減資(資本金の額の減少)の会計処理は、株主資本の内訳を組み替える処理です。資本金を減少させても、その相手勘定はその他資本剰余金であり、株主に金銭を交付しない限り会社の資産は流出しません。純資産の合計額も変わらないため、貸借対照表の見え方が変わるのは株主資本の内訳だけです。
この振替の根拠は、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」)です。同基準は、自己株式の取得・保有・処分・消却に加えて、資本金及び準備金の額の減少の会計処理を定めています(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第3項)。
本記事では、資本金の額の減少・欠損填補・準備金の額の減少という三つの場面について、動く勘定科目と方向を仕訳表で示し、株主資本等変動計算書での表示までを整理します。
減資の会計処理の全体像
減資という言葉は会社法上の用語ではなく、実務では「資本金の額の減少」を指す通称として使われています。会計上の論点は、減少させた資本金や準備金の額が、純資産の部のどの項目に振り替わるかという点に集約されます。
減資で資産が流出しない理由
資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生したときに、その他資本剰余金に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。仕訳の借方が資本金、貸方がその他資本剰余金となるため、株主資本の内部での振替にとどまります。
これは、減少前の資本金及び資本準備金が持っていた会計上の性格が変わるわけではなく、資本性の剰余金の性格を有すると考えられているためです(同基準 第59項)。株主への払戻しを伴わない減資を実務上「無償減資」と呼ぶのは、この点を指しています。
一方、資本金の額を減少させたうえで、その他資本剰余金を原資として剰余金の配当を行えば、配当の時点で会社財産が流出します。この場合でも、資産の流出は配当という別個の取引から生じるものであり、減資そのものから生じるわけではありません。
減少させる項目と増加する項目の対応
どの項目を減少させるかによって、増加する項目が決まります。資本性の剰余金は資本剰余金へ、利益性の剰余金は利益剰余金へ振り替わる、という対応関係です。
| 資本金の額の減少 | その他資本剰余金が増加します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。 |
|---|---|
| 資本準備金の額の減少 | その他資本剰余金が増加します(同基準 第20項)。 |
| 利益準備金の額の減少 | その他利益剰余金(繰越利益剰余金)が増加します(同基準 第21項)。 |
この対応関係の背景には、資本剰余金の各項目は利益剰余金の各項目と混同してはならず、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められないという原則があります(同基準 第19項)。払込資本と、払込資本を利用して得られた成果を区分するための考え方です。
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資本金の額の減少の仕訳
資本金の額の減少は、株主総会の決議によって、減少する資本金の額、減少する額の全部又は一部を準備金とするときはその旨及び準備金とする額、効力を生ずる日を定めて行います(会社法 第447条第1項)。減少する額は、効力発生日における資本金の額を超えることができません(会社法 第447条第2項)。
認識の時点と測定額
会計処理を行うのは、株主総会で決議した日ではなく、減少の法的効力が発生したときです(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。効力発生日は原則として株主総会で定めた日ですが、債権者異議手続が終了していないときは効力が生じません(会社法 第449条第6項)。
その他資本剰余金に振り替える金額は、減少する資本金の額のうち、準備金としない部分です。減少額の一部を資本準備金に振り替える決議をした場合には、その分だけその他資本剰余金の増加額が小さくなります(会社法 第447条第1項第2号)。
資本金の額の減少の仕訳例
資本金30,000千円のうち20,000千円を減少させ、その全額を準備金とはしない決議を行い、効力発生日が到来した場合の仕訳です(単位:千円)。減少の法的効力が発生したときに、その他資本剰余金に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 20,000 | その他資本剰余金 | 20,000 |
借方と貸方がいずれも株主資本の項目であるため、純資産合計に増減はありません。損益計算書にも影響しません。
会社法上の手続と決議要件
資本金の額の減少に係る株主総会の決議は、原則として特別決議です。ただし、定時株主総会で決議し、かつ減少する資本金の額が欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないときは、この特別決議の対象から除かれます(会社法 第309条第2項第9号)。
また、資本金の額を減少する場合には、債権者は異議を述べることができます(会社法 第449条第1項)。異議を述べることができる場合、会社は減少の内容等を官報に公告し、知れている債権者には各別に催告しなければならず、その期間は1か月を下ることができません(会社法 第449条第2項)。
なお、株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合で、効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の額を下回らないときは、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)によることができます(会社法 第447条第3項)。
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欠損填補の仕訳
欠損填補とは、その他資本剰余金を取り崩して、負の残高となっている繰越利益剰余金を補うことをいいます。資本金の額の減少を行う目的の多くは、生じた剰余金で累積した欠損を填補することにあります。
混同禁止の原則と欠損填補の位置づけ
前述のとおり、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められません(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第19項)。もっとも、利益剰余金が負の残高のときにその他資本剰余金で補填することは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと考えられています(同基準 第61項)。
