M&Aの交渉がまとまり、いざ取得原価を配分してみると、受け入れた資産と引き受けた負債の純額が支払った対価を上回っている——このとき生じる差額が負ののれんです。正ののれんが資産として計上され20年以内で償却されるのに対し、負ののれんは資産にも負債にも計上されず、生じた事業年度の利益として一括で処理されます。
ただし、差額が出たからといって、そのまま特別利益に計上してよいわけではありません。企業結合に関する会計基準は、利益を認識する前に「識別可能資産及び負債の把握」と「取得原価の配分」を見直すことを求めており、実務ではこの見直しが十分かどうかが監査で必ず論点になります。この記事では、自社のM&Aが負ののれんに該当するかを判断し、決算までに何をすべきかを、企業会計基準第21号と適用指針第10号の条項に沿って手順化します。
負ののれんの定義と発生する場面
取得原価が識別可能資産・負債の純額を下回る差額
取得法では、取得原価を、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項)。この配分の結果、取得原価が配分された純額を上回る場合はその超過額がのれん、下回る場合はその不足額が負ののれんとなります(企業結合に関する会計基準 第31項)。
つまり負ののれんは、それ自体が独立して測定される項目ではなく、取得原価の配分残余として事後的に姿を現す差額です(企業結合に関する会計基準 第98項)。「純資産より安く買えたから利益が出た」という直感的な理解は半分しか当たっておらず、基準が求めているのは、配分の過程で見落とした資産や負債がないか、時価の算定を誤っていないかという疑いを先に晴らすことです。
なお、識別可能資産及び負債の範囲は、被取得企業の企業結合日前の貸借対照表に計上されていたかどうかにかかわらず、対価を支払って取得した場合に一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定されます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第52項)。被取得企業の帳簿に載っていなかった項目でも、基準上認識されるものであれば配分の対象になります。
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個別・連結・持分法のどこで生じるか
負ののれんが表に出る場面は、取引の形式によって変わります。合併や事業譲受のように資産及び負債を直接受け入れる場合には、個別財務諸表で識別可能資産及び負債と負ののれんが同時に計上されます。
これに対し、現金を対価として子会社株式を取得した場合、個別財務諸表では子会社株式が取得原価で計上されるだけで、負ののれんは表に出ません。差額が現れるのは連結財務諸表です。連結上は支配獲得日において子会社の資産及び負債のすべてを時価により評価し(全面時価評価法)、その評価差額を子会社の資本としたうえで、親会社の投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去します(連結財務諸表に関する会計基準 第20項、第21項、第23項)。この相殺消去で生じた差額がのれん又は負ののれんであり、企業結合会計基準第32項(又は第33項)に従って会計処理します(連結財務諸表に関する会計基準 第24項)。
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関連会社を取得した場合も同様の構造です。投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との差額はのれん又は負ののれんとされ(持分法に関する会計基準 第11項)、その会計処理は企業結合会計基準第32項(又は第33項)に準じて行うため(持分法に関する会計基準 第12項)、持分法の適用対象であっても負ののれん相当額は利益として処理されます。
負ののれんが生じると見込まれる場合の3ステップ
負ののれんが生じると見込まれる場合の処理は、企業結合に関する会計基準 第33項に定められています。順序が決まっている点が最大の特徴で、いきなり利益を計上することは認められていません。
- 識別可能資産及び負債の網羅性を見直す——すべての識別可能資産及び負債(取得後に発生が見込まれる費用又は損失に係る負債を含む)が把握されているかを確認します(企業結合に関する会計基準 第33項(1))。
- 取得原価の配分が適切かを見直す——把握した資産及び負債に対する取得原価の配分が適切に行われているかを確認します(企業結合に関する会計基準 第33項(1))。
- それでも残る差額を当期の利益として処理する——見直しを行ってもなお取得原価が配分された純額を下回る場合に、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(企業結合に関する会計基準 第33項(2))。
識別可能資産及び負債の網羅性の見直し
最初に疑うべきは、計上漏れの資産です。受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱われます(企業結合に関する会計基準 第29項)。ここでいう法律上の権利とは、産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、商号、営業上の機密事項など、特定の法律に基づく知的財産権等の権利をいいます(適用指針 第58項)。
