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工事損失引当金の会計処理|計上要件の判定と仕訳・表示

2026-08-28
目次

受注済みの工事案件が赤字に転落する見込みとなったとき、その損失を当期にどこまで取り込むべきかは、決算期末に必ず論点となります。収益認識に関する会計基準の適用指針は、工事契約から損失が見込まれる場合について、将来の損失を待たずに当期の損失として処理し、工事損失引当金を計上することを求めています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。

本記事では、工事損失引当金の計上要件を3つのステップに分解し、繰入・取崩の仕訳、貸借対照表と損益計算書での表示、注記事項までを実務の順序で整理します。進捗度に応じて既に計上した損失との重複をどう排除するかという、実務で最も間違えやすい論点にも踏み込みます。

工事損失引当金の意義と適用範囲

工事損失引当金とは、工事契約から損失が見込まれる場合に、その損失を工事の完成を待たずに見込まれた期の損失として処理するために計上する引当金です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。一定の期間にわたり収益を認識する工事契約では、進捗度に応じて収益と原価が期間配分されるため、そのままでは赤字工事の損失も工期にわたって少しずつ計上されることになります。この取扱いは、将来の期に配分される分まで含めて損失を前倒しで認識する点に特徴があります。

対象となる工事契約と受注制作のソフトウェア

ここでいう工事契約とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます(収益認識に関する会計基準 第13項)。単なる物品の売買や、仕様を自社で決めて量産する製品の販売は含まれません。

受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて同じ定めが適用されます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第91項)。受注制作のソフトウェアとは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいいます(収益認識に関する会計基準 第14項)。受託開発を行うシステム会社にとっても、不採算案件の期末処理として避けて通れない論点です。

適用時期と改正の経緯

収益認識に関する会計基準は2018年3月に公表され、2020年に改正されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109項、第109-2項)。2020年に改正した会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用も認められていました(収益認識に関する会計基準 第82項)。

その後、適用指針は2021年にも改正され、代替的な取扱いの追加が行われています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-3項)。さらに2024年には、リース会計基準の公表に伴い、買戻契約の取扱いに関する改正が行われました(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-4項)。この2024年改正の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第107-2項、収益認識に関する会計基準 第83-3項)。いずれの改正も、工事損失引当金の計上要件そのものを変更するものではありません。

計上要件の判定3ステップ

工事損失引当金を計上するかどうかは、次の3つのステップで判定します。いずれも適用指針第90項の要件を分解したもので、順序を飛ばすと計上額を誤ります。

ステップ1 工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高いか

最初に、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高いかどうかを判定します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。ここでいう工事原価総額等とは、工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額をいいます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。工事原価だけで判定すると、販売直接経費の分だけ損失を過小に見積もることになります。

実務では、実行予算の改訂、資材価格や外注単価の高騰、追加工事の無償対応、工期延長に伴う現場管理費の増加といった事象が判定の契機となります。「可能性が高い」かどうかは、期末時点で入手可能な情報に基づいて評価します。

ステップ2 超過額を合理的に見積ることができるか

超過の可能性が高いだけでは足りず、その金額を合理的に見積ることができることが計上の要件となります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。工事収益総額と工事原価総額等の両方について、契約金額、変更契約の状況、残工事の原価見積りを裏付ける資料が必要です。

逆に、損失の発生は確実であっても金額を合理的に見積ることができない場合には、工事損失引当金は計上されません。この場合は、見積りが可能となった期に計上することになりますが、見積りができない理由を説明できる状態にしておく必要があります。

ステップ3 既に計上された損益を控除した残額の算定

2つの要件を満たす場合、超過すると見込まれる額(工事損失)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。一定の期間にわたり充足される履行義務として進捗度に基づき収益を認識している場合、当期までの進捗分に対応する損失は既に損益計算書に取り込まれています(収益認識に関する会計基準 第41項)。この分を控除しないと、同じ損失を二重に計上することになります。

工事損失 = 工事原価総額等 − 工事収益総額
工事損失引当金繰入額 = 工事損失 − 当該工事契約に関して既に計上された損失の額

関連コラム一定の期間にわたり充足される履行義務|進捗度と原価回収基準

繰入と取崩の仕訳

判定の結果を仕訳に落とし込みます。以下は自社で設定した数値例です(単位:千円)。X1年4月に着工した工期2年の工事契約について、工事収益総額は100,000千円、着工時の工事原価総額の見積りは92,000千円でした。X2年3月期の期末に資材価格が高騰し、工事原価総額の見積りが118,000千円に増加したものとします。販売直接経費は生じていません。

