労働組合の会計は、会社の経理とよく似ているようで、拠り所になるルールの作りが大きく異なります。会社であれば会社法や会計基準が計算書類の様式まで定めていますが、労働組合の場合、法律が定めているのは「組合員に何を公表するか」という最低限の枠組みだけです。残りは組合の規約と、実務で広く使われている会計基準に委ねられています。
この記事では、労働組合の会計を担当することになった方に向けて、法令が求めていること、計算書類の体系、組合費の会計処理、そして会計監査との関係までを一つの流れとして整理します。個別のテーマは関連するコラムで詳しく扱っているため、全体像をつかむ入口としてお読みください。
労働組合の会計を規律する3つの層
労働組合の会計は、労働組合法・組合規約・会計基準という3つの層で成り立っています。どの層が何を決めているのかを最初に押さえておくと、「これは法律で決まっていることなのか、うちの組合で決めてよいことなのか」という実務の迷いが大きく減ります。
| 労働組合法 | 会計報告を会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表することなど、組合が満たすべき最低限の枠組みを定めています。勘定科目や計算書類の様式までは定めていません。 |
|---|---|
| 組合規約 | 会計年度、計算書類の名称、予算と決算の承認手続、会計監査委員の設置といった組合ごとの運用は、規約と総会等の議決で定めます。 |
| 会計基準・ 組合の会計規程 |
計算書類を実際にどう作るかの拠り所です。実務では労働組合会計基準が広く採用されており、組合が独自に定めた会計規程による場合もあります。 |
労働組合法は、会計報告について「正確」であることの証明書を組合員に公表する旨を定めていますが、その詳細までは定めていません(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。この空白を規約と会計基準が埋めている、という構造を理解しておくことが出発点になります。
労働組合法が定める会計のルール
労働組合法が会計について直接定めているのは多くありません。しかし、いずれも労働組合として法の手続に参与するための資格要件に関わるため、外すことができない項目です。
会計報告の作成と年1回の公表
労働組合の規約には、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを定めなければなりません(労働組合法 第5条第2項第7号)。ここでいう会計報告には、計算書類とその監査報告書が含まれます(非営利法人委員会実務指針第37号 第14項)。
実務上の要点は2つあります。1つは、会計報告が「作成すれば足りる」ものではなく、組合員への公表までがセットで求められていること。もう1つは、その公表に会計監査人の証明書が伴っている必要があることです。監査そのものは受けていても、組合員に届いていなければ条文が求める形にはなりません。
総会の開催と基金の流用
総会を少なくとも毎年1回開催することも、規約の必要記載事項です(労働組合法 第5条第2項第6号)。多くの組合が、この年1回の総会(大会)で予算と決算を扱っており、会計のスケジュールは実質的に総会日から逆算して組まれます。
また、共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的へ流用しようとするときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。特別会計として管理している基金を一般会計の資金繰りに一時的に回す、といった処理は、決議の裏付けがないと問題になります。
使用者からの経理上の援助と自主性
団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるものは、労働組合法上の労働組合には当たりません(労働組合法 第2条第2号)。ただし同号のただし書により、労働者が労働時間中に賃金を失うことなく使用者と協議・交渉することを認めること、福利厚生などの基金に対する使用者の寄附、最小限の広さの事務所の供与は除かれています。
使用者からの援助、主要な寄附者、共済事業その他福利事業の3つは、労働組合法の規制事項として監査でも留意すべき点とされています(非営利法人委員会実務指針第37号 第7項)。会計処理としては、事務所使用料や事務局人件費を誰が負担しているかを記録上たどれるようにしておくことが実務の要になります。
計算書類の体系と労働組合会計基準
労働組合の計算書類は、広範囲の利用者に共通するニーズではなく、組合員という特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすことを目的として作成されるものと解されています。これは特別目的の財務諸表に当たります(非営利法人委員会実務指針第37号 第10項)。
準拠する会計基準として広く採用されているのが、日本公認会計士協会が1985年10月8日に公表した公益法人委員会報告第5号「労働組合会計基準」です。同基準は、組合員に対する会計報告を目的とした計算書類の作成において適用される財務報告の枠組みとして受入可能と判断でき、準拠性の枠組みとして整理されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項、第12項)。上記基準を適用していない場合でも、組合が独自に定めた会計規程が会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たしていれば、受入可能と判断されることがあります(非営利法人委員会実務指針第37号 第13項)。