「分離して譲渡可能な無形資産」とは、譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには独立した価格を合理的に算定できなければなりません(適用指針 第59項)。さらに、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱われます(適用指針 第59-2項)。買収の狙いがブランドや技術そのものであったなら、それが識別されないまま負ののれんが出ている状態は不自然だ、という発想です。
次に疑うべきは、計上漏れの負債です。取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、これを負債として認識します(企業結合に関する会計基準 第30項)。この負債は「企業結合に係る特定勘定」と呼ばれ、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当しないもののうち、企業結合日後に発生することが予測される費用又は損失が対象となります(適用指針 第62項、第63項)。
ただし、何でも負債に落とせるわけではありません。「取得の対価の算定に反映されている場合」とは、①当該事象及びその金額が契約条項等で明確にされていること、②当該事象が契約条項等で明確にされ、その金額が取得の対価の算定にあたり重視された資料に含まれ、取得の対価が減額されていることが取締役会議事録等により確認できること、③当該事象が取得の対価の算定にあたって考慮されていたことが企業結合日現在の事業計画等により明らかであり、かつ金額が合理的に算定されること、のいずれかを満たす場合をいいます(適用指針 第64項)。買い叩けた理由が「取得後にリストラ費用がかかるから」であるなら、その根拠資料が交渉過程に残っているはずだ、というのが基準の考え方です。
取得原価の配分の見直し
網羅性を確認したら、次は金額の妥当性です。識別可能資産及び負債への取得原価の配分額は、観察可能な市場価格に基づく価額を基礎とし、それがない場合には合理的に算定された価額を基礎として算定します(適用指針 第53項)。
実務で効いてくるのが、時価が一義的に定まりにくい資産についての特例です。受け入れた資産に大規模工場用地や近郊が開発されていない郊外地のような資産が含まれ、これを評価することにより負ののれんが多額に発生することが見込まれる場合には、その金額を当該固定資産等に合理的に配分した評価額も合理的に算定された時価であると考えるものとされ、当該資産への配分額は負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができます(適用指針 第55項)。
ただし、この取扱いには歯止めがあります。企業結合条件の交渉過程で取得企業が利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき当該資産の価額を算定しており、それが取得の対価の算定にあたり考慮されている場合には、その価額を取得原価の配分額とします(適用指針 第55項)。交渉時に自社で土地を評価し、その金額で価格を決めていたのであれば、後から評価額を引き下げて負ののれんを消すことはできません。
残る差額の当期の利益への計上
①②の見直しを行ってもなお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(企業結合に関する会計基準 第33項(2))。償却も繰延べも行いません。
なぜ一括で利益とするのでしょうか。基準の結論の背景では、負ののれんの発生原因を認識不能な項目やバーゲン・パーチェスと位置付けたうえで、現実には異常かつ発生の可能性が低いことから異常利益としての処理が妥当であるとし、あわせて、異常利益として処理を求めること自体が時価の算定を適切に行うインセンティブになるという効果も挙げられています(企業結合に関する会計基準 第110項)。
見直しで確認すべき主な項目
第33項(1)の見直しで実際に論点となるのは、次の項目です。いずれも取得原価の配分額に直接影響し、結果として負ののれんの金額を動かします(企業結合に関する会計基準 第29項、第30項、適用指針 第55項、第58項、第62項、第67項、第71項、第72項)。
| 識別されていない無形資産 | 法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれていないか。買収目的そのものである無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱う |
|---|---|
| 取得後に発生が 見込まれる費用又は損失 |
発生の可能性が取得の対価の算定に反映されているものは、企業結合に係る特定勘定として負債に計上する |
| 時価が一義的に定まりにくい資産 | 大規模工場用地や郊外地などは、合理的に配分した評価額も合理的に算定された時価と考えることができる |
| 退職給付に係る負債 | 受け入れた制度ごとに退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として配分し、被取得企業の未認識項目は引き継がない |
| 繰延税金資産及び 繰延税金負債 |
一時差異等に係る税金の額を配分する。ただし配分残余であるのれん及び負ののれんに対する税効果は認識しない |
