デット・エクイティ・スワップ(DES、債務の株式化)を実行したとき、債権者側の会計処理は実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い」が定めています。結論を先に示すと、債権者は消滅した債権の帳簿価額と、取得した株式の取得時の時価との差額を、当期の損益として処理します(実務対応報告第6号 2.(2))。取得した株式は、その取得時の時価で計上されます。
実務で判断が割れるのは、差額計算の基礎となる「債権の帳簿価額」をどこまで貸倒引当金控除後で捉えるか、そして非上場会社の株式を取得したときの時価をどう算定するかという2点です。本記事では、実務対応報告第6号と企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の定めにそって、債権者側の会計処理の全体像と実務上の落とし穴を整理します。なお、本実務対応報告が対象としているのは債権者側であり、債務者側の会計処理は定められていない点も併せて確認します。
デット・エクイティ・スワップの概要
取引の定義と典型的な実行形態
デット・エクイティ・スワップとは、債権者と債務者の事後の合意に基づいて、債権者側から見て債権を株式とする取引をいいます(実務対応報告第6号 1.)。債務者側から見れば債務が資本に振り替わる取引であり、日本語では債務の株式化と呼ばれます。金銭を新たに拠出せずに債務者の財務体質を改善できる点が、通常の増資との大きな違いです。
我が国におけるデット・エクイティ・スワップは、通常、再建計画等に基づいて債権者が債権を債務者に現物出資することにより行われます。実務対応報告第6号も、現物出資による場合を想定して会計処理を整理しています(実務対応報告第6号 1.)。債権者が保有する貸付金等を出資の目的財産として払い込み、その対価として債務者の発行する株式を取得する形です。
また、デット・エクイティ・スワップを行うにあたって、債権者が一定額の債権放棄を併せて行う場合もあります。特定の債権者を対象として行われる場合もあれば、債権者が一律に対象となる場合もあるとされています(実務対応報告第6号 1.)。債権放棄とデット・エクイティ・スワップを組み合わせる再建スキームは、金額の設計次第で会計上の結果が変わるため、後述する帳簿価額の把握が重要になります。
利用される場面
デット・エクイティ・スワップは、債務者が財務的に困難な場合に、債権者の合意を得た再建計画等の一環として行われる場合が多いとされています(実務対応報告第6号 1.)。過剰債務を抱えた事業会社の再生局面で、金融機関や取引先が保有する債権を株式に振り替え、有利子負債と支払利息の負担を軽減する使われ方が代表例です。
中小企業や上場準備企業でも、株主である経営者からの借入金(役員借入金)を資本に振り替える場面などで検討されます。ここで注意したいのは、「債務者が財務的に困難な場合」の意味が、実行時に当該債権が貸倒懸念債権や破産更生債権等に該当する場合に限られないという点です(実務対応報告第6号 1.)。区分としては一般債権であっても、財務的に困難な状況にあるならば本実務対応報告の対象になり得ます。企業会計基準委員会 実務対応報告第6号 デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い
債権は、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分されます(金融商品に関する会計基準 第27項(1)から(3))。この区分は貸倒見積高の算定方法を決めるものであり、本実務対応報告の適用対象を決めるものではありません。
会計基準上の位置づけと適用範囲
実務対応報告第6号が対象とする範囲
実務対応報告第6号は、債務者が財務的に困難な場合に行われるデット・エクイティ・スワップを対象としています(実務対応報告第6号 1.)。標題が示すとおり、その内容は債権者側の会計処理に関する実務上の取扱いを確認したものであり、債務者側(発行会社側)の会計処理は定めていません(実務対応報告第6号 標題、1.、2.)。債務者側の処理を検討する場合には、本実務対応報告以外の定めを踏まえた個別の検討が必要になります。
関連して押さえておきたいのが、債権者側の会計処理に関するこの考え方は、債務者側の会計処理にかかわらず適用されるという留意点です(実務対応報告第6号 2.(1))。これは債権者の処理が債務者の処理に左右されないという意味であり、債務者側の会計処理を定めたものではありません。債務者側でどのような処理が行われていても、債権者は自らの判断で消滅の認識と差額の損益処理を行うことになります。
第三者割当増資を用いる場合の取扱い
