収益認識に関する会計基準のもとでも、国内の商品・製品の販売については、一定の要件を満たせば従来どおりの出荷基準で売上を計上できます。根拠は企業会計基準適用指針第30号に定められた「重要性等に関する代替的な取扱い」です。ただし、これはあくまで例外的な取扱いであり、要件を外れる取引まで一律に出荷基準を適用してよいわけではありません。
上場準備企業や監査対応中の経理部門からは、「うちは出荷基準のままでよいのか、検収基準に変えるべきか」というご相談を多くいただきます。本記事では、原則的な売上計上時点の考え方を確認したうえで、出荷基準を認める代替的な取扱いの要件を3つに分解し、検収基準によるべきケースとの分かれ目、売上計上時点が変わる場合の仕訳までを整理します。
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売上計上時点の原則と支配の移転
収益認識に関する会計基準では、企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識します。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてです(収益認識に関する会計基準 第35項)。契約における取引開始日に、識別された履行義務のそれぞれが一定の期間にわたり充足されるものか、一時点で充足されるものかを判定します(収益認識に関する会計基準 第36項)。
ここでいう資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます。)をいいます(収益認識に関する会計基準 第37項)。商品や製品の一般的な販売のように、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件をいずれも満たさない場合は、一時点で充足される履行義務として、支配を顧客に移転することにより履行義務が充足される時に収益を認識します(収益認識に関する会計基準 第39項)。
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支配の移転を検討する際の5つの指標
支配が顧客に移転した時点を決定するにあたっては支配の定義を考慮し、加えて次の5つの指標を考慮します(収益認識に関する会計基準 第40項)。いずれか1つを満たせば直ちに支配が移転するという性質のものではなく、取引の実態に照らして総合的に判断する材料です。
| 対価を収受する現在の権利 | 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること |
|---|---|
| 資産に対する法的所有権 | 顧客が資産に対する法的所有権を有していること |
| 物理的占有の移転 | 企業が資産の物理的占有を移転したこと |
| 所有に伴う重大なリスク と経済価値 |
顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること |
| 顧客による検収 | 顧客が資産を検収したこと |
実務では、出荷の時点で①法的所有権が移転していない、②物理的占有はまだ運送業者にある、といった状態が生じるため、原則に厳密に従えば売上計上時点は着荷時や検収時にずれ込むことがあります。従来の実現主義に基づく出荷基準との差が問題になるのは、まさにこの点です。
出荷基準を認める代替的な取扱いの3要件
適用指針では、我が国の実務を踏まえて「重要性等に関する代替的な取扱い」が定められており、そのうちの一つが出荷基準等の取扱いです。具体的には、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(例えば顧客による検収)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。
この定めは、原則的な取扱いによる収益認識時点との差異が通常は金額的な重要性に乏しいと想定され、財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられたことから設けられたものです(収益認識に関する会計基準の適用指針 第171項)。裏を返せば、差異に重要性が生じる取引では、この取扱いに寄りかかることはできません。
適用にあたっての要件は、条文を分解すると次の3つに整理できます。
| 販売の地域 | 国内の販売であること。海外への輸出取引は対象に含まれません |
|---|---|
| 対象となる資産 | 商品又は製品の販売であること。サービスの提供や工事契約は対象外です |
| 出荷から支配移転 までの期間 |
出荷時から支配が顧客に移転される時までの期間が「通常の期間」であること |
「通常の期間」の判断
「通常の期間」とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいいます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。日数そのものが基準に数値で定められているわけではなく、自社の取引慣行と配送実態に照らして合理的といえるかどうかで判断します。なお、国内における配送においては数日間程度の取引が多いものと考えられる、との考え方が示されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第171項)。
実務では、出荷から検収までのリードタイムを商流・製品カテゴリー・納品先の別に集計し、平均ではなく分布で確認しておくことをおすすめします。大半が数日で完結していても、据付や試運転を伴う一部の取引だけが数週間から数か月かかっているというケースは珍しくありません。その一部の取引については、代替的な取扱いの射程外として個別に判定する必要があります。
認識時点として選べる範囲
要件を満たす場合に選択できるのは、出荷時から支配が顧客に移転される時までの間の一時点であり、例えば出荷時や着荷時が挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。したがって、出荷基準だけでなく着荷基準(引渡基準)も選択できます。一方で、支配の移転より後の時点を任意に選ぶことはできず、また取引ごとに恣意的に時点を変えることも認められません。選択した時点は会計方針として継続的に適用します。
