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財務会計

PPA(取得原価の配分)とは|無形資産の識別とのれんの算定

目次
  1. PPA(取得原価の配分)の全体像
  2. 識別可能資産及び負債の範囲と配分額の算定
  3. 識別可能資産及び負債の範囲
  4. 配分額の算定と3つの評価アプローチ
  5. 帳簿価額を基礎とする簡便的な取扱い
  6. 無形資産として識別できるかの判定
  7. 無形資産として識別できないもの
  8. 評価の実施体制と外部の専門家の関与
  9. 取得原価の配分の仕訳
  10. 無形資産の識別に伴う税効果とのれんへの影響
  11. 暫定的な会計処理と1年の測定期間
  12. 確定時の処理と仕訳
  13. のれんの償却負担と減損リスクの構造
  14. 取得原価の配分に関する注記
  15. 適用時期と改正の経緯
  16. まとめ
  17. 参考文献
  18. よくある質問
  19. PPAは社内で対応できますか。外部の専門家に依頼すべきですか。
  20. のれんと無形資産のどちらに配分しても、損益への影響は同じですか。
  21. 企業結合日から1年以内に評価が終わらない場合はどうなりますか。
  22. 識別した無形資産に税効果は必要ですか。のれんにも繰延税金負債を計上しますか。

PPA(取得原価の配分、Purchase Price Allocation)とは、M&Aで支払った取得原価を、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債の時価に配分し、配分しきれなかった残額をのれんとする会計手続です。取得原価は、企業結合日時点において識別可能なものの企業結合日時点の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項)。

実務で判断が割れるのは、被取得企業の貸借対照表に載っていなかった無形資産をどこまで識別して計上するかです。識別を怠れば、その分だけのれんが膨らみ、後年の減損リスクが増します。本稿では、無形資産として識別できるかどうかの判定を条項ベースの手順に落とし、評価方法、税効果、暫定的な会計処理の確定までを仕訳例とともに整理します。

PPA(取得原価の配分)の全体像

パーチェス法では、取得企業は企業結合日において、被取得企業が企業結合日前に認識していなかったものも含めて、受け入れた資産及び引き受けた負債のうち識別可能なものに取得原価を配分します。取得原価と取得原価の配分額との差額がのれん(又は負ののれん)です(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第30項、第51項)。

取得原価が配分された純額を上回る場合はその超過額がのれん、下回る場合はその不足額が負ののれんとなります(企業結合に関する会計基準 第31項)。のれんは独立して測定される資産ではなく、配分作業の残余として決まる金額です。無形資産の識別漏れがそのままのれんの過大計上になるのは、この構造によります。

なお、取得原価そのものは、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します(企業結合に関する会計基準 第23項)。外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等の取得関連費用は取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合に関する会計基準 第26項)。PPAの報酬自体もここに含まれます。

関連コラム企業結合に関する会計基準|取得法とのれん・取得原価の配分の実務▸

識別可能資産及び負債の範囲と配分額の算定

識別可能資産及び負債の範囲

識別可能資産及び負債の範囲は、被取得企業の企業結合日前の貸借対照表において計上されていたかどうかにかかわらず、企業がそれらに対して対価を支払って取得した場合、原則として、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定されます(同適用指針 第52項)。被取得企業の帳簿に載っていたかどうかは判定の基準になりません。

負債側では、取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合、これを負債として認識します(企業結合に関する会計基準 第30項)。いわゆる企業結合に係る特定勘定で、原則として固定負債に表示します。また、退職給付に係る負債は受け入れた制度ごとに算定した退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として配分するため、被取得企業における未認識項目は取得企業に引き継がれません(同適用指針 第67項)。

配分額の算定と3つの評価アプローチ

識別可能資産及び負債への取得原価の配分額は、企業結合日における観察可能な市場価格に基づく価額を基礎とし、それがない場合には合理的に算定された価額を基礎として算定します。合理的に算定された価額による場合は、市場参加者が利用するであろう情報や前提が入手可能である限りそれらに基礎を置き、入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置きます(同適用指針 第53項)。その見積方法は次の3つに整理され、資産の特性等により併用又は選択して算定します(同適用指針 第53項、第362項)。