形式が現物出資でなくても、実質が同じであれば同じ会計処理が求められます。債務者が第三者割当増資を行い、債権者がこれを引き受けて、払い込んだ現金により債権を回収する場合であっても、金銭出資と債権の回収が一体と考えられる場合には、現物出資による場合と同じ会計処理をすべきとされています(実務対応報告第6号 1.)。
ここでいう一体と考えられる場合とは、債権の弁済を受けることを目的として第三者割当増資に応じるなど、実質的に金銭出資と債権の回収が一体性を有し、現物出資によるデット・エクイティ・スワップと同様の効果をもたらす場合をいいます(実務対応報告第6号 1.)。一体性の判断にあたっては、金銭出資又は債権回収の目的のほか、金銭出資による払込と債権の回収の間の期間などを考慮します(実務対応報告第6号 1.)。
とりわけ注意が必要なのは、金銭出資による払込の直前直後に債権回収を行った場合には、一体ではないことが明らかに示されない限り、金銭出資と債権回収は一体とみなされるという点です(実務対応報告第6号 1.)。増資と回収の間隔を空けただけで別取引になるという整理は成り立ちません。稟議書や再建計画上の記載から目的が読み取れる場合には、形式にかかわらず一体として扱われる前提で検討する必要があります。
関連する金融商品会計基準の位置づけ
実務対応報告第6号は、金融商品会計基準の枠組みのなかで、デット・エクイティ・スワップという個別取引への当てはめを明らかにしたものです。金融資産の消滅の認識、消滅時の差額の損益処理、消滅に伴い発生した新たな金融資産の測定は、いずれも企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」に定めがあります(金融商品に関する会計基準 第8項、第9項、第11項及び第13項)。また、金融資産及び金融負債の時価の定義は時価算定会計基準第5項によるとされており(金融商品に関する会計基準 第6項)、時価とは算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいいます(時価の算定に関する会計基準 第5項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
債権者側の会計処理
債権の消滅の認識
まず出発点として、債権の消滅を認識できるかどうかを確認します。債権者が債権を債務者に現物出資すると、債権と債務が同一の債務者に帰属することとなり、当該債権は混同により消滅します(民法第520条)。このため、支配が他に移転したかどうかを検討するまでもなく、金融資産の消滅の認識要件を満たすことになります(実務対応報告第6号 2.(1)、金融商品に関する会計基準 第8項及び第9項)。
金融商品会計基準では、金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき、又は権利に対する支配が他に移転したときに、当該金融資産の消滅を認識しなければならないとされています(金融商品に関する会計基準 第8項)。支配の移転は、譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること、譲受人が通常の方法で享受できること、譲渡人が満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないことという要件がすべて充たされた場合に認められます(金融商品に関する会計基準 第9項(1)から(3))。デット・エクイティ・スワップでは、これらの要件を検討するまでもなく消滅を認識できるという整理です。
取得した株式の取得原価の測定
次に、取得した株式をいくらで計上するかです。デット・エクイティ・スワップにより債権者が取得する株式は、通常、債権とは異種の資産と考えられることから、新たな資産と考えられます(実務対応報告第6号 2.(2))。金融資産の消滅に伴って新たな金融資産が発生した場合には、当該金融資産は時価により計上されます(金融商品に関する会計基準 第13項)。
したがって、債権者が取得する株式の取得時の時価が、対価としての受取額(譲渡金額)となります(実務対応報告第6号 2.(2)、金融商品に関する会計基準 第11項から第13項)。取得した株式は取得時の時価で計上され、その金額がそのまま取得原価になります(実務対応報告第6号 2.(2))。債権の額面や帳簿価額をそのまま株式の取得原価に引き継ぐ処理ではない点が、実務で最初に確認すべきポイントです。
この考え方は、条文上「消滅した債権の時価」を用いるものではありません。原則はあくまで取得した株式の取得時の時価であり、消滅した債権の時価を用いるのは、後述する市場価格のない株式について株式の時価を直接的に算定する方法に代える場合という位置づけです(実務対応報告第6号 2.(3))。両者を並列に置いて理解すると、測定の順序を誤ることになります。
