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有償ストックオプションの会計処理|権利確定条件付き有償新株予約権と実務対応報告第36号

2026-07-29
目次

有償ストックオプション(権利確定条件付き有償新株予約権)とは、従業員や役員を引受先として、勤務条件や業績条件といった権利確定条件を付したうえで、その付与に伴い引受者が一定の額の金銭を企業に払い込む新株予約権をいいます。無償で付与される通常のストック・オプションと異なり払い込みがある点が特徴ですが、実務対応報告第36号により、この有償新株予約権はストック・オプション会計基準に定めるストック・オプションに該当し、報酬としての性格を有するものとして費用計上が求められます。本記事では、費用計上の要否と算定方法、権利確定日前後の会計処理、権利確定日の判定、そして適用時期までを、原典の定めに沿って整理します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

有償ストックオプションの会計処理の全体像

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引は、ストック・オプション会計基準の公表時には想定されていなかったため、当該新株予約権が同基準に定めるストック・オプションに該当するのか、複合金融商品に関する会計処理に従うのかが必ずしも明確ではありませんでした。この点を明らかにするために公表されたのが実務対応報告第36号です。同報告では、当該有償新株予約権はストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとして取り扱うこととされています。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

権利確定条件付き有償新株予約権とは(定義と取引の流れ)

実務対応報告第36号の対象となるのは、概ね次の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権です。企業は従業員等を引受先として、行使価格や権利確定条件等を含む募集事項および数、払込金額、割当日、払込期日等を決議します。募集新株予約権には、権利確定条件として勤務条件および業績条件が付されているか、または勤務条件は付されていないが業績条件が付されています。対象となるのは市場価格がないものです。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

取引の流れとしては、割当てを受けた従業員等が割当日に新株予約権者となり、払込期日までに一定の額の金銭を企業に払い込みます。その後、権利確定条件が満たされた場合に新株予約権は行使可能となり、満たされなかった場合には失効します。権利が確定した従業員等は、権利行使期間において行使価格に基づく額を払い込んで権利を行使し、企業は新株を発行するか自己株式を処分します。

実務対応報告第36号が示す会計処理の位置づけ

実務対応報告第36号では、当該有償新株予約権が、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価および従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理されています。すなわち、引受先が従業員等に限定されること、権利確定条件として勤務条件および業績条件が付されていることから、業績達成のインセンティブ効果を有するものと考えられ、報酬としての性格を併せ持つと整理されています。この結果、当該取引はストック・オプション会計基準第4項から第7項に準拠した会計処理を行うこととされています。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

ただし、権利確定条件付き有償新株予約権が従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合には、当該有償新株予約権はストック・オプションに該当しないものとされ、その会計処理は複合金融商品に関する会計処理(払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理)に従うこととされています。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

関連コラム税制適格ストックオプションの会計処理|費用計上の要否と有償SOとの違い

費用計上の要否と算定方法

権利確定条件付き有償新株予約権は報酬としての性格を有するため、その付与に伴い企業が従業員等から取得するサービスは、取得に応じて費用として計上します。対応する金額は、権利の行使または失効が確定するまでの間、純資産の部に新株予約権として計上します。有償である点は、後述のとおり費用計上額の算定において払込金額を控除するかたちで反映されます。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

報酬としての性格と費用計上の考え方

付与時点において従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込むことから、投資の機会の提供としての性格を有するとしても、企業は従業員等からの追加的なサービスの提供を期待していると考えられます。このため、従業員等から企業に払い込まれる金額が時価に基づき算出された額であるか否かにかかわらず、当該取引はストック・オプション会計基準に定める報酬としての性格を併せ持つと考えられ、費用計上が必要になります。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

公正な評価額から払込金額を控除する費用計上額の算定

各会計期間における費用計上額は、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定します。ここで公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

各期の費用計上額 = (公正な評価単価 × 権利確定条件付き有償新株予約権数 − 払込金額)のうち当期に発生したと認められる額

公正な評価単価は付与日において算定し、条件変更の場合を除いて見直しません。失効の見込みについては公正な評価単価ではなく権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させます。当該新株予約権数は、付与日において付与数から権利不確定による失効の見積数を控除して算定し、失効の見積数に重要な変動が生じた場合に見直したうえで、権利確定日には権利の確定した数に修正します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

払込金額が付与日の公正な評価額に近似している場合には、各会計期間における費用計上額は概ねゼロとなります。もっとも、業績条件の達成見込みにより権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じ、新株予約権数を見直した場合には、見直し後の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額に基づき、見直しを行った期以降に費用を計上することとなります。この点が、有償新株予約権に業績条件が付されている場合の費用計上の実務上の要点です。

数値例で見る費用計上(実務対応報告の設例)

実務対応報告第36号の設例では、公正な評価単価を100円/個、権利確定条件付き有償新株予約権数を合計800千個、払込金額の合計を3,200,000円としています。付与時点では業績条件を考慮すると権利確定が見込まれる数量が32千個と見積もられていましたが、後に業績条件を充足することが明らかとなり、権利確定が見込まれる数量が800千個であることが判明したため、見直しを行った期に費用を計上します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

