資本連結手続とは、親会社の子会社に対する投資と、これに対応する子会社の資本とを相殺消去し、その差額をのれん(又は負ののれん)として処理するとともに、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分として計上する一連の手続をいいます。連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎とし、子会社の資産及び負債の評価や、連結会社相互間の投資と資本の相殺消去等の処理を行って作成します。本記事では、公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングが、上場準備企業の経理・財務のご担当者に向けて、全面時価評価法から投資と資本の相殺消去、のれん、非支配株主持分の計算までの実務の要点を整理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
資本連結手続の全体像と連結の範囲との違い
資本連結手続は、連結の範囲に含めると判定した子会社について、親会社の投資と子会社の資本を消去し、企業集団を単一の組織体とみなした連結貸借対照表を作り上げるための処理です。どの会社を連結の範囲に含めるかという「範囲の判定」とは局面が異なり、資本連結は範囲に取り込んだ後の「消去手続」に当たります。連結財務諸表は、支配従属関係にある2つ以上の企業からなる企業集団を単一の組織体とみなして、親会社が当該企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を総合的に報告するために作成するものです。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
資本連結の基本的な流れは、(1) 子会社の資産及び負債の時価評価、(2) 親会社の投資と子会社の資本の相殺消去、(3) 相殺消去差額であるのれん(又は負ののれん)の計上、(4) 非支配株主持分の計上、という順序で進みます。連結の範囲そのものの判定基準については、次の記事で詳しく解説しています。
子会社の資産及び負債の時価評価(全面時価評価法)
連結貸借対照表の作成にあたっては、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)により評価します。親会社が取得した持分に対応する部分だけでなく、非支配株主に帰属する部分も含めて、子会社の資産・負債の全体を時価に評価し直す点が特徴です。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
子会社の資産及び負債の時価による評価額と、当該資産及び負債の個別貸借対照表上の金額との差額を評価差額といい、これは子会社の資本として取り扱います。したがって、時価評価によって生じた評価差額は、投資と資本の相殺消去の対象となる子会社の資本に含めて計算します。なお、評価差額に重要性が乏しい子会社の資産及び負債については、個別貸借対照表上の金額によることができます。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
投資と資本の相殺消去とのれんの計上
親会社の子会社に対する投資と、これに対応する子会社の資本は、相殺消去します。このとき、親会社の子会社に対する投資の金額は支配獲得日の時価によります。相殺の相手となる子会社の資本は、子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等と、前述の評価差額からなります。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
親会社の投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたって差額が生じる場合には、当該差額をのれん(又は負ののれん)とします。相殺消去の差額としてののれんは、次の算式で把握できます。
この相殺消去で生じたのれんは、企業結合に関する会計基準の定めに従って会計処理します。具体的には、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます。反対に相殺消去差額がマイナスとなる負ののれんは、原則として発生した事業年度の利益として処理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
公認会計士へまずはご相談
公認会計士事務所プライムパートナーズ
お問い合わせはこちら▸
非支配株主持分の計上と当期純利益の按分
子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分とします。全面時価評価法によって評価替えした後の子会社の資本に、非支配株主の持分比率を乗じて計算する点がポイントです。非支配株主持分は、次の算式で把握できます。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
支配獲得後に子会社が計上した当期純利益や利益剰余金は、親会社持分と非支配株主持分の比率に応じて按分します。連結損益及び包括利益計算書等では、当期純利益に非支配株主に帰属する当期純利益を加減して、親会社株主に帰属する当期純利益を表示します。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
なお、子会社の欠損のうち、当該子会社に係る非支配株主持分に割り当てられる額が当該非支配株主の負担すべき額を超える場合には、当該超過額は親会社の持分に負担させます。その後に当該子会社に利益が計上されたときは、親会社が負担した欠損が回収されるまで、その利益の金額を親会社の持分に加算します。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
数値例で見る資本連結の基本手続
資本連結手続の流れを、簡単な数値例で確認します。P社がS社の発行済株式の80%を1,000で取得し、支配を獲得したものとします。S社の個別貸借対照表は諸資産(簿価)1,200、諸負債500、純資産(株主資本)700であり、支配獲得日における諸資産の時価は1,500であったとします(税効果は簡便化のため考慮していません)。
まず全面時価評価法により、諸資産を時価1,500へ評価替えします。これにより評価差額300(=1,500 − 1,200)が生じ、評価後の子会社の資本は1,000(=株主資本700 + 評価差額300)となります。次に、この評価後の子会社の資本1,000を基礎として、投資と資本の相殺消去、のれん、非支配株主持分を計算します。
この結果、資本連結手続で計上される主な項目は次のとおりとなります。
| 評価差額 | 諸資産を時価に評価替えして生じた差額300。子会社の資本に含めて相殺消去の対象とする。 |
|---|---|
| のれん | 投資額1,000と、評価後の子会社資本のうち親会社持分相当額800との差額200。資産に計上し規則的に償却する。 |
| 非支配株主持分 | 評価後の子会社資本1,000のうち非支配株主に帰属する200。純資産の部に計上する。 |
実務では、評価差額に対する税効果を認識するため、評価差額の計算はより複雑になります。また、無形資産の識別や時価の見積りには専門的な判断が必要となります。上記はあくまで基本的な仕組みを示す設例としてご理解ください。
追加取得・一部売却・段階取得の会計処理
