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信託の会計処理|受益者の総額法・純額法と受益権の売買

2026-08-06
目次

信託の会計処理は、「受託者がどう記帳するか」ではなく「受益者がどこまで自分の財務諸表に取り込むか」から考えるのが実務の出発点です。日本基準では、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」が、委託者・受益者・受託者それぞれの取扱いをQ1からQ8までのQ&A形式で整理しています。

結論から言えば、金銭以外の信託の受益者は、信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理するのが原則です。つまり信託財産のうち持分割合に相当する部分を、自社の貸借対照表と損益計算書に取り込む「総額法」によります(実務対応報告第23号 Q3のA3(1))。一方で、受益権が優先劣後のように質的に異なるものに分割されていたり、受益者が多数になったりする場合には、受益権を信託に対する有価証券の保有とみなして評価する取扱いに切り替わります(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。企業会計基準委員会 実務対応報告第23号 信託の会計処理に関する実務上の取扱い

この記事では、上場準備企業の経理・財務担当者や管理部門の方が、信託を使ったスキームに直面したときに迷わないよう、信託設定時・期末時・受益権の売買時・連結上の判定という順番で、判断の手順として整理します。実務では、スキーム図だけを見て「信託だから連結対象外」と早合点し、監査法人の指摘で処理をやり直すケースが少なくありません。どの分岐で処理が変わるのかを先に押さえておくことが、手戻りを防ぐ近道です。

信託の会計処理を考える3つの分岐軸

信託とは、委託者が信託行為によって受託者に財産権の移転を行い、その受託者が一定の目的(信託目的)に従って、受益者のためにその財産(信託財産)の管理または処分の拘束を加えるところに成立する法律関係です(実務対応報告第23号 Q1のA、信託法 第2条第1項)。会計上は、この法律関係そのものではなく、信託財産から生ずる経済的効果が誰に帰属しているかを見て処理を決めます。

委託者 信託行為によって受託者に財産を移転する当事者。多くの実務では、委託者が自ら当初受益者にもなる「自益信託」の形が使われます。
受託者 信託財産の管理・処分を行う当事者。信託財産は分別管理義務などにより法的な独立性が認められるため、受託者の固有財産に係る会計とは区別されます(実務対応報告第23号 注20)。
受益者 信託財産から生ずる利益を受ける当事者。会計処理の中心はここにあり、原則として一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて処理します(実務対応報告第23号 Q8のA、注23)。
受益権 受益者が有する権利。優先部分と劣後部分のように質的に異なるものへ分割できる点が、会計処理の分岐を生みます。

実務対応報告第23号は、委託者が当初受益者となるもの(自益信託)を前提としており、受益者の金銭拠出を伴う場合を除き、委託者以外の第三者が当初受益者となるもの(他益信託)は対象としていません(実務対応報告第23号 注1)。この前提を外すと、そもそも参照する取扱いが変わってしまうため、最初に確認しておきたい点です。

分岐は「財産の種類」「受益者の数」「受益権の分割」の3つ

実務対応報告第23号は、委託者が当初の受益者になる自益信託について、まず信託財産とする財産の種類により金銭の信託と金銭以外の信託に分類し、さらにそれぞれを委託者兼当初受益者が単数である場合と複数である場合に分類して整理しています(実務対応報告第23号 Q1のA)。ここに、受益権が質的に異なるものへ分割されているか、受益者が多数となるかという第3の軸が加わります。

  1. 財産の種類:金銭の信託か、金銭以外の信託(有価証券・不動産・事業などの信託)か。
  2. 委託者兼当初受益者の数:単数か複数か(複数には合同運用を含みます)。
  3. 受益権の状態:質的に異なるものに分割されて受益者が複数となっているか、受益権の譲渡等により受益者が多数となっているか。

この3つを確定させれば、信託設定時・期末時・売却時の処理はほぼ機械的に決まります。逆に言えば、契約書を読まずにスキーム図だけで判断すると、3つ目の軸を見落として処理を誤ります。

信託設定時の会計処理|原則として損益は計上されない

信託を設定しただけでは、原則として損益は計上されません。これは、受益者が信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行うという考え方から導かれる帰結です。金融資産の信託(有価証券の信託を含みます)や不動産の信託などにおいて、受益者は信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行うものとされているため、信託設定時に委託者兼当初受益者において損益は計上されません(実務対応報告第23号 Q3のA1、移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「移管指針第9号」)第78項及び第100項(1)、移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(以下「移管指針第10号」)第44項)。

