労働組合の会計には、企業会計のように法律で様式が定められた計算書類がありません。労働組合法が求めているのは会計報告の内容と公表であり、その報告をどう作るかは、実務上広く採用されている労働組合会計基準によって形づくられています。この記事では、労働組合会計基準の位置づけ、計算書類の体系、勘定科目の考え方、一般会計と特別会計の区分、そして企業会計との違いを、条項に沿って整理します。
労働組合会計基準の位置づけ
労働組合会計基準とは、日本公認会計士協会が1985年10月8日に公表した公益法人委員会報告第5号のことをいいます。法令ではありませんが、労働組合が準拠する会計基準として広く採用されている枠組みです(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項)。基準そのものの目的は、労働組合の収支及び財産の状況を適正に把握し、かつ報告することにより、労働組合の活動状況を明らかにすることに置かれています(労働組合会計基準 第1 総則 1)。
出発点は労働組合法です。同法は、すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを、規約の必要記載事項として定めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。ただし、その詳細までは定められていません(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。
| 会計報告に示す内容 | すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況 |
|---|---|
| 添付するもの | 組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による、正確であることの証明書 |
| 公表の頻度と相手 | 少なくとも毎年1回、組合員に公表 |
| 定めの性質 | 労働組合の規約に含めなければならない事項 |
特別目的・準拠性の枠組みという整理
労働組合の計算書類は、広範囲の利用者に共通する財務情報のニーズを満たすためではなく、特定の利用者である組合員の財務情報に対するニーズ、すなわち会計報告を満たすことを目的として作成されるものと解されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第10項)。この整理を受けて、労働組合会計基準を適用した場合の財務報告の枠組みは、特別目的・準拠性の枠組みであると考えられています(非営利法人委員会実務指針第37号 第12項)。
準拠性の枠組みとされたのは、労働組合会計基準に追加開示の規定があるものの、適正表示の達成が必ずしも明確ではないためです(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項)。実務的には、監査意見が「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して適正に表示している」ではなく、「労働組合会計基準に準拠して作成されている」という形になる点に表れます。
なお、労働組合会計基準を適用していない場合でも、組合が独自に定めた会計規程が、組合員に対する会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たしていれば、適用される財務報告の枠組みとして受入可能と判断されることがあります(非営利法人委員会実務指針第37号 第13項)。基準の採用は義務ではありませんが、独自規程を採る場合はその受入可能性の説明責任が組合側に残る、と考えておくのが実務的です。
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計算書類の体系
労働組合会計基準では、計算書類を収支計算書、貸借対照表及び附属明細表と定義し、これらを会計帳簿に基づいて作成することを求めています(労働組合会計基準 第1 総則 2)。これに加えて、予算書、計算書類の注記、特別会計を設けた場合の総合貸借対照表が体系に組み込まれます。
| 予算書 | 活動計画に基づいて作成する。収入及び支出は、原則として収支に関する予算に基づいて行う |
|---|---|
| 収支計算書 | 当該会計年度におけるすべての収入及び支出の内容を明らかにする。予算額と決算額とを対比して表示する |
| 貸借対照表 | 当該会計年度末現在におけるすべての資産・負債及び正味財産の状況を明らかにする |
| 総合貸借対照表 | 特別会計を設けた場合に、一般会計及び特別会計を総合して作成する |
| 計算書類の注記 | 重要な会計方針、収支及び財産の状況を明らかにするため必要な事項を注記する |
| 附属明細表 | 収支計算書及び貸借対照表を補足する重要な事項について作成する |
