新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)のもとで、借手はリース負債を借手のリース料の現在価値により測定します。用いる割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率です(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。選択適用ではなく、判断の順序が定められています。
割引率は使用権資産とリース負債の計上額を直接左右しますが、基準は利率の算定方法を細かく定めていません。本記事では判断順序、利率の組成、測定への影響、簡素化、経過措置での取扱いを条項番号とともに整理します。
借手の割引率が使われる場面
リース負債の計上額は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項、同適用指針 第19項)。この計算に用いるのが借手の割引率です。使用権資産はリース負債を出発点に算定します(同会計基準 第33項、同適用指針 第18項)。
割り引く対象の借手のリース料は、固定リース料、指数又はレートに応じて決まる変動リース料、残価保証に係る支払見込額、行使が合理的に確実な購入オプションの行使価額、解約オプションの行使を反映した違約金の支払額で構成されます(同会計基準 第19項、第35項)。割引率が適切でも対象範囲を誤れば測定額はずれます。
貸手の計算利子率を知り得るかの判断
貸手の計算利子率とは、貸手のリース料の現在価値と見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の現在価値の合計額が、当該原資産の現金購入価額又は借手に対する現金販売価額と等しくなるような利率です(同適用指針 第66項)。借手が自ら算定するには次の情報が要ります。
| 貸手のリース料 | 合意された使用料(残価保証がある場合は残価保証額を含む)。契約書から把握できることが多い情報です(同会計基準 第23項)。 |
|---|---|
| 原資産の現金購入価額 又は現金販売価額 |
貸手の仕入価格に相当し、借手に開示されないことが少なくありません。 |
| 見積残存価額 | 貸手が中古市場の見通しを踏まえ内部で見積もる情報です。 |
実務では後ろ二つが入手できず「知り得ない」と判断する契約が大半ですが、グループ内リースなど情報がそろう契約もあります。契約類型ごとに入手可否と判断結果を一覧化しておくと、一貫性を説明しやすくなります。
借手の追加借入利子率の組成
貸手の計算利子率を知り得ない場合は、借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率を用います(同適用指針 第37項(2))。結論の背景では、次の二つが例示されています(同適用指針 BC66項)。
| スワップレートに 信用スプレッドを加味 |
借手のリース期間と同一の期間におけるスワップレートに、借手の信用スプレッドを加味した利率 |
|---|---|
| 新規長期借入金等の利率 | 契約時点の利率、契約が行われた月の月初又は月末の利率、当該月の平均利率、当該半期の平均利率 |
リース期間と利率の期間の対応
後者を用いる場合は、借手のリース期間と同一の期間の借入れに適用される利率によります(同適用指針 BC66項)。5年のリースに短期調達金利を当てるような期間のミスマッチは認められません。借手のリース期間は、解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定します(同会計基準 第15項、第31項、同適用指針 第17項)。リース期間が固まらなければ割引率も確定しません。
関連コラムリース期間の判定|延長・解約オプションと新リース会計基準▸
基準が定めていない部分は会計方針で埋める
例示されているのは利率の出発点までです。外貨建てリースをどの通貨の金利で割り引くか、担保や金額規模をスプレッドにどう反映するか、金利をいつ観測するかは企業が方針として定め、会計方針書と算定根拠資料に文書化しておく必要があります。
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割引率が測定と費用配分に与える影響
自社作例で確認します(単位:千円)。X1年4月1日にリース開始、借手のリース期間5年、借手のリース料は年額10,000千円を毎年3月末後払い、開始日までの支払・付随費用・インセンティブはなしとします。貸手の計算利子率は知り得ず、追加借入利子率は年3.0%と見積られたとします(同会計基準 第34項、同適用指針 第37項(2))。4.5797は割引率3.0%・期間5年・期末払の年金現価係数です。
付随費用等がないため、使用権資産も同額になります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 45,797 | リース負債 | 45,797 |
利息相当額の総額は借手のリース期間にわたり原則として利息法で配分し、各期の額は未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定します(同会計基準 第36項、同適用指針 第38項、第39項)。所有権が移転すると認められるリース以外の使用権資産は、原則として借手のリース期間を耐用年数とし残存価額をゼロとして償却します(同会計基準 第38項)。
初年度末(X2年3月31日)の仕訳は次のとおりです(単位:千円、同会計基準 第36項、第38項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 1,374 | 現金預金 | 10,000 |
| リース負債 | 8,626 | ||
| 減価償却費 | 9,159 | 使用権資産 | 9,159 |
割引率の水準による測定額の差
割引率が高いほど使用権資産とリース負債は小さく、利息費用の総額は大きくなり費用計上は前倒しになります。総資産や有利子負債に連動するため、財務制限条項を扱う部門との事前共有も必要です。
割引計算を省略・簡素化できる場面
短期リース(リース開始日において借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まないリース)は、使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を原則として定額法で費用計上できます(同適用指針 第4項(2)、第20項)。少額リースにも一定の要件のもとで同様の取扱いがあります(同適用指針 第22項)。