金銭の信託の場合は、設定時に信託財産となる金銭を科目振替します。委託者兼当初受益者が単数であれば「金銭の信託であることを示す適切な科目」に、複数であれば「有価証券又は合同運用の金銭の信託であることを示す適切な科目」に振り替えます(実務対応報告第23号 Q1のA1、Q2のA1)。次は自作の設例です(基準に掲載された設例ではありません)。

  • 前提:委託者兼当初受益者が単数の金銭の信託を設定し、現金預金1,000を信託した。
  • 借方:金銭の信託 1,000
  • 貸方:現金預金 1,000

設定時に移転損益を認識する例外

例外は、委託者兼当初受益者が複数である金銭以外の信託です。この信託の設定は、共同で現物出資により会社を設立することに類似するため、現物出資による会社の設立における移転元の企業の会計処理(企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」)第31項)に準じ、当該委託者兼当初受益者が当該信託について支配することも重要な影響を及ぼすこともない場合には、その個別財務諸表上、原則として移転損益を認識することが適当とされています(実務対応報告第23号 Q4のA1)。

この場合、受益者が受け取った受益権の取得原価は、信託した財産に係る時価または当該受益権の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定します(実務対応報告第23号 Q4のA1)。実務では、複数社が共同で資産を持ち寄る信託スキームを組んだときに、「設定時は損益なし」という思い込みのまま処理してしまう誤りが起きやすい論点です。支配・重要な影響の有無を先に判定してください。

期末の会計処理|総額法が原則、純額法は限られた場面のみ

金銭以外の信託の受益者は、信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理する(これには表示および注記を含みます)こととなるため、信託財産のうち持分割合に相当する部分を受益者の貸借対照表における資産および負債として計上し、損益計算書についても同様に持分割合に応じて処理する方法(総額法)によることとなります。ただし、重要性が乏しい場合にはこの限りではありません(実務対応報告第23号 Q3のA3(1))。

受益者が計上する資産・負債 = 信託財産に属する資産・負債 × 受益権の持分割合
総額法 信託財産のうち持分割合に相当する部分を受益者の貸借対照表の資産・負債として計上し、損益計算書についても持分割合に応じて処理する方法(実務対応報告第23号 Q3のA3(1))。
純額法 貸借対照表および損益計算書の双方について、持分相当額を純額で取り込む方法(実務対応報告第23号 Q4のA2(1))。
有価証券とみなす方法 受益者の個別財務諸表上、受益権を当該信託に対する有価証券の保有とみなして評価する方法(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。

純額法が使えるのはどこか

純額法という言葉が明示されているのは、委託者兼当初受益者が複数である金銭以外の信託についての取扱いです。受益権が各委託者兼当初受益者からの財産に対応する経済的効果を実質的に反映し、かつ、売却後の受益者が多数とならない場合には、受益者の個別財務諸表上、総額法によることが適当とされたうえで、重要性が乏しい場合には純額法によることができるとされています(実務対応報告第23号 Q4のA2(1))。

つまり純額法は、総額法の原則を置き換える選択肢ではなく、重要性が乏しい場合の簡便法という位置づけです。上場準備の場面で「純額法のほうが開示上すっきりするから」といった理由で選ぶことはできません。重要性の判断根拠を、信託財産の規模や損益への影響で説明できるようにしておく必要があります。

受益権を有価証券とみなす例外

委託者兼当初受益者が単数である金銭以外の信託であっても、次のいずれかに当たる場合は、各受益者が信託財産を直接保有するものとみなして会計処理を行うことが困難であることから、受益者の個別財務諸表上、受益権を当該信託に対する有価証券の保有とみなして評価します(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。

  • 受益権が優先劣後等のように質的に異なるものに分割されており、かつ、譲渡等により受益者が複数となる場合(移管指針第9号 第100項(2))。
  • 受益権の譲渡等により受益者が多数となる場合(移管指針第9号 第100項(1)ただし書)。ここでいう受益者が多数となる場合とは、受益権の分割や譲渡が有価証券の募集(金融商品取引法 第2条第3項)または売出し(同法 第2条第4項)にあたるときが該当すると考えられ、多数になると想定される場合とは、受益証券発行信託の受益証券を発行しているとき(信託法 第207条)が該当すると考えられます(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。