当期の繰入額の算定

工事原価総額等118,000千円が工事収益総額100,000千円を超過する可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができるため、超過額18,000千円が工事損失となります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。

18,000 = 118,000 − 100,000

次に、X2年3月期までに既に計上された損益を計算します。同期末までの発生原価は47,200千円で、原価比例による進捗度は40パーセントとなります。この進捗度に基づき、当期の工事収益は40,000千円、工事原価は47,200千円が計上され、差引7,200千円の損失が既に損益計算書に取り込まれています(収益認識に関する会計基準 第41項)。

47,200 ÷ 118,000 = 40パーセント
100,000 × 40パーセント − 47,200 = △7,200
10,800 = 18,000 − 7,200

したがって、X2年3月期に計上する工事損失引当金繰入額は10,800千円です。繰入額は損益計算書の売上原価として表示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売上原価 10,800 工事損失引当金 10,800

この結果、X2年3月期の損益計算書には、進捗分の損失7,200千円と引当金繰入額10,800千円の合計18,000千円、すなわち工事全体で見込まれる損失の全額が計上されます。赤字が判明した期に損失を出し切るのが、この定めの趣旨です。

翌期の取崩の仕訳

翌期のX3年3月期に工事が完成し、実績が見積りどおりであったとします。残りの工事収益は60,000千円、発生する工事原価は70,800千円で、差引10,800千円の損失が生じます。この損失は前期に引当計上済みであるため、工事損失引当金を同額取り崩し、売上原価を減額します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
工事損失引当金 10,800 売上原価 10,800

取崩により、X3年3月期の当該工事に係る損益はゼロとなります。翌期の実績が見積りと異なった場合には、差額がその期の損益として処理されます。進捗度の見積りの変更は会計上の見積りの変更として処理するためです(収益認識に関する会計基準 第43項)。

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表示と注記

工事損失引当金は、計上額の算定だけでなく、貸借対照表と損益計算書のどこに置くかまでが定められています。

貸借対照表と損益計算書での表示

適用指針第90項に従って計上された工事損失引当金は、貸借対照表の流動負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示します。また、その繰入額は損益計算書の売上原価として表示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。営業外費用や特別損失ではない点に注意が必要です。受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて同じ定めが適用されます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-2項)。

貸借対照表 流動負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示する
損益計算書 工事損失引当金繰入額を売上原価として表示する
棚卸資産との
相殺表示
同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上される場合、貸借対照表の表示上、相殺して表示することができる

棚卸資産との相殺表示

同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、貸借対照表の表示上、相殺して表示することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。原価回収基準の適用などにより未成工事支出金等の棚卸資産が計上され、同時に工事損失引当金も計上される場面が該当します。相殺は任意であり、両建てで表示することも認められます。

なお、進捗度に基づき収益を認識した結果として生じる債権は契約資産に該当し、契約資産については工事未収入金等として表示することが例示されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第104-3項)。相殺の対象は棚卸資産であり、契約資産と工事損失引当金の相殺は定められていません。

関連コラム契約資産と契約負債の違い|売掛金との区分と表示・仕訳

注記事項

工事契約等から損失が見込まれる場合には、次の事項を注記します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-9項)。受注制作のソフトウェアについても同様です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-10項)。

  • 当期の工事損失引当金繰入額
  • 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、棚卸資産と工事損失引当金を相殺せずに両建てで表示したときは、その旨及び当該棚卸資産の額のうち工事損失引当金に対応する額
  • 棚卸資産と工事損失引当金を相殺して表示したときは、その旨及び相殺表示した棚卸資産の額

該当する工事契約が複数存在する場合には、その合計額を注記します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-9項)。相殺表示を選択した場合でも、注記により相殺前の情報が開示される仕組みになっています。