消滅した債権と取得原価の差額の処理
債権者は当該債権の消滅を認識するとともに、消滅した債権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を、当期の損益として処理します(実務対応報告第6号 2.(1)、金融商品に関する会計基準 第11項)。デット・エクイティ・スワップの場合、対価としての受取額は取得した株式の取得時の時価となるため、次の算式で差額が求められます。
つまり、消滅した債権の帳簿価額と取得した株式の時価との差額を当期の損益として処理し、当該株式は時価で計上されることになります(実務対応報告第6号 2.(2))。株式の時価が債権の帳簿価額を下回れば損失が、上回れば利益が生じますが、後述するとおり実行時に利益が生じるのは極めて例外的な状況に限られると整理されています。
仕訳のイメージを、貸付金の取得原価1,000、当該債権に対して設定していた貸倒引当金700、取得した株式の取得時の時価200という前提で示します。消滅した債権の帳簿価額は1,000から700を控除した300となり、株式の時価200との差額100が当期の損失になります。
- 借方: 投資有価証券 200(取得した株式の取得時の時価)
- 借方: 貸倒引当金 700(当該債権に対して設定していた額の取崩し)
- 借方: 当期の損失 100(差額)
- 貸方: 貸付金 1,000(消滅した債権の取得原価)
勘定科目や損益計算書上の表示区分は、債権の性質や金額的重要性を踏まえて各社が判断することになります。基準が定めているのは、差額を当期の損益として処理するという点です(実務対応報告第6号 2.(1))。
貸倒引当金が設定されている債権の場合
差額計算で最も間違えやすいのが、基礎となる債権の帳簿価額の捉え方です。ここでいう消滅した債権の帳簿価額とは、取得原価又は償却原価から貸倒引当金を控除した後の金額をいいます(実務対応報告第6号 2.(2))。貸倒引当金を控除する前の金額を用いると、損失が過大に計上されることになります。
そもそも受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とされています(金融商品に関する会計基準 第14項)。デット・エクイティ・スワップにおける帳簿価額の捉え方も、この貸借対照表価額の考え方と整合しています。
控除する貸倒引当金の範囲にも注意が必要です。貸倒懸念債権や破産更生債権等に対して個別に引き当てたもののみならず、例えば銀行等金融機関における要管理先に対する債権に係る貸倒引当金など、総括的な引当金のうち当該債権に対応する部分も含まれます(実務対応報告第6号 2.(2))。
| 個別に引き当てた貸倒引当金 | 貸倒懸念債権や破産更生債権等に対して個別に引き当てた額のうち、当該債権に係る部分 |
|---|---|
| 総括的な引当金 | 要管理先に対する債権に係る貸倒引当金など、総括的に引き当てた額のうち当該債権に対応する部分 |
総括的な引当金は債権ごとに紐づいていないため、対応部分の把握には一定の按分計算が必要になります。ここを省略して個別引当分だけを控除すると、帳簿価額が過大になり、損失が過大に計上されます。デット・エクイティ・スワップの検討段階で、対象債権に対応する引当額を算定できる資料を整えておくことをおすすめします。
また、デット・エクイティ・スワップを行うにあたって債権者が一定額の債権放棄を行う場合には、消滅した債権の帳簿価額は当該債権放棄後の帳簿価額をいいます(実務対応報告第6号 2.(2))。債権放棄と株式化を同時に行うスキームでは、放棄部分の損失と株式化部分の差額とを分けて把握する必要があります。
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市場価格のない株式等を取得した場合の取扱い
取得した株式の時価の算定
取得した株式の取得時の時価は、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格とされています(実務対応報告第6号 2.(3)、金融商品に関する会計基準 第6項)。時価の算定に用いるインプットは、レベル1、レベル2、レベル3の順に優先的に使用します(時価の算定に関する会計基準 第11項(1)から(3))。非上場会社の株式では観察可能なインプットが乏しく、レベル3のインプットに依存する算定になりやすい領域です。
時価の算定にあたっては、市場参加者が考慮する当該資産の特性を考慮するために、次のような要因を適切に考慮するとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。