会計監査の対象も、この体系に沿って設定されます。労働組合法第5条第2項第7号の規定に基づく監査報告書の文例では、一般会計及び特別会計に関する計算書類、すなわち収支計算書、貸借対照表、総合貸借対照表、計算書類の注記及び附属明細表が監査の対象として示されています(非営利法人委員会実務指針第37号 付録)。会計年度は、組合規約で定められた期間によるものとされます(労働組合会計基準 第1 総則 3)。
収支計算書は予算対比で読む
収支計算書は、収支の予算額と決算額とを対比して表示し、予算額と決算額の差異が著しい項目については、その理由を備考欄に記載するものとされています(労働組合会計基準 第3 収支計算書 2)。企業の損益計算書が期間損益を示すのに対し、労働組合の収支計算書は「大会で承認された予算がどのように執行されたか」を示す書類だと理解すると、様式の意味がつかみやすくなります。
収入及び支出は総額によって記載することが原則で、収入の項目と支出の項目とを直接相殺してその全部または一部を収支計算書から除去してはならないとされています(労働組合会計基準 注3)。イベント収入から会場費を差し引いた純額だけを載せる、といった処理は認められません。
資金の範囲の決め方
収支計算書でいう「収入及び支出」は、資金の増加または減少として計算されるため、どこまでを資金とみなすかをあらかじめ決めておく必要があります。労働組合会計基準は、資金の範囲として次の4つを例示しています(労働組合会計基準 注2)。
| 例示1 | 現金預金 |
|---|---|
| 例示2 | 現金預金及び短期金銭債権債務 |
| 例示3 | 現金預金、短期金銭債権債務、前払金、前受組合費及び市場性ある一時的所有の有価証券 |
| 例示4 | 正味運転資金(流動資産マイナス流動負債) |
資金の範囲は、組合の規模および資産構成を勘案し、活動状況をより明瞭に表すよう各組合が選択できるものとされています(労働組合会計基準 注2)。どの範囲を採用したかは重要な会計方針であり、計算書類の注記で明らかにしておくべき事項です(労働組合会計基準 第1 総則 6)。
勘定科目の考え方
労働組合会計基準は、計算書類の科目は一定の基準に従って設定するものとしています(労働組合会計基準 第1 総則 5)。基準に添えられた科目一覧は一般的なものであり、組合の態様・規模等に応じて科目を加除または変更できるとされています。したがって、科目名の一言一句をそろえることよりも、財源と使途が組合員に分かる区分になっているかどうかが重要です。
収支計算書の科目は、大科目と中科目で構成されます。収入側は組合費を中心に、上部組合からの交付金や下部組織からの賦課金、寄附金、雑収入などに分かれ、支出側は人件費や事務局費のほか、大会・委員会の運営費、専門部の活動費、機関紙の発行費、上部団体会費といった労働組合特有の区分が並びます。
| 収入の部の主な科目 | 支出の部の主な科目 |
|---|---|
| 組合費収入(組合費収入、加入金収入) | 人件費(給料諸手当、厚生費) |
| 交付金収入 | 事務局費(旅費交通費、通信費、消耗品費、印刷費、図書費) |
| 賦課金収入 | 会議費(大会費、委員会費、賃金補償費、諸会議費) |
| 寄付金収入 | 事業費(組織部費、文化部費、青婦人部費、その他の専門部費) |
| 雑収入(受取利息配当金、雑収入) | 情宣費(機関紙費、情宣雑費) |
| 資産売却収入、積立預金取崩収入 | 会費(上部団体会費、諸会費)、支部交付金 |
| 特別会計繰入金収入、借入金収入 | 資産購入支出、借入金返済支出、特定預金支出 |
| 前年度繰越金 | 特別会計繰入金支出、予備費、次年度繰越金 |
寄附金収入の管理は、とくに丁寧に行う必要があります。労働組合法は主要な寄附者の氏名を会計報告に示すことを求めており(労働組合法 第5条第2項第7号)、監査の実施に当たっても、使用者の援助に関する規制(労働組合法 第2条第2号)、主要な寄附者に関する規制、共済事業その他福利事業に関する規制(労働組合法 第9条)に留意しなければならないとされています(非営利法人委員会実務指針第37号 第7項)。誰からいくら受け入れたかを追える帳簿を残しておくことが、資格審査と監査の両面で効いてきます。
貸借対照表の科目と正味財産
貸借対照表は、資産の部・負債の部及び正味財産の部に区分し、資産の部は流動資産と固定資産に、固定資産はさらに有形固定資産とその他の固定資産に区分します。正味財産の部は、固定資産等見返正味財産、積立金、次年度繰越金に区分します(労働組合会計基準 第4 貸借対照表 2)。
| 流動資産 | 現金・預金、未収組合費、未収金、前払金、有価証券、特別会計勘定 |
|---|---|
| 有形固定資産 | 土地、建物、構築物、車両運搬具、什器備品、建設仮勘定 |
| その他の 固定資産 |
借地権、電話加入権、敷金、保証金、投資有価証券、出資金、退職給与引当預金、積立預金 |
| 流動負債 | 未払金、前受組合費、預り金、短期借入金、特別会計勘定 |
| 固定負債 | 長期借入金、退職給与引当金 |
| 正味財産 | 固定資産等見返正味財産、積立金、次年度繰越金 |
