貸借対照表は、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分され、純資産の部は資産と負債との差額として表示されます。純資産の部は、株主に帰属する「株主資本」と、それ以外の各項目とに区分されます。本記事では、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」に基づき、純資産の部を構成する区分と、株主資本の内訳の表示・分類について、実務の観点から解説します。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
純資産の部の定義と位置づけ
企業会計基準第5号は、すべての株式会社の貸借対照表における純資産の部の表示を定めています。貸借対照表は資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は株主資本と株主資本以外の各項目に区分することとされています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
この区分の考え方は、まず資産性又は負債性をもつものを資産の部又は負債の部に記載し、それらに該当しないものを資産と負債との差額として純資産の部に記載する、というものです。これにより、報告主体の支払能力などの財政状態をより適切に表示することが可能になると考えられています。純資産の部には、資産にも負債にも該当しない項目が含まれる点が特徴です。
「資本の部」から「純資産の部」への変更
企業会計基準第5号の公表前まで、貸借対照表は資産の部、負債の部及び資本の部に区分するものとされていました。しかし、その他有価証券評価差額金を資本の部に直接計上する考え方が導入されて以降、株主に帰属する資本と、資産と負債との差額とは、必ずしも一致しなくなっていました。そこで、資本とは必ずしも同じとはならない資産と負債との単なる差額を適切に示すため、「資本の部」という表記を「純資産の部」に代えることとされました。
あわせて、それまで負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示することも検討されていた新株予約権や、連結貸借対照表における少数株主持分(現在の非支配株主持分)についても、中間的な独立区分を設けず、純資産の部に記載することとされました。これにより、いわゆる中間区分が解消されています。
純資産の部の区分
純資産の部は、まず株主資本と株主資本以外の各項目とに区分されます。株主資本以外の各項目は、個別貸借対照表上は評価・換算差額等、株式引受権及び新株予約権に区分されます。連結貸借対照表上は、評価・換算差額等に代えてその他の包括利益累計額とし、これに株式引受権、新株予約権及び非支配株主持分を加えた区分となります。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
個別貸借対照表を前提とした純資産の部の主な区分と内容は、次のとおりです。
| 株主資本 | 資本金、資本剰余金、利益剰余金及び自己株式(控除項目)で構成される、株主に帰属する部分 |
| 評価・換算差額等 | その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金など、資産又は負債を時価評価しつつ評価差額を損益としていない項目 |
| 株式引受権 | 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、事後交付型に該当する場合の報酬費用の相手勘定 |
| 新株予約権 | 権利行使により払込資本となる可能性がある一方、失効の可能性もある項目 |
株主資本の内訳
株主資本は、資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分されます。純資産のうち株主(連結財務諸表においては親会社の株主)に帰属する部分を「資本」とは表記せず、株主に帰属するものであることをより強調する観点から「株主資本」と称しています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
資本剰余金と利益剰余金の区分
個別貸借対照表上、資本剰余金は資本準備金及びその他資本剰余金に区分されます。また、利益剰余金は利益準備金及びその他利益剰余金に区分され、その他利益剰余金のうち、任意積立金のように株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目についてはその内容を示す科目をもって表示し、それ以外については繰越利益剰余金として表示します。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
払込資本も留保利益もいずれも株主資本であることに変わりはありませんが、株主が拠出した部分と利益の留保部分とを分けることには、配当制限を離れた情報開示の面でも従来から強い要請があったと考えられています。このため、資本性の剰余金を計上する資本剰余金と、利益性の剰余金を計上する利益剰余金とを対称的に区分する構成がとられています。自己株式は、株主資本の末尾に控除項目として表示されます。
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株主資本の期中の変動状況は、株主資本等変動計算書によって把握されます。企業会計基準第5号の適用時期と同時に株主資本等変動計算書が導入されたことなどから、その他資本剰余金の内訳を個別貸借対照表上で継続的に示すことはしないものとされています。
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株主資本以外の区分
株主資本以外の各項目は、株主資本とは区別して表示されます。これらは、払込資本ではなく、かつ、いまだ当期純利益に含められていない項目や、株主とは異なる者との取引によるものなどであり、株主資本と一括りにすることは適当でないと考えられています。
評価・換算差額等(その他の包括利益累計額)