評価アプローチ 内容と代表的な手法
コスト・アプローチ 同等の資産を受け入れるのに要するコストをもって評価する方法。例えば原価法が該当する
マーケット・アプローチ 同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する方法。例えば取引事例比較法が該当する
インカム・アプローチ 同等の資産を利用して将来における期待される収益をもって評価する方法。例えば収益還元法や割引将来キャッシュ・フロー法が該当する

ここでいう時価は、強制売買取引や清算取引ではなく、独立第三者間取引に基づく公正な評価額であり、通常は観察可能な市場価格を、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいいます(企業結合に関する会計基準 第14項、同適用指針 第362項)。

ここで実務上の誤解が生じやすい点があります。時価の算定に関する会計基準は、金融商品会計基準における金融商品と、棚卸資産会計基準におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されるもので、企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分は本会計基準の範囲に含めないこととされています(時価の算定に関する会計基準 第3項、第27項)。企業結合で識別した無形資産や土地の時価は、企業結合会計基準第14項の公正な評価額として算定します。レベル1からレベル3のインプットの枠組みをそのまま持ち込む前に、適用範囲を確認してください。

関連コラム時価の算定に関する会計基準|インプットのレベル1〜3と評価技法▸

帳簿価額を基礎とする簡便的な取扱い

被取得企業が企業結合日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って適正な帳簿価額を算定しており、かつ、その帳簿価額と企業結合日の時価との差異が重要でないと見込まれる場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できます(同適用指針 第54項)。ただし後述のとおり、この簡便的な処理を適用した場合は、暫定的な会計処理が認められる「配分作業に困難な理由があるとき」には該当しません。

無形資産として識別できるかの判定

PPAの中心はここです。受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います(企業結合に関する会計基準 第29項)。我が国には無形資産に係る包括的な会計基準が存在しないため、適用指針が関連する会計基準と実務慣行を参考に取扱いを示しています(同適用指針 第365項)。判定の入口は次の3つです。

法律上の権利 特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利。産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等が含まれる
分離して譲渡可能な
無形資産
譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なもの。そのためには、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならない
企業結合の目的である
特定の無形資産
企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合。分離して譲渡可能なものとして取り扱い、識別可能資産として取得原価を配分する

第一の入口は登録済みの特許権や商標権が該当するため、判定は比較的容易です(同適用指針 第58項)。実務で判断が割れるのは第二の入口です。分離して譲渡可能かどうかは対象となる無形資産の実態に基づいて判断すべきものであり、例えばソフトウェア、顧客リスト、特許で保護されていない技術、データベース、研究開発活動の途中段階の成果(最終段階にあるものに限りません)等についても、分離して譲渡可能なものがある点に留意が必要です(同適用指針 第59項、第367項)。法律上の権利でないから識別不要、と早合点しないことが重要で、顧客関連資産や未登録の技術資産はここで拾われます。

第三の入口は、買収の意思決定資料で特定の技術やブランドの価値を積み上げていた場合です。企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その金額が重要になると見込まれるときは、分離して譲渡可能なものとして取り扱い、識別可能資産として取得原価を配分します(同適用指針 第59-2項)。

無形資産として識別できないもの

逆に、分離して譲渡可能という認識要件を満たさないために無形資産として認識できないものもあります。これらは識別不能な資産としてのれん(又は負ののれんの減少)に含まれます(同適用指針 第368項、第370項)。

法律上の権利等による
裏付けのない超過収益力
被取得企業が平均を上回る収益を生む力そのもの。分離して譲渡できないため、のれんに含まれる
労働力の相乗効果 被取得企業の事業に存在するリーダーシップやチームワーク。いわゆる組織された労働力で、のれんに含まれる
コーポレート・ブランド 企業又は事業全体のブランド。企業又は事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難

ブランドは整理が必要です。プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランドは、商標権又は商号としてともに法律上の権利の要件を満たす場合が多いと考えられますが、無形資産として認識するには独立した価額を合理的に算定できなければなりません。コーポレート・ブランドは企業又は事業と密接不可分であるため計上は通常困難で、配分する場合には事業から独立した合理的な価額を算定でき、かつ分離可能性があるかどうかに留意する必要があります(同適用指針 第370項)。