なお、受益者が信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行うとき(委託者兼当初受益者が単数である金銭の信託として会計処理するときを含みます)には、当該受益者と当該信託との取引は内部取引として消去されます(実務対応報告第23号 Q5のA3)。信託に支払った賃料や管理報酬をそのまま費用計上したままにしていないか、総額法を採用したら必ず確認したい実務ポイントです。

金銭の信託の会計処理|運用目的なら評価差額は当期の損益

委託者兼当初受益者が単数である金銭の信託は、有価証券と同様に、その保有目的により運用目的、満期保有目的、その他に区分することができますが、特定金銭信託または指定金外信託等については、一般に運用を目的とするものと考えられています(実務対応報告第23号 Q1のA2、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」)第87項、移管指針第9号 第97項)。

運用を目的とする金銭の信託の信託財産である金融資産および金融負債については、金融商品会計基準および移管指針第9号により付すべき評価額を合計した額をもって貸借対照表価額とし、その評価差額は当期の損益として処理することとなります(実務対応報告第23号 Q1のA2、金融商品会計基準 第24項、移管指針第9号 第98項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準

委託者兼当初受益者が複数である金銭の信託については、受益権が有価証券として取り扱われている投資信託は有価証券としての会計処理を行い(移管指針第9号 第58項)、これまで有価証券として取り扱われていなかった合同運用指定金銭信託で設定されている商品ファンドについても有価証券に準じて会計処理を行うこととされてきました(実務対応報告第23号 Q2のA)。したがって、金銭の信託の受益者は、当初受益者のみならず他から受益権を譲り受けた受益者も含め、有価証券として、または有価証券に準じて会計処理を行うこととなります(実務対応報告第23号 Q2のA2)。

ただし、預金と同様の性格を有する合同運用の金銭の信託(投資信託を含みます)は、取得原価をもって貸借対照表価額とします(実務対応報告第23号 Q2のA2、移管指針第9号 第64項)。時価評価すべきものと取得原価によるものが混在するため、金銭の信託は商品性ごとの棚卸しが欠かせません。企業会計基準委員会 移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

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受益権を売買したときの会計処理|「直接保有」とみるか「有価証券」とみるか

受益権の売買は、信託の会計処理のなかで最も判断を誤りやすい領域です。受益者は信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行うことから、受益権が売却された場合、信託財産を直接保有していたものとみて消滅の認識(または売却処理)の要否を判断します(実務対応報告第23号 Q3のA2、金融商品会計基準 第9項、移管指針第10号 第19項から第21項)。金融資産であれば、譲受人の権利が法的に保全されていること、譲受人が権利を通常の方法で享受できること、譲渡人が満期日前に買い戻す権利および義務を実質的に有していないことという3要件をすべて満たす必要があります(金融商品会計基準 第9項)。

他から受益権を譲り受けた受益者の側も同じ発想です。受益権を取得したときは信託財産を直接取得したものとみて会計処理を行い、受益権をさらに売却したときには、信託財産を直接保有していたものとみて消滅の認識(または売却処理)の要否を判断します(実務対応報告第23号 Q3のA4(1)、金融商品会計基準 第9項、移管指針第10号 第19項及び第20項)。一方、受益権が質的に異なるものに分割されている場合や受益者が多数となる場合には、受益権の取得は有価証券の取得とみなし、売却は有価証券の売却とみなして売却処理の要否を判断します(実務対応報告第23号 Q3のA4(2))。

流動化に使う場合の3つの留意点

信託を利用して信託財産となる資産を流動化するときは、実務対応報告第23号が次の点への留意を求めています(実務対応報告第23号 Q3のA2)。

  • 金融資産の信託:優先部分と劣後部分のように質的に異なる受益権に分割して優先受益権のみを譲渡する場合、優先受益権を売却処理するためには、優先受益権が消滅の認識要件を満たす必要があります(移管指針第9号 第291項)。また、当該金融資産の譲受人たる信託が金融商品会計基準(注4)の要件を満たす特別目的会社の場合には、当該信託の新たな受益者を譲受人とみなして金融商品会計基準 第9項(2)の要件を適用します。
  • 不動産の信託:質的に異なる受益権に分割されて譲渡されている場合、委託者兼当初受益者は、当該不動産全体に関するリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているときに売却処理を行います(移管指針第10号 第21項)。
  • 開示:当該信託が子会社等の範囲の見直しに係る具体的な取扱い三で示す特別目的会社にあたることから子会社には該当しないものと推定されている場合には、企業会計基準適用指針第15号「一定の特別目的会社に係る開示に関する適用指針」に基づき、開示対象特別目的会社の開示が必要となります(実務対応報告第23号 Q3のA2)。