のれんと負ののれんの会計処理の非対称性
のれんと負ののれんは、差額の符号が違うだけの鏡像ではありません。認識・測定・表示のすべてで扱いが異なります(企業結合に関する会計基準 第32項、第33項、第47項、第48項、適用指針 第76項、第77項)。
| 貸借対照表への計上 | のれんは無形固定資産に計上する。負ののれんは資産にも負債にも計上せず、差額を利益として処理する |
|---|---|
| 計上後の測定 | のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。負ののれんは償却せず、生じた事業年度の利益として一括で処理する |
| 損益計算書での表示 | のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費に表示する。負ののれんは原則として特別利益に表示する |
| 減損の要否 | のれんの未償却残高は減損処理の対象となり、減損損失は特別損失に計上する。負ののれんは残高が残らないため、事後の償却も減損も生じない |
| 重要性が乏しい 場合の取扱い |
のれんは生じた事業年度の費用として処理できる。負ののれんは見直しを行わずに当期の利益として処理できる |
この非対称性は、のれんは資産として計上されるべき要件を満たす一方、負ののれんは負債として計上されるべき要件を満たしていないという整理に由来します(企業結合に関する会計基準 第111項)。なお、平成15年会計基準では正の値であるのれんと対称的に規則的な償却を行うこととされていましたが、平成20年改正会計基準で現行の取扱いに改められています(企業結合に関する会計基準 第111項)。負ののれんを「マイナスの資産」や「繰延収益」として持ち越す処理は、現行基準では認められていません。
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負ののれん発生益の仕訳
負ののれんが生じる場合の仕訳
当事務所の作例で仕訳を確認します。前提は、X社が現金 300,000 千円を対価としてY社の事業を譲り受け、企業結合日における識別可能資産の時価が合計 500,000 千円、識別可能負債の時価が合計 160,000 千円であったケースです(単位:千円)。配分された純額 340,000 千円を取得原価が 40,000 千円下回るため、見直しを行ってもなお解消しない場合には、当該差額を負ののれんとして企業結合日の属する事業年度の利益に計上します(企業結合に関する会計基準 第28項、第31項、第33項(2)、第48項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 500,000 | 諸負債 | 160,000 |
| 現金預金 | 300,000 | ||
| 負ののれん発生益 | 40,000 |
貸方の「負ののれん発生益」は、特別利益に区分される表示科目です。基準上は「負ののれんは、原則として、特別利益に表示する」と定められており(企業結合に関する会計基準 第48項、適用指針 第78項(1))、実務ではこの区分に「負ののれん発生益」という科目名を用いるのが一般的です。
同じ前提でのれんが生じる場合の仕訳
比較のため、資産及び負債の内容は同じで、対価だけが 380,000 千円であった場合の仕訳を示します(単位:千円)。取得原価が配分された純額 340,000 千円を 40,000 千円上回るため、超過額はのれんとして無形固定資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却していくことになります(企業結合に関する会計基準 第31項、第32項、第47項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 500,000 | 諸負債 | 160,000 |
| のれん | 40,000 | 現金預金 | 380,000 |
借方に資産が立つか、貸方に利益が立つか。差額の符号が変わるだけで、その後の損益への影響は「20年かけて費用が出続ける」か「初年度に利益が一度だけ出る」かという、まったく異なるものになります。
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表示と注記
表示については、のれんは無形固定資産の区分に表示し、その当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示するのに対し(企業結合に関する会計基準 第47項)、負ののれんは原則として特別利益に表示します(企業結合に関する会計基準 第48項)。営業損益や経常損益には含めない、という点が実務上の要点です。
注記については、企業結合年度において取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合、企業結合の概要、財務諸表に含まれている被取得企業又は取得した事業の業績の期間、取得原価の算定等に関する事項、取得原価の配分に関する事項、比較損益情報を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項)。このうち取得原価の配分に関する事項では、負ののれんの場合には、負ののれんの金額及び発生原因を注記することが求められます(企業結合に関する会計基準 第49項(4)④)。
