リストリクテッド・ストックの定義と会計基準の全体像
リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)とは、取締役等の報酬等として、金銭の払込みを求めずに株式を交付する取引をいいます。2019年12月に成立した改正会社法により、上場会社は取締役等の報酬等として新株の発行又は自己株式の処分を行う際に金銭の払込み等を要しないこととされ(会社法第202条の2)、この取引の会計処理と開示を定めたものが実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」です。企業会計基準委員会 実務対応報告第41号 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
本実務対応報告が対象とするのは、会社法第202条の2に基づく株式の無償交付です。従来、取締役への株式報酬は金銭報酬債権を現物出資する構成(いわゆる現物出資構成)で行われてきましたが、この構成は株式の有償発行であり法的性質が異なるため、本実務対応報告の適用対象外とされています。実務でスキームを移行する場合は、対象となる取引がどちらの構成かを最初に切り分ける必要があります。
会計処理の基本的な考え方は、株式を交付することによるインセンティブ効果によって取締役等からサービスの提供を受けていると捉え、そのサービスの取得に応じて費用を計上する点にあります。この費用の認識と測定は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」)の定めに準じて行うこととされています。
事前交付型と事後交付型の区分
リストリクテッド・ストックは、株式を交付するタイミングによって事前交付型と事後交付型に区分され、この区分によって資本の会計処理が大きく異なります。まず、それぞれの意味を整理します。
| 事前交付型 | 対象勤務期間の開始後速やかに、譲渡制限が付された株式の発行等を行い、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除される取引をいいます。条件が達成されない場合には、企業が無償で株式を取得(没収)します。 |
|---|---|
| 事後交付型 | 契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引をいいます。条件が達成されない場合には株式が交付されないこと(失効)が確定します。 |
両者の本質的な違いは、取締役等が株主となるタイミングにあります。事前交付型では割当日に株式が交付され、取締役等は譲渡が制限されているものの、割当日から配当請求権や議決権といった株主としての権利を有します。一方、事後交付型では権利確定日以後の割当日に株式が発行されるため、それまでの間は株主となりません。この差が、後述する資本の会計処理(株主資本となるか、株主資本以外の項目となるか)に表れます。
用語の定義も押さえておく必要があります。付与日は、無償交付に関する契約が企業と取締役等との間で締結された日をいい、公正な評価単価の算定基準日となります。対象勤務期間は、通常は契約で定められた期間となり、契約に定めがない場合は付与日から権利確定日までの期間とみなします。権利確定日は、事前交付型では譲渡制限が解除されるか否かが確定した日、事後交付型では株式の発行等が行われるか否かが確定した日を指します。
費用の認識と測定
費用の認識と測定は、事前交付型・事後交付型のいずれも、ストック・オプション会計基準の定めに準じます。取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて各会計期間に費用として計上します。株式報酬費用の計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額です。
株式の公正な評価額は、公正な評価単価に株式数を乗じて算定します。各期の費用は次の考え方で計算します。
実務上とくに重要なのは、公正な評価単価と株式数の扱い方の違いです。公正な評価単価は付与日において算定し、原則としてその後は見直しません。これに対し、勤務条件や業績条件の不達成による失効等の見込みは株式数に反映させ、単価の算定上は考慮しません。付与日から権利確定日の直前までの間に失効等の見積数に重要な変動が生じた場合は株式数を見直し、見直しによる差額をその期の損益として計上します。権利確定日には、株式数を権利の確定した株式数(権利確定数)と一致させます。
この「単価は固定、株式数は見直す」という枠組みは、株価変動を報酬費用に反映させないというストック・オプション会計基準の考え方を引き継いだものです。株価が付与後に上昇しても費用は増えず、退任等による失効の実績だけが費用に反映される点が、実務担当者の見積りの勘所となります。
事前交付型の会計処理