| 金融支援額の十分性 | 債権放棄額や増資額などの金融支援額が十分か(例: 実質的な債務超過を回避したと考えられるか) |
|---|---|
| 再建計画等の実行可能性 | 債務者の再建計画等が近い将来に完了することが予想されるか |
| 株式の条件 | 優先株式の場合の配当や償還の条件、普通株式への転換の条件など |
時価算定会計基準の考え方やインプットのレベル区分については、次の記事で整理しています。
関連コラム時価の算定に関する会計基準|インプットのレベル1〜3と評価技法▸
なお、時価算定会計基準は、どのような場合に時価で算定すべきかを定めるものではありません(時価の算定に関する会計基準 第28項)。デット・エクイティ・スワップで時価を用いるのは、あくまで新たな金融資産の発生時の測定と差額の算定のためであり、取得後に毎期時価評価するという意味ではない点に注意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準
債権の時価を用いる代替的な方法
市場価格のない株式については、取得した株式の取得時の時価を直接的に算定する方法に代えて、適切に算定された実行時の債権の時価を用いて当該株式の時価を算定することも考えられるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。非上場会社の株式について株式側から直接時価を算定することが難しい場合の、実務上の代替手段という位置づけです。
ここで、名称が似ている2つの金額を混同しないことが重要です。差額計算の基礎となるのは「消滅した債権の帳簿価額」であり、株式の時価算定に代用できるのは「消滅した債権の時価」です。両者はまったく別の金額です。
| 消滅した債権の帳簿価額 | 取得原価又は償却原価から貸倒引当金を控除した後の金額。差額計算の基礎となる(実務対応報告第6号 2.(2)) |
|---|---|
| 消滅した債権の時価 | 市場価格のない株式について、株式の時価を直接的に算定する方法に代えて用いることが考えられる金額(実務対応報告第6号 2.(3)) |
取得後の貸借対照表価額と減損
取得した株式が市場価格のない株式等に該当する場合、その後は取得原価をもって貸借対照表価額とします(金融商品に関する会計基準 第19項)。市場価格のない株式とは市場において取引されていない株式をいい、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものも同様に取り扱われ、これらを合わせて市場価格のない株式等といいます(金融商品に関する会計基準 第19項)。デット・エクイティ・スワップの結果、取得した株式が子会社株式又は関連会社株式に該当する場合も、取得原価をもって貸借対照表価額とします(金融商品に関する会計基準 第17項)。
市場価格のない株式等については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません(金融商品に関する会計基準 第21項)。この場合、当該実質価額を翌期首の取得原価とします(金融商品に関する会計基準 第22項)。再建計画が想定どおりに進まなかった場合には、実行時の損失に加えて取得後の減損が生じ得る点は、あらかじめ見込んでおく必要があります。
デット・エクイティ・スワップでは、普通株式ではなく優先株式が交付されることもあります。優先株式の場合の配当や償還の条件、普通株式への転換の条件は時価算定上も考慮要因として挙げられています(実務対応報告第6号 2.(3))。種類株式の貸借対照表価額の考え方は次の記事で整理しています。
関連コラム種類株式の会計処理|貸借対照表価額と純資産の部の表示▸
実務上の留意点
実行時に利益が生じる場面の限定性
本実務対応報告が対象とするデット・エクイティ・スワップでは、債権者が取得する債務者の発行した株式の時価は、消滅した債権に関する直前の決算期末の帳簿価額を上回らないと想定されるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。すなわち、実行時点において利益が発生するのは、極めて例外的な状況に限られるという整理です(実務対応報告第6号 2.(3))。
加えて、市場価格のない株式について実行時の債権の時価を用いて株式の時価を算定する場合には、当該時価も直前の決算期末の帳簿価額を上回らないと想定され、実行時点では利益が発生しないこととなるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。表現の強さが場面によって異なる点は、実務上の説明でも正確に区別しておきたいところです。
