セール・アンド・リースバックとは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリースする取引をいいます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(11)、第53項)。本社ビル・工場・店舗などを売却して資金化しつつ、そのまま使い続けたいという資金調達ニーズに応える手法であり、上場準備企業や設備投資負担の大きい事業会社で検討されることの多い取引です。
2024年9月13日に公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」により、この取引の会計処理は根本から組み替えられます。結論を先に述べると、新しい基準では「売却損益を繰り延べるかどうか」ではなく「そもそも売却に該当するかどうか」から判定が始まります。売却に該当しないと判断されれば金融取引(実質的な借入)として処理し、売却に該当すると判断されれば譲渡損益を全額その期の損益として認識します。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
本記事では、公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングの実務視点から、売却の判定フロー、両パターンの仕訳、現行の企業会計基準適用指針第16号との対比、注記、適用初年度の経過措置までを条項番号とともに整理します。
セール・アンド・リースバック取引の定義と会計処理の全体像
セール・アンド・リースバック取引は、形式的には「資産の譲渡」と「リース」という2つの取引ですが、これらが組み合わされることで、譲渡した資産から生じる経済的利益を売手である借手が引き続き享受しているにもかかわらず譲渡時に損益が認識されてしまう、という論点が生じます(リースに関する会計基準の適用指針 BC82項)。新しい適用指針は、この論点に対応するため、資産の譲渡の取扱いと譲渡損益を適切に計上するための取扱いを第53項から第58項に定めています(リースに関する会計基準の適用指針 BC83項)。
まず、登場人物と用語を整理します。新しい基準では、旧来の「借手」「貸手」に加えて売買当事者としての立場を併記した用語が使われるため、条文を読むうえでの前提になります。
| 売手である借手 | 資産を譲渡し、譲渡した資産を引き続きリースで使用する側。事業会社にあたります。 |
|---|---|
| 買手である貸手 | 資産を取得し、その資産をリースで提供する側。リース会社や不動産会社などがこれにあたります。 |
| リースバック | 売手である借手が買手である貸手から当該資産をリースする部分(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(11))。 |
| 原資産 | リースの対象となる資産で、貸手によって借手に当該資産を使用する権利が移転されているもの(リースに関する会計基準 第9項)。 |
そのうえで、売手である借手の会計処理は、資産の譲渡が売却に該当するかどうか、およびリースバックがフルペイアウトのリースに該当するかどうかによって、金融取引として処理する場合と、譲渡損益を認識したうえでリースバックについて借手の会計処理を行う場合とに分かれます(リースに関する会計基準の適用指針 第55項、第56項)。判定の順序を誤ると結論が逆になるため、以下の順に検討することが実務上の出発点になります。
- その取引がそもそもセール・アンド・リースバック取引に該当するかを確認する(リースに関する会計基準の適用指針 第53項、第54項)。
- 資産の譲渡が、収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従って損益を認識する売却に該当するかを判定する(リースに関する会計基準の適用指針 第55項(1))。
- 売却に該当する場合でも、リースバックによりフルペイアウトとなっていないかを確認する(リースに関する会計基準の適用指針 第55項(2))。
- いずれにも該当しない場合に、譲渡損益を認識し、リースバックについて使用権資産とリース負債を計上する(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
新リース会計基準における売却の判定
収益認識に関する会計基準による支配の移転の判断
資産の譲渡に係る損益を認識するためには、収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従い、売手である借手による資産の譲渡が売却に該当するかどうかを判断します(リースに関する会計基準の適用指針 BC90項)。その中核にあるのが「支配の移転」という考え方です。
収益認識に関する会計基準では、資産が移転するのは顧客が当該資産に対する支配を獲得した時または獲得するにつれてであるとされ(収益認識に関する会計基準 第35項)、資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含みます)をいうと定義されています(収益認識に関する会計基準 第37項)。一時点で充足される履行義務については、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に収益を認識します(収益認識に関する会計基準 第39項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
支配の移転を検討する際には、次の指標を考慮するとされています(収益認識に関する会計基準 第40項)。セール・アンド・リースバックでは、買戻条項や譲渡後の使用制限の有無が、これらの指標の評価に直結します。
- 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
- 顧客が資産に対する法的所有権を有していること
- 企業が資産の物理的占有を移転したこと
- 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
- 顧客が資産を検収したこと
事業用固定資産の譲渡と収益認識に関する会計基準の適用範囲