実務で判断を誤りやすい場面

既計上損失との重複計上

最も多い誤りは、見込まれる工事損失の全額をそのまま引当計上してしまうことです。進捗度に基づき既に損失が計上されている場合、その分を控除しない限り損失が二重に計上されます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。決算のたびに、工事開始時からの累計損益と、見込まれる工事損失の総額とを突き合わせ、差額が引当金残高と一致しているかを検証する手順を組み込むことが有効です。

工事原価総額の見積りの精度

工事損失引当金の金額は、工事原価総額等の見積りに全面的に依存します。実行予算が現場の実態を反映していない場合、判定そのものが機能しません。工事原価総額の見積りは進捗度の算定にも用いられるため、収益認識額にも同時に影響します。履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識するとされている点にも留意が必要です(収益認識に関する会計基準 第44項)。

関連コラム原価計算基準とは|目的・原価の分類と原価差異の会計処理

原価回収基準を適用している場合

進捗度を合理的に見積ることができないが、履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、進捗度を合理的に見積ることができる時まで原価回収基準により処理します(収益認識に関する会計基準 第45項)。原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法です(収益認識に関する会計基準 第15項)。

この場合でも、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができるのであれば、工事損失引当金を計上します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。回収が見込まれる範囲では損益が生じないため、既に計上された損益の額は限定的となり、控除後の残額が大きくなる傾向があります。なお、契約の初期段階において進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該初期段階に収益を認識せず、進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識する代替的な取扱いも認められています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第99項)。

判定の単位と複数契約の結合

工事損失引当金の判定は、収益認識の単位ごとに行います。工事契約については、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約を結合した際の収益認識の時期及び金額と、原則的な定めに基づく時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第102項)。受注制作のソフトウェアについても同様の取扱いが認められます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第103項)。

採算が異なる複数の工事を結合するか個別に扱うかで、引当金の要否と金額が変わります。結合の可否は判定の前提として整理しておく必要があります。

まとめ

工事損失引当金は、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつその金額を合理的に見積ることができる場合に、超過額から既に計上された損益の額を控除した残額を、損失が見込まれた期に一括して計上するものです(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。判定は、超過の蓋然性、金額の見積可能性、既計上損益の控除という3つのステップで進めます。

計上後は、繰入額を売上原価として表示し、引当金残高を流動負債に計上します。同一の工事契約に係る棚卸資産とは相殺表示が認められますが、その場合も注記により相殺前の情報を開示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項、第106-9項)。受注制作のソフトウェアにも同じ枠組みが適用されるため、建設業に限らず受託開発を行う企業でも決算期末の検討事項となります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第91項)。

参考文献

よくある質問

工事損失引当金はどの時点で計上しますか。

工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつその金額を合理的に見積ることができることとなった期に計上します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。工事が完成するまで待つ必要はなく、損失が見込まれた期に一括して処理します。期中に判明した場合でも、四半期や中間の決算において同じ判定を行います。

損失の発生は確実ですが金額を見積れない場合はどうしますか。

金額を合理的に見積ることができることが計上の要件となっているため、見積ることができない段階では工事損失引当金を計上しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。残工事の原価見積りや契約金額の確定に向けた手続を進め、合理的な見積りが可能となった期に計上することになります。見積りができない理由と、その後の見積り過程を記録として残すことが実務上重要です。

工事損失引当金繰入額は特別損失に計上できますか。

できません。繰入額は損益計算書の売上原価として表示することとされています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。引当金の残高についても、貸借対照表の流動負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。

受注制作のソフトウェアでも工事損失引当金を計上しますか。

計上します。受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて工事損失引当金の定めが適用されます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第91項)。受注制作のソフトウェアとは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいいます(収益認識に関する会計基準 第14項)。表示と注記についても同様の取扱いとなります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-2項、第106-10項)。

棚卸資産と相殺して表示した場合、何を注記しますか。

相殺して表示した旨及び相殺表示した棚卸資産の額を注記します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-9項)。両建てで表示した場合には、その旨及び当該棚卸資産の額のうち工事損失引当金に対応する額を注記します。いずれの場合も、当期の工事損失引当金繰入額の注記が併せて必要となり、該当する工事契約が複数あるときは合計額を記載します。

工事損失引当金は、工事原価総額の見積りと既計上損益の把握が前提となるため、案件ごとの実行予算管理と会計処理を接続する必要があります。赤字工事の引当額の算定や、監査対応での説明資料の整備など、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。