事前交付型では、割当日に取締役等は株主となりますが、割当日時点では資本を増加させる財産等の増加が生じていないため、割当日に払込資本を増加させません。サービスの提供を受けるつど、分割で払込みがなされていると考え、費用計上に対応して払込資本を認識していきます。新株を発行する場合、割当日の仕訳は次のとおり計上しません。
(割当日・新株の発行) 仕訳なし ── 発行済株式総数は増加しますが、払込資本は増加しないためです。
各期の費用計上時には、年度の財務諸表において年度通算で費用が計上される場合、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上します。たとえば公正な評価単価6,000円、取締役1名当たり1,000株、対象者10名、対象勤務期間36か月、失効見込み1名という前提で、期首から9か月が経過した期の費用は次のように計算されます。
この場合の仕訳は「(借)株式報酬費用 13,500,000/(貸)資本金 13,500,000」となります。過年度に計上した費用を戻し入れる場合には、対応する金額をその他資本剰余金から減額します。当該処理の結果、会計期間末にその他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第12項により、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。
権利確定条件が達成されず株式を没収した場合は、自己株式の無償取得として、会計処理を行わず自己株式の数のみの増加として処理します。ただし自己株式を処分していた(自己株式を交付していた)事前交付型では、没収による無償取得が生じた場合、割当日に減額したその他資本剰余金を戻し入れる処理、すなわち無償取得した部分に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額する点に留意が必要です。
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事後交付型の会計処理
事後交付型では、対象勤務期間後に株式を交付するため、対象勤務期間中に計上した費用に対応する金額を、将来的に株式を交付する性質のものとして累積させます。具体的には、株式の発行等が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に「株式引受権」として計上します。これはストック・オプションにおける新株予約権に相当する位置づけです。
たとえば公正な評価単価4,500円、1名当たり1,000株、対象者10名、対象勤務期間36か月、失効見込み1名という前提で、9か月経過時点の費用は次のとおりです。
この場合の仕訳は「(借)株式報酬費用 10,125,000/(貸)株式引受権 10,125,000」です。権利確定条件が達成され、割当日に新株を発行した場合には、それまで株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替えます。仕訳は「(借)株式引受権 ××/(貸)資本金 ××」となります。自己株式を処分する場合には、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額を、自己株式処分差額として処理します。
事後交付型で押さえておきたいのは、株式引受権が株主資本ではなく株主資本以外の項目である点です。事前交付型がその発生と同時に資本金・資本準備金という株主資本を積み増していくのに対し、事後交付型は権利確定・株式発行までは株主資本に振り替えない構造となっており、この違いが1株当たり情報の算定にも影響します。
ストック・オプションとの違い
リストリクテッド・ストックはインセンティブ効果を期待して自社の株式を付与する点でストック・オプションと類似するため、費用の認識と測定はストック・オプション会計基準に準じます。もっとも、新株予約権を用いるストック・オプションとは仕組みが異なり、混同すると資本の会計処理を誤ります。主な相違点を本文で整理します。
第一に、権利行使のプロセスの有無です。ストック・オプションは、権利確定後に権利行使価格を払い込んで初めて株式が交付されますが、リストリクテッド・ストックでは払込みがサービスの提供のみによってなされ、権利行使のプロセスがありません。第二に、株主となるタイミングです。事前交付型では割当日に株主となり配当請求権や議決権を得るため、権利行使まで株主とならないストック・オプションとは経済的な性質が異なります。第三に、資本計上科目です。事前交付型は費用計上に応じて株主資本(資本金・資本準備金)を直接積み増すのに対し、ストック・オプションと事後交付型は新株予約権・株式引受権という株主資本以外の項目を経由します。
なお、税制適格ストックオプションのように費用計上の要否が論点となるスキームとの違いも、報酬設計の段階で整理しておくと会計処理の見通しが立てやすくなります。