ここで実務家が最初につまずくのが、適用範囲です。企業の通常の営業活動により生じたアウトプットではない固定資産の売却は、収益認識に関する会計基準の適用範囲に含まれません(収益認識に関する会計基準 第108項)。さらに、通常の営業活動により生じたアウトプットとなる不動産の売却であっても、不動産流動化実務指針の対象となる不動産(不動産信託受益権を含みます)の譲渡に係る会計処理は、同基準の適用範囲から除外されています(収益認識に関する会計基準 第3項(6)、第108項)。
したがって、本社ビルや工場のような事業用固定資産のセール・アンド・リースバックでは、収益認識に関する会計基準の要件をそのまま当てはめるのではなく、収益認識に関する会計基準に含まれない固定資産の譲渡について一般的な実現主義の原則(企業会計原則 第二 損益計算書原則 三 B)が適用されると解したうえで、特定の不動産取引については監査委員会報告第27号、移管指針第10号および第13号、監査・保証実務委員会実務指針第90号などに定められた指針に照らして、譲渡に係る損益の認識時期を具体的に判断することになります(リースに関する会計基準の適用指針 BC90項)。「収益認識の5ステップで判定する」と単純化してしまうと、不動産のリースバックでは判断を誤ります。
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セール・アンド・リースバック取引に該当しない取引
リースバックが行われる取引であっても、次のいずれかに該当する場合は、そもそもセール・アンド・リースバック取引に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第53項(1)、(2))。
- 売手である借手による資産の譲渡が、収益認識に関する会計基準に従い、一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識に関する会計基準 第36項)の充足によって行われるとき
- 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」第95項を適用し、工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択するとき
これらの取引では、譲渡により移転されるのは仕掛中の資産であり、移転された部分だけでは資産の使用から生じる経済的利益を享受できる状態にありません。これに対し、リースバックにより売手である借手が支配を獲得する使用権資産は完成した資産に関するものであるため、譲渡された資産とリースされた資産は同一ではないと考えられています(リースに関する会計基準の適用指針 BC87項)。建設工事請負契約と一括借上契約が同時に締結される取引などが、この論点にあたります(リースに関する会計基準の適用指針 BC84項)。
また、売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合、当該資産の移転と関連するリースバックについては、セール・アンド・リースバック取引に該当せず、単なるリースとして会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第54項)。取引の都合上、借手が貸手を通さずに資産を第三者から購入して当該資産を貸手に譲渡し、当該貸手から原資産としてリースするような場合が例として挙げられており、法的所有権をいったん獲得していたとしても支配を獲得していなければ該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 BC89項)。
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売却に該当しない場合の金融取引としての会計処理
セール・アンド・リースバック取引に該当する場合において、次の(1)または(2)のいずれかを満たすときは、売手である借手は、当該取引について資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
- 収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従うと、売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合
- 資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するものの、リースバックにより、売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合
(2)はいわゆるフルペイアウトのリースに該当する場合です。適用指針は第55項(2)におけるフルペイアウトの判定要件を具体的に定めていませんが、仮に第62項の判定基準を用いて判断する場合には、借手のリース期間および借手のリース料をもとに判定を行うことが考えられるとされています(リースに関する会計基準の適用指針 BC94項)。なお、第62項は貸手によるファイナンス・リースの判定基準を定めた規定であり、リース料の現在価値が原資産の現金購入価額の概ね90パーセント以上であること(現在価値基準)、またはリース期間が原資産の経済的耐用年数の概ね75パーセント以上であること(経済的耐用年数基準)のいずれかに該当する場合にファイナンス・リースと判定するものです(リースに関する会計基準の適用指針 第62項)。
金融取引として会計処理する以上、資産の譲渡による損益は認識されません。この点は、譲渡代金を受け取って手元資金が増えても会計上は売却益が立たない、という実務上のインパクトの大きい帰結です。なお、第55項を適用して会計処理を行ったセール・アンド・リースバック取引については、当該会計処理を行った資産がある旨ならびに当該資産の科目および金額を注記することとされており(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1)②)、対象資産が引き続き貸借対照表に計上されることを前提とした開示の枠組みになっています。