「発生原因」の記載は形式的なものではありません。第33項の見直しを行ってもなお差額が残った理由を、被取得企業が抱える将来の損失リスクや売手側の事情による早期売却といった具体的な事情として、交渉経緯の資料とともに整理しておく必要があります。なお、取得原価の配分が完了していない場合には、その旨及びその理由を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(4)③)。
実務上の落とし穴
暫定的な会計処理と1年以内の配分
取得原価の配分は企業結合日以後1年以内に行わなければならず、企業結合日以後の決算において配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させます。この対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られます(適用指針 第69項)。
暫定的な会計処理の確定により取得原価の配分額を見直した場合には、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額も取得原価が再配分されたものとして会計処理を行います。確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行うため、比較情報として表示する前年度の財務諸表も修正されます(適用指針 第70項)。この場合、当該見直しの内容及び金額を注記します(企業結合に関する会計基準 第49-2項)。
期末直前に成立したM&Aで無形資産の評価が決算に間に合わないケースは珍しくありません。暫定的な会計処理を使えば決算は締められますが、翌年度に確定して負ののれんの金額が動けば前年度の利益が事後的に修正されます。1年という期限を前提に、評価スケジュールを逆算しておく必要があります。
重要性が乏しい場合の簡便的な取扱い
負ののれんが生じると見込まれたときにおける取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、第33項(1)及び(2)の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第33項ただし書き)。
ここで注意したいのは、この簡便的な取扱いが免除しているのは「見直しの手続」であって「利益計上」ではないという点です。重要性が乏しいと判断した根拠は説明できるようにしておく必要があり、上場準備企業の監査ではこの判断の記録が求められる場面が多くあります。
税効果と関連会社の取扱い
のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、これに対する税効果は認識しません(適用指針 第72項)。一方で、被取得企業から生じる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は取得原価の配分の対象となるため(適用指針 第71項)、税効果の見積りが変われば負ののれんの金額も動きます。
また、関連会社と企業結合したことにより発生した負ののれんは、持分法による投資評価額に含まれていたのれんの未償却部分と相殺し、のれん(又は負ののれん)が新たに計算されます(適用指針 第78項(2))。持分法適用会社を追加取得して子会社化した場面では、既存ののれん残高との関係を整理せずに負ののれんだけを計上してしまう誤りが起こりやすいところです。
適用時期と改正の経緯
企業結合に関する会計基準は、平成15年10月に企業会計審議会が公表した会計基準を出発点としており、この平成15年会計基準は平成18年4月1日以後実施される企業結合から適用されました(企業結合に関する会計基準 第56項、第62項)。その後、企業会計基準委員会において平成20年・平成25年・平成31年の3回の改正が行われています。平成20年改正会計基準は平成22年4月1日以後実施される企業結合から(平成21年4月1日以後開始する事業年度において最初に実施される企業結合から早期適用可)、平成25年改正会計基準は平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から(平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用可)適用されました(企業結合に関する会計基準 第57項、第58-2項)。負ののれんの規則的な償却が廃止され現行の取扱いに改められたのは、このうち平成20年改正によるものです(企業結合に関する会計基準 第111項)。
最終改正である平成31年改正会計基準は、平成31年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用されています(企業結合に関する会計基準 第58-3項)。適用初年度において従来の会計処理と異なることとなる場合は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、適用前に実施された企業結合に係る従前の取扱いは適用後も継続するため、遡及的な処理は行いません(企業結合に関する会計基準 第58-4項)。2026年8月時点で実施される企業結合には、平成31年改正後の現行の企業結合会計基準がそのまま適用されており、負ののれんの認識・測定・表示そのものを変更する未適用の改正はありません。