また、債権切捨てと実質的に同様の効果となる場合、例えば債権放棄の代わりに債権者がデット・エクイティ・スワップに応じる場合には、取得する債務者の発行した株式の時価はゼロに近くなると考えられるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。あくまで限定された場面についての推定であり、デット・エクイティ・スワップであれば常に株式の時価がゼロになる、と一般化できるものではありません。
減損処理の判断との相違
実行時の時価算定と、取得後の減損処理の判断は別物です。デット・エクイティ・スワップにおける株式の時価の算定は、市場価格のない株式等の減損処理における発行会社の財政状態の悪化の判断や回復可能性の判定とは異なることに留意する必要があります(実務対応報告第6号 2.(3)(注1))。減損の判断枠組みをそのまま実行時の時価算定に持ち込むと、結論を誤ります。
債権放棄後に一部だけ株式化する場合
債権放棄を行ったうえで、残った債権の一部についてのみデット・エクイティ・スワップを実行するケースには、専用の取扱いがあります。この場合で、残った債権の回収可能性が直前の決算期末に比べて大きく改善されないケースでは、単に債権放棄後の帳簿価額をさすのではなく、次のように考えることが適当とされています(実務対応報告第6号 2.(3)(注2))。
債権放棄によって残債権の回収可能性が改善したかどうかで扱いが変わるため、再建計画の内容と債権の回収見込みを併せて検討する必要があります。実務では、スキームの設計段階でこの按分計算まで織り込んでおかないと、実行後に想定と異なる損失額が算定されることがあります。公認会計士事務所プライムパートナーズでも、再建スキームの検討段階から会計上の帰結を試算しておくことをおすすめしています。
会計以外の論点との切り分け
実務対応報告第6号が扱うのは、あくまで債権者側の会計処理です。債務者側の会計処理、税務上の取扱い(現物出資の適格性の判定や債務消滅益の課税関係など)、会社法上の現物出資の手続については、本実務対応報告に定めがありません。会計上の処理と税務上の取扱いは異なり得るため、それぞれ個別に検討する必要があります。上場準備企業では、これに資本政策上の影響も加わります。会計上の損益、税務、資本政策の3つを同時に見ながらスキームを固めることが、後戻りを避ける近道になります。
適用時期と改正の経緯
実務対応報告第6号は2002年(平成14年)10月9日に公表され、公表日以降に生じた取引から適用されています(実務対応報告第6号 3.)。公表日前に生じた取引であっても、公表日を含む事業年度に生じた取引について適用することが望ましいとされ、公表日を含む事業年度開始後・公表日前に生じた取引について本実務対応報告と異なる会計処理を行っていた場合で重要性があるものは、その内容を注記するとされています(実務対応報告第6号 3.)。公表から20年以上が経過しており、現在生じるデット・エクイティ・スワップは本実務対応報告の適用対象になります(実務対応報告第6号 3.)。
その後、実務対応報告第6号は、直近では2025年10月16日に、企業会計基準第37号「期中財務諸表に関する会計基準」等の公表に伴う修正が行われています。この修正により、本文中の「直前の決算期末」に係る括弧書きが「第二種中間財務諸表を作成する場合の中間期末を含む」という表現に置き換わりました。会計処理の実質的な内容が変更されたものではありません。
関連する企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、1999年(平成11年)1月22日公表の企業会計審議会「金融商品に係る会計基準」を起源とし、2006年(平成18年)8月11日に企業会計基準第10号として改正されたのち、2007年、2008年、2019年と改正が重ねられています。時価の定義を時価算定会計基準に合わせた2019年改正(2019年7月4日公表)は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(金融商品に関する会計基準 第41項(5))。
直近では、2026年6月2日に改正企業会計基準第10号が公表され(2026年7月7日修正)、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化が図られています。この改正は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後に実施される金融資産の譲渡から適用される予定で、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後に実施される譲渡からの早期適用が認められています。本記事で扱うデット・エクイティ・スワップの会計処理には影響しません。