実務では、譲渡が売却に該当しないケースは、買戻条項が付されている、譲渡後も売手である借手が資産の使用方法を実質的に決定し続けている、といった事情から支配が移転していないと判断される場合に生じます。売却か金融取引かで貸借対照表の姿がまったく変わるため、契約書のドラフト段階から会計上の結論を確認しておくことをおすすめします。
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売却に該当する場合の売却損益の認識と仕訳
セール・アンド・リースバック取引に該当する場合において、第55項(1)および(2)を満たさないときは、売手である借手は、資産の譲渡について収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについてリースに関する会計基準および適用指針に従い借手の会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
売手である借手の仕訳
この場合の会計処理は、次の2段階に分けて考えると整理しやすくなります。
- 譲渡時:受け取った譲渡対価を計上し、譲渡した資産の帳簿価額を減額して、その差額を売却損益として損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
(借)現金預金 / (貸)建物・土地等、固定資産売却益 - リース開始日:リースバックについて、リース負債と使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。
(借)使用権資産 / (貸)リース負債
リース負債および使用権資産の計上額は、次のとおり算定します。借手は、リース開始日に第34項に従い算定された額によりリース負債を計上し、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項)。このリース負債は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
リース開始日後は、利息相当額の総額を借手のリース期間にわたり原則として利息法により配分し(リースに関する会計基準 第36項)、使用権資産については、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースであれば、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却を行います(リースに関する会計基準 第38項)。
IFRS第16号との相違点
ここが日本基準の最大の特徴です。IFRS第16号では、収益が認識されると判断される場合であっても、買手である貸手に移転された権利部分については権利の譲渡に係る利得または損失を譲渡時に認識し、リースバックにより売手である借手が継続して保持する権利部分については利得または損失を繰り延べることとされています(リースに関する会計基準の適用指針 BC91項)。
これに対して日本基準では、資産の譲渡について損益を認識すると判断する場合、当該譲渡に係る損益が全額計上されます。IFRS第16号と同様の定めを置くと、収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等の定めにより損益を認識すると判断される場合であっても譲渡に係る損益の調整を求めることになり、他の会計基準等の考え方とは異なる考え方を採用することになるため、これを採らなかったと説明されています(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。IFRS第16号と同様の会計処理を代替的な取扱いとして選択適用することも認められていません(リースに関する会計基準の適用指針 BC95項)。
実務では、IFRS任意適用の親会社と日本基準の子会社が同一の取引を行った場合に、連結上の調整が必要になる点に注意が必要です。IFRS第16号における譲渡損益の調整に代えて、日本基準ではセール・アンド・リースバック取引についての開示を要求することが有用な情報の提供につながると整理されています(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。
譲渡対価が時価でない場合の調整
セール・アンド・リースバック取引では、資産の譲渡とリースバックがパッケージとして交渉されることが多く、資産の譲渡対価とリースバックにおける借手のリース料との間に相互依存性があると考えられます(リースに関する会計基準の適用指針 BC96項)。そこで、資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合または借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではない場合、売手である借手は、当該資産の譲渡対価と借手のリース料について次のとおり取り扱います(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。
- 譲渡対価が明らかに時価を下回る場合は、時価を用いて譲渡について損益を認識し、譲渡対価と時価との差額について使用権資産の取得価額に含めます。
- 借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料を下回る場合は、その差額について譲渡対価を増額したうえで譲渡について損益を認識し、当該差額について使用権資産の取得価額に含めます。
- 譲渡対価が明らかに時価を上回る場合は、時価を用いて譲渡について損益を認識し、譲渡対価と時価との差額について金融取引として会計処理を行います。
- 借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料を上回る場合は、その差額について譲渡対価を減額したうえで譲渡について損益を認識し、当該差額について金融取引として会計処理を行います。