関連コラムストック・オプション等に関する会計基準の費用計上実務▸
関連コラム税制適格ストックオプションの会計処理|費用計上の要否と有償SOとの違い▸
適用時期と開示・実務上の落とし穴
実務対応報告第41号は、改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用されています。新たな取引に対して適用するものであり、従来採用していた会計方針は存在しないため、会計方針の変更には該当しません。したがって適用初年度において遡及適用や比較情報の修正を行う必要はありません。すでに適用されている基準であり、現在は制度として定着していますので、上場準備の過程で株式報酬を導入する企業も、この確立した取扱いに沿って会計処理を設計することになります。
| 適用時期 | 改正法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用されています。 |
|---|---|
| 会計方針の変更 | 新たな取引に対して適用するものであり、会計方針の変更には該当しません。 |
開示については、年度の財務諸表において、事前交付型・事後交付型それぞれの取引の内容、規模及びその変動状況を注記します。具体的には、付与対象者の区分(取締役・執行役の別)及び人数、当該会計期間に計上した費用の額とその科目名称、付与された株式数、没収又は失効した株式数、権利未確定残株式数、付与日、権利確定条件、対象勤務期間、付与日における公正な評価単価などが求められます。
実務上の落とし穴として、次の点に注意してください。まず、公正な評価単価を毎期見直してしまう誤りです。単価は付与日で固定し、見直すのは失効等を反映した株式数のみです。次に、事前交付型で割当日に払込資本を計上してしまう誤りです。割当日は仕訳を計上せず、費用計上に応じて資本金等を積み増します。さらに、その他資本剰余金が負の値となった際にその他利益剰余金から補填する処理を失念すると、純資産の表示を誤ります。最後に、旧来の現物出資構成による株式報酬は本実務対応報告の対象外であり、払込資本の認識時点など法的性質に起因して会計処理が異なる点にも留意が必要です。
まとめ
リストリクテッド・ストックは、実務対応報告第41号に基づき、株式を交付するタイミングによって事前交付型と事後交付型に区分され、費用の認識と測定はストック・オプション会計基準に準じます。事前交付型は割当日に株主となり費用計上に応じて資本金・資本準備金を積み増すのに対し、事後交付型は株式引受権を経由して権利確定後に株主資本へ振り替える点が決定的な違いです。公正な評価単価は付与日で固定し、株式数のみを失効見込みで見直すという枠組みを正しく理解することが、適切な費用計上と開示の前提となります。本取扱いは2021年3月1日以後の取引から適用されており、報酬設計の段階から会計処理を織り込んでおくことが実務上望まれます。
具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
リストリクテッド・ストックの会計処理はどの基準に定められていますか。
実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」に定められています。取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行等する取引の会計処理及び開示を明らかにするもので、費用の認識と測定はストック・オプション会計基準に準じます。改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用されています。
事前交付型と事後交付型では会計処理はどう違いますか。
事前交付型では割当日に株式を交付して取締役等が株主となり、割当日には仕訳を計上せず、費用計上に応じて対応する金額を資本金又は資本準備金に計上します。事後交付型では権利確定後に株式を発行するため、それまでの費用に対応する金額を純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上し、株式発行時に資本金又は資本準備金に振り替えます。
ストック・オプションとの主な違いは何ですか。
ストック・オプションは新株予約権を用い、権利確定後に権利行使価格を払い込んで株式が交付されますが、リストリクテッド・ストックは株式を無償で交付するため権利行使のプロセスがありません。とくに事前交付型は割当日に株主となり配当請求権や議決権を得る点、費用計上に応じて株主資本を直接積み増す点が異なります。
公正な評価単価は毎期見直す必要がありますか。
見直しません。公正な評価単価は付与日において算定し、原則としてその後は見直さないこととされています。勤務条件や業績条件の不達成による失効等の見込みは株式数に反映させ、単価の算定上は考慮しません。株式数については、失効等の見積数に重要な変動が生じた場合に見直し、権利確定日には権利確定数と一致させます。