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検収基準によるべきケースとの分かれ目
顧客による財又はサービスの検収は、顧客が当該財又はサービスの支配を獲得したことを示す可能性があります。ただし、契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを客観的に判断できる場合には、顧客の検収は形式的なものであり、支配の時点に関する判断に影響を与えません。例えば、顧客の検収が所定の大きさや重量を確認するものである場合には、それらの大きさや重量は顧客の検収前に企業が判断できます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第80項)。
これに対して、顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っているかどうかを客観的に判断できない場合には、顧客の検収が完了するまで、顧客は当該財又はサービスに対する支配を獲得しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第82項)。また、商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し、試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には、顧客が商品又は製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで、支配は顧客に移転しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第83項)。
| 出荷基準を選択できる事実 | 検収基準によるべき事実 |
|---|---|
| 国内の顧客に対する商品又は製品の販売である | 輸出取引である、又は役務提供が主たる約束である |
| 出荷から検収までが取引慣行に照らして数日程度で完結する | 据付・試運転・立会検査を経るため引渡しまでに相当の期間を要する |
| 仕様への適合を出荷前の社内検査で客観的に確認できる | 顧客固有の仕様であり、顧客の検査を経なければ適合を判断できない |
| 検収は数量・外観の確認にとどまる形式的な手続である | 試用期間中で顧客が対価の支払を約束していない |
売上計上時点が変わる場合の仕訳
売上計上時点の選択は、決算期をまたぐ取引で当期・翌期の売上高と利益を左右します。国内の顧客に商品を販売し、取引価格5,000千円、当該商品の帳簿価額3,500千円、X1年3月28日出荷・X1年4月2日検収、決算日は3月31日という前提(単位:千円)で比較します。出荷基準を選択した場合、支配が顧客に移転される時までの間の一時点である出荷時に収益を認識します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 5,000 | 売上高 | 5,000 |
| 売上原価 | 3,500 | 商品 | 3,500 |
一方、顧客の検収を経なければ仕様への適合を客観的に判断できない取引では、検収が完了するまで顧客は支配を獲得しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第82項)。この場合、X1年3月28日の出荷時点では収益を認識せず、当該商品は自社の棚卸資産として残ります。実務では出荷済みで未検収の在庫を区分管理するため、次のように振り替えることがあります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 未検収商品 | 3,500 | 商品 | 3,500 |
そのうえで、X1年4月2日の検収時に収益と売上原価を認識します。同じ取引でありながら、出荷基準では5,000千円の売上高と1,500千円の売上総利益がX1年3月期に、検収基準では翌期に計上されることになります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 5,000 | 売上高 | 5,000 |
| 売上原価 | 3,500 | 未検収商品 | 3,500 |
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出荷基準を採用する際の実務上の留意点
出荷及び配送活動の取扱い
顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、商品又は製品を移転する約束を履行するための活動として処理し、履行義務として識別しないことができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第94項)。これも代替的な取扱いの一つで、我が国の実務におけるコストと便益の比較衡量の結果として定められたものです(収益認識に関する会計基準の適用指針 第167項)。着荷基準を採用する場合や、支配移転後に配送料を別建てで請求している場合に検討する論点です。
代替的な取扱いの射程外となる取引
出荷基準等の取扱いは国内の商品又は製品の販売に限られるため、次のような取引には適用できません。それぞれ別の定めに従って支配の移転時点を判定します。
- 輸出取引:国内の販売ではないため対象外です。インコタームズ等の貿易条件を踏まえ、支配の移転指標に基づいて判定します(収益認識に関する会計基準 第40項)。
- 請求済未出荷契約:顧客に対価を請求したものの、企業が物理的占有を保持する契約です。合理的な理由の存在、顧客に属するものとしての区分識別、物理的に移転する準備の完了、他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないこと、という4つの要件をすべて満たす場合に顧客が支配を獲得します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第79項)。
- 委託販売契約:販売業者等の他の当事者が商品又は製品に対する支配を獲得していない場合には、他の当事者への引渡時に収益を認識しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第75項)。
注記と監査対応