明らかに時価ではないかどうか、または明らかに市場のレートでのリース料ではないかどうかは、資産の時価と市場のレートでのリース料のいずれか容易に算定できる方を基礎として判定します(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。また、この取扱いは、セール・アンド・リースバック取引に該当しない第53項(1)および(2)の取引にも適用されます(リースに関する会計基準の適用指針 第58項)。
もっとも、セール・アンド・リースバック取引においては資産の譲渡対価が時価で、借手のリース料が市場のレートである場合が多いと考えられるため、第57項の定めの適用が求められる場面は限定的であると整理されています(リースに関する会計基準の適用指針 BC96項)。実務上は、鑑定評価額や近隣の賃料水準と契約条件が大きく乖離していないかを確認しておけば足りるケースが大半です。
企業会計基準適用指針第16号との対比
現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(いずれも2007年3月30日公表。適用指針は2011年に改正されています)のもとでは、セール・アンド・リースバック取引は「所有する物件を貸手に売却し、貸手から当該物件のリースを受ける取引」と定義され、リース取引がファイナンス・リース取引に該当するかどうかを第5項から第20項の判定基準により判定することからスタートします(リース取引に関する会計基準の適用指針 第48項)。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第16号 リース取引に関する会計基準の適用指針
そして、ファイナンス・リース取引に該当する場合、借手は、リースの対象となる物件の売却に伴う損益を長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します。ただし、当該物件の売却損失が、当該物件の合理的な見積市場価額が帳簿価額を下回ることにより生じたものであることが明らかな場合は、売却損を繰延処理せずに売却時の損失として計上します(リース取引に関する会計基準の適用指針 第49項)。この繰延処理が、現在の実務で広く行われている「長期前受収益」の正体です。
両者の考え方の違いを、判定の出発点・処理・損益計上のタイミングという3つの観点で並べると次のとおりです。
| 企業会計基準適用指針第16号の取扱い | 企業会計基準適用指針第33号の取扱い |
|---|---|
| リース取引がファイナンス・リース取引に該当するかどうかの判定から始めます(第48項)。 | 資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するかどうかの判定から始めます(第55項(1))。 |
| ファイナンス・リース取引に該当する場合、売却に伴う損益を長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理します(第49項)。 | 売却に該当しない場合、または売却に該当してもフルペイアウトとなる場合は、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて金融取引として会計処理します(第55項)。 |
| 繰り延べた損益は、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して各期の損益に計上します(第49項)。 | 売却に該当しフルペイアウトとならない場合は、資産の譲渡について他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについて借手の会計処理を行います(第56項)。 |
なお、企業会計基準第34号の適用により、企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号、実務対応報告第31号および移管指針第3号に従って会計処理されている取引については、これらの会計基準等の適用を終了することとされています(リースに関する会計基準 第59項)。企業会計基準第34号を適用するまでは、引き続き企業会計基準第13号および企業会計基準適用指針第16号が適用されています。
買手である貸手側の会計処理
買手である貸手は、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースとに分類します(リースに関する会計基準 第43項)。セール・アンド・リースバック取引におけるリースバックがファイナンス・リースに該当するかどうかの貸手による判定は、適用指針第59項から第69項に示したところによります。ただし、この判定において、経済的耐用年数についてはリースバック時における原資産の性能、規格、陳腐化の状況等を考慮して見積った経済的使用可能予測期間を用い、当該原資産の借手の現金購入価額については借手の実際売却価額を用いるものとされています(リースに関する会計基準の適用指針 第87項)。
当該リースバックがファイナンス・リースに該当する場合の会計処理は第70項から第81項までと同様とし、オペレーティング・リースに該当する場合の会計処理は第82項と同様とします(リースに関する会計基準の適用指針 第88項)。中古資産のリースバックでは、新品の法定耐用年数をそのまま用いると経済的耐用年数基準の判定を誤るため、この特則は貸手側の実務で必ず押さえるべき点です。
開示と適用時期
セール・アンド・リースバック取引に関する注記
リースに関する注記のうち、借手の注記には「リース特有の取引に関する情報」が含まれます(リースに関する会計基準 第55項(1)②)。これを受けて、セール・アンド・リースバック取引については次の事項を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1))。
| 売却損益の科目と金額 | セール・アンド・リースバック取引から生じた売却損益を損益計算書において区分して表示していない場合、当該売却損益が含まれる科目および金額を注記します。 |
|---|---|
| 金融取引として処理した資産 | 第55項を適用して会計処理を行った取引について、当該会計処理を行った資産がある旨ならびに当該資産の科目および金額を注記します。 |
| 取引の主要な条件 | 第56項を適用して会計処理を行った取引について、当該セール・アンド・リースバック取引の主要な条件を注記します。 |