株式報酬費用 = (100円/個 × 800千個 − 3,200,000円) − 既計上額0円 = 76,800,000円

このように、公正な評価額80,000,000円から払込金額3,200,000円を控除した76,800,000円が費用計上額となります。有償である分だけ、無償のストック・オプションに比べて費用計上額が払込金額分だけ小さくなる点が、有償ストックオプションの計算上の特徴です。

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権利確定日以前・以後の会計処理

権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理は、権利確定日を境として、費用およびサービスの計上を行う局面と、払込資本への振替や失効の処理を行う局面に分かれます。ここではそれぞれの局面での仕訳の考え方を整理します。

権利確定日以前の会計処理

権利確定日以前の会計処理は次のように行います。まず、付与に伴う従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上します。次に、企業が取得するサービスを取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、権利の行使または失効が確定するまでの間、純資産の部に新株予約権として計上します。費用計上額は前述のとおり公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち当期発生分として算定します。また、新株予約権として計上した払込金額のうち、権利不確定による失効に対応する部分は利益として計上します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

権利確定日以後の会計処理

権利確定日以後の会計処理は次のように行います。権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます。一方、権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します。この会計処理は、当該失効が確定した期に行います。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

権利確定日の判定

費用計上の期間配分の基礎となる権利確定日は、付されている権利確定条件の内容に応じて次のとおり判定します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

勤務条件および業績条件が付され、いずれかを満たすことにより権利が確定する場合 いずれかの条件を満たした日
勤務条件および業績条件が付され、これらのすべてを満たすことにより権利が確定する場合 すべての条件を満たした日
勤務条件は付されていないが業績条件が付されている場合 業績の達成または達成しないことが確定する日

通常のストック・オプションとの違い

通常の(無償の)ストック・オプションは、付与に伴い従業員等が金銭を払い込まない取引です。これに対して権利確定条件付き有償新株予約権は、その付与に伴い従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む点が異なります。この払い込みがあるため、資金調達としての性格や投資の機会の提供としての性格を有すると考えられますが、引受先が従業員等に限定され、勤務条件や業績条件が付されている点でストック・オプションと類似しており、報酬としての性格を併せ持つと整理されています。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

会計処理の面では、いずれもストック・オプション会計基準に準拠して費用計上を行う点は共通します。相違点は、有償新株予約権では従業員等からの払込金額を新株予約権として計上し、費用計上額の算定にあたって公正な評価額から払込金額を控除する点にあります。したがって、有償である分だけ各期の費用計上額が小さくなり、払込金額が公正な評価額に近似する場合には費用計上額が概ねゼロとなることもあります。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

関連コラムストック・オプション等に関する会計基準の費用計上実務

適用時期と開示

実務対応報告第36号は平成30年(2018年)1月12日に公表され、平成30年(2018年)4月1日以後適用することとされています。ただし、公表日以後に適用することもできるとされていました。したがって、本記事の執筆時点では、この実務対応報告はすでに適用されています。上場準備企業においては、これから備える基準というよりも、すでに適用されている取扱いに監査対応や申請準備の過程で対応するという位置づけになります。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

適用にあたっては、適用日より前に付与した取引に係る会計処理を遡及的に適用することが原則とされています。もっとも、実務対応報告の適用日より前に権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、遡及して付与日における公正な評価単価や失効の見積数を算定することに実務上の困難を伴う可能性が高いことを考慮し、従来採用していた会計処理を継続することができるとされています。この場合には、当該取引について所定の事項を注記します。企業会計基準委員会 実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い

開示については、従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション会計基準およびストック・オプション等に関する会計基準の適用指針に従って行うこととされています。ストック・オプションの内容や規模、公正な評価単価の見積方法等に関する注記が求められる点は、通常のストック・オプションと同様です。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

関連コラムリストリクテッド・ストックの会計処理|実務対応報告第41号

有償ストックオプションの会計処理は、業績条件の達成見込みや失効見積数の見直しによって費用計上のタイミングと金額が大きく変動するため、個別の設計内容に即した判断が必要です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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まとめ

権利確定条件付き有償新株予約権は、従業員等が金銭を払い込む点で無償のストック・オプションと異なるものの、実務対応報告第36号により、ストック・オプション会計基準に定めるストック・オプションに該当し、報酬としての性格を有するものとして費用計上が求められます。費用計上額は公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち当期発生分として算定し、失効の見込みは新株予約権数に反映させます。権利確定日以前はサービスの費用計上と新株予約権の計上を、権利確定日以後は払込資本への振替や失効の利益計上を行い、権利確定日は付された条件の内容に応じて判定します。本実務対応報告は平成30年4月1日以後適用することとされ、すでに適用されています。上場準備の局面では、有償ストックオプションの設計内容に即した会計処理と開示への対応が求められます。

参考文献

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
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03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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