権利を得ると見込む場合には、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します。見込まない場合には、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時に収益を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。
有効期限を定めていない商品券でも非行使部分を収益にできますか。
できます。適用指針は有効期限の有無で取扱いを分けておらず、企業が将来において権利を得ると見込むかどうかで収益認識の時点が決まります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第54項)。見込まない場合は、発行からの経過期間や使用実績から、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなったと判断できる時点で認識します。
失効見込みを収益に取り込む際の判断基準は何ですか。
非行使部分について企業が将来において権利を得ると見込むかどうかの判定にあたっては、変動対価の見積りに関する定めを考慮します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第55項)。計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り取引価格に含めるという制限が働き、見積った取引価格は各決算日に見直します(収益認識に関する会計基準 第54項、第55項)。
非行使部分を必ず収益として処理してよいのですか。
例外があります。顧客により行使されていない権利に係る顧客から受け取った対価について、法律により他の当事者への支払が要求される場合には、収益ではなく負債を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第56項)。
商品券の非行使部分は損益計算書のどこに表示しますか。
非行使部分に係る収益も顧客との契約から生じる収益であるため、適切な科目をもって損益計算書に表示します。それ以外の収益と区分して表示するか、区分して表示しない場合には顧客との契約から生じる収益の額を注記します(収益認識に関する会計基準 第78-2項)。
非行使部分の見積り可否や、商品券とポイントが併存する場合の売上計上方法は、発行実績や契約条件によって結論が変わる個別性の高い論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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