なお、リースに関する注記における開示目的は、リースが借手または貸手の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにあり(リースに関する会計基準 第54項)、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については記載しないことができます(リースに関する会計基準 第55項ただし書き)。
強制適用の時期と早期適用
企業会計基準第34号は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から本会計基準を適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。企業会計基準適用指針第33号の適用時期も、会計基準と同様とされています(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。
改正の経緯としては、企業会計基準第34号および企業会計基準適用指針第33号は2024年9月13日に公表され、2025年4月23日に修正が行われています。同時に、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」も改正されました。収益認識に関する会計基準は2018年3月に公表され、2020年に改正された会計基準が2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。その後、2024年にリース会計基準等の公表に伴う改正が行われており、この2024年改正部分の適用時期はリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項)。
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適用初年度の経過措置
会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。
そのうえで、すでに実行済みのセール・アンド・リースバック取引については、実務負担に配慮した経過措置が用意されています。売手である借手は、適用初年度の期首より前に締結されたセール・アンド・リースバック取引を次のとおり取り扱います(リースに関する会計基準の適用指針 第126項)。
- 売手である借手による資産の譲渡について、収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に基づき売却に該当するかどうかの判断を見直すことは行いません(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(1))。
- 資産の譲渡価額が明らかに時価ではない場合または借手のリース料が明らかに市場のレートではない場合の取扱い(第57項)を適用しません(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(2))。
- リースバックを、適用初年度の期首時点に存在する他のリースと同様に会計処理します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(3))。
- 企業会計基準第13号におけるセール・アンド・リースバック取引の定め(具体的には企業会計基準適用指針第16号 第49項)により、リースの対象となる資産の売却に伴う損益を長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上する取扱いを適用している場合、会計基準の適用後も当該取扱いを継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(4))。
過去に計上した長期前受収益は、適用初年度に一括して取り崩すのではなく、使用権資産の減価償却費の割合に応じて引き続き取り崩していくという整理です。上場準備企業でよくあるのは、過年度のリースバックについて売却該当性を再判定しなければならないと考えて監査対応の工数を過大に見積もってしまうケースですが、第126項(1)により、その見直しは求められていません。
実務上の落とし穴と検討の手順
セール・アンド・リースバックは金額が大きく、判定を誤ったときの財務諸表への影響も大きい取引です。実務で特に注意すべき点を挙げます。
- 判定の順序を逆にしない。旧来の感覚でファイナンス・リースかどうかから入ると、金融取引として処理すべき取引を売却として処理してしまうおそれがあります。出発点は売却該当性です(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。
- 不動産では収益認識に関する会計基準をそのまま当てはめない。固定資産の売却は同基準の適用範囲に含まれません(収益認識に関する会計基準 第108項)。
- 売却益の全額計上を織り込む。日本基準では譲渡損益の按分や繰延べは行われません(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。業績予想や役員報酬指標への影響を事前に確認しておく必要があります。
- 買戻条項の設計に注意する。買戻しの権利や義務は支配の移転の判断に直結し(収益認識に関する会計基準 第40項)、結果として金融取引と判定されれば売却益は計上されません。
- 注記に必要な情報を取引時点で確保する。第56項を適用した取引については主要な条件の注記が求められます(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1)③)。
検討の手順としては、次の流れで進めると齟齬が生じにくくなります。
- 契約書のドラフト段階で、買戻条項・使用制限・リース期間・リース料水準を洗い出します。
- 資産の譲渡が売却に該当するかを判定し、判定の根拠を文書化します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項(1))。