支配獲得後に子会社株式を追加取得した場合には、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得により増加した親会社の持分(追加取得持分)を追加投資額と相殺消去します。このとき、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額は、資本剰余金とします。支配を獲得した後の親会社と非支配株主との間の取引は、資本取引として扱われる点が重要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
子会社株式を一部売却した場合(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限ります。)には、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分を増額します。売却による親会社の持分の減少額(売却持分)と売却価額との間に生じた差額は、追加取得の場合と同様に資本剰余金とします。これらの処理の結果、資本剰余金が負の値となる場合には、連結会計年度末において、資本剰余金を零とし、当該負の値を利益剰余金から減額します。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
これに対して、複数の取引を経て段階的に支配を獲得する段階取得の場合には、支配獲得日以前に保有していた子会社株式を支配獲得日の時価で評価し直し、その評価による差額を当期の損益として処理します。取得の対価となる子会社株式の取得原価は、企業結合に関する会計基準に従って支配獲得日の時価で算定します。追加取得や一部売却が資本取引として扱われるのに対し、段階取得に係る差損益は損益に計上される点で扱いが異なります。企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
グループ内での組織再編に伴う持分の移動については、共通支配下の取引として別途の会計処理が定められています。あわせて次の記事もご参照ください。
関連コラム共通支配下の取引とは|グループ内再編の会計処理と簿価引継ぎ▸
適用時期と改正の経緯
連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準第22号)は、平成20年(2008年)12月26日に公表され、その後、平成22年(2010年)6月30日、平成23年(2011年)3月25日、平成25年(2013年)9月13日に改正されています。平成22年改正では、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」の公表に伴い、連結損益及び包括利益計算書等の作成が定められました。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
平成25年(2013年)の改正では、それまでの「少数株主持分」が「非支配株主持分」に改められ、当期純利益に非支配株主に帰属する当期純利益を含めて表示する方法へ変更されるとともに、子会社株式の追加取得・一部売却等を資本取引として扱う取扱いが整理されました。この平成25年改正会計基準は、平成27年(2015年)4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用されています。したがって、現在作成される連結財務諸表は、非支配株主持分による処理を前提として作成されています。企業会計基準委員会 企業会計基準第22号 連結財務諸表に関する会計基準
上場準備における実務上の留意点
上場準備の過程では、連結財務諸表の作成が新たに求められるケースが多く、資本連結手続の巧拙が連結貸借対照表と連結損益に直接影響します。とくに、子会社の支配獲得日の特定、全面時価評価法による評価差額の算定と税効果、のれんの償却期間の見積り、非支配株主持分の計算は、監査対応上も論点となりやすい項目です。過去の株式取得についても、支配獲得日の時価に基づいて遡って整理する必要があるため、早めに資料を揃えておくことが実務上のポイントです。
また、資本連結手続は連結貸借対照表だけでなく、連結キャッシュ・フロー計算書の作成にも影響します。子会社の取得・売却に伴うキャッシュ・フローの表示区分などとあわせて理解しておくと、連結決算の全体像を把握しやすくなります。連結キャッシュ・フロー計算書の作成基準については、次の記事で解説しています。
関連コラム連結キャッシュ・フロー計算書の作成基準|直接法・間接法と3区分▸
資本連結手続は、時価評価、投資と資本の相殺消去、のれん、非支配株主持分と論点が多岐にわたり、金額的な影響も大きい領域です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸まとめ
資本連結手続は、支配獲得日に子会社の資産及び負債のすべてを時価評価する全面時価評価法から始まり、親会社の投資と評価差額を含む子会社の資本を相殺消去し、その差額をのれん(又は負ののれん)として処理する一連の手続です。のれんは資産に計上して20年以内の効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却し、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は非支配株主持分として計上します。支配獲得後の当期純利益や利益剰余金は、親会社持分と非支配株主持分に按分します。
支配獲得後の子会社株式の追加取得・一部売却は、支配が継続している限り資本取引として扱い、生じた差額を資本剰余金とします。一方、段階取得に係る差損益は損益に計上する点で扱いが異なります。連結財務諸表に関する会計基準は平成25年改正により非支配株主持分による処理へ移行し、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度から適用されています。上場準備企業では、支配獲得日の特定や評価差額の算定など、早い段階からの準備が実務上のポイントとなります。
参考文献
よくある質問
資本連結手続とは何ですか。
資本連結手続とは、親会社の子会社に対する投資と、これに対応する子会社の資本とを相殺消去し、その差額をのれん(又は負ののれん)として計上するとともに、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分として計上する一連の手続をいいます。連結貸借対照表を作成する際の中心的な処理です。
全面時価評価法とは何ですか。
全面時価評価法とは、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法です。親会社の持分に対応する部分だけでなく、非支配株主に帰属する部分も含めて子会社の資産・負債の全体を時価評価する点が特徴で、時価と個別貸借対照表上の金額との差額は評価差額として子会社の資本に含めます。
資本連結で生じたのれんは償却しますか。
投資と資本の相殺消去で生じたのれんは、企業結合に関する会計基準に従い、資産に計上したうえで20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。のれんの金額に重要性が乏しい場合には、発生した事業年度の費用として処理することができます。
子会社株式を追加取得した場合の差額はどう処理しますか。
支配獲得後に子会社株式を追加取得した場合、追加取得により増加した親会社の持分(追加取得持分)を追加投資額と相殺消去し、両者の差額は資本剰余金とします。支配獲得後の親会社と非支配株主との取引は資本取引として扱われるため、この差額はのれんではなく資本剰余金として処理する点に注意が必要です。