資産の価額は、原則として当該資産の取得価額を基礎として計上し、相当の減価償却を実施した場合には、当該減価償却累計額を控除した額を貸借対照表価額とします(労働組合会計基準 第4 貸借対照表 4)。退職給与引当金のような条件付債務については、必要額を見積り計上するものとされています(労働組合会計基準 注6)。
労働組合の貸借対照表でつまずきやすいのが、正味財産の部にある固定資産等見返正味財産です。これは、収支計算書に支出(または収入)として計上されたものの、資金の範囲に含まれない資産(または負債)を貸借対照表に計上するために生じる見返勘定です。備品を購入すると資金は減って支出になり、同時に貸借対照表には備品という資産が残るため、その差を正味財産の部で受け止める、という構造だと理解すると腹落ちしやすくなります。
一般会計と特別会計の区分
労働組合会計基準は、労働組合が活動目的に応じて会計区分を設けるものとしています(労働組合会計基準 第1 総則 4)。この会計区分の代表が、一般会計と特別会計です。
特別の目的を定めて徴収した資金を財源として組合活動を行う場合には、その活動状況を明らかにするため特別会計を設けなければなりません。また、将来の特定の支出に備えるため、または特定の資金を区分して管理するため、特別会計を設けることができます(労働組合会計基準 第6 特別会計 1)。闘争資金のように目的を定めて徴収する資金は前者、退職積立金のように将来の支出に備える資金は後者に当たります。
特別会計を設けた場合は、会計区分ごとの活動状況を明らかにする計算書類を作成したうえで、一般会計及び特別会計を総合した総合貸借対照表を作成しなければなりません。この場合、各会計区分間の貸借は相殺して表示します(労働組合会計基準 第6 特別会計 2、第7 総合貸借対照表)。一般会計と特別会計の間の繰入れは、それぞれの収支計算書で特別会計繰入金収入・特別会計繰入金支出として計上され、貸借対照表上は特別会計勘定として残ります。
支部を設けている場合の扱いも会計区分の問題です。組合組織が一体として運営される支部を設けている場合には、当該支部を含めた活動状況を明らかにする計算書類を作成しなければならず、本部・支部会計相互間の取引及び残高は原則として相殺して表示します(労働組合会計基準 第5 本部・支部会計)。支部の会計をどう取り込むかは、監査の準備段階で最初に確認しておきたい論点です。
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企業会計との違い
労働組合会計基準は、企業会計とまったく別物というわけではありません。会計帳簿は複式簿記の原則に従って正しく記帳しなければならないとされており、会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法は毎会計年度継続して適用し、みだりに変更してはならないという継続性の原則も置かれています(労働組合会計基準 第1 総則 2)。重要性の原則も適用されます(労働組合会計基準 注1)。企業会計の基礎的な考え方は、そのまま生きています。
違いが出るのは、報告の目的と、その目的から導かれる計算構造です。
| 報告の相手 | 労働組合は特定の利用者である組合員(非営利法人委員会実務指針第37号 第10項)。企業会計は株主・債権者など広範囲の利用者 |
|---|---|
| 中心となる 計算書類 |
労働組合は収支計算書と貸借対照表。企業会計は損益計算書と貸借対照表 |
| 予算との関係 | 労働組合は収入及び支出を原則として予算に基づいて行い、収支計算書で予算額と決算額を対比する(労働組合会計基準 第2 予算及び予算書 1、第3 収支計算書 2) |
| 計算の対象 | 労働組合は選択した資金の範囲の増減(労働組合会計基準 注2)。企業会計は期間損益 |
| 残高の呼び方 | 労働組合は正味財産(固定資産等見返正味財産・積立金・次年度繰越金)。企業会計は純資産 |
要するに、労働組合会計基準は「もうけを測る」ためではなく、「組合員から預かった資金を、決めたとおりに使ったか」を示すために組まれた基準です。この目的の違いを踏まえないまま企業会計の感覚で決算を組むと、資金の範囲の定義が曖昧になったり、特別会計の繰入れが収支計算書と貸借対照表で整合しなくなったりします。
実務で押さえておきたい3点
第一に、会計規程と規約の整合です。会計年度も、計算書類の具体的な名称も、組合の規約や会計規程によることになります(労働組合会計基準 第1 総則 3)。基準を採用すると決めたなら、その旨を会計規程に明記しておくと、監査人との前提のすり合わせが早く終わります。
第二に、会計報告に何を載せるかの設計です。労働組合法にいう会計報告は、計算書類とその監査報告書に加えて、労働組合の動向やガバナンスに関する情報が含まれることも想定される年次報告書に該当するものと整理されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第14項)。監査人は計算書類以外の記載内容についても通読して重要な相違がないかを検討するため、会計報告に載せる文章と数値を早めに固めておくと手戻りが減ります。