使用権資産総額に重要性が乏しい場合は、利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法、又は利息相当額の総額を各期に定額法で配分する方法を適用でき、前者を選べば割引計算自体が不要です(同適用指針 第40項)。重要性が乏しい場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高が、当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満の場合をいい(同 第41項)、連結財務諸表では連結の数値を基礎に判定を見直せます(同 第42項)。
見直し時の割引率と会計方針の設計
借手のリース期間に変更がある場合、又は期間に変更がなくリース料に変更がある場合は、リース負債の計上額を見直します(同会計基準 第40項から第42項、同適用指針 第46項)。契約条件の変更時も、独立したリースとして処理しない限り、変更後の条件を反映した現在価値まで修正します(同適用指針 第45項)。
注意すべきは、これらの見直しで変更前と変更後のどちらの割引率を用いるかについて、適用指針が定めを置いていない点です。国際的な会計基準が状況ごとの割引率を定めているのに対し、簡素で利便性が高い会計基準を開発する方針などを理由に定めを置かないこととされています(同適用指針 BC76項、BC79項)。企業が自ら方針を決めて継続適用する必要があり、監査法人との協議で早期に固めるべき論点です。
セール・アンド・リースバック取引でも、一定の要件を満たさない場合は売手である借手がリースバックについて借手の会計処理を行うため(同適用指針 第56項)、同じ判断が必要になります。
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適用時期と経過措置における割引率
企業会計基準第34号は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用できます(同会計基準 第58項)。適用指針第33号も同様です(同適用指針 第112項)。現在は企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」等に基づく処理が行われており、その適用は第34号の適用により終了します(同会計基準 第59項)。
適用初年度は会計方針の変更として原則遡及適用しますが、累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法も認められます(同適用指針 第118項)。後者を選んだ借手は、従来オペレーティング・リース取引に分類していたリース等について、期首時点の残りの借手のリース料を期首時点の追加借入利子率で割り引いた現在価値によりリース負債を計上できます(同適用指針 第123項(1))。特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用することも可能です(同 第124項(1))。
この方法を選ぶ借手は、期首のリース負債に適用している追加借入利子率の加重平均等を注記します(同 第125項)。採用した割引率は注記を通じて外部に示されます。一方、適用後の恒常的な注記では、割引率の水準は会計方針に関する情報として列挙されていません(同 第97項)。
第34号と適用指針第33号は2024年9月13日に公表され、2025年4月23日に修正されました(会計処理及び開示の定めの実質的な変更ではありません)。適用指針第33号には、その後2025年10月16日公表の企業会計基準第37号「期中財務諸表に関する会計基準」に伴う修正も反映されています。
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まとめ
- 貸手の計算利子率が優先、知り得ない場合に追加借入利子率(適用指針 第37項)
- 知り得るかは現金購入価額と見積残存価額の入手可否で判断(同 第66項)
- 追加借入利子率はスワップレート+信用スプレッド又は新規長期借入金等の利率が例示され、期間はリース期間に合わせる(同 BC66項)
- 短期・少額リースと重要性判定で割引計算の対象範囲を先に絞る(同 第20項、第22項、第40項、第41項)
- 見直し時の割引率は定めがなく、会計方針として自社で決める(同 BC76項、BC79項)
- 経過措置では期首時点の利率を用い、その加重平均が注記される(同 第123項、第125項)
割引率は自社で決定する見積りであり、説明責任は企業側にあります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、新リース会計基準への移行を支援しています。
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よくある質問
貸手の計算利子率と追加借入利子率は選択適用ですか
選択適用ではありません。貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率、知り得ない場合に借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率によります(リースに関する会計基準の適用指針 第37項)。
追加借入利子率はどのような利率を用いますか
借手のリース期間と同一の期間におけるスワップレートに信用スプレッドを加味した利率と、新規長期借入金等の利率が例示されています。後者は同一の期間の借入れに適用される利率を用います(同適用指針 BC66項)。
リース契約ごとに割引率を分ける必要がありますか
継続適用について適用指針は契約ごとの設定を求めても禁じてもいません。経過措置では、特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用できます(同適用指針 第124項(1))。
リース期間が変更された場合、割引率は見直すのですか
リース期間に変更がある場合はリース負債の計上額を見直しますが(リースに関する会計基準 第40項から第42項、同適用指針 第46項)、変更前と変更後のどちらの割引率を用いるかについて適用指針は定めを置いていません(同適用指針 BC76項、BC79項)。企業が会計方針として定める必要があります。