適用指針第10号についても、2005年(平成17年)12月27日の公表後、2006年及び2007年の改正、2008年及び2013年の基準改正に伴う改正を経て、2019年(平成31年)に企業結合会計基準の改正に伴う所要の改正が行われています(適用指針 第1項、第1-2項)。この2019年改正適用指針は、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用されています(適用指針 第331-5項)。
その後の最終改正が2024年改正適用指針です。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の公表に伴う改正で、リースに係る使用権資産及びリース負債への取得原価の配分の定めが設けられました(適用指針 第61-2項)。この2024年改正適用指針の適用時期はリース会計基準と同様とされているため(適用指針 第331-7項)、当該定めが適用されるのは2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からで、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。負ののれんの処理そのものを変える改正ではありませんが、リースを含む識別可能資産及び負債への配分額が変われば負ののれんの金額も動くため、リース会計基準の適用開始とあわせて確認しておきたい論点です。
まとめ
負ののれんは、取得原価が識別可能資産及び負債に配分された純額を下回った場合の不足額であり(企業結合に関する会計基準 第31項)、その処理は次の順序で進めます。
- すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、取得原価の配分が適切かをまず見直す(企業結合に関する会計基準 第33項(1))
- 見直してもなお残る差額を、生じた事業年度の利益として処理する(企業結合に関する会計基準 第33項(2))
- 表示は原則として特別利益とし(企業結合に関する会計基準 第48項)、負ののれんの金額及び発生原因を注記する(企業結合に関する会計基準 第49項(4)④)
- 20年以内で償却する正ののれんとは異なり、償却も減損も生じない(企業結合に関する会計基準 第32項、第33項(2))
差額が出たこと自体より、「なぜ残ったのか」を説明できる状態にしておくことが実務の勘所です。無形資産の識別、企業結合に係る特定勘定、時価が定まりにくい資産の評価という3つの論点を交渉段階から意識しておくと、決算・監査の局面で慌てずに済みます。企業結合の会計処理は取引条件や事業内容によって判断が分かれるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第16号 持分法に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
よくある質問
負ののれんは償却するのですか。
償却しません。負ののれんは、第33項(1)の見直しを行ってもなお残る場合に、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として一括で処理します(企業結合に関する会計基準 第33項(2))。20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却する正ののれんとは扱いが異なります(企業結合に関する会計基準 第32項)。
負ののれんはなぜ特別利益に表示するのですか。
基準上、負ののれんは原則として特別利益に表示することとされています(企業結合に関する会計基準 第48項、適用指針 第78項(1))。その背景として、負ののれんの発生原因は認識不能な項目やバーゲン・パーチェスと位置付けられ、現実には異常かつ発生の可能性が低いことから異常利益としての処理が妥当であり、あわせて時価の算定を適切に行うインセンティブにもなると説明されています(企業結合に関する会計基準 第110項)。
金額が小さい場合でも見直しは必要ですか。
取得原価が配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、第33項(1)及び(2)の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第33項ただし書き)。ただし重要性が乏しいと判断した根拠は説明できるようにしておく必要があります。
子会社株式を現金で取得した場合にも負ののれんは生じますか。
個別財務諸表では子会社株式が取得原価で計上されるだけですが、連結財務諸表では、支配獲得日に子会社の資産及び負債を時価評価したうえで投資と資本を相殺消去し、そこで生じた差額をのれん又は負ののれんとします(連結財務諸表に関する会計基準 第20項、第24項)。この差額は企業結合会計基準第32項(又は第33項)に従って会計処理します(連結財務諸表に関する会計基準 第24項)。
負ののれんに税効果は認識しますか。
認識しません。のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、これに対する税効果は認識しないこととされています(適用指針 第72項)。一方、被取得企業から生じる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は取得原価の配分の対象となります(適用指針 第71項)。