これは、負の残高となった利益剰余金を将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うことが、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであるためです(同基準 第61項)。会社法上は、株主総会の決議による剰余金の処分として行われます(会社法 第452条)。
重要な制約として、会計上、その他資本剰余金による補填の対象となる利益剰余金は、年度決算時の負の残高に限られます(同基準 第61項)。期中に発生した利益剰余金の負の値をその都度その他資本剰余金で補填すると、年度決算単位でみた場合に混同となることがあるためです。
欠損填補の仕訳例
資本金の額の減少により生じたその他資本剰余金20,000千円があり、年度決算時の繰越利益剰余金が18,000千円の負の残高である場合に、その全額を填補したときの仕訳です(単位:千円)。年度決算時の負の残高を対象とし、その他資本剰余金から繰越利益剰余金へ振り替えます(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第61項、会社法 第452条)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| その他資本剰余金 | 18,000 | 繰越利益剰余金 | 18,000 |
この仕訳の結果、繰越利益剰余金の残高は零となり、その他資本剰余金の残高は2,000千円となります。純資産合計は変わりません。
その他資本剰余金の残高が負となった場合
その他資本剰余金は払込資本の一項目であるため、負の残高は想定されていません。自己株式の処分差損や消却の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末においてその他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第12項)。
欠損填補は「利益剰余金の負の残高を資本剰余金で補う」処理、こちらは「資本剰余金の負の残高を利益剰余金で補う」処理であり、方向が逆になります。いずれも会計期間末に判定する点は共通しています。
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準備金の額の減少の会計処理
準備金とは、資本準備金及び利益準備金を合わせた呼称です(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第1項)。準備金の額の減少も、株主総会の決議によって、減少する準備金の額、資本金とするときはその旨及び資本金とする額、効力を生ずる日を定めて行います(会社法 第448条第1項)。
資本準備金と利益準備金で振替先が異なる理由
資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、その他資本剰余金に計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。これに対し、利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)に計上します(同基準 第21項)。
利益準備金はもともと留保利益を原資とするものであり、利益性の剰余金の性格を有するため、その減少によって生ずる剰余金もその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の増加項目とすることが適切と考えられています(同基準 第63項)。振替先を取り違えると混同禁止の原則に反するため、決議内容が資本準備金と利益準備金のいずれを対象としているかを必ず確認します。
逆に、剰余金の額を減少させて準備金の額を増加させることもできます(会社法 第451条)。その他資本剰余金を原資として準備金の額を増加させる場合には、資本準備金の額を増加させることになります(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第62項)。
準備金の額の減少の仕訳例
同一の効力発生日に、資本準備金8,000千円のうち5,000千円を、利益準備金3,000千円のうち2,000千円を減少させ、いずれも資本金とはしない決議を行った場合の仕訳です(単位:千円)。振替先は、資本準備金がその他資本剰余金、利益準備金が繰越利益剰余金です(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項、第21項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 資本準備金 | 5,000 | その他資本剰余金 | 5,000 |
| 利益準備金 | 2,000 | 繰越利益剰余金 | 2,000 |
2行を1つの表にまとめていますが、実務では効力発生日ごと・決議事項ごとに仕訳を分けて記帳します。減少額は、効力発生日における準備金の額を超えることができません(会社法 第448条第2項)。
債権者異議手続が不要となる場合
準備金の額の減少では、債権者異議手続が不要となる場合があります。減少する準備金の額の全部を資本金とする場合は、そもそも債権者が異議を述べることができる場合から除かれています(会社法 第449条第1項)。
また、準備金の額のみを減少する場合であって、定時株主総会において減少する準備金の額等を定め、かつその額が当該定時株主総会の日における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないときも、債権者は異議を述べることができません(会社法 第449条第1項ただし書)。要件を満たすかどうかは金額と決議の時期の双方に左右されるため、決議前に個別に確認します。
株主資本等変動計算書での表示
減資や欠損填補は、貸借対照表の残高だけを見ても発生の事実が読み取れません。そのため、株主資本等変動計算書での表示が重要になります。
変動事由ごとの表示
貸借対照表の純資産の部における株主資本の各項目は、当期首残高、当期変動額及び当期末残高に区分し、当期変動額は変動事由ごとにその金額を表示します(株主資本等変動計算書に関する会計基準 第6項)。資本金の額の減少、欠損の填補、準備金の額の減少は、それぞれ独立した変動事由として記載します。
表示区分は、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」に定める純資産の部の表示区分に従います(株主資本等変動計算書に関する会計基準 第4項)。したがって、資本金、資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金)、利益剰余金(利益準備金・その他利益剰余金)の列に分けて変動額を記載することになります。
また、株主資本等変動計算書に表示される各項目の当期首残高及び当期末残高は、前期及び当期の貸借対照表の純資産の部における各項目の期末残高と整合したものでなければなりません(株主資本等変動計算書に関する会計基準 第5項)。減資と欠損填補を同一年度に行った場合は、両方の変動事由を記載したうえで整合性を確認します。
作成時のチェックポイント