企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」は2019年7月4日に公表され、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(時価の算定に関する会計基準 第16項)。同基準も2025年10月16日に、期中財務諸表に関する会計基準等の公表に伴う修正が行われています。
まとめ
- デット・エクイティ・スワップの債権者側の会計処理は実務対応報告第6号が定めており、債務者側の会計処理は同報告の対象外です(実務対応報告第6号 標題、1.、2.)。
- 債権を現物出資すると混同により債権が消滅するため、支配の移転を検討するまでもなく消滅の認識要件を満たします(実務対応報告第6号 2.(1)、金融商品に関する会計基準 第8項及び第9項)。
- 取得した株式は新たな資産として取得時の時価で計上され、その時価が対価としての受取額となります(実務対応報告第6号 2.(2)、金融商品に関する会計基準 第11項から第13項)。
- 差額計算の基礎となる債権の帳簿価額は、取得原価又は償却原価から貸倒引当金を控除した後の金額であり、総括的な引当金のうち当該債権に対応する部分も控除します(実務対応報告第6号 2.(2))。
- 市場価格のない株式については、株式の時価を直接算定する方法に代えて、適切に算定された実行時の債権の時価を用いることも考えられます(実務対応報告第6号 2.(3))。
- 株式の時価は直前の決算期末の帳簿価額を上回らないと想定され、実行時に利益が発生するのは極めて例外的な状況に限られます(実務対応報告第6号 2.(3))。
- 実行時の時価算定は、市場価格のない株式等の減損処理における財政状態の悪化の判断や回復可能性の判定とは異なります(実務対応報告第6号 2.(3)(注1))。
デット・エクイティ・スワップは、債権の帳簿価額の把握と株式の時価算定という2つの見積りが結論を左右する取引です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、再建スキームや資本政策の検討段階から会計上の帰結を整理する支援を行っています。
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- 企業会計基準委員会 実務対応報告第6号 デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準
よくある質問
デット・エクイティ・スワップで取得した株式はいくらで計上しますか
取得した株式は、その取得時の時価で計上します。デット・エクイティ・スワップにより取得する株式は債権とは異種の資産であり新たな資産と考えられるため、取得する株式の取得時の時価が対価としての受取額となります(実務対応報告第6号 2.(2)、金融商品に関する会計基準 第11項から第13項)。債権の額面や帳簿価額をそのまま株式の取得原価とする処理ではありません。
貸倒引当金を計上している債権を株式化した場合、差額はどのように計算しますか
差額計算の基礎となる消滅した債権の帳簿価額は、取得原価又は償却原価から貸倒引当金を控除した後の金額です(実務対応報告第6号 2.(2))。控除する貸倒引当金には、貸倒懸念債権や破産更生債権等に対して個別に引き当てたものだけでなく、要管理先に対する債権に係る貸倒引当金など総括的な引当金のうち当該債権に対応する部分も含まれます(実務対応報告第6号 2.(2))。債権放棄を併せて行う場合は、当該債権放棄後の帳簿価額によります(実務対応報告第6号 2.(2))。
実行時に利益が生じることはありますか
本実務対応報告が対象とするデット・エクイティ・スワップでは、取得する株式の時価は消滅した債権に関する直前の決算期末の帳簿価額を上回らないと想定されるため、実行時点で利益が発生するのは極めて例外的な状況に限られるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。また、市場価格のない株式について実行時の債権の時価を用いて株式の時価を算定する場合には、実行時点では利益が発生しないこととなるとされています(実務対応報告第6号 2.(3))。
債務者側の会計処理も実務対応報告第6号で定められていますか
定められていません。実務対応報告第6号は債権者側の会計処理に関する実務上の取扱いを確認したものであり、債務者側の会計処理は取り扱っていません(実務対応報告第6号 標題、1.、2.)。なお、債権者側の会計処理に関する考え方は、債務者側の会計処理にかかわらず適用される点に留意が必要です(実務対応報告第6号 2.(1))。これは債権者側の処理が債務者側の処理に左右されないという意味であり、債務者側の処理を定めたものではありません。