また、企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果を資産として識別した場合、当該資産はその後の使用実態に基づき有効期間にわたって償却されますが、その研究開発が完成するまでは当該無形資産の有効期間は開始しません(同適用指針 第367-3項)。仕掛研究開発を計上した年度から機械的に償却を始めないよう注意してください。

評価の実施体制と外部の専門家の関与

PPAを誰が行うかは、基準が組織を指定しているわけではありません。ただし適用指針は、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり金額が重要になると見込まれる場合について、取得企業が独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会その他の会社の意思決定機関で評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行い、それに基づいて企業結合が行われたと考えられる、としています(同適用指針 第367-2項)。

実務では、インカム・アプローチによる顧客関連資産や技術資産の評価は前提条件の設定が結果を大きく左右するため、外部の評価専門家に委託し、経理部門が前提と算定過程を検証する体制が一般的です。監査対応でも評価の独立性と取締役会等での検討記録の有無が論点になり、上場準備企業では過去の企業結合についてPPAが未了・不十分と指摘され、遡って対応するケースが少なくありません。

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取得原価の配分の仕訳

ここから自社作例で仕訳を示します。金額の単位は百万円です。A社が2026年4月1日にB社の株式をすべて取得し、取得原価は3,000です。企業結合日におけるB社の識別可能資産(無形資産を除く)の時価は2,400、識別可能負債の時価は1,300でした。加えて、B社の帳簿には計上されていなかった商標権300と顧客関連資産200を識別しました。取得原価は識別可能資産及び負債の時価を基礎に配分し、差額をのれんとします(企業結合に関する会計基準 第28項、第29項、第31項、同適用指針 第53項、第58項、第59項)。

配分純額は、2,400に無形資産500を加え、負債1,300を控除した1,600です。取得原価3,000との差額1,400がのれんとなります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 2,400 諸負債 1,300
商標権 300 現金預金 3,000
顧客関連資産 200
のれん 1,400

もし商標権と顧客関連資産を識別していなければ、のれんは1,900になります。識別漏れは、のれんを500だけ過大に計上することと同じ意味を持ちます。

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無形資産の識別に伴う税効果とのれんへの影響

無形資産を識別すると、税効果の論点が必ず付いてきます。事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合、取得企業は企業結合日において、被取得企業又は取得した事業から生じる一時差異等(取得原価の配分額(繰延税金資産及び繰延税金負債を除きます)と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額並びに引き継がれる税務上の繰越欠損金等)に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上します(同適用指針 第71項)。

会計上は無形資産を計上する一方、税務上はその資産が計上されない場合、将来加算一時差異が生じ、繰延税金負債を計上します。この繰延税金負債の分だけ配分純額が減るため、残余であるのれんが増えます。

他方で、のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、税効果を認識しても同額ののれんが変動する結果となり、のれんに対する税効果は認識しません(同適用指針 第72項)。ただし、非適格合併等において税務上ののれん(資産調整勘定又は差額負債調整勘定)が認識される場合には、その額を一時差異とみて繰延税金資産又は繰延税金負債を計上したうえで、配分残余としての会計上ののれんを算定します(同適用指針 第378-3項)。

先の作例で、識別した商標権300と顧客関連資産200が税務上は資産計上されず、法定実効税率を30パーセントと仮定します。繰延税金負債は500に30パーセントを乗じた150となり、その分のれんが増加します(同適用指針 第71項、第72項)。単位は百万円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
のれん 150 繰延税金負債 150

結果として、のれんは1,400から1,550になります。無形資産を識別すればその分だけのれんが減る、という理解は正確ではありません。無形資産500を識別しても繰延税金負債150が同時に立つため、のれんの減少は差引350にとどまり、損益への影響も無形資産の償却費と繰延税金負債の取崩しによる法人税等調整額の双方を見なければ把握できません。なお、繰延税金資産の回収可能性は取得企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断し、企業結合による影響は企業結合年度から反映させます(同適用指針 第75項)。

暫定的な会計処理と1年の測定期間

取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行わなければなりません(企業結合に関する会計基準 第28項、同適用指針 第69項)。企業結合日以後の決算において配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます(企業結合に関する会計基準(注6))。

暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られます。もっとも、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、配分額が確定しない場合には、受け入れた資産及び引き受けた負債のすべてを対象とすることができます(同適用指針 第69項)。