実務でずれが生じやすいのは、決議日と効力発生日が期をまたぐケースです。会計処理は減少の法的効力が発生したときに行うため(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項、第21項)、決議日基準で記帳すると期ズレが生じます。
欠損填補についても、年度決算時の負の残高が対象である点(同基準 第61項)を踏まえ、四半期や中間の時点で先行して振替を行っていないかを確認します。
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適用時期と改正の経緯
自己株式等会計基準は2002年に公表され、その後複数回にわたり改正されています。2005年の改正は会社法の公布に伴うもので、資本の部の区分に関する定めが削除されました(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第28項)。2006年の改正は会社計算規則の施行等に伴い、自己株式を消却したときの消却原価に係る会計処理などを見直したものです(同基準 第28-2項)。
2006年改正の本会計基準は、公表日以後、会社法の定めが適用される処理に関して適用されています(同基準 第23項)。さらに2015年改正の本会計基準は、財務諸表等規則の改正に伴い、決議後消却手続を完了していない自己株式に関する注記の取扱いを明らかにしたもので、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています(同基準 第23-2項、第28-3項)。
実務上の指針を定める企業会計基準適用指針第2号も同様に改正が重ねられており、直近では2024年に改正されています。この改正は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当する場合の会計処理を新たに定めたもので、公表日以後適用されています(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針 第23-3項)。資本金及び準備金の額の減少の会計処理そのものに変更はありません。
実務上の留意点
減資を検討する場面は、累積した欠損の填補、配当可能な原資の確保、税務上の負担の見直しなど多岐にわたります。会計処理自体は株主資本内の振替にとどまりますが、意思決定に至る検討事項は会計にとどまりません。
まず、株主総会の決議要件と債権者異議手続の要否を先に確定させ、効力発生日から逆算してスケジュールを組みます。官報公告に必要な期間は1か月を下ることができないため(会社法 第449条第2項)、決算日直前の決議では効力発生が翌期にずれることがあります。
次に、欠損填補を目的とする場合は、対象が年度決算時の繰越利益剰余金の負の残高であることを確認します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第61項)。填補後にその他資本剰余金が残る場合、その残高は分配可能額の計算に関わるため、配当政策と併せて検討します。
税務上の取扱いは会計処理と一致しない場合があり、資本金等の額や住民税均等割の判定など、会社の状況によって影響が異なります。適用関係は個別に確認が必要です。
まとめ
減資の会計処理は、資本金の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に計上する振替処理であり、株主に払戻しを行わない限り資産は流出しません(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。資本準備金も同じくその他資本剰余金へ、利益準備金は繰越利益剰余金へ振り替わります(同基準 第20項、第21項)。
欠損填補は、資本剰余金と利益剰余金の混同禁止の例外として認められる処理で、対象は年度決算時の負の残高に限られます(同基準 第19項、第61項)。いずれの処理も、認識の時点は減少の法的効力が発生したときであり、株主資本等変動計算書では変動事由ごとに金額を表示します(株主資本等変動計算書に関する会計基準 第6項)。
減資の要否や欠損填補の時期は、会社法上の手続、分配可能額、税務上の影響が絡み合う論点です。具体的なケースについては、公認会計士へのご相談をおすすめします。
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- 企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第2号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第6号 株主資本等変動計算書に関する会計基準
- e-Gov法令検索 会社法
よくある質問
減資をすると会社の資産は減少しますか。
株主に金銭等を交付しない減資では、資産は減少しません。資本金の額の減少によって生ずる剰余金はその他資本剰余金に計上されるため、株主資本の内訳が変わるだけで純資産合計も変わりません(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。
資本金の額の減少で生じた剰余金を、そのまま繰越利益剰余金へ振り替えてよいですか。
原則として認められません。資本剰余金の各項目は利益剰余金の各項目と混同してはならず、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められないためです(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第19項)。利益剰余金が負の残高であるときの補填は、例外として認められています(同基準 第61項)。
欠損填補はどの時点の残高を対象としますか。
年度決算時の負の残高です。会計上、その他資本剰余金による補填の対象となる利益剰余金は年度決算時の負の残高に限られており、期中に発生した負の値をその都度補填すると、年度決算単位でみた場合に資本剰余金と利益剰余金の混同になることがあるためです(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第61項)。
準備金の額の減少で債権者異議手続が不要になるのはどのような場合ですか。
減少する準備金の額の全部を資本金とする場合は、債権者が異議を述べることができる場合から除かれています。また、準備金の額のみを減少する場合であって、定時株主総会で決議し、かつその額が当該定時株主総会の日における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないときも不要です(会社法 第449条第1項)。
資本金の額の減少はいつ会計処理しますか。
株主総会の決議日ではなく、減少の法的効力が発生したときです(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第20項)。債権者異議手続等が終了していないときは効力が生じないため、決議で定めた日が到来していても手続の完了を確認する必要があります(会社法 第449条第6項)。