- 売却に該当する場合、リースバックがフルペイアウトとなっていないかを確認します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項(2))。
- 譲渡対価とリース料が時価および市場のレートから乖離していないかを確認します(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。
- 使用権資産およびリース負債の計上額を算定し、損益計算書へのインパクトを試算します(リースに関する会計基準 第33項、第34項)。
- 注記に必要な情報を整理し、監査人と事前に論点をすり合わせます(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1))。
まとめ
セール・アンド・リースバックの会計処理は、企業会計基準第34号および企業会計基準適用指針第33号の適用により、「売却損益を繰り延べるかどうか」から「そもそも売却に該当するかどうか」へと判定の軸が移ります。売却に該当しない場合、またはリースバックによりフルペイアウトとなる場合は、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて金融取引として処理し(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)、いずれにも該当しない場合は譲渡損益を認識したうえで使用権資産とリース負債を計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
企業会計基準第34号は2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からの早期適用も認められています(リースに関する会計基準 第58項)。適用初年度の期首より前に締結された取引には売却該当性の再判定を求めない経過措置が設けられており(リースに関する会計基準の適用指針 第126項)、準備の優先順位は、これから実行する取引の契約条件の設計に置くべきです。
セール・アンド・リースバックは、契約条件のわずかな違いで会計上の結論が売却と金融取引の間で入れ替わる取引です。具体的なケースについては、契約書と事業計画を踏まえたうえで公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第16号 リース取引に関する会計基準の適用指針
よくある質問
セール・アンド・リースバックの会計処理はいつから変わりますか。
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。企業会計基準適用指針第33号の適用時期も会計基準と同様です(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。
新しい基準でも売却損益は繰延処理になりますか。
いいえ。企業会計基準適用指針第33号では、資産の譲渡が損益を認識する売却に該当し、かつリースバックによりフルペイアウトとならない場合、資産の譲渡について収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従い損益を認識します(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。IFRS第16号のように権利部分に応じて損益を繰り延べる調整は行わず、譲渡に係る損益は全額計上されます(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。長期前受収益等による繰延処理は、現行の企業会計基準適用指針第16号 第49項の取扱いです。
本社ビルのリースバックは収益認識に関する会計基準で売却を判定するのですか。
企業の通常の営業活動により生じたアウトプットではない固定資産の売却は、収益認識に関する会計基準の適用範囲に含まれません(収益認識に関する会計基準 第108項)。この場合は、一般的な実現主義の原則が適用されると解したうえで、特定の不動産取引については日本公認会計士協会の監査委員会報告第27号や移管指針第10号などの指針に照らして譲渡に係る損益の認識時期を判断することになります(リースに関する会計基準の適用指針 BC90項)。
すでに実行済みのセール・アンド・リースバック取引を遡って見直す必要はありますか。
適用初年度の期首より前に締結されたセール・アンド・リースバック取引については、売手である借手による資産の譲渡が売却に該当するかどうかの判断を見直すことは行いません(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(1))。また、企業会計基準第13号に基づく繰延処理を適用している場合は、会計基準の適用後も当該取扱いを継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(4))。
金融取引として処理する場合、どのような注記が必要ですか。
第55項を適用して会計処理を行ったセール・アンド・リースバック取引については、当該会計処理を行った資産がある旨ならびに当該資産の科目および金額を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1)②)。加えて、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項は記載しないことができます(リースに関する会計基準 第55項ただし書き)。
建設工事請負契約と同時に締結する一括借上契約も対象になりますか。
売手である借手による資産の譲渡が、収益認識に関する会計基準に従い一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識に関する会計基準 第36項)の充足によって行われるときは、セール・アンド・リースバック取引に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第53項(1))。譲渡により移転されるのが仕掛中の資産であり、リースバックにより支配を獲得する使用権資産とは同一ではないと考えられるためです(リースに関する会計基準の適用指針 BC87項)。