ここは安易に使える制度ではありません。暫定的な会計処理は配分作業について困難な理由があるときに限り容認され、認められる項目は、原則として、識別可能資産及び負債の企業結合日における時価と被取得企業の適正な帳簿価額が大きく異なることが想定され、その時価の算定に時間を要するものに限られます。また、帳簿価額を基礎として取得原価を売上債権に配分した後に発生した貸倒損失は、取得企業の貸倒損失として費用計上しなければならず、のれんに振り替えて資産計上することは認められません(同適用指針 第378項)。買収後に判明した損失を何でものれんに寄せる処理はできません。

確定時の処理と仕訳

暫定的な会計処理の確定により取得原価の配分額を見直した場合には、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額も取得原価が再配分されたものとして会計処理を行います(同適用指針 第70項)。確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理し、翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときは、企業結合年度の財務諸表に見直しを反映させます(企業結合に関する会計基準(注6))。

先の作例で、企業結合年度は顧客関連資産を暫定的に200としていたところ、翌年度に評価が確定し260となったとします。増加額60に対し実効税率30パーセントで繰延税金負債18が追加され、残りの42だけのれんが減少します(同適用指針 第70項、第71項、第73項)。単位は百万円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
顧客関連資産 60 繰延税金負債 18
のれん 42

企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、当該見直しがなされた事業年度において、その見直しの内容及び金額を注記します(企業結合に関する会計基準 第49-2項)。

のれんの償却負担と減損リスクの構造

のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。金額に重要性が乏しい場合は、生じた事業年度の費用として処理できます(企業結合に関する会計基準 第32項)。のれんは無形固定資産の区分に、当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します(企業結合に関する会計基準 第47項)。償却の開始時期は企業結合日であり、償却期間及び償却方法は企業結合ごとに取得企業が決定します(同適用指針 第76項)。

識別した無形資産は、のれんとは別にそれぞれの経済的耐用年数で償却されます。顧客関連資産のように効果の及ぶ期間がのれんより短い資産を識別すると、当初数年間の償却負担はむしろ重くなります。逆に識別を怠ってのれんに寄せれば長い期間で薄く償却することになり、目先の利益は出やすくなります。この差が、識別の巧拙が利益操作の懸念と結び付けて見られる理由です。

さらに、のれんの未償却残高は減損会計基準の対象となります。特に、取得原価のうちのれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合や、被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされています(同適用指針 第77項)。買った翌期から減損の検討が始まる可能性がある、という点は経営層に共有しておくべき論点です。

なお、配分の結果として負ののれんが生じると見込まれる場合には、まずすべての識別可能資産及び負債が把握されているか、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直します。その見直しを行ってもなお負ののれんが生じる場合に、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(企業結合に関する会計基準 第33項)。

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取得原価の配分に関する注記

企業結合年度に取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合、取得原価の配分に関する事項として、受け入れた資産及び引き受けた負債の額と主な内訳、取得原価の大部分がのれん以外の無形資産に配分された場合における当該無形資産の金額・主要な種類別の内訳・全体及び主要な種類別の加重平均償却期間、配分が完了していない場合はその旨及びその理由、発生したのれんの金額・発生原因・償却方法及び償却期間を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(4))。このうち無形資産の内訳と加重平均償却期間は、無形資産を識別した会社にだけ生じる開示です。評価の段階から資産の種類区分と経済的耐用年数の根拠を整理しておく必要があります。

適用時期と改正の経緯

企業結合に関する会計基準は2003年に企業会計審議会が公表した会計基準を出発点とし、2006年4月1日以後実施される企業結合から適用されました(企業結合に関する会計基準 第56項)。その後の複数回の改正は、いずれもすでに適用されています。

改正 主な内容と適用開始
平成20年改正会計基準 持分プーリング法の廃止、取得企業の決定方法、株式の交換の場合の取得原価の算定方法、段階取得、負ののれん、研究開発の途中段階の成果等。2010年4月1日以後実施される企業結合から適用
平成25年改正会計基準 少数株主持分(非支配株主持分)の取扱い、取得関連費用の会計処理、暫定的な会計処理の確定に関する処理。2015年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用
平成31年改正会計基準 本会計基準の最終改正。2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用