評価・換算差額等には、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益のように、資産又は負債を時価をもって貸借対照表価額としているものの当該評価差額を当期の損益としていない場合の当該評価差額や、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整累計額等が含まれます。これらは払込資本ではなく、かつ、いまだ当期純利益に含められていないことから、株主資本とは区別されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
この区分は、個別貸借対照表上は「評価・換算差額等」と表記し、連結貸借対照表上は「その他の包括利益累計額」と表記します。国際的な会計基準ではその他の包括利益累計額として区分されていますが、個別財務諸表では包括利益が開示されていないため、その主な内容を示すよう「評価・換算差額等」の表記が用いられています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
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株式引受権
株式引受権は、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、事後交付型に該当する場合の報酬費用の相手勘定を、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として計上するものです。実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」において株式引受権が定められたことに伴い、企業会計基準第5号にも所要の改正が行われています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
新株予約権
新株予約権は、将来、権利行使され払込資本となる可能性がある一方、失効して払込資本とはならない可能性もある項目です。発行者側の新株予約権は権利行使の有無が確定するまでその性格が確定しないことから、かつては仮勘定として負債の部に計上されていました。しかし、返済義務のある負債ではないため、企業会計基準第5号では純資産の部に記載することとされています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
非支配株主持分(連結貸借対照表のみ)
非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属していない部分です。返済義務のある負債ではなく、また連結財務諸表における親会社株主に帰属するものでもないため、かつては負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示されていました。企業会計基準第5号では、独立した中間区分を設けず、連結貸借対照表の純資産の部に記載することとされています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
個別財務諸表と連結財務諸表での表示の違い
純資産の部の区分は、個別貸借対照表と連結貸借対照表とで一部呼称や区分が異なります。主な違いは次のとおりです。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第8号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針
| 個別貸借対照表の区分 | 連結貸借対照表の区分 |
|---|---|
| 株主資本 | 株主資本 |
| 評価・換算差額等 | その他の包括利益累計額 |
| 株式引受権 | 株式引受権 |
| 新株予約権 | 新株予約権 |
| (区分なし) | 非支配株主持分 |
連結貸借対照表では、非支配株主持分が純資産の部に区分される点、及び評価・換算差額等がその他の包括利益累計額として表示される点が、個別貸借対照表との主な相違点です。連結貸借対照表上、非支配株主持分には、連結子会社における評価・換算差額等の非支配株主持分割合が含まれます。
適用時期と改正の経緯
企業会計基準第5号は2005年(平成17年)に公表され、会社法(平成17年法律第86号)施行日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る連結財務諸表及び財務諸表から適用されています。すでに適用済みの基準であり、上場・非上場を問わず株式会社の貸借対照表に適用されています。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
その後、企業会計基準第5号は複数回改正されています。2009年(平成21年)改正では、連結財務諸表に関する会計基準において支配獲得時の子会社の資産及び負債の評価が全面時価評価法のみとされたことなどに対応した技術的な改正が行われました。2013年(平成25年)改正では、少数株主持分を非支配株主持分に変更したことに伴う改正が行われています。さらに2021年改正では、実務対応報告第41号において純資産の部の株主資本以外の項目として株式引受権を定めたことに伴い、所要の改正が行われました。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
純資産の部の区分や表示は、資本金の増減や配当、時価評価などによって変動するため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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純資産の部は、資産と負債との差額として表示される区分であり、株主に帰属する株主資本と、それ以外の各項目とに区分されます。株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金及び自己株式で構成され、株主資本以外の項目には評価・換算差額等(連結ではその他の包括利益累計額)、株式引受権、新株予約権が含まれます。連結貸借対照表ではさらに非支配株主持分が加わります。旧「資本の部」から「純資産の部」への変更と中間区分の解消の趣旨を押さえることが、正確な表示・分類の第一歩となります。