履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)は、収益を理解するための基礎となる情報として注記の対象となり、商品又は製品の出荷時、引渡時などが例として挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-6項)。出荷基準を採用している場合は、その旨が注記に表れることになります。
監査対応の実務では、代替的な取扱いの要件充足を自社で説明できるようにしておくことが重要です。具体的には、出荷から検収までの実績リードタイムのデータ、取引区分ごとに出荷基準を適用する範囲と適用しない範囲を定めた社内規程、期末日前後の出荷・検収記録によるカットオフの検証資料が求められます。「従来から出荷基準だから」という説明では、要件充足の根拠にはなりません。
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適用時期と改正の経緯
2020年に改正された収益認識に関する会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。2021年改正の適用指針の適用時期も、2020年改正の会計基準と同様とされています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第107項)。したがって、出荷基準等の代替的な取扱いも、すでに現行の実務に組み込まれているルールです。
基準の経緯としては、2018年3月に会計基準と適用指針が公表され、2020年3月に開示(表示及び注記事項)を中心とする改正が行われました。適用指針についてはその後2021年にも改正があり、電気事業及びガス事業における検針日基準に関する代替的な取扱いが追加されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-3項、第176-2項)。さらに2024年には、リースに関する会計基準の公表に伴い、買戻契約の取扱いに関する改正が行われました(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-4項)。この2024年改正の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項、収益認識に関する会計基準の適用指針 第107-2項)。
一連の改正を通じて、出荷基準等の代替的な取扱いを定める適用指針第98項の内容そのものは変更されていません。2024年改正の影響は買戻契約に係る部分に限られるため、出荷基準の判定を見直す必要は生じていません。
まとめ
収益認識に関する会計基準のもとでの売上計上時点は、支配が顧客に移転した時点が原則です(収益認識に関する会計基準 第39項、第40項)。そのうえで、国内の商品又は製品の販売については、出荷時から支配移転時までの期間が通常の期間である場合に限り、出荷時や着荷時での収益認識が認められています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。
判断のポイントは、①国内販売か、②商品又は製品の販売か、③出荷から支配移転までの期間が取引慣行に照らして合理的な日数か、の3点です。据付や立会検査を伴う取引、輸出取引、試用販売、請求済未出荷契約、委託販売については、この取扱いの射程外として個別に支配の移転時点を判定する必要があります。自社の取引をこの軸で棚卸しし、出荷基準を適用する範囲と適用しない範囲を規程レベルで明確にしておくことが、監査対応と上場審査の双方で効いてきます。
参考文献
よくある質問
収益認識基準のもとでも出荷基準を続けられますか。
国内における商品又は製品の販売で、出荷時から支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から支配移転時までの間の一時点で収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。要件を満たす限り、従来どおりの出荷基準を継続できます。
「通常の期間」は何日までを指しますか。
日数は基準に数値で定められておらず、国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数かどうかで判断します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。国内の配送では数日間程度の取引が多いものと考えられる、との考え方が示されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第171項)。
輸出取引にも出荷基準を適用できますか。
適用できません。代替的な取扱いの対象は国内の販売に限られています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。輸出取引については、対価を収受する現在の権利、法的所有権、物理的占有、所有に伴うリスクと経済価値、検収という指標を考慮して支配の移転時点を判定します(収益認識に関する会計基準 第40項)。
出荷基準ではなく着荷基準を選ぶこともできますか。
できます。選択できるのは出荷時から支配が顧客に移転される時までの間の一時点であり、例えば出荷時や着荷時が挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第98項)。選択した時点は会計方針として継続的に適用します。
顧客の検収があると必ず検収基準になりますか。
なりません。契約において合意された仕様に従っていることにより支配の移転を客観的に判断できる場合には、顧客の検収は形式的なものであり、支配の時点に関する判断に影響を与えません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第80項)。逆に、仕様への適合を客観的に判断できない場合には、検収が完了するまで支配は移転しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第82項)。
売上計上時点の判定は、取引慣行や契約条件によって結論が変わる個別性の高い論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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