もうひとつ見落とされやすいのが残存部分の評価です。企業が信託財産構成物である金融資産の委託者であり、かつ、信託財産構成物が委託者たる譲渡人にとって金融資産の消滅の認識要件を満たす場合には、譲渡人の保有する信託受益権は新たな金融資産ではなく、譲渡金融資産の残存部分として評価します(実務対応報告第23号 注13、移管指針第9号 第100項(2)ただし書)。新規取得として時価で計上してしまうと、売却損益が過大になります。

関連コラム不動産流動化の会計処理|譲渡人の売却判定と5%ルール

信託は連結の対象になるか|子会社・関連会社の判定

まず前提として、信託は財産管理の制度としての特徴も有しており、通常、「会社に準ずる事業体」に該当するとは言えないとされています(実務対応報告第23号 Q2のA3、注5)。実務対応報告第23号では、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」)第5項が示す企業のうち会社以外を「会社に準ずる事業体」としており、信託は本実務対応報告により子会社および関連会社に該当する場合を除き、連結財務諸表上、「会社に準ずる事業体」としては取り扱われません(実務対応報告第23号 注5)。

そのうえで、受益者が複数である金銭の信託の中には、財産管理のための仕組みとみるより、むしろ子会社および関連会社とみる方が適切な会計処理ができる場合があるとされ、受益者が2人以上ある信託における次の受益者は、連結会計基準に従い、原則として当該信託を子会社として取り扱うことが適当とされています(実務対応報告第23号 Q2のA3)。

  1. すべての受益者の一致によって受益者の意思決定がされる信託(信託法 第105条第1項)においては、自己以外のすべての受益者が緊密な者または同意している者であり、かつ、連結会計基準 第7項(2)の②から⑤までのいずれかの要件に該当する受益者。
  2. 信託行為に受益者集会における多数決による旨の定めがある信託(信託法 第105条第2項)においては、連結会計基準 第7項で示す「他の企業の議決権」を「信託における受益者の議決権」と読み替えて、連結会計基準 第7項の企業に該当することとなる受益者。
  3. 信託行為に別段の定めがあり、その定めるところによって受益者の意思決定が行われる信託(信託法 第105条第1項ただし書)では、その定めにより受益者の意思決定を行うことができることとなる受益者。

関連会社についても同じ発想です。企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(以下「持分法会計基準」)第5-2項で示す「他の企業の議決権」を「信託における受益者の議決権」と読み替えて、持分法会計基準 第5-2項の企業に該当することとなる受益者は、当該信託を関連会社として取り扱うこととなります(実務対応報告第23号 Q2のA3)。

連結判定でつまずきやすい3つの落とし穴

形式的に受益権の割合だけを見て判定すると、次の点で結論を誤ります。いずれも実務対応報告第23号の注記に明示されている取扱いです。

  • 他者の合意が必要な場合:信託行為における別段の定めにより、信託に関する財務および営業または事業の方針の決定に該当する事項について、当該受益者以外の特定の受益者や委託者、債権者等の合意を必要とする場合には、当該受益者だけでは意思決定を行うことができないため、上記の(1)から(3)に該当していても、当該信託は当該受益者の子会社に該当しないものと考えられます。ただし、それらの者が緊密な者または同意している者に該当している場合は、この限りではありません(実務対応報告第23号 注9)。
  • 優先受益権のみを保有している場合:受益者が優先受益権のみの保有者である場合には、通常、信託に対する債権者と同様であると考えられるため、当該信託は当該受益者の子会社または関連会社として取り扱われません(実務対応報告第23号 注14)。
  • 売買目的で時価評価している場合:当該信託の受益権が売買目的であって、金融商品会計基準や特別の法令の定めに適切に従った結果、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損益として処理することとなる場合には、事業投資である子会社や関連会社への投資には該当しません(実務対応報告第23号 注8)。