最終改正である平成31年改正会計基準は、企業結合取引を過去に遡って処理することが実務上困難を伴うため将来にわたって適用することとされ、適用前に行われた企業結合に係る従前の取扱いは適用後も継続し、遡及的な処理は行いません(企業結合に関する会計基準 第58-3項、第58-4項、第129-3項)。

適用指針は2005年12月27日に公表され、2006年及び2007年の所要の改正、2008年及び2013年の会計基準の改正に伴う改正を経たうえで、2019年に企業結合会計基準の改正に伴う改正が行われています(同適用指針 第1項)。2019年改正の適用指針は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用されています(同適用指針 第331-5項)。その後さらに2024年改正が行われており、適用時期が分かれるのはこの2024年改正部分だけです。

2024年改正で追加されたのは、リースに係る使用権資産及びリース負債への取得原価の配分の定めです(同適用指針 第61-2項、第61-3項)。その適用時期は2024年に公表されたリースに関する会計基準と同様とされているため(同適用指針 第331-7項)、この部分だけはリース会計基準の適用に合わせることになります。それ以外の取得原価の配分・無形資産の識別に関する定めは、すでに適用されています。

まとめ

PPAは、取得原価を識別可能資産及び負債の時価に配分し、残余をのれんとする手続です(企業結合に関する会計基準 第28項、第31項)。実務の勝負どころは無形資産の識別で、法律上の権利、分離して譲渡可能な無形資産、企業結合の目的である特定の無形資産という3つの入口から判定します(企業結合に関する会計基準 第29項、同適用指針 第58項、第59項、第59-2項)。顧客リストや特許で保護されていない技術も対象になり得る一方、裏付けのない超過収益力や労働力の相乗効果、コーポレート・ブランドは通常のれんに含まれます(同適用指針 第367項、第368項、第370項)。

識別した無形資産には繰延税金負債が伴い、その分のれんが増えます。のれん自体には税効果を認識しません(同適用指針 第71項、第72項)。配分は企業結合日以後1年以内に行い、間に合わない場合は暫定的な会計処理を経て確定させますが、これは配分作業に困難な理由があるときに限られます(企業結合に関する会計基準 第28項、(注6)、同適用指針 第378項)。識別を怠ればのれんが過大となり、企業結合年度から減損の兆候が問われます(同適用指針 第77項)。無形資産の評価は前提条件の置き方で結論が変わるため、判定と評価の両面で早い段階から専門家を交えた検討が有効です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

PPAは社内で対応できますか。外部の専門家に依頼すべきですか。

基準は実施主体を指定していません。ただし適用指針は、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり金額が重要になると見込まれる場合について、取得企業が利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、取締役会その他の会社の意思決定機関において評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行うことを想定しています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第367-2項)。実務では、インカム・アプローチによる評価は前提条件の影響が大きいため、外部の評価専門家に委託し、経理部門が前提と算定過程を検証する体制が一般的です。

のれんと無形資産のどちらに配分しても、損益への影響は同じですか。

同じではありません。のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却しますが(企業結合に関する会計基準 第32項)、識別した無形資産はそれぞれの経済的耐用年数で償却されるため、耐用年数が短ければ当初の償却負担は重くなります。また、取得原価のうちのれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第77項)。

企業結合日から1年以内に評価が終わらない場合はどうなりますか。

取得原価の配分は企業結合日以後1年以内に行う必要があり、決算時点で配分が完了していない場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます(企業結合に関する会計基準 第28項、(注6))。確定により配分額を見直した場合は、のれんの額も取得原価が再配分されたものとして処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第70項)。配分が完了していない場合はその旨及びその理由を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(4)③)。

識別した無形資産に税効果は必要ですか。のれんにも繰延税金負債を計上しますか。

識別した無形資産について、取得原価の配分額と課税所得計算上の金額との差額は一時差異等となり、回収又は支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第71項)。一方、のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、のれんに対する税効果は認識しません(同適用指針 第72項)。ただし非適格合併等で税務上ののれんが認識される場合は、その額を一時差異とみて繰延税金資産又は繰延税金負債を計上したうえで、会計上ののれんを算定します(同適用指針 第378-3項)。

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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