労働組合会計基準に準拠して作成される計算書類は、一般に次の構成になります。具体的な名称は各組合の規約によります(非営利法人委員会実務指針第37号 付録)。
| 収支計算書 | 一会計年度の収入と支出を示します。労働組合の会計で中心になる計算書類です。 |
|---|---|
| 貸借対照表 | 会計年度末時点の資産、負債および正味財産の状況を示します。 |
| 総合貸借対照表 | 一般会計と特別会計を合わせた組合全体の財政状態を示します。 |
| 計算書類の注記 | 採用した会計処理の方法など、計算書類の理解に必要な事項を記載します。 |
| 附属明細表 | 寄附金収入明細表など、計算書類の内訳を補足する明細です。 |
会社の決算書と大きく違うのは、損益計算書ではなく収支計算書が中心に置かれ、一般会計と特別会計を合わせた総合貸借対照表が求められる点です。共済会計、闘争資金会計、退職給付会計といった特別会計を複数持つ組合では、会計ごとの区分と合算の関係を年度の初めに整理しておくと、決算作業が滞りません。
組合費の会計処理とチェックオフ
労働組合の収入の中心は組合費です。多くの組合では、使用者が賃金から組合費を控除して組合へ引き渡すチェックオフの方法が採られています。賃金は全額払いが原則ですが、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができます(労働基準法 第24条第1項ただし書)。チェックオフを行うのであれば、この賃金控除に関する協定が有効に締結されているかを会計側でも確認しておく必要があります。
組合費に関する基本的な会計処理を、単純な例で示します。以下は、当月分の組合費1,200,000円をチェックオフにより普通預金で受け入れ、同月に上部団体への上部団体費300,000円を支払った場合の仕訳です(単位:円)。組合費収入は、規約に定める組合費の額に基づいて計上します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,200,000 | 組合費収入 | 1,200,000 |
| 上部団体費 | 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
実務で論点になりやすいのは、組合員の入退社や異動によって、控除された組合費の金額と組合が把握している組合員数がずれるケースです。使用者から受け取る控除内訳と組合員名簿を毎月突き合わせ、差異の理由を記録に残しておくと、決算期に原因を追う手間がなくなります。
支出側では、費目を組合の活動区分に沿って設計することが重要です。会議費、教育宣伝費、上部団体費、共済費といった区分は、予算と決算を対比して組合員に説明するための単位でもあります。会計ソフト上の科目を細かくしすぎると、総会での説明が難しくなるため、予算書と同じ粒度で科目を持つのが実務的です。
会計監査との関係
労働組合法上の労働組合は、職業的に資格がある会計監査人による監査を受けなければならないとされています(労働組合法 第5条第2項第7号、非営利法人委員会実務指針第37号 第4項)。ここで混同しやすいのが、組合内部に置かれている会計監査委員による監査との関係です。内部の監査は組合の自治として重要ですが、条文が求めている会計監査人の証明書とは別のものです。
関連コラム「職業的に資格がある会計監査人」とは|労働組合法第5条の要件▸
内部監査と外部監査がそれぞれ担う範囲は、組合の規約と監査契約によって変わります。両者の役割分担を整理してから体制を決めると、二重の作業を避けられます。
関連コラム労働組合の会計監査で組合員が担う範囲|内部監査と外部監査の違い▸
会計担当者として押さえておきたいのは、監査を受けることを前提に日々の記帳と証憑の保存を設計しておくことです。監査の進め方や準備書類、総会日から逆算した年間の段取りは、次のコラムで具体的に扱っています。なお、外部監査に要する費用や期間は、組合の規模や特別会計の数によって幅があります。
関連コラム労働組合の会計監査のやり方|進め方・必要書類と年間スケジュール▸
資格審査・法人登記と会計の関係
日本では労働組合を自由に設立でき、設立にあたってどこかへ届け出る必要はありません。ただし、労働組合が労働組合法の定める手続に参与したり救済を受けたりするためには、労働組合法第2条および第5条第2項に定める資格要件を備えている必要があり、その有無を審査するのが労働組合の資格審査です。不当労働行為の救済申立てをする場合や、法人登記のための資格証明書の交付を受ける場合などには、過去に適格決定を受けたことがある組合であっても、その都度資格審査を受けることになります。
資格審査は、労働組合が労働組合法第2条および第5条第2項の規定に適合するかどうかの審査として、労働委員会規則にも定められています(労働委員会規則 第22条)。会計報告に関する規定は第5条第2項第7号に置かれているため、会計は資格審査の審査対象そのものということになります。規約に会計報告の条項があるか、実際に会計監査人の証明書とともに公表しているかは、組合の資格に直結します。
また、労働委員会の証明を受けた労働組合は、主たる事務所の所在地において登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。法人格を取得するかどうかは会計処理の内容自体を変えるものではありませんが、後述するとおり税務上の位置づけには影響します。