また、受益者が単数である金銭の信託については、その信託財産に係るすべての損益が当該受益者に帰属するため、改めて子会社や関連会社に該当するか否かについて判定する必要はないものと考えられます(実務対応報告第23号 注7)。判定作業に入る前に、そもそも判定が必要な類型かどうかを切り分けると効率的です。

関連コラム連結の範囲|子会社・関連会社の判定基準を解説

自己信託・事業の信託・目的信託の取扱い

自己信託は「売却を前提とした会計処理」がポイント

自己信託は、自ら信託財産の管理等をすべき旨の意思表示を書面等によってする方法による信託で、委託者が受託者となる点に特徴がありますが、その会計処理は、基本的には他者に信託した通常の信託と相違はないと考えられています(実務対応報告第23号 Q7のA)。したがって、金銭の信託として行われる場合はQ1のAに準じ、金銭以外の信託として行われる場合はQ3のAに準じて処理し、単独で信託設定するだけで損益が計上されることはありません(実務対応報告第23号 Q7のA1)。

ただし、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続した場合、信託は終了します(信託法 第163条第2号)。このため、委託者が自己信託をし、かつ、その受益権の全部につき自らが当初受益者となるときには、通常、受益権の一部または全部を信託設定後に売却することとなると考えられ、受益権を売却していないときでも、通常、売却を前提とした会計処理を行うことが適当とされています(実務対応報告第23号 Q7のA1)。具体例として、満期保有目的の債券を自己信託した場合は保有目的の変更があったものとして取り扱い(移管指針第9号 第83項)、固定資産を自己信託した場合は、固定資産の減損に係る会計基準を適用するにあたり、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱うことが挙げられています(企業会計基準適用指針第6号 第8項)。

開示面では、自己信託において委託者兼受託者が自己の固有財産として受益権の一部または全部を保有していることから自己の貸借対照表に計上されることとなる自己信託の信託財産に属する財産について、追加情報として、その貸借対照表計上額および自らが委託者兼受託者である自己信託の信託財産に属する旨の注記を行うことが適当とされています。保有している受益権についても同様に、貸借対照表計上額および自己信託の受益権である旨の注記を行うことが適当です(実務対応報告第23号 Q7のA2(3))。

事業の信託は分離元企業の会計処理に準じる

信託法では、信託行為の定めがあり、信託前に生じた委託者に対する債権に係る債務の引受けがされたときには、その債務が信託財産責任負担債務の範囲に含まれることが明示されました(信託法 第21条第1項第3号)。これにより、金銭以外の信託と債務の引受けを組み合わせることで、事業自体の信託を行うのと同様の状態を作り出すことができるとされています(いわゆる事業の信託)。その会計処理については、基本的にこれまでの信託と相違はないと考えられます(実務対応報告第23号 Q5のA)。

事業の信託は金銭以外の信託にあたるため、委託者兼当初受益者が単数である場合はQ3のAに準じ、信託設定時に損益は計上されません。受益権を売却した場合は、当該事業を直接移転したものとみて売却処理の要否を判断することとなり(事業分離等会計基準 第14項から第16項、企業会計基準適用指針第10号 第95項及び第96項)、期末時には総額法によることとなります(実務対応報告第23号 Q5のA1(1))。委託者兼当初受益者が複数である場合は、共同新設分割における分離元企業の会計処理(事業分離等会計基準 第17項、第20項及び第23項、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第39項)に準じることが適当とされています(実務対応報告第23号 Q5のA2)。

目的信託は原則として委託者の財産として処理する

信託法では、信託契約による方法または遺言による方法によって、受益者の定めのない信託をすることができるものとされました(信託法 第258条)。これは目的信託と呼ばれることが多い類型です。信託契約によってなされた受益者の定めのない信託については、委託者がいつでも信託を終了できるなど通常の信託とは異なるため、原則として、委託者の財産として処理することが適当と考えられます。ただし、信託契約の内容等からみて、委託者に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであると認められる場合には、もはや委託者の財産ではないものとして処理します(実務対応報告第23号 Q6のA)。

なお、従業員等や役員に自社の株式を交付する目的で信託を用いる取引には、実務対応報告第23号ではなく専用の実務対応報告が用意されています。信託というだけで本実務対応報告に当てはめないよう、スキームの目的から適用する基準を選び直してください。