第三に、監査を受ける体制です。会計報告には、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書を添える必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。誰に委嘱するかは組合の意思決定事項であり、決算日から総会までの日程を逆算して依頼時期を決めておくことが実務上の要点になります。
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なお、労働組合監査の取扱いを定めた非営利法人委員会実務指針第37号は、2012年4月10日の公表後、2016年1月26日、2020年6月4日、2022年3月17日と改正され、名称も「労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例」に改められています。2022年3月17日の改正は、2022年3月31日以後終了する会計年度に係る監査から適用されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第19項)。監査報告書の記載事項は改正のたびに見直されているため、前年度の様式をそのまま流用しない点に注意してください。
まとめ
労働組合会計基準は法令ではありませんが、労働組合法が求める組合員への会計報告を実際に形にするための、事実上の共通言語です。計算書類は収支計算書・貸借対照表・附属明細表を軸に、予算書と注記、特別会計がある場合の総合貸借対照表で構成され、勘定科目は財源と使途が組合員に分かる区分であることが重視されます。企業会計との違いは、目的が組合員への会計報告にあり、計算の対象が選択した資金の範囲の増減である点に集約されます。
会計区分の設け方や資金の範囲の選択は、組合の規模や活動実態によって適切な答えが変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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- e-Gov法令検索 労働組合法
- 日本公認会計士協会 公益法人委員会報告第5号 労働組合会計基準
- 日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第37号 労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例の改正について
よくある質問
労働組合会計基準を使うことは義務ですか。
義務ではありません。労働組合法は会計報告の公表を規約の必要記載事項として定めていますが、計算書類の作成基準までは定めていません(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。ただし、労働組合会計基準は労働組合が準拠する会計基準として広く採用されており、組合独自の会計規程による場合は、組合員に対する会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たすかどうかが個別に判断されます(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項、第13項)。
単式簿記で帳簿をつけてもよいですか。
労働組合会計基準は、一般原則の一つとして、会計帳簿は複式簿記の原則に従って正しく記帳しなければならないと定めています(労働組合会計基準 第1 総則 2)。現金出納帳だけで運営している組合は、複式簿記による記帳への切り替えが必要になります。
特別会計はどのようなときに設けますか。
特別の目的を定めて徴収した資金を財源として組合活動を行う場合には、その活動状況を明らかにするため特別会計を設けなければなりません。また、将来の特定の支出に備えるため、または特定の資金を区分して管理するために設けることもできます(労働組合会計基準 第6 特別会計 1)。特別会計を設けた場合は、一般会計と総合した総合貸借対照表の作成が必要です(労働組合会計基準 第7 総合貸借対照表)。
勘定科目は基準のとおりにしなければなりませんか。
労働組合会計基準が示す科目は一般的なものであり、組合の態様・規模等に応じて科目を加除または変更することができます。科目は一定の基準に従って設定するものとされているため(労働組合会計基準 第1 総則 5)、年度ごとに区分がぶれないよう会計規程で定めておくことが実務的です。
収支計算書は企業の損益計算書と同じものですか。
異なります。収支計算書は、当該会計年度におけるすべての収入及び支出の内容を明らかにし、収支の予算額と決算額とを対比して表示する書類です(労働組合会計基準 第3 収支計算書 1、2)。計算の対象は組合が選択した資金の範囲の増減であり(労働組合会計基準 注2)、期間損益を計算する損益計算書とは目的が異なります。