関連コラム労働組合の法人登記の手順|資格審査と登記事項・必要書類▸
労働組合の税務上の取扱い
法人である労働組合は、法人税法上の公益法人等に位置づけられています(法人税法 別表第二)。公益法人等および人格のない社団等は、収益事業を行う場合などに限って法人税を納める義務を負います(法人税法 第4条第1項)。法人登記をしていない労働組合も、通常は人格のない社団等として同じ枠組みで扱われます。
ここでいう収益事業とは、政令で定める事業で継続して事業場を設けて行われるものをいい(法人税法 第2条第13号)、物品販売業や不動産貸付業など34の事業が列挙されています(法人税法施行令 第5条第1項)。組合費を財源とする通常の組合活動はこれに当たりませんが、組合員向けの物品販売、会館の貸付け、旅行のあっせんなどを行っている場合は、収益事業に該当しないかを個別に確認する必要があります。該当する場合、会計上も収益事業と非収益事業の区分経理が求められます。
実務でつまずきやすい点
労働組合の会計で相談が多いのは、処理の巧拙よりも、記録と手続の残し方に関するものです。次の4点は、監査や資格審査の場面で確認されやすい箇所です。
| 委嘱の記録 | 会計監査人を組合員が委嘱した事実が、総会等の議事録に残っていない例が見られます。条文は組合員によって委嘱された会計監査人を求めているため、選任の経緯を記録に残します。 |
|---|---|
| 公表の事実 | 監査は受けているのに、会計報告が組合員に届いた記録がない状態です。配布方法と時期を毎年同じ形で残しておきます。 |
| 特別会計の 網羅性 |
共済会計や闘争資金会計が一般会計と別管理になっており、総合貸借対照表への合算が漏れる例です。会計の一覧を年度当初に確定させます。 |
| 現金の管理 | 支部や分会が独自に現金を保有し、本部の帳簿に反映されていない状態です。組織単位ごとの残高報告の締切を規程で定めます。 |
まとめ
労働組合の会計は、労働組合法が定める最低限の枠組み、組合規約が定める運用、そして労働組合会計基準または独自の会計規程という3つの層で組み立てられています。法律が求めているのは、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表することです(労働組合法 第5条第2項第7号)。
日々の実務では、収支計算書を中心とした計算書類の体系を理解し、組合費の受入れから支出までを予算と同じ粒度で記録すること、そして委嘱と公表という手続の事実を記録に残すことが要になります。会計は資格審査の審査対象にも直結しているため、組合の基盤を支える業務でもあります。
組合の規模、特別会計の構成、収益事業の有無によって、必要な体制や検討すべき論点は変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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- e-Gov法令検索 労働組合法
- e-Gov法令検索 労働基準法
- e-Gov法令検索 法人税法
- e-Gov法令検索 法人税法施行令
- 厚生労働省 労働組合の資格審査について
- 中央労働委員会 労働委員会規則
- 日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第37号 労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例の改正について
よくある質問
労働組合の会計に法律で決まった様式はありますか。
ありません。労働組合法は会計報告の公表を規約の必要記載事項として定めていますが、その詳細までは定めていません(非営利法人委員会実務指針第37号 第9項)。実務では、日本公認会計士協会が1985年10月8日に公表した公益法人委員会報告第5号「労働組合会計基準」が広く採用されています(非営利法人委員会実務指針第37号 第11項)。
労働組合ではどのような計算書類を作りますか。
労働組合会計基準に準拠する場合、収支計算書、貸借対照表、総合貸借対照表、計算書類の注記および附属明細表が計算書類となります(非営利法人委員会実務指針第37号 付録)。具体的な名称は各組合の規約によります。
組合独自の会計規程で計算書類を作ってもよいですか。
組合が独自に定めた会計規程であっても、組合員に対する会計報告としての目的適合性、理解可能性および客観性等の要件を満たしており、適用される財務報告の枠組みが受入可能と判断されることがあります(非営利法人委員会実務指針第37号 第13項)。
チェックオフで組合費を集めるために必要な手続はありますか。
賃金は全額払いが原則ですが、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができます(労働基準法 第24条第1項ただし書)。チェックオフを行う場合は、この賃金控除に関する協定の有効性を確認しておく必要があります。
労働組合に法人税はかかりますか。
法人である労働組合は法人税法上の公益法人等に位置づけられ(法人税法 別表第二)、公益法人等および人格のない社団等は収益事業を行う場合などに限って法人税を納める義務を負います(法人税法 第4条第1項)。収益事業は政令で定める34の事業に限られます(法人税法施行令 第5条第1項)。