関連コラム株式交付信託の会計処理|実務対応報告第30号の総額法と開示

受託者側の会計|信託行為の定め等に基づくのが基本

受託者が行う信託の会計は、信託法において一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとするとされています(信託法 第13条)。信託は財産の管理または処分の制度であるというこれまでの特徴を有しているため、明らかに不合理であると認められる場合を除き、信託の会計は信託行為の定め等に基づいて行うことが考えられます(実務対応報告第23号 Q8のA)。

ただし、次のような信託については、債権者が存在したり現在の受益者以外の者が受益者になることが想定されたりするなど、利害関係者に対する財務報告をより重視する必要性があると考えられるため、株式会社の会計(会社法 第431条)や持分会社の会計(会社法 第614条)に準じて行うことが考えられ、この場合には原則として一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準じて行うこととなります(実務対応報告第23号 Q8のA)。

  • 信託法 第216条に基づく限定責任信託
  • 受益者が多数となる信託

注意したいのは、受託者が信託行為の定めに基づくなど財産管理のための信託の会計を行っていても、受益者の会計処理は、原則として一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて行う必要があるという点です(実務対応報告第23号 Q8のA、注23)。受託者から受け取った信託計算書をそのまま取り込めばよい、とは限りません。信託計算書の数値を企業会計の基準に組み替える手続を、決算スケジュールに組み込んでおくことをおすすめします。

適用時期と修正の経緯

実務対応報告第23号は2007年(平成19年)8月2日に公表され、信託法の施行日以後にその効力が生じた信託、およびそれより前に効力が生じた信託であって信託の変更により信託法の規定の適用を受ける信託(信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 第3条)について適用されています(実務対応報告第23号 適用時期等)。信託法(平成18年法律第108号)は2006年(平成18年)12月15日に公布され、公布日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとされました(実務対応報告第23号 注24)。新信託法の施行に伴う改正信託業法は、2007年(平成19年)9月30日に施行されています金融庁 改正信託業法が施行されました。すでに適用が始まって長期間が経過した取扱いであり、現在の実務は本実務対応報告を前提に運用されています。

旧法信託についても、本実務対応報告を適用することができます。この場合には、すべての旧法信託について本実務対応報告を適用し、本実務対応報告による取扱いを適用することとなる最初の事業年度において、これまで行ってきた会計処理と異なることとなるときには、これまでの会計処理が明らかに不合理であると認められる場合を除き、会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱うことに留意する必要があります(実務対応報告第23号 適用時期等)。適用初年度に処理が変わる場合、会計方針の変更として遡及処理や注記の要否を検討することになります。

その後、本実務対応報告そのものの内容を大きく変える改正は行われていませんが、他の会計基準等の公表・改正を反映した修正が重ねられており、直近の修正は2024年11月1日付です企業会計基準委員会 実務対応報告。この修正により、本文が参照する実務指針は、日本公認会計士協会の会計制度委員会報告から、企業会計基準委員会の移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」および移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」に置き換わっています。実務で条文を引用する際は、旧番号のままになっていないか確認してください。

上場準備で押さえる判断ステップ

信託が絡む取引に遭遇したときは、次の順番で確認すると論点の抜けを防げます。上場準備の過程では、監査法人から必ず信託契約書の原本と受益権の分割状況の説明を求められます。

  1. 自益信託か他益信託かを確認する。実務対応報告第23号は、受益者の金銭拠出を伴う場合を除き、他益信託を対象としていません(実務対応報告第23号 注1)。
  2. 信託財産が金銭か金銭以外かを区分する。金銭の信託は有価証券に準じた処理、金銭以外の信託は総額法が出発点になります(実務対応報告第23号 Q1のA、Q3のA3(1))。
  3. 委託者兼当初受益者の数を確認する。複数である金銭以外の信託では、設定時に移転損益を認識する場合があります(実務対応報告第23号 Q4のA1)。
  4. 受益権の分割状況と受益者数を契約書で確認する。優先劣後への分割や受益者が多数となる場合は、有価証券とみなす処理に切り替わります(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。
  5. 連結上の子会社・関連会社判定を行う。受益者が2人以上ある信託では、意思決定の仕組みごとに判定要件が異なります(実務対応報告第23号 Q2のA3)。
  6. 総額法を採用したら内部取引の消去を行う(実務対応報告第23号 Q5のA3)。自己信託であれば追加情報の注記も忘れないでください(実務対応報告第23号 Q7のA2(3))。

信託は契約の設計次第で会計処理が大きく変わり、同じ「不動産信託受益権の保有」でも、総額法と有価証券とみなす方法で財務諸表の見え方はまったく異なります。スキームの設計段階で会計処理の見込みを固めておくと、後から契約を組み替える負担を避けられます。具体的なケースの判断は、契約内容と信託財産の実態を確認したうえで、公認会計士へのご相談をおすすめします。

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まとめ

信託の会計処理は、実務対応報告第23号が示す「受益者は信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理する」という原則を軸に据えると、全体像がつかめます。金銭以外の信託の受益者は総額法によるのが原則で、純額法は委託者兼当初受益者が複数である一定の信託について重要性が乏しい場合の簡便法という位置づけです(実務対応報告第23号 Q3のA3(1)、Q4のA2(1))。

この原則が崩れるのは、受益権が優先劣後のように質的に異なるものに分割されて受益者が複数となる場合や、受益権の譲渡等により受益者が多数となる場合です。この場合は受益権を信託に対する有価証券の保有とみなして評価し、売買も有価証券の取得・売却とみなして判断します(実務対応報告第23号 Q3のA3(2)、Q3のA4(2))。連結上は、受益者が2人以上ある信託について、意思決定の仕組みに応じて子会社・関連会社に該当するかを判定します(実務対応報告第23号 Q2のA3)。

実務では、契約書上の受益権の分割状況と意思決定の定めを読み込むことが、処理を決める最短ルートです。信託設定時・期末時・売買時・連結判定という4つの局面ごとに、どの分岐に立っているかを明確にして進めてください。

参考文献

よくある質問

信託の受益者は必ず総額法で処理しなければなりませんか。

金銭以外の信託の受益者は、信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理することとなるため、原則として総額法によります。ただし、重要性が乏しい場合にはこの限りではありません(実務対応報告第23号 Q3のA3(1))。また、受益権が質的に異なるものに分割されて受益者が複数となる場合や、受益権の譲渡等により受益者が多数となる場合には、受益権を当該信託に対する有価証券の保有とみなして評価します(実務対応報告第23号 Q3のA3(2))。

純額法はどのような場合に使えますか。

委託者兼当初受益者が複数である金銭以外の信託のうち、受益権が各委託者兼当初受益者からの財産に対応する経済的効果を実質的に反映し、かつ、売却後の受益者が多数とならない場合には、個別財務諸表上は総額法によることが適当とされたうえで、重要性が乏しい場合には、貸借対照表および損益計算書の双方について持分相当額を純額で取り込む方法(純額法)によることができます(実務対応報告第23号 Q4のA2(1))。

信託を連結の範囲に含める必要があるのはどのような場合ですか。

信託は、通常「会社に準ずる事業体」に該当するとは言えませんが、受益者が2人以上ある信託については、意思決定の仕組みに応じて、原則として当該信託を子会社として取り扱うことが適当とされる受益者が定められています(実務対応報告第23号 Q2のA3、注5)。ただし、信託行為の別段の定めにより他の受益者や委託者、債権者等の合意が必要な場合は、当該受益者だけでは意思決定を行うことができないため子会社に該当しないと考えられ(実務対応報告第23号 注9)、受益者が優先受益権のみの保有者である場合も子会社または関連会社として取り扱われません(実務対応報告第23号 注14)。

受益権を売却すれば必ず売却処理できますか。

できるとは限りません。受益者は信託財産を直接保有する場合と同様に会計処理するため、受益権が売却された場合は、信託財産を直接保有していたものとみて消滅の認識(または売却処理)の要否を判断します(実務対応報告第23号 Q3のA2、金融商品会計基準 第9項、移管指針第10号 第19項から第21項)。不動産の信託で質的に異なる受益権に分割して譲渡している場合には、当該不動産全体に関するリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転しているときに売却処理を行います(移管指針第10号 第21項)。

自己信託を設定した時点で損益は計上されますか。

計上されません。自己信託は、金銭の信託として行われる場合はQ1のAに準じ、金銭以外の信託として行われる場合はQ3のAに準じて処理するため、単独で信託設定するだけで損益が計上されることはありません(実務対応報告第23号 Q7のA1)。ただし、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続すると信託は終了するため(信託法 第163条第2号)、通常は売却を前提とした会計処理を行うことが適当とされています(実務対応報告第23号 Q7のA1)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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